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濁った瞳のリリアンヌ  作者: 天界
第一部 第9章 4年目 中編 3歳
189/250

167,智の革命




「リリー、魔術を作ったというのは本当かね?」



 いつものレキ君ルームでクティとレキ君が一進一退の攻防を繰り広げている中、天井付近で環境設定を行っていたサニー先生がすいすいーと近づいてきた。



【あ、はい。作りました! 私の初めての魔術ですよ!】


「ほう、それは楽しみだ。見せてくれ」


【任せてください!】



 自分が完全に1から作った魔術というのはこの魔術が初めてで、完成したのは今朝のことだ。

 サニー先生は今朝は何か用事があったらしく残念ながら立ち会えなかったけれど、クティには見せた。

 その時のクティは自分のことのように喜んでおおはしゃぎしてくれたのは記憶に新しい。



【では行きますよ~】



 サニー先生が見守る中で今朝に引き続き新規魔術を一瞬でイメージ詠唱し、行使する。

 展開した術式が設定された詠唱の通りに事象を発現させる。


 魔力の消費、設定、実際の効果。その全てが完璧に機能している。1つとして無駄のない完璧なほどに完璧な成功だ。



「ふ、む……? 終わり……か?」


【はい!】



 誇らしげに胸――3歳児なので当然膨らんでいない――を張ってサニー先生に元気に魔力文字を見せる。

 術式はこれでもかというほどに完璧であり、設定も実際の効果も寸分違わず狙い通りだ。

 きっとサニー先生も褒めてくれるだろう。



「リリー……。あれは灯りの魔術……だよな?」


【はい!】


「新規構築した……魔術だよな……?」


【はい!】



 なんだろう……サニー先生がちょっと困惑してる。

 でも術式通りに完璧に魔術は行使されたし、困惑する場所なんてないと思うんだけど……。


【あ、そうか。先生、まずこっちを見てもらうべきでした!】


「ふむ?」



 サニー先生の困惑している理由にやっと合点がいったのでクティパッドの汎用共有スペースに術式を開く。

 開く術式は2つだ。



【こっちが既存の魔術の10級にある灯りの魔術です。

 そしてこっちが今さっき行使した私の魔術です。

 どちらも効果としては同じものです。設定も同一ですので】


「……リリー、これは本当なのか……?」


【えぇ、クティにも見せた後何度も確認してもらいましたけどこれで間違いありません】


「信じられん……まさかこれ以上ないほどに基礎と思っていた10級の魔術を短縮したというのか」


【はい!】



 既存の魔術とは基礎と応用。

 基礎というのは始まりにして究極。

 それを自分が覆して見せたのだ。

 サニー先生の驚きは計り知れない物があるだろう。自身の常識を覆されたようなものだからだ。

 4桁の時を魔術の研究に費やしてきた先生ですら既存の魔術を短縮させることは出来なかった。


 だがそれは仕方ない事かもしれない。

 サニー先生は変異型2種ではないので魔術の新規構築は出来ないのだから。


 クティに自身の魔術理論を通して新規魔術を作らせることはできる。

 だがクティは魔術を感覚で作ってしまう。

 感覚派の天才のクティだからこそこういった部分には弱い。

 クティの魔術は大胆で緻密ではあるが、それは色々と大雑把であったり余白が生み出す美しさが見せるものだったりする。

 余白があるために効率でいえば無駄が多い。逆に言えば改良の余地があるということだろうか。



「しかしこれは……。消費魔力量だけみても10分の1以下ではないか……?」


【はい、無駄な術式を徹底的に省いたので経路がシンプルになってこの結果になりました。

 ただ中級クラスの魔術になると余白が生み出す応用性の問題で短縮できる箇所が少なくなります。

 それでも大分短縮は可能だと思いますけど】



 10級程度の効果が限定されている魔術ならかなりの短縮が可能だが、どうやら中級以上になると短縮しすぎると設定に対する応用性が失われて破綻することがわかっている。

 クティが余白部分を多くとっているのもこのためだと思われるがそれでもやはり短縮出来る部分は多い。



【それと今の所仮説なのですが、初級の魔術は中級の魔術を分解したモノではないかと思うんです。

 つまり初級があって中級があるのではなく、中級があって初級があるんです】


「ふむ……」



 自分が短縮してみせた初級の魔術の余白部分を厳しい表情でみつめるサニー先生。

