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濁った瞳のリリアンヌ  作者: 天界
第一部 第10章 4年目 後編 3歳
203/250

177,熱唱のリリアンヌ

濁った瞳のリリアンヌ





 テオの誕生日会は順調に進み、挨拶もひと段落して様々な催し物が行われていく。

 使用人達の劇や演奏、演舞など結構いろいろなことをしている。

 会場でも立食パーティが始まっていて所々で参加者がそれぞれに談笑しつつも催し物を楽しんでいる。


 主役のテオもジノーヴィ王子殿下率いる学園の友人達と談笑していて楽しそうだ。

 でも何度もチラチラこちらを見ているのには気づいている。自分達の紹介をしたいのだろう。


 結局2階にまで来たのはジノーヴィ王子殿下だけだった。

 なので友人達はまだ自分やお爺様、お婆様達には挨拶もしていないし、ましてや紹介なんてしていない。

 妹大好きなお兄様は学園でも結構自分(リリアンヌ)の自慢をしているそうなので屋敷から出られない自分を紹介して自慢したいのが見え見えだ。



 まぁもうちょっとしたらプレゼント本番なので、紹介や挨拶はその後になるだろう。

 実は現段階に置いてもここで留まっているのにはちゃんとした理由がある。

 本日の主役がテオであるのでそれをお爺様とお婆様の話題で掻っ攫わないためというのもある。

 でもそれだけでは決してない。


 お婆様達の部下の人が調査をしたとは言っても当日何があるかわからないので、今日のような割と多目の人数が来ている場合は再チェックをしているのだ。

 これはクティからの情報なのだが、特にジノーヴィ王子殿下の周辺を再度洗い直しているそうな。

 テオの気の置けない友人のような人だが、王族だ。

 クリストフ家がその王族すら干渉を許さない大貴族とはいえ限界がある。

 なので今までかかってしまっている。王族相手じゃなければこんなに時間はかかることはなかっただろう。

 やはり王族相手は結構大変なようだ。



 そんなわけで出番までの待機プラス階上からの観察プラス主役を食わないようにする配慮でここに留まっているというわけだ。



「エリー、リリー。そろそろ出番だから着替えましょうか」


「はい、エナ」


「あい」


「頑張ってねぇ~、2人共」


「頑張って来い。楽しみにしているぞ」


「はい、お婆様、お爺様」


「がんばるぅ~」


「たくさん練習したものね。あなた達なら大丈夫よ~」


「結局俺は1度も練習の歌を聴けなかったからな、期待してるぞ」



 お婆様とお爺様からの激励を受けてエリーとエナと専属達と一緒に着替え部屋へと向かう。

 左手はエリーに、右手はエナに優しく握られている。

 2人共……いや専属とスカーレットもだが、みんな緊張しているようには見えない。



 テオの誕生日プレゼントにたくさんの人の前で歌うというのに緊張していないとはさすがだ。

 まぁ専属やスカーレットなんかはこういうので緊張するようなタマではないとは思うけど。

 エリーもエナもなんだかんだで度胸があるし、自分も全然緊張してない。

 それどころか楽しみですらある。



 さぁ我らがお兄様に精一杯の祝福を。







◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆







 司会役の使用人からのナレーションが入り、ざわざわしていた会場が一斉に静まり返る。

 まだ舞台のカーテンは開いていない。

 カーテン自体は見えないが、カーテンが開けばその向こう側にテオ達が見えるからすぐわかる。

 それに空気の流れから若干の閉塞感を感じるのでわかりやすい。



「リリー、楽しんで歌いましょう。

 私達が楽しんで歌えばテオも喜んでくれるわ」


「あい。たのしむぅ~」


「そうね。楽しくやりましょう。

 あなた達も失敗しても構わないから楽しみなさい。

 あ、でもスカーレット。わざと音程を外すのはだめよ」


「ばれましたか。では完璧に歌って見せましょう」


「まったくもぅ……」



 しれっとした態度で肩を竦めているエナの専属メイドであるスカーレット。

 彼女はクリストフ家でも客分扱いの特別なメイドさんだ。

 ラクリアと同じ兎族の獣人で、長身のエナに負けないくらい背が高いが出るところは出ていて、引っ込んでいる所は引っ込んでいるナイスプロポーションだ。


 見上げるようにスカーレットを見ていると、自分の視線に今気づいたという感じを装ってニッコリと微笑んでくれた。

 装って、というのは魔力の流れ的に自分がスカーレットを見始めた時点で彼女は気づいていたからだ。

 どういう意味があったのかはわからないが、彼女は自分に悪意を抱いているとかそういうわけではないようなので問題ないだろう。



