166,智の平穏
クリストフ家。
オーベント王国の中枢に食い込んでいる大貴族だ。
だが別に政治に口を出したり享楽に耽ったりするような事もない。
所謂腐った貴族という存在はオーベントに置いては今現在は少数派。
クリストフ家も当然ながらその少数派には属さず、実力派と呼ばれる自身の力を持って貴族と呼ばれる部類に分けられる。
父であり現当主のアレクサンドルは迷宮での魔物掃討が主任務となる騎士団の花形――第2騎士団の副隊長を務め、リズヴァルト大陸4カ国合同で開催される魔闘演にても団体戦と演舞で優秀な成績を修めている。
母――クレアティルも第2級魔術師として宮廷魔術師をしており、アレク同様に魔闘演では個人戦で優勝、団体戦、演舞でも優秀な成績を修めている。
オーベントにおいてもトップクラスの実力を持つこの2人を実力派といわずしてなんというのか。
その上、クリストフ家にはお抱えの魔道具職人が多数おり、その中でも現在のリズヴァルト大陸でも最多の第1級魔術を習得しているエリオットを有している。
クリストフ家製の魔道具はすでにトップブランドの一角であり、エリオットの存在もありクリストフ家にしか作れない魔道具というのは数多く存在している。
リズヴァルト大陸で魔道具無しで生活するのは困難を極める。
灯りから火熾し用の種火に至るまで全て魔道具に頼っているのだ。
生活水準が高くなればなるほどその傾向は強くなり、人々と魔道具は切っても切り離せない関係にある。
魔物が存在するこの世界において武器にしても防具にしても高価なものは一部を魔道具化している場合が多い。
もっとも高価な武具は魔道具を超越した物――魔武具と呼ばれる物となり、その性能は通常の武具など意味をなさないほどに凶悪な性能を有するものとなる。
|閑話休題《まぁその辺はおいておいて》。
クリストフ家がオーベント、いやリズヴァルト大陸でも有数の貴族であることは周知の事実であり、その屋敷のある敷地はオーベント王国首都オーベントにある。
しかしオーベントは何重もの壁で生活区域を制限してある街だ。
中心を王族。その周りを貴族。その周りを平民、といった感じに円状に展開している街だが完全に円状になっているわけでは当然ない。
そして歪に広がっている部分はなんと全てクリストフ家の敷地なのである。
壁は当然外敵からの防衛のためではあるがクリストフ家はその辺を全て無視して敷地が広がっている。
なぜこのような暴挙とも言うべき事が罷り通っているか。
それはクリストフ家に張られている強固な防御魔術のためだ。
外周を囲む壁よりもずっと強固な防御魔術が常時張られているのであれば壁など必要ないのはいうまでもない。
そんな一般的な貴族の敷地面積の数十倍にも及ぶ土地を有するクリストフ家の主屋敷には自分が住んでいる。
まぁ当然そんな家の屋敷なので広い広い。とにかく広い。超広い。
レキ君ルームも尋常じゃないくらい広いが他の施設もかなり広い。
広いだけではなく、数も多く、一体こんなにいっぱいの部屋を何に使うんだというレベルの屋敷だ。
しかもその全てが毎日いつでも使えるように清掃が行き届いている。
まったくもって恐るべき屋敷である。
「わふぅ~……(やっぱり見てるだけじゃつまんない)」
【それは同感ですねぇ~。でも私は実際には見れないですしねぇ~】
「わぶー(ボクはみえるもん)」
【そうですねぇ~。もう少し私が大きくなったら色んな所にいけるようになるでしょうから、それまでもうちょっと我慢しましょうね】
「ぶー(ぶー)」
不満そうにしているレキ君だけど聞き分けてくれたのかまたウィンドウに眼を向けて屋敷の探索を続け始めた。
レキ君は自分と違ってちゃんと目が見えるし、好奇心旺盛だから屋敷をちゃんと自分の目で見て探検したいという気持ちが強い。
まぁ自分も目が見えるなら実際に探検したいとは思う。それくらいこの屋敷は異様だ。
普通に探検したら一体何日かかるかなんてわからないほど巨大なのだから仕方ない。
レキ君には不自由をかけてしまうが賢く優しいレキ君はわかってくれる。
【ごめんねぇ~、レキ君】
「わふ(リリーは悪くないよ)」
【ありがとう、レキ君】
やっぱり優しいレキ君はクティパッドから顔を上げてこちらをまっすぐに見つめながら言ってくれる。
レキ君の吸い込まれるような澄んだ瞳には心情を映した様な澄み切った魔力の流れが見える。
「はいはい、そこまでそこまでー!
