171,プロローグ
闇に落ちた意識がゆっくりと浮上するのがわかる。
情報の濁流とでもいうべき膨大な量の負荷を処理しきることができずに、無意識というセーフティがかかって意識が飛んだのだ。
目を開けなくてもわかる。背中のふかふかはレキ君だ。
世界のアーカイブにアクセスする前にアクセス中は眠ったような状態になるそうなのでレキ君を枕にするこの体勢にしていた。
まだレキ君が枕になっているということは意識が飛んでからそれほど時間が経ってはいないということだろう。
世界のアーカイブにアクセスしていた時間は結構な時間だったはずなので意識が飛んでいた時間が長ければ部屋に戻されていたはずだ。
ゆっくりと目を開ける。
見えるのは魔力とそれ以外の黒。いつも通りの光景だ。
少しだるく感じるのは『情報解析』の結果による負荷がまだ残っているのだろう。あれには驚いた。
あれほどの情報が一気に集まってくるとは……。
『情報解析』の術式構成はしっかり読み取ったつもりだったが、思った以上にこの魔術は優秀だということだろう。
少ない情報しか手に入らないのならともかく、気絶するほど膨大な量を取得できたのだ。これは喜ばしい。
だが今のままでは情報量が多すぎて使い物にならない。
必要な情報とそうでない情報を選り分け、取捨選択しなければいけない。
「リリー、おかえりー。どうだった?」
【ただいま、クティ。
すごい魔術を見つけたよ】
「おぉー! さすが、リリーだよ! 何か見つけてくるだろうとは思ったけどまさか魔術を見つけてくるとは!
どんな魔術だったの? 見せて見せて!」
思考の海に沈みかけた所でクティが自分が戻ってきている事にいち早く気づき、さっそく魔術が見たいと背後で知的探究心という看板を点滅させている。
ちなみに看板の縁取りにはリリー万歳リリー最高リリー無敵リリー……などなどと囲むように書き綴ってある。
幻術空間は世界のアーカイブにアクセスする前に解いていたのでお婆様達がテーブルで談笑しているのを確認したあと展開して、クティパッドに『情報解析』の魔術を書き出す。
術式の構成や術式単体でもかなり隙がなく作られているこの魔術。
現段階では構成を変更するのは難しいだろう。やはり『情報解析』を改良するのではなく、他の魔術で取捨選択させる方法をとった方が早いだろうか。
情報自体を狭めてしまうよりはそちらの方がいいような気もする。
取捨選択の方法も状況に応じて変更させていけば応用力もあがるだろう。
確か脳は意識している部分以外も全て記憶していて、その中から必要に応じて情報を得ているとどこかで見たことがある。
人間の脳のような複雑なことをするのは難しいかもしれないが、不可能ではないはずだ。
それだけ魔術というものは自由であり、可能性の塊でもあるのだ。
「ほほぅ……。これはすごいもの見つけてきたね。
対象の情報を取得する魔術なんて珍しいよ。これをうまく利用できればリリーの魔術も進展が見込めるね!」
【うん。でも色々と問題もあるみたいだよ。
世界のアーカイブで即席の組み合わせだけど、使ってみたんだ】
「おぉ! さすが、リリーだよ! さっそく使ってみたんだね。どうだった? どうだった?」
瞳をキラキラさせて鼻からフンス、と息を噴射して若干体が上昇したクティに苦笑しながらも負荷が高すぎて気絶してしまったことを教える。
「なななな、なんですとぅー!
