169,智の発露
あっという間に特級を含む全ての既存の魔術の軽量化が終わってしまった。
それもこれも全てやる気漲るサニー先生が寝る間も惜しんで軽量化をし続けたせいだろう。
クティも手伝っていたようだけど、別に疲れている様子も眠そうな様子もない。
妖精族は普通の食事も必要なければ睡眠もいらない。
でもクティは普段一緒に寝ているので眠る必要がないだけで眠れないわけではない。
サニー先生は普段から寝ているところなんて見たことないけど。
一応軽量化した既存の魔術は全て目を通しているがさすがはサニー先生。言う事がないくらい完璧だ。
その本人はといえば魔力の流れがいつも以上に艶々していて非常に満足げだ。
本当に彼女は魔術の研究が好きなんだろう。
クティも自分をprprするとこんな感じになるし、サニー先生にとって魔術の研究がきっとソレにあたるのだろう。
既存の魔術が終わったので次はクティ製の魔術の軽量化を行うようだが、今までのようなサニー先生の欲求のままに驀進しまくったような勢いではなく、のんびりとやるらしい。
既存の魔術の軽量化で大分気が済んだのか、今は賢者タイムのご様子。
軽量化のおかげで授業が中止になっていたが、それも今日から再開だ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「――以上が世界のアーカイブの基本概要だ。
現在判明している鍵付きの場所の条件で、クリアできそうなものは後ほど君にもクリアしてもらう。
世界のアーカイブにはなんだかんだで完全なアクセスをしていないからな。そろそろ頃合だろう」
「きっと今のリリーなら知らずにクリアした場所が大量にあると思うよ!」
「うむ。その中にはきっと有用なモノがあるはずだ。君が今進めている新規魔術の構築に役立つモノがな」
【そうだと嬉しいですねぇ~。でもそんなに都合よく手に入るとは思えないですけど】
今構築を進めている魔術はあんまり成果がない。
その事は妖精ズに話しているし、意見も何度も貰っているのだがあまり芳しくないのが現状だ。
そこで打開策のひとつとしてそろそろ世界のアーカイブへのアクセスを実行しようということになったのだ。
そのための復習と更なる知識を今回の授業で教授してもらっている。
「いや、経験上本当に必要としているならば手に入る可能性が高い。
それはクティで証明済みだ」
【そうなの?】
「うん。実はそうなんだよね。
たぶんそういう条件がある場所がいくつかあるんだと思う」
【ふむ……。それなら期待できるかも?】
「うんうん! リリーならきっとやれるよ! 世界のアーカイブなんてぶっ飛ばしちゃえ!」
【あはは。頑張ってぶっ飛ばしちゃうね!】
「いやいやぶっ飛ばすなよ……」
世界のアーカイブの鍵付き場所の条件の中に世界のアーカイブをぶっ飛ばすというのはさすがにないけれど、それくらいの気概で挑めというクティの熱い激励だ。……そうだよね?
「世界のアーカイブへのアクセスは今すぐではなく、もう少し知識を深めてから行うとして……」
【あ、はい。クティ、頼んでたヤツは出来た?】
「もちろんだよ! リアルタイムで展開できるようにするのに精霊力の消費が大幅に上がっちゃったくらいで注文どおりの物が出来たと思うよ!」
「よし、では今の所の進捗を見せてもらおうか」
【はい!】
サニー先生の言葉に頷き、クティに頼んでいた魔術を読み進めていく。
希望通りの魔術に仕上がっているが彼女の言う通りに消費する精霊力が当初の予定よりも遥かに上がっている。
やはりリアルタイム処理が問題か。
【では始めます……。レキ君、動かないでね?】
「わふ(了解だよ!)」
クティパッド上で起動している空中投影機能に接続するようにクティ製の魔術を行使し、接続が確認されたところで現在までに完成している魔術を行使する。
これは既存の魔術の『魔紋探信』を大幅に改良して作られた魔術だ。
既存の魔術の『魔紋探信』は魔力の波を発し、魔力のあるものを観測するための探知魔術。
物理的な障害に接触すると波が消滅してしまい、魔力以外のものでは観測できない。
物理的な障害はちょっと強い風程度でもなりうるために使い勝手が非常に悪く、消費魔力も多い微妙な魔術だ。
『魔紋探信』は一定範囲内の魔力量のあるものなら観測できる。
観測といってもある程度一定の魔力のあるものが存在するといった程度のものでしかないけれど観測は観測だ。
また、物理的な障害で消滅するという現象を利用すると逆にそこには物理的に障害となりうるモノが存在するという証拠になる。
ただ問題は物理的障害で消滅することは観測対象ではないためわからないということだ。
