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濁った瞳のリリアンヌ  作者: 天界
第一部 第10章 4年目 後編 3歳
208/250

182,親愛のリリアンヌ



 エナ。

 エリアーナ・ラ・クリストフ。

 旧姓エリアーナ・リンド・ミューズライン。


 テオとエリーの乳母兼教育係という経歴の後に自分の乳母となった。

 父――アレクの妹で自分達兄姉にとっては叔母だ。

 アレクはクレアの幼馴染なので必然的にエナもそうなる。

 小さい頃から一緒に育った彼らは非常に仲が良い。


 彼らは3人ではなく、4人居た。

 4人目はエナの夫で今は故人。エナは夫を亡くした時に自分の子供も流産しており、そのせいで一時期廃人のようになってしまったらしかった。

 でもクレアの自分(リリアンヌ)の出産と同時に嘘のように元に戻ったらしい。


 らしい、なのは昔話をしているところを1度だけ聞いただけだからだ。


 そんなエナは自分の事を実の子のように大切にしている。

 それはもう過保護を通り越しているレベルで大切にしている。

 濁った瞳という全盲の病のせいもあるだろう。

 だがそれ以上に実子を失った経験からその後に生まれ、廃人だった彼女を元に戻すきっかけとなった自分をより愛しく思っているのだろう。

 生まれてくるはずだった子の分も。


 レキ君ルームで幻術空間を展開できるようになるまでは本当にべったりだった。

 今ではそこそこ遊びにいけるエリオットの工房どころか、屋敷のあらゆる場所でさえ常にエナ同伴でなければいけないか、立ち入り禁止ですらあった。



 まぁ専属が付くまではエナがそういう役回りをしていたのだから当然といえば当然のような気もするけど。

 普通は全盲の幼児から離れるなんて危険すぎるし。

 全盲じゃなくてもそこまで自由にはさせないだろう。







◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆







 自分にべったりなエナは本当の子供のように自分を扱い、愛している。

 そんなエナが実の子のように愛している子供達に『お母様』と呼ばれ、甘えられればそれはもうすごいことになる。


 普段べたべたに甘える事などほとんどないテオとエリーと自分の3人が甘えるのだ。

 それはそれは大変な事になる。

 具体的には凛々しく綺麗なお姉さんであるエナが見る影もなくデレデレになり、言動もかなり危険な領域になるのだ。


 去年同じようなプレゼントをして経験してあるからまだ驚きは少ないが、去年は本当にびっくりした。

 あんなエナは初めて見たのだから仕方ない。


 なので今回は精神的にも余裕があるため、去年できなかったこともしてあげようということになった。



「お母様、私の淹れたお茶はどう?」


「ありがとうねぇ~、エリーちゃん。とても美味しいわ。エリーちゃんもすごく可愛いわぁ~……」


「お母様、ボクの作ったお菓子はどうかな?」


「えぇえぇ……とても美味しいわ~。テオちゃんは料理も出来るようになったのねぇ~」


「私も手伝ったのよ。ちょっとだけど……」


「ふふ……。エリーちゃんも手伝ったのねぇ~。とても美味しいわ。ありがとうね、2人共。

 リリーちゃんもおいしそうに食べてるし、幸せねぇ~」


「「はいっ!」」



 去年は終始エナお母様に甘えるだけで終わった1日エナお母様だが、今回は少し趣向を変えてみた。

 まずテオとエリーがお茶やお菓子を用意して簡単ではあるが一生懸命におもてなしをする。


 もちろんその間も甘える事は忘れない。

 テオもエリーも恥ずかしがらずに甘えられるのはエナを本当の家族と想っているからだろう。


 ところで唐突だが、料理といえば知識チートだ。

 リズヴァルト大陸というかオーベント王国の貴族階級の贅沢な料理というのはなぜか薬膳料理になる。

 質素というほどではないが、全体的に薄味で子供の舌には物足りない。というか甘味が足りない。


 その甘味もほとんどを果物系で補い、お菓子などはあまり食べられない。

 お菓子らしいお菓子なんて1歳の誕生日に食べたクレアが作ってくれたものくらいなものだろうか。

 なのでお菓子という存在自体をすっかり忘れていたわけだが、今回テオとエリーがエナお母様の為に料理をするというので思い出せた。


 しかし考えてみて欲しい。

 自分は3歳児である。

 もうすぐ4歳だが、3歳児のしかも全盲で家族から溺愛されている自分が料理をさせて欲しいと言ったところでせいぜいが盛り付けを手伝うくらいが関の山となる。


 溺愛してても何でも言う事を聞いてくれるなどということはないのだから。

 むしろ危険な要素は積極的に排除して近づけさせないようにしているくらいだ。



 今世の料理というのは生前の世界と違ってレンジでチンしたり、ほとんど出来ている物を買ってきて盛り付けして終わりとかそういう物では当然ない。

