173,報酬のリリアンヌ
エリオットの工房から戻る道中で3人で作戦を練る。
とは言っても主にテオとエリーの2人で話し合っているけれど。
工房入り口で待たされていたエナも聞き耳を立てているだけで参加することはないようだ。
「正々堂々と真正面から行こう!」
「だめよ。相手はオーベントの英雄なんだから正面からいっても負けちゃうわ!」
「で、でも戦いにいくわけじゃないんだから……」
「そんな弱気でどうするの、テオ!
これは戦いなのよ!? リリーの最高に素晴らしい案を実行する為に私達はやれることを全てやるの!
例えソレが騎士にあるまじきことであろうとも! どんなことでもよ!」
「……そうか。ボクが間違っていたよ、エリー!
リリーの地上最強の案はボク達で叶えるんだ!」
「その意気よ! さぁやれることは全部やるわよ!」
「おう!」
涼しい秋ももうすぐ終わりになりそうなのに熱く燃え上がっている2人には悪いんだが、そこまでの案でもないと思うんだけどなぁ。
振り返ってみるとエナも苦笑している。
今日の専属のジェニーもエナの若干後ろですまし顔だけど魔力の流れは誤魔化せない。
それにしてもエリー……。騎士にあるまじきことってどんなことするつもりなんだろう?
今までもテオに対して結構えげつない手段を講じてきているので心配だ。
でもそういう手を使うのは必ずテオに対してだけなんだよね。頼もしく優しいお兄様だから安心してやれるっていうのもあるんだろう。
エリーなりの甘え方なのかもしれない。
2人の作戦会議はしばし続き、準備の為に色々と寄り道をしたあとようやく目的地へと辿りついた。
「さぁ行くわよ、テオ。私達の最高の一手を見せるのよ!」
「もちろんだよ! さぁ行こう!」
決意の瞳でお互いのやる気の程を交し合い、環境コントロールされて温度が一定に保たれているレキ君ルームに一陣の熱き風が吹く。
「「お婆様!」」
「ばーば」
「あらあら、何かしら~?」
レキ君から降りて2人と両手を繋いでお婆様の元へ行くとテオとエリーは声をぴったり合わせて決戦を開始させた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「じゃあ最低でも魔石が2つあればいいのねぇ~?」
「はい! でも出来れば練習用に予備も欲しいです」
「でもどうしても必要なのは2つだけです」
「そうねぇ……。私もオーベントに来てからはずっと迷宮にいってませんでしたからねぇ~」
「じゃ、じゃあ!」
決戦の相手はオーベントの英雄――アンネーラお婆様だ。
当然孫に激甘のお婆様なので二つ返事であっさりと了承してくれた……ようなのだが、どうも魔力の流れが変だ。
「ではこれはあなた達からの私への依頼ですね?」
「「え」」
「依頼ということは報酬を頂かないといけません」
「え、えっと……お婆様……報酬というのは?」
「ふふ……。そうねぇ~魔石が最低2個というとどのくらいの価値があるか2人はちゃんとわかってるのかしら?」
テオとエリーのお願いした魔石は1個だけでも入手できれば一攫千金という言葉が当てはまるほどに希少価値が高い。
いくらクリストフ家の子供といえどそんな大金は持っていない。
それにお婆様にとってみればお金なんて腐るほどもっているし、宝石なんかも美術品の類も同様だ。
テオもエリーもその事を理解しているのでお婆様の問いにどう答えていいのかまったくわからなくておろおろしてしまっている。
まだまだ2人にはお婆様のお相手は難しいご様子だ。
「ばーば、ほーしゅーはこえ~」
「あらあら~、綺麗ねぇ~。これはリリーちゃんが育てたのかしら?」
「あい。ひとぉつだけさいてました~。だからばーばにほーしゅーであげる~。さきばらいですー」
「ふふ……。さすがリリーちゃんね。
この依頼はしっかりと承ったわ。大船に乗ったつもりで待っていなさい」
「「お婆様、ありがとうございます!」」
「ふふ……。お礼はリリーちゃんに言いなさい」
「「はい! リリー、ありがとう!」」
お婆様は最初から本気で報酬を要求していたわけじゃない。
でも魔石はクリストフ家でも入手がそこそこ難しいほどの希少品だ。
可愛い孫が母親の為に必要としているからといって何もなしにポン、と与えていいものではないのでちょっとした試練のつもりで一芝居打った様だ。
でも自分の目には魔力の流れでわかっていたので子供らしい切り返しで答えてみた。
ちなみにこれも絡め手としてエリーが途中で準備してきたものなのだが、お婆様の試練にうまく返せず、おろおろしてしまいすっかり失念してしまっていたようだ。
まだまだ未熟なのは仕方ない。騎士団の訓練で戦闘能力はついてきたけど他はまだまだ子供なのだから。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