リリーと見詰め合っていいのは私だけ! 私だけー!」
「わぶー(クティのくせにー)」
【ふふ……。大丈夫だよ、クティ。レキ君は取ったりしないから】
「ぶーぶー(そうだそうだ! ボクはクティなんかよりずっとリリーのことが好きなんだからー)」
「にゃにおーこのいぬっころがー!」
【ふふ……。モテモテだぁ】
レキ君の " 好き " はクティの " 好き " とは違う感情だろうけど、嬉しい事には代わりない。
レキ君とクティの非常に激しいスキンシップが幕を上げたがそれを微笑ましく見守る自分の顔には普段は見せない笑顔が絶える事はなかった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「っしゃおらー!」
「わがー(ば、ばかなー!)」
今日もレキ君ルームにはクティとレキ君の絶叫が響き渡っている。
だが今日はいつもと違ってちょっと白熱しすぎているのかその絶叫具合も群を抜いている。
原因は簡単なミニゲームをいくつかティト言語で作ったせいなんだけど……。
正直ここまではまるとは思わなかった。
「唸れ我が必殺の……天元突破滝登りー!」
「わぉおおおぉぉんッ!」
クティが空中に飛び上がり激しくスピンしながら床に置いてあるクティパッドに映し出されている " サイコロを振る " のボタンに向かって急降下していく。
それに合わせて雄叫びを上げるのはレキ君。幻術空間が揺らいでしまうくらいの咆哮は最初は焦ったけれど、今はすでに対策済みだ。
クティパッド上で振られたサイコロは " チンチロリン " というゲーム名と同じ効果音を鳴らして茶碗の中を転がる。茶碗がちょっとだけ欠けているのがポイントだ。
しかし通常のチンチロリンとはここからが違う。
レキ君が自分のクティパッドの " イカサマ " ボタンを押すと幸運な事にレキ君が得意とするミニゲームにヒットしたようだ。
ミニゲームの内容はウィンドウ上にランダムで表示されるイカサマボタンをミスなく連打すること。イカサマボタンは徐々に小さくなり、表示される時間が短くなっていくのでなかなか難しいがレキ君にとっては造作もない。
ミニゲームによってはとてもクリアできない内容になっているだけに今回のレキ君は勝ったも同然だろう。
結果として正確無比な連打具合でイカサマを見事成功させたのだった。
「ああああぁぁぁぁ……! このいぬっころおぉぉぉぉ!」
「わっふーん!(勝ったどー!)」
レキ君のイカサマが炸裂し、クティの負けが確定した。
レキ君の画面には勝者を祝福する紙ふぶきとエフェクトが煌びやかに表示され、クティの画面には逆に暗く絶望を纏ったエフェクトが表示される。
ちょっと凝ったエフェクトにしたので少し時間がかかった部分だ。
「うぅぅぅぅ……。チクショウ!」
「わふふん!(さぁどうするの、クティ?)」
「く、くっそー! ま、まだ……まだだ! まだ私は戦える!」
「わふん?(次は何を賭けるのさ? もう今日のポイントは全部ボクが貰っちゃったんだから!)」
「ぐぬぬ……!」
このチンチロリン、まぁちょっと普通じゃない部分もあるけれど基本的には賭け事だ。
賭けられるのは専用ポイント。
これは一定数支払うとゲームの優先権が取得できる。
作ったゲームの数が増えていくにつれて、どれをプレイするかでもめ始めたために導入したシステムだ。
基本的に作ったゲームは対戦ゲームばかりなので1人プレイはできない。
クティもレキ君もやりたいゲームが全然違う。
でも1度対戦を始めると負けず嫌いな2人は真剣にプレイするのでやりたいゲームじゃなくても特に問題はない。
でもやっぱりやりたいゲームの方が勝率もいいので今の状態になっているのだ。
「わっふーん~(じゃあ今日はテニスだね!)」
「ぐぅぅぅ……。私の苦手な奴ばっかり選びやがってー! 相撲にしろよおぉぉぉぉ!」
「わふっふふーん~(悔しかったらポイント払ってみればぁ~?)」
「ぬぐぐぐ……!」
クティが歯軋りしそうなくらい悔しそうに地団太を踏んでいるけれど、すぐにゲームで勝ってレキ君を悔しがらせてやるべく対戦を開始する。
「わっふ~(どろっぷしょっと~)」
「ああっぁあぁぁ……おいつけなぃぃぃー!」
しかしどうにもテニスゲームが苦手なクティにはレキ君の強烈な揺さぶりからのネット際へのドロップショットに対応できず絶望的な声をあげている。
「平和だなぁ……」
【そうですねぇ~……。でも先生……もう待ったはなしですよ?】
「そ、そこをなんとか……!」
「そんなスマッシュ取れるかあああぁぁあぁぁッ!」
3度目の王手に現実逃避をしていたサニー先生の声がクティの絶望の絶叫に掻き消され、今日も平和なレキ君ルームでは楽しい娯楽タイムが過ぎていくのだった。
リリーの周りは今日も平和です。
ゲームの種類もかなり増えてきてそれぞれの得意とするゲームも分かれてきました。
テニスはレキ君の独壇場ですが、相撲になると途端にレキ君は最下位です。
尚、イカサマで出てくるミニゲームは超高速テトリスやもぐら叩きなどもあったりします。
変り種としては虫食い計算問題とか間違い探しですね。
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