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濁った瞳のリリアンヌ  作者: 天界
第一部 第10章 4年目 後編 3歳
207/250

181,仲介のリリアンヌ




「――と、こんな感じに処理を分散させてみようかな、と」


「ふむ。だがそれでは汎用性がいまいちなんじゃないか?」


【その場合はこちらの処理を持ってきて空いた部分で余裕を確保するべきかな】


「あー……なるほど!」


「うむ。それなら問題ないだろう……ん? エナがこちらに来るようだぞ」


【あれ? 珍しい……っていうか、そっか。アレだね】


「「あー」」



 普段はほとんどお婆様とお茶をしたり談笑したりしていてレキ君と楽しく遊んでいる幻影が映っている幻術空間付近には近づかないエナが近づいてきている。

 この幻術空間には様々な魔術が施されており、一見してレキ君と自分が戯れたりお昼寝しているだけのように見えるが、その実は精神にまで効果を及ぼすほどの幻術だ。

 しかも歴戦のツワモノであるお婆様ですら気づけないほどのものだ。


 精神に効果を及ぼすといっても簡単なもので、何かしら悪影響があるものではない。

 具体的にはこの幻術空間に近づかなくなり、遠くから眺めているだけで満足するというものだ。


 だが、しっかりとした目的意識をもった状態で近づかれるとこの効果は発揮されない。

 なので自分と一緒に(・・・)遊ぶ事が主目的なテオやエリーなんかにはほとんど効かないので彼らが来たら幻術空間はあまり意味がない。

 その他にも接近するごとに幻術と現実の差異を認識しづらくなるとか、その誤差を修正するとか、結構色々な魔術でこの状況をしっかりとフォローしている。


 さて普段自分はレキ君と2人だけで遊ぶと言っているのでエナとお婆様は魔術の影響もあり近づいてはこない。

 そんなエナが近づいてくるという事は何かしらの目的があってのことだ。まぁ内容は予想がついてるけど。



「リリー、気持ちよさそうね?」


「きもちー」


「わふ」



 レキ君のお腹をクッションにして寝そべり、そのふかふかのお腹に顔を埋めたりしていた自分にエナが無難な話題で声をかけてくる。



 掴みはまぁまぁかな。



「ちゃんと大人しくしていてレキはほんとにいい子ね」


「わふ」


「れきくんはいいこね~」


「わふふ」


「ふふ……。リリーとレキは仲良しね」


「なかよしぃ~」


「わふぃ~」



 牽制のジャブで場を整えているエナだが、レキ君のお腹に埋もれて乱れた自分(リリアンヌ)の髪を直すのも余念がない。


 ゆったりとした時間が流れ、乱れていた髪もすっかり落ち着いた頃いつもの凛々しくも母性溢れる微笑のエナから少しずつ魔力の発露が見え始める。

 エナの魔力の発露はあまり多くない。

 クレアみたいな魔力の多い人なら魔力の発露も多くなるようだが、エナはそこまで魔力が多くないのでそれほど発露しない。

 だがそれでも発露した魔力は優しく、温かいことに変わりはない。

 まるで本物の母親(クレア)に包まれているような温かさが降り注いでいる。



「リリー……。あのね、今度の私のお誕生日会のことなんだけど……」


「んぅ~?」



 降り注いでいた優しい魔力にちょっとだけ恥じらいが混じる。

 エナの表情も少しだけ恥ずかしがっているのを無理やり微笑みに隠すようにしているのがわかる。



「去年のプレゼント……。覚えてる?」


「あい。えなおかーしゃま」


「リリー!」



 自分の発した言葉に隠していた恥じらいはすぐにどこかに飛んで行ってしまい、花が咲き誇ったような笑顔で抱きしめてくるエナ。

 去年のプレゼントでもそうだったが、自分達がエナを母親として扱うとそれはもう喜んでくれる。

 いつもの凛々しいエナがでれでれのぽわぽわになってしまうくらい喜んでくれる。


 今も一言添えただけでそれはもう魔力の発露だけでなく、魔力の流れでも凄まじく喜んでいるのがはっきりとわかるほどだ。



「あぁ……。もうほんとに可愛いわぁ……。私のリリー……。

 もう1度言ってくれる?」


「んぅ~……」


「……リリー……だめ?」


「おたんじょびかいでぇ~」


「あら……。ふふ……。じゃあ約束よ?」


「あい!」



 おでことおでこをくっつけたまま微笑んでいるエナは女神様のように綺麗だ。

 エリーやお婆様とは違った甘い香りにエナ特有の凛々しい匂いというか香りが混ざっている。


 何度も何度も嬉しくてついつい漏れてしまう笑みを隠そうともしないエナはそれはもう上機嫌だ。

