178,会場のリリアンヌ
会場から響く大歓声の中をテオが駆け寄ってくる。
興奮と歓喜でキラキラしている笑顔のままに舞台に上がるとそのまま自分を抱きしめるが、毎日行っている訓練で上がっている力で締め過ぎないようにきちんと加減しているけどやっぱりちょっと苦しいのがテオらしい。
「リリー、素敵なプレゼントをありがとう。とても素晴らしい歌だったよ!
今まで聞いた『星々の夜』の中でも最高の1曲だったよ!」
「あい。にーに、おたんじょびおめでとぉ」
「リリー! ありがとう!」
再び抱きしめてくるテオだが、今度はさっきよりちょっと力が入っていた。だがそれは決して傷つけるようなものではなく、暖かい力強さを感じるものだ。
「リリーの歌は最高なのはわかるけど、私達も歌ったんですけど?」
「あ、エリーもありがとう。エナもみんなもありがとう。素晴らしい歌だったよ」
「……なんだかおざなりだけど、まぁいいわ。誕生日おめでとう、テオ」
「おめでとう、テオ」
「「「お誕生日おめでとうございます、テオ坊ちゃま」」」
「ありがとう!」
抱きしめついでに自分を抱き上げてそのままエリー達にも笑顔を向けるテオ。
銀閃の貴公子の2つ名は伊達ではない素晴らしい笑顔にみんなの表情も魔力の流れも暖かいものに包まれている。
会場からは大歓声の代わりに割れんばかりの拍手が鳴り響き、テオだけでなく舞台上の全員を祝福してくれているかのようだ。
テオも喜んでくれたし、会場の客達からの評価も上々のようだ。
2階にいたお爺様とお婆様も階下に降りてきていて、舞台に上がってくる。
舞台に上がったお婆様とお爺様の姿を見て会場の客達がざわざわとし始めたが、司会の使用人が気を利かせた一言でフォローすると静まり返る。
テオと自分とエリーの3人をお爺様が一遍に器用に抱き上げ、お婆様のいつも以上の笑顔が向けられる。
「素晴らしかったぞ、エリスティーナ、リリアンヌ。
プロ顔負けとはこのことだ。俺は鼻が高いぞ!」
「ほんとねぇ~。練習の時よりもとても素晴らしかったわ。
こんなに素敵なプレゼントをもらえたテオちゃんは幸せ者ねぇ~」
「はい、お婆様! ボクはオーベント王国1の幸せ者です!
こんなに幸せで最高の誕生日は初めてです!」
「ふふ……。そうねぇ~。さすがエリーちゃんとリリーちゃんだわぁ~」
お婆様がテオの頭を優しく撫でて頬をひと擦りして次はエリー、自分と同じように優しく撫でていく。
会場に背を向けたままだったお爺様が自分達3人を抱えたまま振り返り、お婆様もそれに追随する。
途端に会場中からまた大歓声が上がり、それに応えるようにお婆様が3人を抱えているお爺様に代わって手を振っている。
さすがにアンネーラコールやローランドコールのようなものはないが、それでも彼らの人気は凄まじいものがあった。
テオの友人達も目の魔力をキラキラさせて憧れの人を見るような目をしていた。
実際、自分達の歌の時より興奮しているように見える。
確かにこれだけの人気だと2階の席にいて正解だったろう。
あっという間に自分達の歌の余韻も、テオの誕生日という事も完全に喰われてしまっている。
そんな中、司会をしている使用人から魔道具を受け取ったお婆様がお爺様の口元にソレを持っていく。
『今日は我が孫、テオドールの誕生会に集まってくれてありがとう。
我が孫達の素晴らしい歌にテオドールも客人たちも酔いしれた事だろう。
まだまだ宴は続く、存分にテオドールを祝ってやってくれ』
魔道具により増幅されたお爺様の軽い挨拶に会場からは今度こそローランドコールが巻き起こり、少しするとテオドールコールに変わる。
ちゃんとお爺様が釘を刺したように今日の主役はテオなのだ。
会場から響くテオドールコールに笑顔で手を振っている我らがお兄様の笑顔を眺めながら、プレゼントの成功にやっと安堵の息を吐けた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
着替えを済ませて戻ってくるとさっそくテオにエスコートされる。
普段はエリーと取り合いになって揉める所だけど、さすがに今日の主役はテオだ。エリーも自分を独占されても何も言わない。
でも彼女の魔力の流れは凄まじい事になっている。
エリー我慢だよ! エリーステイ! ステイ!