魔石の入手に関してはお婆様が太鼓判を押してくれたのでこれで問題ないだろう。
すぐにお婆様はお爺様を連れて迷宮へと向かってくれたのでクレアの誕生日までには十分間に合う。
お婆様の話では2,3日で魔石はとってこれるそうだ。さすがすぎる。
普通ならまず魔石が取れるような深い階層に行くだけでも命懸けだし、長期的な計画になるだろう。
しかしそこは我らがお婆様。通常の方法とはまったく異なる移動手段を持っているらしい。
サニー先生曰く、迷宮内限定だがそういう階層移動を出来る魔具があるそうだ。
魔具なのでとてもじゃないが一般的には入手不可能なアイテムになる。
しかも回数制限もあるので早々使える物ではないらしいがお婆様は躊躇なく使ってくれている。
さすがお婆様だ。男前すぎる。
その他にも魔石が手に入る魔物は強力で歴戦の戦士でも何人も束になってかからないといけないほどの強敵だ。
まぁでもその辺はお婆様とお爺様なので不安はない。
誕生日までもう少しあるので練習も少ししておく。
お婆様達が持って帰ってくる魔石の数次第ではあるが、本番の前にリハーサルもしておきたい。
こればかりは実際にエリオット製の魔道具を使ってやらないと練習にならない。
自分が魔術を使えば同じ事が可能ではあるがそれは出来ないので仕方ない。
でも以前自分が使ってみたときには自分の運動神経でも結構いけたので大丈夫だろう。
何せテオとエリーの運動神経は自分の擦り切れている運動神経とは比べ物にならないのだから。
ちなみに魔術で補助すればそれなりの運動は出来る。
まぁ結局3歳児の限界は超えられないけれど。こればかりは魔術でも自分の体を使うので難しい。
逆に言えば自分の体を使わない魔術でならある程度何でも出来るだろう。それくらいの応用力は身につけているし。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
一先ず誕生日の計画はお婆様達待ちになったので、テオとエリーもそれぞれのやるべきことをやるために一旦解散となった。
もちろん別れ際には2人にたっぷりと頬すりすりやキスの嵐を貰ったけど。
「じゃあ誕生日のプレゼントはなんとかなりそうなんだね」
【うん、お婆様達に任せておけば大丈夫】
「エーテル結晶体を使わせてあげられれば簡単な話なんだけどね~」
「あれは世に出すには危険すぎる代物だ。
1級の魔道具職人といえどもてあますかもしれんからな」
【それに……入手経路が問題すぎますからねぇ~……】
「わふぅ~?」
エーテル結晶体作成工場君が不思議そうにクティパッドから顔をあげる。
画面上には6面体のサイコロが5つ転がっている。どうやら後ろに引き連れている貧乏な神様を誰かに押し付ける気満々のようだ。
「まぁそれは置いといて……。レキ! こっちくんなよ!? くんなよぉ!」
「わふぃ~(そのままマイナスになればいいよ~ボクみたいにね!)」
「うわー! うわー! やめれー! 物件勝手に売らないでー! 12億のホテルはいやぁぁぁ!」
やっぱりクティ狙いのレキ君により押し付けられた神様がクティの所持物件を勝手に売却してしまったようだ。
ピンポイントでいやらしいところをついてくる神様にクティの絶叫が止まらない。
【はい、1着~】
「私は2着だな」
「やばいやばいぃぃ~!」
「わっふぃー(3ちゃーく!)」
今回は終了設定が年数ではなく指定回数ゴールしたら、なので最終決算をしてゲーム終了だ。
だがやはり一押し物件を売り飛ばされてしまったクティのダメージは予想より深刻だったようだ。
あっという間にマイナスと化したクティの所持金がレキ君と熾烈なビリ争いのデッドヒートを繰り広げている。
「ぎりぎり勝ったー!」
「わぶー(負けたー)」
ドラムロールの後に最終決算が1桁ずつ焦らすように表示され、息を止めてドキドキしながら見つめていた2人の明暗はくっきりと別れた。
「ハーッハッハッハ! いぬっころが私に勝てると思っていたのか! ハーッハッハッハ!」
「わぶーわぶー(クティのくせにー! 次は負けないんだからねー!)」
「ハーッハッハッハ! 負け犬の遠吠えにしかきこえんなー! いぬっころだけに!」
「わぶー」
久々の勝利にドヤ顔で高笑いを繰り返すクティにレキ君が不貞腐れて顔を隠すように両前足で覆ってそっぽを向いてしまう。
「……まったく本当に仲がいいなおまえらは……」
「ハーッハッハッハ!」
「ぶー」
【あはは……】
レキ君ルームにはいつもとちょっとだけ違う勝利の雄叫びが響き続けるのだった。
色々策を練ってきても歴戦の勇士であるお婆様相手では色々と失念してしまうテオとエリーでした。
桃鉄モドキも強そうなレキ君でしたが、ぎりぎり負けでした。
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