180,魅惑のリリアンヌ
舞台端にはたくさんの魔道具が並べられている。
その間を縫うように男物の服が数着用意されているはずだが、それらは見えないので確認できない。
そこそこ広いこの舞台の観客席は今現在ガラガラだ。
なぜなら貸切だから。
しかしガラガラではあるがたくさんの花や紙の飾りで飾りつけされているはずなので寂しいと感じることはないはずだ。
飾りの設置を手伝いはしたがお婆様とテオの誘導で花を置いただけだったのであんまりよくわからなかった。
それでも満足そうにしていた2人を見れば心配はいらないだろう。
飾りつけされた観客席には今日の主役のエリーを筆頭にお婆様やエナ達が座っている。
エスコート役のテオは今現在も自分の手を握りながらも最終確認をしている。
使用する魔道具は順番に並べられているのでそのまま取って行くだけだし、使い方も非常に簡単だ。
せいぜいタイミングを間違わなければいいくらいのものだが、それでも真面目なテオはしっかり確認している。
「よし、確認終了っと。
リリー、準備は大丈夫?」
「あい。にーにも?」
「もちろんだよ。さぁエリーの為に頑張ろう!」
「あい!」
繋いでいる手を握り返すとスポットライトが当たって明るくなっているだろう舞台へと歩き出す。
テオが手を繋いでいない方の手に握っている魔道具を起動させると同時に自分の周りに魔術が纏わりつく。
舞台に上がった瞬間、エリーが元気な声で声援を送ってくれる。
それに手を振って応えてあげ、テオのエスコートのままに舞台を歩き、所定の位置につく。
「じゃあ、リリー。よろしくね」
「あい」
テオが自分にだけ聞こえる小さな声をしゃがんで目線を合わせてからかけてくる。
自分の返事を聞いて、笑顔で1つ頷くと最初の魔道具とは違う魔道具を取り出して自分の口の前にまで持ってくる。
『ねーね! おたんじょびおめでとぉございます!
きょおはたのしんでいってください!』
「キャー! リリー、ありがとうー!」
黄色い歓声がたった1人だけだというのに会場中に響き渡るほどの声量でもって響いてくる。
エリー1人で満員の大歓声にも負けないかのような勢いだ。
その声援にペコリとお辞儀をしてテオを見上げると、テオも頷き舞台に上がる前に起動した魔道具を切り替える。
するとそこにいるのはウサギの耳がフードについたパジャマを着込んだ自分。
お尻の部分には丸い尻尾もついている。
「キャー! リリーかわいー! 着ぐるみパジャマのリリーは超絶可愛いわぁ!」
エリーの大絶叫を受けてその場でくるっと1回転する。
そのままエリーが黄色い声援をあげ続けている中を客席に向かって1歩2歩とゆっくりモデル歩きで進んでいく。
舞台がどこまで広がっているかは見えないのでわからない。
だがきちんと魔片を使った目印が引いてあるので突然床がなくなるなんてことはない。
テオもちゃんとエスコート役として片手をしっかり握っているし。
1番前の目印まで進んでくるっと回って戻っていく。
本物のファッションショーを意識してやっているのだが、こっちの世界――オーリオールではこういうファッションショーはないらしい。
ファッションショーといえば舞台の上で何人も並んでちょっとポーズを取るくらいらしい。
なのでこういうファッションショーはエリー達にとって初めてとなり、斬新で真新しく見えるだろう。
最初の位置まで戻ってくると、舞台袖に行くのではなくその場で用意しておいた魔道具をテオが手に取る。
そして魔道具を起動すると魔術が自分の周りを覆い、今まで着ていた服が切り替わる。
一瞬で着替えが済み、それをみたエリーがまた黄色い悲鳴をあげる。
今度は動物の種類が変わっただけの着ぐるみパジャマだが、種類が変わればまた違った魅力が出てくるもので、エリーも大興奮で席から立ち上がって黄色い悲鳴をあげながら手を盛大に振ってくれている。
今度も先ほどと同じようにモデル歩きで目印まで行き、ターンして戻ってくる。
そしてまた早着替えが行われる。
こうして着替える度にエリーから何度も何度も悲鳴が聞こえ、最後の服まで延々とそれは続いたのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ふぅ……。すっかり喉がカラカラになっちゃったわ」
「あい、ねーね」
「ふふ……。ありがとう、リリー」
ファッションショーが終わり、舞台上にはテーブルや椅子などが設置され料理も並んでいる。もちろん見えないが匂いや魔片製の食器などで大体はわかる。