でも魔力の流れとは別に被っている猫は凄まじいほどに儚い感じのお嬢様だ。
エリーの被っている物はきっと自分の無表情ばりの強度を誇っているに違いない。
「エリスティーナさん、先ほどの歌は本当に素晴らしかった。
あなたの歌声は天使の歌声よりも美しい。あの翼もあなたの美しさを際立たせる素晴らしいものだった。
あの翼は魔道具なのでしょう? やはり第1級魔術師となられた彼のエリオット殿の作品でしょうか?」
友人達の下へ自分とエリーを連れて戻ってきたテオにいち早く王子殿下が進み出てエリーの手をとって跪き、軽く口付けすると賞賛を含めた疑問をイケメンスマイルと共に放ってくる。
そんな王子殿下のイケメンスマイルと所作にエリーは特に表情も変えずに目を伏せながらチラリ、とテオを一瞥する。
どうやら面倒くさいからテオに任せることにしたようだ。
他の人達にはきっとイケメン王子と話すのが恥ずかしい箱入りのお嬢様が、頼もしいお兄様に仲介という名の助けを求めているように見えるのだろう。
まぁエリーをよく知っている自分としても魔力の流れからしても面倒くさそうなのは一目瞭然なのだけどね。
「えぇ、先輩。あれは確かにエリオット殿の作品です。
前に母の誕生日を祝った時に使った魔石の残りですね。
あの時は母の為にお婆様達が魔石を手に入れて来てくれたんですよ」
「なんと、魔石が使われているというのか。
さすがはオーベントで……いやリズヴァルト大陸で最高の魔道具職人と名高い方の作品だ。
それに遠目からでもわかるあの美しさ。芸術品としても最高の物だ。
もちろんエリスティーナさんの美しさの前では霞んでしまいますが」
テオの説明に軽く頷くように驚くが、最後にはエリーを褒める事も忘れていない。
やはりこのイケメン王子はイケメンだ。
そんなイケメン王子のイケメン行動にエリーはテオの耳に口を寄せて内緒話をするように小声で話す。
テオを仲介役として話をするのだろう。まさに恥ずかしがり屋な箱入りお嬢様の典型だ。
ただ小声で話された内容をテオがそのまま伝えているかと言うと全然まったくそんなことはないだろう。
たぶんそのまま伝えたらイケメン王子は耳を疑ってしまうだろうから。
「ありがとうございます。妹もエリオット殿の作品の美しさには共感しています」
一瞬だけ王子殿下達に見えないように苦笑したテオが言葉を紡ぐ。
やはりその内容はエリーが伝えたものとは全然違っている。
実際にエリーが言ったのは――。
「テオ、お腹空いたからもう行っていい? もちろんリリーも一緒によ」
というなんというかイケメン王子? 何ソレ美味しいの? なのだから。
本当にまったくもって脈がないイケメン王子がちょっと可哀想になったが、猫を被っていないパワフルで行動的なエリーを知ったら気持ちを維持できるかどうかわからないので気にしないことにした。
この年頃の子は非常に繊細だからね。
猫を被っているエリーしか知らないだろう王子殿下には刺激が強すぎると思うし。
テオが仲介……というより捏造した言葉を聞き、気をよくしたイケメン王子が矢継ぎ早にエリオットの魔道具を褒めるが本命はその魔道具の良さ、美しさを引き合いにしたエリーへの賛美だ。
なかなか終わらないテオを挟んだ会話にエリーの魔力の流れにどんどん苛立ちが募っていく。
こんなんで普段求婚されているときはどうしているのだろう、と思うがなんとかうまくやっているのだろう。
被っている猫もまったく崩れる気配を見せない。
しかしさっきからイケメン王子しか話せていないけど、いいのだろうか。いや王族なんだから言葉を挟むのはアウトなのだろうけど。
一応テオは今日の主役だし、他の友人達も話したそうにしているし。
イケメン王子もテオを仲介役にしているだけで実際に会話している――と思っている――のはエリーだし。
