外伝23,空飛べリリアンヌ
本編に出てこないような設定が多少出てきます。
本編では登場しなかった魔道具が出てきます。
本編ではスルーされていますが、実はエリオットからの贈り物は結構あります。
薄暗い空間には仮装用のマスクをかぶった者達で埋め尽くされている。
本来の私ならばこのような有象無象の集まる場所には絶対にこなかっただろう。
しかし今の私にはやらねばならないことがある。
私のちんけなプライドなど我が天使のためならばいくらでも捨てることが出来る。
例えばそう、このしょぼすぎるマスクをつけて目元を隠すような面倒な事も堪える事が出来る。
壇上に魔道具の光が照らされ会場中の視線が集まる中、壇上に上がった仮面の男が拡声器の魔道具を使って今宵の催しの開催を告げた。
手短に開催の挨拶を済ませた仮面の男が司会として最初の品の説明を始める。
壇上で一際輝くように光を当てられたソレは司会の男が言うように品質も大きさも1級品だ。
説明が終わると最低金額を提示し、オークションはスタートした。
まだ始まったばかりだというのにどんどん値段が上がっていっている。
しかしこの程度の金額はこの会場に集まった者達にとってはした金にすぎない。
無論私もそうだ。だが私が欲するのはあの程度の魔片ではない。
今回私が我が天使のために作り出そうとしている魔道具はクリストフ家から支給される高品質の魔片ではとても魔力量が足りない。
魔片を多数使って魔術を分散して同様の物を作ろうと試行錯誤したがやはりどうしても安定性が足りない。
我が天使に贈る品がそのような欠陥品ではとてもではないがあってはならない。
アンネーラ殿が集めた魔石はほとんどを敷地の防御結界に回しているためそちらは使うことができない。
あれが使えれば解決したも同然なのだが仕方あるまい。
アンネーラ殿も最近は我が天使の傍を離れないようで魔石の確保は容易ではない。
アンネーラ殿という魔石供給源がなくなってしまったので通常の方法で魔石を手に入れなければいけなくなってしまった。
通常はオークションなどに出品される物を落札する。
魔片専門店に持ち込まれるよりもオークションに出品した方が遥かに高額になるためだ。
魔石とは言わずとも質の良い魔片程度なら魔片専門店にいけばある程度手に入るが今回必要なのは魔石だ。
しかし魔石はそうそう出品されるものではない。
今回はクリストフ家の情報網を駆使して出品されることが確定している闇オークションを探し出した。
しかし闇オークションは国営の品質保証がされているオークションとは違い、参加者の目が全てだ。
極々稀に歴戦のつわもの達を欺く品が出品される事がある。だがそれも闇オークションの醍醐味として受け入れられている節さえある。
結果としてそんなモノを掴まされては困るので私自らオークションに参加したということだ。
もちろん護衛にクリストフ家の使用人を何人か伴っている。
クリストフ家の使用人は一流の護衛以上の実力を持っているので私は魔石の真贋鑑定にさえ集中すればいいのだ。
何品かの競売が終わり、会場が活気付き始めた。
やはり最初の数品は肩慣らしだったのだろう。ここからが本番というわけだ。
次に出てきた物は第2級回復魔術の1つ――水の癒しを封じた魔道具だ。
装飾も悪くないが如何せん大きさが問題だな。あの程度では腕が知れるというもの。
しかし今までで一番の高額がついている。所詮は有象無象に過ぎないか。
私ならば3分の1の大きさの魔片に同じ威力で封じられるだろう。
装飾ももっと美しく、されど秘めたる力強さと慈愛をもって我が天使を表現することができるだろう。
いや我が天使を表現するならば水の癒しなどという程度の低い魔術を封じるわけにはいかない。
やはり我が天使のためならば1級でも最高峰とされる大地の癒しを封じなければ……。
しかしすでにサルバルアを模したネックレスに大地の癒しは封じてある。
大地の癒しを封じた魔道具ならばいくつあってもよいが我が天使に捧げる物ならばやはり最高のものでなくては……。
「エリオット様、次が目的の品になります」
「ふむ。やっとか」
目的の魔石以外には用はないので少し思考がずれていたがここからが本番だ。
今回私が用意した予算はまったく使わない私の給金全額だ。
我が天使のためならば惜しくはない。
むしろ今まで給金などというものがあったことすら忘れていた。
クリストフ家にいれば金などまったく必要ないからだ。
だが私は魔道具職人としては相当な高級取りだったらしく、用意できた金額もかなりのものだ。
競り負けるという事はまずないだろう。
競り負けたならアンネーラ殿に影をお借りすればよいしな。
「次は今回のオークションの最大の目玉となります。
地と水の迷宮と呼ばれたあのヂゼセイスの核となる大魔石にございます!