しかしこれは1度の『魔紋探信』での結果にしか過ぎない。
ここからが重要で『魔紋探信』の消滅を観測できる間隔で『魔紋探信』を行使できれば消滅した魔力の波を観測できるのではないだろうか。
それはつまりそこに物理的障害があるということを観測できるということだ。
というのが概要。
改良された『魔紋探信』は通常では全周囲に対して魔力の波を発するのを実験も兼ねているために範囲を狭めて行っている。
『魔紋探信』の魔力の波の消滅は非常に短い時間しか観測できない為、観測するには次の『魔紋探信』を可能な限り素早く行使しなければいけない。
それこそ普通の人間には不可能な領域で、だ。
しかしそのための専用の魔術を作り出すことには成功している。この辺も消費魔力を莫大にした結果力技でなんとかなっている。
結果として『魔紋探信』の魔力の波の消滅を観測することまでは成功していた。
しかし問題はやはりちょっと強い程度の風でも消滅してしまい、それも観測してしまう点だ。
この辺の問題を解決するためにクティに頼んで解析結果をリアルタイムでクティパッドの空中投影機能で映像処理できる魔術を作ってもらった。
観測結果を脳内で処理することも可能だが、クティに作ってもらった魔術で処理した方が負担は少ない。
ただでさえ『魔紋探信』の超高速行使でかなり負担がかかるのに付随する観測結果まで処理していては問題が多すぎたためだ。
将来的にも半自動化したいためこの辺は前々から考えていたのもあってすぐにクティにお願いした。
ちなみに『魔紋探信』の超高速行使だけでもクティですらすぐに根を上げるほどの消費魔力を誇っている。
魔力の波が届く範囲を狭める事で消費魔力は減るが、自分を中心とした半径3メートル程度でこれだ。
有視界範囲を全て網羅するには一体どれほどの魔力が必要となるか……。とはいっても自分には問題なかったのだけれど。
消費魔力の話は自分が使うことを前提とすれば大した問題ではない。
問題となるのは魔術の超高速行使による情報の処理による負担。
『魔紋探信』で観測結果を得られてもそれらの膨大な情報をリアルタイムで処理できなければ、例えば移動するボールという変化し続ける情報だった場合、遅延してしまい実際のボールの位置をリアルタイムで追えないという、あまり使えない情報となってしまう。
【では始めます】
超高速で行使される『魔紋探信』が観測した情報がクティパッドの空中投影機能で映し出される。
「おぉー……?」
「ふむ……。荒いな」
【まぁこんなもんですよね……】
映し出された映像は観測範囲にいるレキ君をちゃんと映し出していたが問題はその荒さだ。
それがレキ君だとわかっていればなんとかといったところだが、そうでなければとてもじゃないがレキ君だとはわからない。
『魔紋探信』で発せられる魔力の波が薄い円状に広がるのが原因だろうか。
横の情報は拾いやすくても縦の情報が非常に拾いづらい。
この辺は不足する情報を埋めるように『魔紋探信』に角度を狭めて行使すればいいだろうか。
「まぁしかしそれでも『魔紋探信』で魔力をもたないモノの情報を得られているというのはかなりすごいとは思うがな」
「そうだよ! リリーはすごいよ! すぐにもっと綺麗に映し出せるようになるよ!
私も頑張るよ! リリーのためなら何のそのだよ!」
【ありがとう、クティ。
まだまだ諦める気はないから力を貸してね】
「もっちろんだよ! 私の全身全霊をもって全てを貸してあげるよ!
……全て……リリーに私の全てを……ぶはっ!」
【あはは。頼りにしてるよ、クティ】
動かないレキ君でもこの程度の荒すぎる映像しか映し出すことができない現状だが、クティやサニー先生に力を借りてなんとしてでも作り上げるつもりだ。
今まであまり気にはしないようにしていたが、サニー先生の環境設定を見て心の奥に蓋をして仕舞いこんでいたモノが溢れてしまった。
生前のような視力を取り戻したい、という願いが。
漲るやる気が知らずうちに魔力の発露となり、キラキラと美しく舞い上がっていく。
レキ君ルームを覆いつくすかのような発露に自分のやる気のほどを自覚させられ、さらにやる気が沸いて来るのだった。
やはり物理的な映像を観測しリアルタイムでそれを映像として映し出すのは非常に困難なようです。
ですがそれでも魔力しか探知できないはずの魔術で物理的な物を観測できているという結果は驚愕に値します。
まだまだ問題は山積みですが、リリーのやる気は天井知らずなのです。
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