 なんと言ってもエナはこのプレゼントを頼む為に幻術空間にかかっている魔術を打ち破ってきたのだから。

 目的意識があれば打ち破る程度の簡単な魔術でしかないけど、まぁソレはそれ。


 話の流れ的にもちょうどよかったのでエナから言わせるのではなく、自分から言ってあげたりしたがこれでエナへのプレゼントは去年に引き続き1日エナお母様に決定だ。

 テオ達も巻き込んで当日エナはずっとでれでれして別人のようになってしまうことだろう。



 まぁ去年本人は大変幸せそうだったからいいんだけどね。

 今年も盛大にでれでれになってもらうとしましょう。



 その他にもささやかだが3人で歌を贈るつもりだ。

 その練習もエナをお婆様にお願いして連れ出してもらって着々と進行中。



 余程嬉しいのか、まだお誕生日会でもないのにでれでれになりつつあるエナに抱きしめられたり、頬をすりすりされたり、至る所にキスされたりと……まぁ割りと普段通りだった。






◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆







「さんはい」



 エリーの音頭でテオとエリーと自分の3人が同時に歌い始める。

 今回の選曲は『星々の夜』のような全体的におとなしめの曲ではなく、明るく楽しい曲だ。

 兄姉の2人と少しずつ練習してもう本番まであと数日というところまで来ている。



 エナの誕生日はエリーの誕生日から約一ヶ月後にあるのでエリーの時同様練習時間はたっぷりとれた。

 選曲もすぐにエリーが決めたので迷う時間も少なかった。



「……うん……。リリーはやっぱり天才だわ!」


「むぎゅぅ」


「あぁ! エリーばっかりずるいよ! ボクも!」


「テオはあっちで歌ってなさいよ!」


「エリーこそ練習が足りないんじゃない!?」


「何よ!」


「何だよ!」



 自分をぎゅっと抱きしめたまま頭の上で喧嘩を始める2人。

 もうかなり慣れたけど自分を抱きしめる為に争うのはほんとやめてほしい。



「にーに、ねーね。めっ!」


「「はぅっ! ごめんなさい」」



 睨みあっていた2人を一喝するとすぐに謝る2人だが、謝る相手はお互いではなくこちらというのがなんともいえない。



 まったくこのお兄ちゃんお姉ちゃんは……。



「にーにとねーねにごめなさい、しないとめっ!」


「うぅ……。エリー、ごめんね」


「私も悪かったわ、テオ」



 仲直りが済んだ所でまた歌の練習の再開だ。

 でももうかなり上手く歌えるようになったので練習というよりも3人で楽しんで歌えている。



「あ、にーに、ねーね」


「うん? どうしたの、リリー?」


「なぁに?」



 休憩中にエリーから受け取った魔片製のコップに入った果実水――オレンジ味――をちょろっと飲んでから2人に報告する。

 もちろんエナへのもう1つのプレゼントの事だ。

 なんだかんだで歌の練習を一生懸命やっていてすっかり忘れていた。

 もう日にちもないのでちゃんと言っておかないといけない。まぁもし言わなくても当日に何も言わずにでも合わせてくれるだろうけど、一応だ。



「えにゃに~……えなに~」


「はぅ……。噛んだリリーもすごく可愛い……」


「むぅ……」



 最近はエナのことをちゃんとエナと言えるようになってきただけに久々に噛んでしまってちょっと恥ずかしい。

 両手を頬に添えてまったく同じ動作で悶えている兄姉に不満げな視線を送るが2人は何のそのだ。むしろそんな視線すらもご褒美のようにすら見える。



「むぅ~……にーにとねーねなんてきあい!」



 また噛んでしまったが今度の発言は悶えていた2人の表情を一変させ、次の瞬間には必死で謝る兄姉が見れたのでよしとしよう。

 その後に1日エナお母様の件を話し、2人も快く了承してくれた。

 まぁこの辺は心配していなかったので問題ない。


 むしろ自分がこの件を提案したという事実により、兄姉からもれなく賞賛と賛美の嵐が起こったのは言うまでもない。




普段さくっと張っている幻術空間ですが、かなりすごい代物です。

でも悪影響とか皆無です。

見せている幻術と現実の動作に差異があるのは仕方ないことなので、その差異を埋めるために魔術をいくつも使っています。

しかも悪影響が出ないように差異を埋めているので少し時間がかかります。

その時間を確保するために走りよってきたりするのを防止する魔術もかかっていたりして前提条件を確保するための魔術だけでものすごい数になっていたりしています。


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