 そうこうしているうちに司会が始まりを告げる。



「さぁ楽しみましょう」


「あい」



 エリーの声に自分とエリーを中心に半円形に展開している専属とスカーレットが胸の前で手を組む。

 エリーと自分は手を繋いでいるのでまだ組まない。

 エナはその後ろで自分とエリーの肩に両手を置いている。

 2人からの温かい体温を感じながらカーテンが開き、その向こう側に見慣れたお兄様と両親。大勢の客たちが見えた。


 すぐにテオが拍手をし、それに続くようにたくさんの拍手が巻き起こる。

 拍手に応える様に全員で揃ってカーテシーをすると、1拍置いて音楽が流れ始めた。



 『星々の夜』



 夜空に輝くたくさんの星たちが語り合う歌。

 語られる話は様々で、楽しい話、面白い話、悲しい話、未来の話、過去の話、愛の話。

 ゆったりと流れる星々の時間。

 長きに亘る夜の歌。



 始まりはエナ。

 澄み渡るような綺麗な歌声が会場を一気に包み込む。

 続くように専属とスカーレットが輪唱に入り、メインは自分とエリーだ。


 今まで練習した成果を出す、というよりは歌う事を楽しむように歌いだす。

 1段音量を抑えた周りから抜け出すようにエリーと自分の歌声が会場に響き渡る。


 片手を繋いだ状態で1歩前に出て、繋いでいない手の平を上に向け会場に差し出す。



 星々の語り合いが一際盛り上がりを見せる、最初の見せ場。

 会場に向けている手を更に高く上げるとそれが合図となり、自分とエリーにかかっている隠蔽魔術が解かれる。


 同時にエナと専属とスカーレットの隠蔽も解かれ、素早く配置につく。


 会場から(さざなみ)のようなどよめきが起こり、すぐに感嘆の溜め息へと変わった。



 舞台の上にいるメンバーの最初の衣装は全員シックなフォーマルドレス。

 統一した淡い色合いのドレスは魔道具で隠蔽された姿。


 隠蔽が解かれた今、自分とエリーを除く全員の背中には2対4枚の翼が現れ、ドレスも鮮やかなものへと姿を変えている。


 自分とエリーは特別で、3対6枚の翼にイヌミミオ。

 自分の胸元にはレキ君を象ったネックレスが煌き、その存在を高らかに主張している。


 ゆっくりと浮き上った自分とエリーが歌う星々の未来の語らい。

 そして合わせ鏡のように対象的な動きで2人のワンワンダンスが始まる。


 専属とスカーレットは祈るように跪き、ゆっくりと追従して歌声は重なっていく。

 会場を暖かいほっこりした空気が包み込み、その場の全ての者が2人のワンワンダンスに見惚れている。



 未来の語らいから過去の語らいへと移行し、メインがエナへと切り替わると今まで会場を包んでいた暖かいほっこりした雰囲気が一転して圧倒されるものへとなった。

 それだけエナの歌声は真に迫り、圧倒的な迫力と、魔力の発露でもって会場を一気に飲み込んだのだ。


 今までエナが見せる魔力の発露は微弱な物ばかりだった。

 だが今のエナから見られる発露はクレアに匹敵するほどの凄まじいものだ。

 その魔力の発露から齎されるものは様々あれど、その全てに共通している点がある。



 それはエナの歌声のような美しく澄んだ、どこまで見通せるような透明感。



 会場を見れば涙を流しながら聞き入っている人達がちらほらと見かけられる。

 テオも瞼を何度も瞬かせながらも、すばらしい笑顔だ。

 その横のジノーヴィ王子殿下はすでに号泣していたけど。



 エナの歌う星々の過去から、遂に最後の語らい――愛の語らいへと移る。



 エリー、エナ、専属、スカーレット。

 全員に送り出された自分が舞台の真ん中に立つ。

 今頃きっと自分はスポットライトの光を一身に受けているのだろう。残念ながら見えないからわからないが。



 語らいが始まり、星々の愛が会場中に響く。


 淡く、甘く、儚い。

 純粋で、透明で、どこまでどこまでも広い愛が会場中に広がっていく。



 自分が放出する魔力にそんな想いを乗せて会場を包み込み、テオを一直線に真っ直ぐに見つめながら紡ぎあげる。



 大量の魔力に包み込まれたテオの目じりにたまっていた涙はすでに止め処なく溢れ……だがその表情は先ほどよりも素晴らしい笑顔だ。




 最後の1音まで気を抜くことなく、だが楽しんで歌いきり、曲が終わる。

 余韻を味わうように会場は静まり返っていたが、自分のカーテシーでの挨拶をきっかけに盛大な拍手と共に大歓声が会場を包み込んでいた。




エリー&リリー featuring エナ&専属ズ&スカーレットのLiveでした。

会場中の心を完全に掴んだ圧倒的なLiveです。


特に最後のリリーの星々の愛の語らいは魔力の発露をコントロールしているせいもあって会場中の全ての人々の心の奥まで浸透する凄まじさなのです。


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