 オーブンなんて上等なものはなく竃だ。

 レンジなんて物はなく、竃だ。



 まぁ魔道具なんだけど。



 魔道具としても大貴族なクリストフ家なので当然最高級品の超が付くほどの本格仕様で安全性も高い物を使っている。

 だがどんなに安全性が高くても自分は使わせてもらえない。


 かき混ぜたりするのも全部ではなくちょっとだけとか、盛り付けもほんのちょっとだけとかそういうレベルでの手伝いだけが自分の仕事だ。

 それも魔片製の物はほとんどないのでテオやエリーに補助してもらうのが前提だ。


 まぁかき混ぜるのも平均以下の筋力しかない自分では全然かき混ぜられない。

 本当にちっちゃな子がお手伝いをしました、的なレベルだ。いや確かにちっちゃいけど。

 盛り付けも当然見えないのでちょこっとやって終わりだった。


 こんな状態では知識チートなんて出来るわけがない。

 ましてや予定にない料理を作るなど不可能というものだろう。

 もうちょっと大きくならないと知識チートで料理をするのは無理のようだ。



 大きくなったら是非とも味の薄い薬膳料理ではなく、生前の世界のような濃い味の料理を自分で作って食べたい。

 もしくは作り方を教えて作ってもらいたい。

 今はまだ作り方を教えるのもダメだから辛い所だ。

 どこで知ったのか、なんで知ってるのかとか本も読めない自分には説明できない。朗読してもらっている本はたくさんあるが料理本はなかったし……。



「このお菓子はリリーも手伝ってくれたんだよ!」


「卵を混ぜるリリー可愛かったわぁ……。

 もちろん盛り付けをするリリーもすごく可愛かったわ!」


「さすが、リリーちゃんね。でも危ない事はさせちゃだめよ?

 リリーちゃんが怪我でもしたら大変だもの。もちろんあなた達も怪我なんてしちゃだめよ?」


「「もちろん!」」



 デレデレながらも母性溢れる優しい笑顔でテオとエリーの頭を撫でるエナお母様。

 2人も嬉しそうにされるがままになっていてお菓子をぱくつく自分も嬉しくなる。



 しかしお菓子は美味しいなぁ……。

 子供舌に甘い物はやばい。止まらない止まらない。今日のお昼が食べられなくなっちゃうよ。

 子供がお菓子でお腹いっぱいになってしまうのがよくわかる。これは止まらないわぁ……。



 魔片製のお皿に盛られている自分の分はあっという間になくなってしまった。

 お皿の底部が全部見えてしまっているのでなくなってしまっているのがわかる。

 なんだかとても悲しい気分になってしまうのは仕方ない事だろう。


 ちょっとシュン、としているとエナお母様が自分の皿からこちらに少し分けてくれた。



「お昼が食べられなくなっちゃうからこれで終わりよ?」


「あい! ありがとぉおかーしゃま!」


「ふふ……。どういたしまして」



 エナお母様の膝の上にいる自分が見上げながらお礼を言うと上から温かい魔力が降ってくる。

 自然と零れた笑みに慈愛の女神様と化しているエナお母様の魔力は発露しっぱなしだ。



「リリー、ボクのもあげるよ!」


「あ、ずるい! リリー、私のも食べて!」


「こ~ら2人共。そんなにリリーちゃんに食べさせたらお昼が本当に食べられなくなっちゃうからだめよ」


「「はぁ~い……」」



 優しい笑みのまま2人を窘めるエナお母様の声は母性に溢れていてとても澄んでいる。

 普段のエナお母様の声も綺麗で澄んだ素晴らしいものだけど、今の声はそれを遥かに凌駕している。

 それだけで人を魅了できるだろう素晴らしい声に揺られながら、エナお母様の為のお茶会なのだが自分達も美味しいお菓子に大満足したお茶会だった。







◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆







 お昼もテオとエリーと自分に囲まれて幸せそうに摂ったエナお母様は食休みも楽しそうに自分達と談笑していた。

 表情や声からも幸せなのが端から見ても簡単にわかるほどだろう。

 それほど今のエナお母様から迸る魔力の発露はすごい。



 食休み後に歌った3人の合唱はそれはそれは盛り上がった。

 最初は3人だけで歌っていたが、歌い終わった後はエナお母様も参加して様々な歌を歌った。

 歌詞を知らない歌も多かったがエナお母様が教えてくれた。



 プロ顔負けの歌声を持つエナお母様の歌はテオとエリー、そして自分の歌声と合わさりその日遅くまで楽しく暖かく響き続けた。




エナが壊れる日です。

壊れるというかデレデレのぽわぽわになる日です。

女神化していてもちゃんとだめなことはだめと言いますが、それもかなーり甘い感じになります。

ちなみにエナさんすでにアラサーの仲間入りを果たしています。


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