 今恐らく彼女の思考は凄まじい速度で回転しているんだろう。

 4桁という長い年数を魔術の研究に費やしてきた彼女の常識が今書き換えられている。



「……ありえるな。

 いや……もうそうとしか見えん……。これは色々と考えを改めなければいけないな……」


「でしょー? まぁ私のリリーなんだから当然だけどね!」


「わふぃ~(負けたぁ~)」



 一戦を終えてクティとレキ君が戻ってきたが明暗ははっきりと別れていた。

 今回はクティの勝利に終わったようだが、通算成績はまだレキ君が勝ち越していたりする。



「……よし、リリーよ。君のことだ、他にも短縮できた魔術が多数あるのだろう?

 さっそく検証しようではないか!」


【ふふ……ばれては仕方ありませんね!

 実は10級の魔術のほとんどが短縮し終わっていますよ!】


「くっくっく……。やるじゃないか!

 それでこそ私の弟子だ!」


【はい、先生!】


「わわわわ、私もなんか手伝うよ!? 手伝わせてよ!?」


「わふぅー(ボクはサイコロ振る~)」



 自分とサニー先生が盛り上がっている所に慌てたクティが割り込んでくるがレキ君は難しくて興味が沸かないようだ。


 怪しいやる気漲る2人と乗り遅れんと慌てる天才、我関せずとサイコロを振っているいぬっころがいるレキ君ルームで魔術史に残るであろう革命はこの日この時から始まるのであった。







◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆









【こうじゃないですか?】


「いや……そうなるとこちらの設定が通らないだろう」


【あぁそっか……。じゃあこっちをこうしてこうですね】


「む……まてまてまてまて! いや……だが……むむむ」


「そんじゃこうじゃね?」


「まてまてまてまてまて!?」


【そうなったらこうした方が】


「あぁそっかー。確かにそっちの方が」


「まてーい!」



 肩で荒い息をして待ったをかけるサニー先生にきょとんとした顔のクティと魔力文字でハテナマークを頭の上に出した自分が視線を向ける。

 彼女にしては珍しい取り乱しようだ。



「おまえ達はどうしてそんなに段階をすっ飛ばして話を進めようとするんだ!」


「えー? でもリリーも私もこれで話通るしー」


【サニー先生も理解できてますよね? だから大丈夫じゃないですか?】


「そりゃわからんでもないが……もうちょっとだな……」



 普段とはまったく逆になっている状況がちょっと面白い。

 普段はサニー先生の理解できているだろう? というマイペース進行で進んでいく授業が今は逆に自分とクティが理解できているんだからサニー先生も大丈夫という感じで進んでいる。



「じゃあ大丈夫。サニーなら出来るよ! 頑張れば出来るよ、サニー!」


【頑張ってください、先生!

 やれば出来るっていつもレキ君に言ってるじゃないですか! ね? レキ君!】


「わふーん(サニーなら出来るよ! ボクはサイコロ振るよ!)」



 強化されたイカサマシステムによりパズルも追加されたチンチロリンをひたすらにソロプレイしているレキ君も応援してくれている。

 ほんと好きだなぁそれ。



「あーもー! わかったわかった!

 ……でもやっぱりちょっとだけ待ってくれ」


「しょうがないサニーだなぁー」


【ふふ……。先生、こっちの術式に繋がる経路をこっちにバイパスするとこの術式自体が必要なくなるんですよ】


「……ふむ。なるほどそういうことか」



 クティはほぼ感覚だけで理解してしまったことを軽く説明するとサニー先生はそれだけで理解できたのかすぐに追いついてきた。

 さすがサニー先生だ。


 クティも本物の天才だけど、サニー先生もやはりすごい。



 レキ君がクティパッドのウィンドウ上の6面体キューブをガシャガシャしている音をBGMに更に魔術の探求は進んでいくのだった。



リリーの初めての新規魔術は既存の魔術の短縮でした。

既存の魔術は基礎にして応用。

基礎というものは単純なだけに手を加えて省略するのがすこぶる難しいものです。

ですがそれをやってしまったのがリリー。

大雑把な感覚派のクティという存在との付き合いが長いサニーではこういった非常に繊細で細かい部分は無意識のうちに意識外になってしまっていたようです。


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