皆様もご存知の通りヂゼセイス迷宮は今から約8年前に攻略され――」
司会の男が魔石がこのオークションに流れてきた経緯を説明している。
これほどの魔石が闇オークションに流れてくるというのはそれ相応の理由が必要だ。
でなけば落札したはいいが国軍が動き捕縛されるという結果になりかねない。
しかしこの辺はクリストフ家に情報を集めさせていて知っていたので問題ない。
今司会が同じ事を説明している。
ざわついていた会場内も元に戻ったようだ。
説明が終わり、司会の男が最低金額を提示し、オークションが始まる。
当然ながら今までで最高の金額が飛び出すが問題ない。
「エリオット様、いかがでしょうか?」
「うむ。あれで間違いない。秘められた魔力の量、質共に申し分ないだろう」
「畏まりました」
傍にいるこのようなオークションに深い知識を持つクリストフ家の使用人――なんという名前だったかは覚えていないが――私の鑑定の結果を聞き、ある程度進行してから競りに参加し始めた。
私ほどの者が魔石の鑑定を見誤ることはありえない。
壇上で魔道具の光を浴び輝いている魔石は情報通りではあるが、アンネーラ殿が集めた魔石達の中では中の下といったところだろうか。
しかしアンネーラ殿の集める魔石が異常なだけでこの魔石も十分に希少な魔石だ。
そんなことを思っているうちに、さすがはクリストフ家の誇る使用人達の中でもオークションに精通している者だけはある。
あっという間に落札してしまった。
しかも用意していた金も大分余っている。
今回のオークションでの目的は達成した。こんな場所にこれ以上いる必要もない。
「では戻るとしよう」
競り落とした魔石を受け取り、間違いないか確認したあとオークション会場を後にする。
そこはある貴族の別宅だったがなんという貴族だったかは忘れた。
どうでもいい貴族の名前を覚えるよりも、この魔石で作り上げる我が天使への贈り物の方が重要だ。
「エリオット様、先ほどのオークションで最後まで競ってきた者の手勢が周りを囲んでいるようです。
しばしお待ちを」
どうやら馬鹿が馬鹿なことをしているようだ。
クリストフ家の使用人相手に荒事など仕掛けても無意味極まりないというのに。
しかし私が考えるべきことはそんなことではない。
練り上げてある装飾を再度検討している間に使用人達が戻ってきた。
当然ながら返り血の1つも浴びてはいない。だが相手の方は最早生きてすらいまい。
「お待たせ致しました。ではお屋敷に戻りましょう」
我が工房に戻り、さっそく魔石に魔術を封じていく。
封水晶は第2級。
封じる魔術も第2級ではあるが下手な1級よりも多い魔力量で限界まで封じ続ける。
今回どうしても魔石が必要だったのは使用可能時間を増やすためだ。
魔石の加工も魔力消費量の軽減に特化しているがこれでも推定される使用可能時間は短い。
しかし我が天使に捧げるためならば惜しくはない。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「我が天使よ。こちらをどうぞ」
「ありあとぉ~」
あぁなんと美しい……。
神が造りし最高芸術といっても過言ではないだろう。
そして私が作り出した魔道具を身につけたそのお姿はまさしく――。
銀糸のように輝く髪がかかる白き羽根は2対。
この2対の羽根にはそれぞれ別々の魔術が封じてある。
「とーぅ」
我が天使の神をも震わせる甘い声と共にその身が宙に浮かぶ。
精神感応波により2対4枚の羽根がそれぞれに動き、封じられた無限遊戯の魔術により無重力空間がその身を包んでいる。
さらに彼の魔石を使って作られた風切羽による姿勢制御を受け、細心の注意を払って保たれている安定性。
4枚の羽根を羽ばたかせて宙に浮かぶその姿はまさしく天使。
「なんと……美しい……」
私が精神感応波を封じた魔道具を我が天使に贈る時には定番として使用人達が集まってくる。
今までは鼻血を吹いて倒れるものが続出していたが、今回はまったく違う。
この空間にいる全ての者が今、目を奪われている。
ほとんどの者が我知らずうちに涙を流し、自然と祈りを捧げている。
私もその中の1人だ。
4枚の羽根を羽ばたかせて宙を滑るように踊る姿に今度は祈りのままに鼻血を噴出して何人もの使用人達が倒れていく。
その中にはオークション会場から戻る際に賊を殺戮した使用人達も混ざっている。
あの麗しきお姿を見たのであればそれも致し方ないだろう。
我が天使のお姿はそれほどまでに愛らしく……そして尊いのだから。
舞い踊る我が天使の姿に次々と新しい魔道具の案が浮かんでくる。
あぁ……我が天使。
これからも私はあなたの為だけにどんな魔道具でも作って見せましょう。
差し当たっては魔石をもう1つ入手して同じモノをもう1つ作って空中で華麗に舞い踊る様をもっと見させていただこうではないか!
エリオットはクリストフ家から全然外に出ません。出る必要がありません。
でもリリーのためなら躊躇なくさくっと出かけます。
今回使われた魔石は全て滞空時の姿勢制御機能を安定して稼動させるために使用されています。
普通の人が見たらものすごく贅沢な使い方です。
しかもあまり長い時間は持ちません。
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