リリーの驚異的と言って差し支えないはずの処理能力を上回る情報量とな……」
「ふむ。それは凄まじいの一言だな。構成や術式から見てもそこまでの情報を集めることは出来ないように見えたが……」
【サニー先生ただいま戻りました。
そうなんですよ。単体ではそこまで負荷の高い情報量を取得できる魔術ではないのです。
ですが、ちょっと組み合わせが悪かったといいますか。場所が悪かったといいますか】
幻術空間を展開したことにより自分が戻ってきた事を理解したサニー先生もクティパッドの共有汎用スペース上の『情報解析』を見て意見を出してくる。
サニー先生の言う通り、『情報解析』単体では取得できる情報は少なくはないが多いというほどでもない。
やはり組み合わせと場所が問題で、世界のアーカイブという物理的障害のない場所と『魔紋探信』という最高の環境でポテンシャルを十分に発揮してしまったのが原因だろう。
更に最高の状態の『魔紋探信』で得られる情報を全て『情報解析』でさらに詳しく取得してしまった結果として自分でも耐え切れないほどの膨大な情報となってしまったのだと予想される。
「……なるほど。『魔紋探信』と世界のアーカイブの相性は異常だな。
そして『情報解析』もな」
【はい。でも使いこなせば……】
「うむ。かなり期待できるだろう」
「まずは『情報解析』をじっくり調べないとね!」
【うん。さっそくやろう!】
クティとサニー先生という心強い味方と共にさっそく手に入れた魔術を術式の一片まで調べつくす探求の旅が開始された。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「わふぅ~ん。わふぃ~。わひ、わふ、わぷぷー」
「お、オールパーフェクトだとぉ!?」
「わふん!(4590点だよ、クティ!)」
「ば、ばかなぁ! い、一回もミスれないなんてそそそそ、あわわわ!」
クティパッド上で息抜きに対戦していたレキ君とクティ。
いつも通りに仲の良い2人だけど、最近はレキ君の得意なゲームが増えてきていてクティの負けがずいぶん込み始めた。
それでもどんなに負けても挫けずに挑み続けているちっこいさまは今まさに瀕死寸前だ。
「あ、ミスったな。クティ、お前の負けだ」
「ま、まだだ! まだ勝負は終わってない! まだ我が必殺の撥振りコンボがああぁ!」
「わふぃー(またミスだよ、クティ)」
「うぼろあー」
太鼓的なあの達人をイメージして作ってあるこの音ゲーは専用の撥を使ってプレイすることが出来る。
もちろん使わなくてもプレイできるがレキ君もクティも撥を使ってプレイしているのだが、レキ君の撥捌きは初プレイから3日で達人の域にまで達しようとしている。
巨大なわんこが撥を華麗に操っている光景はなんというかコレじゃない感がひどい。
クティも撥を放り投げて1回転してからキャッチしてプレイし続ける曲芸のようなものなどを披露しているがやはりノーミスプレイのレキ君相手では分が悪い。
それでもミス2つでなんとかクリアしたクティだったが明暗はわかりやすいほどに圧倒的だ。
ノーミスとミス2つでは比べるべくもない。
「チクショウ! チクショウ! レキのくせしやがってー!
次はダンスの方で勝負だこのやろー!」
「わふふん(ボクに勝てると思ってるのかな?)」
「やったるわー!」
続いてプレイが始まるのは某ダンスなレボリューションを模したゲームだ。
これも専用のコントローラーを作ってあるのでそれを使ってもプレイ可能。
コントローラーを使ってプレイしないとあまり面白くないこともあり、当然2人とも専用コントローラープレイだ。
「わふ(じゃあボクからね)」
レキ君がその巨体の重量をほとんど感じさせない軽い動きでコントローラーの上に移動する。
ゲームが始まると四方八方から矢印マークが降ってきて所定の位置まで来た所でタイミングよくコントローラーの対応する矢印のマークを押していく。
さらには踊るようにレキ君がくるくるとクティパッドの画面を見ずにコントローラー上を軽やかに飛び跳ねる。
それはまるで本当にダンスを踊っているようだ。
「わっふん!」
タタン、と最後のステップを軽やかに決めたレキ君は高々と鼻を突き上げてご満悦だ。
それもそのはずクティパッドの画面上のスコアはまたもやノーミス。いっつあぱーふぇくと。
「ありえねえええええええ!」
「わふふー(さぁクティの番だよ?)」
「まじか、まじでか、まじですかー!?」
わなわなと震えるクティは最早戦意喪失していてもおかしくないほどではあったが、そこはクティだ。
相手が強大であっても例え勝てないとわかっていても戦わないという選択肢はない。
「私の華麗な盆踊りをその目に焼き付けろー! ちくしょうー!」
悲しい絶叫が響き、ぴーひょろろーという独特の開始音から始まる曲がゲームの開始を告げる。
まったりと進む音程とは違い、画面上では驚異的という言葉がぴったりの難易度で矢印が目まぐるしく飛び交い……あっという間にクティのライフゲージが0になり敗北が決定した。
「わぅ(せめてクリアできる曲にしなよー)」
「うっせーうっせーまだ練習中なんだよ、うっせー!」
【ちょっと難易度高すぎたかなぁコレ】
「大丈夫! 難しいほどやる気が出るってもんだよ!
まだまだ私はいけるさー! クリアできるような難易度でしか戦えないいぬっころとは違うよ!」
「わふん(そういうセリフは勝ってからにしてよね)」
「うっせーうっせーうっせー!」
勝ち誇るレキ君に地団太を踏んで悔しがるクティといういつもの光景に癒されながら『情報解析』の有効利用法を詰めていくのだった。
濁った瞳のリリアンヌ最終章開始です。
世界のアーカイブから無事? 帰還です。
まずはしっかりと魔術を見極める事から始めなければいけません。
それはさておき、順調に増えているティト言語製ゲーム。
地味にティト言語も進化していたりしています。
気に入っていただけたら評価をして頂けると嬉しいです。
ご意見ご感想お待ちしております。