ファッションショーで着ていた幻術の魔術を纏わせやすい素材で作られた特殊な服から、メイド服に着替えた自分は今エリーの1日メイドさんだ。
「ふふ……。それにしてもリリーは何を着ても似合っちゃって本当に可愛いわぁ……。
色んな可愛いリリーが見れて今日は本当に最高だったわ!」
「おわってないのぉ~」
「そうね! まだまだ今日は可愛いリリーを見せてもらわないと!」
「あ、あのぅ……一応ボクもいるんだけど……」
エリーの1日メイドをしている自分だけど、テオも1日執事をしている。でも出番は全然ない。
エリーの視線は常に自分を捉えている。テオも一応料理を持ってきたりして色々してるんだけど、全然見向きもされていない。
「リリー、次はこれを食べさせてくれるかしら?」
「あい。あーん」
「あーん、ん。美味しい。さすがリリーね!」
「え、エリー。ボクもあーんしてあげようか?」
「リリー、おかわりお願いね」
「あーん」
「あーんっ。おいしー!」
完全に無視されているテオだが今日は怒れない。
本日の主役はエリーであり、エスコート役でずっと舞台上で手をつなぎっぱなしだったのを責められて無視されていても怒れない。
ちなみに料理はエリーの誘導で魔片製の食器を使って、取ってもらうか誘導してもらってからあーんしている。
「ふふふ……。幸せだわぁ~」
「ねーね、つぎはどれぇ~?」
「じゃあ……これをお願いしようかなぁ~」
「あい。あーん」
「あーんっ」
心底幸せそうなエリーとその横に煤けた様に佇むテオが酷く対照的だった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「さぁリリー、今日は一緒に寝ましょうねぇ~」
「あい」
「ぼ、ボクも一緒に寝てあげようか?」
「テオはとっとと自分の部屋に帰りなさいよ」
「うぅ……ボクもリリーと一緒に寝たい……」
とぼとぼ、と自分の部屋へと帰っていくテオを見送り、エリーと一緒にベッドへと入る。
もちろんベッドには1人では上がれないのでエリーにお世話してもらいながらだけど。
「今日は本当にありがとうね、リリー。とっても楽しい誕生日だったわ。
特にたくさんの可愛いリリーを見れたのがよかったわ。
服を着替えるのも一瞬だったし、あれはやっぱり魔道具でやっていたのかしら?」
ベッドに入った瞬間には抱き枕にされながら今日のことを振り返るエリーの話を聞く。
早着替えは確かに魔道具でやってはいたが、アレは実際は服を着替えていたのではない。
幻術の魔術で服を再現していただけだ。
その幻術を封じている魔道具も服の種類毎に用意したりして結構テオ達は頑張っていた。
実はただの幻術では服だけにターゲットを絞るのはちょっと難しい。
なので予め幻術を纏いやすい素材で作った服を着て補助し、その上で魔道具を使っていた。
身体的特徴を隠すためのマナーとして使われる類の魔道具もこれと似たようなことをしている。
この方法なら小さい頃――といっても今も小さいけど――着ていた服でもサイズを気にすることなく着ているように見せることが出来る。
実際に今日のファッションショーで見せた数の服を用意するとなるとかなり大変だ。
クリストフ家なのでもちろん用意することは出来るだろう。でも自分はまだまだ成長しているのですぐ着れなくなってしまう。
さすがにファッションショーの為だけにすぐ着れなくなってしまう服をたくさん用意するのもどうかと思って今回の形にしたのだ。
最初はテオ達も普通に服を用意しようとしていたので、こっちの方法に誘導するのが大変だった。
エリオットに幻術を纏いやすい素材での服を作ってもらうのにも、色々な手を使って誘導してやっと完成したのだ。大変だった。
結果としてエリーもものすごく楽しんでくれたし、自分もみんなもエリーを喜ばせる事ができて大変満足だ。
作成者のエリオットも新しい発想にやる気を漲らせていたし。
「リリー」
「んぅ?」
「ありがとう。最高の誕生日だったわ。大好き!」
愛しさの篭った温かい抱擁を受けていると、安心感と幸福感からあっという間に睡魔が襲ってきた。
花のような甘い香りに包まれたまま、甘く淡い夢へと落ちていくのだった。
リリーとテオによるファッションショーでした。
途中でテオも着替えたりしていたのですが、割愛しました。テオだし。
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