まぁこの辺はいくら王族の干渉を撥ね退けられるクリストフ家としても仕方ないのだろう。
終わらないイケメン王子の口説きにちょっと退屈になり、欠伸をした瞬間だった。
それまでにこやかに相手をしていたテオがハッとしてすぐさま跪いて目線を落としてきた。
「リリー、ごめんね。退屈だったよね。お腹空いてない? 何か食べる?」
会話の途中だったイケメン王子も驚きを隠せず、跪いているテオに話しかけようとするがテオが発している雰囲気にかけようとした言葉を飲み込むしかなかった。
無意識に自分には感じさせないように巧妙に隠しているようだが、その他にははっきりとわかるようになっている。
それは相手を黙らせる為の暴力的な気配だ。
強い感情から生まれる気配は魔力の発露となり、他人には見えずとも自分の魔力を見ることができる瞳にははっきりと見えるため隠しても意味がない。
普段のテオからは絶対にしない気配だがもう1人同じような気配を発している人物がいる。
それはもちろんエリーだった。
被っていた猫が剥がれているがどうやら知った事ではないようだ。
本当にこの2人は自分の事になると他は二の次になってしまっているのが玉に瑕だ。
それがただ単に飽きさせてしまっただけ、という事でも関係ないのだ。
悪いのは飽きさせるような話を延々と続けた輩だということが2人の共通見解なのだろう。
しかもこの気配をほとんど無意識に出しているというのがまた問題だろう。
エリーならともかく、友人に向けるような気配とはとてもいえない気配をテオが彼らに向けるとは思えない。
本当に困ったものだ。
びびってしまっているイケメン王子含めたテオの友人達の為にもここはテオをフォローしよう。
「にーに、へーきだよ。ねーねとおみずのんでくる」
「ボクも一緒に行くよ」
「にーにはしゅやく。だからだぁめ」
「うっ……。そうだね。じゃあエリー頼んだよ」
剣呑な気配は自分の言葉で2人共すぐに収まった。
やっぱり無意識のうちに発してしまっていたようだ。あとのフォローはびびって顔が引き攣っている王子殿下達を見たテオ自身がなんとかするだろう。
「任せて。
それでは殿下、皆様方。失礼致します。
さぁリリー、行きましょう」
びびっているイケメン王子達に深窓の令嬢に戻ったエリーが笑顔で挨拶をしてから、自分の手を取って移動する。
後ろからテオの苦笑交じりの謝罪の言葉と妹自慢が聞こえてくるが、すぐにそれも聞こえなくなる。
きっと彼らはテオの妹自慢をげっそりするまで聞かされて先ほどの突然の事態を何かの勘違いだと思わされるのだろう。
まぁテオが意図してやっているかどうかは微妙なところではあるが。
エリーから果実水――林檎味――を受け取って椅子に座らせて貰ってからゆっくりと飲む。
会場の中央付近で続いているテオの妹自慢にメンバーの表情が徐々に先ほどよりも引きつったものになってきているが、まぁ大丈夫だろう。
普段から妹自慢しているみたいだし。
舞台の上では余興のような催しが行われており、何かをジャグリングしている大道芸のようなものが進行中だ。
ジャグリングしている物は見えないがなんとはなしにそちらを見ているとエリーがどんな事をしているのか解説してくれる。
そんなエリーのさっきとは打って変わった楽しそうな声が心地よい。
テオの誕生日会はその後は特に何の問題もなく、王子殿下を含む友人達にはテオによる普段よりも激しい妹自慢により、しっかりと勘違いだと誤認させる事に成功したようで恙無く終了した。
テオとエリーのシスコンぶりは半端ないです。
リリーを退屈させただけで、無意識に殺気が溢れて漏れてしまうほど酷いです。
テオとエリーの理論によると悪いのは王子です。
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