164,智の環境
『魔術補助機能完全再現版』を搭載しているクティパッドには魔術を使って機能を拡張する機能がいくつか実装された。
それの最たる物がこれだろう。
「こちらの準備は万端だ。始めてもいいか?」
【はい!】
「わふッ(はい!)」
「おっけー」
自分達から多少距離を取って設置されたクティパッドにはディスプレイ内を投影する新機能が起動中だ。
今はまだスクリーンに投影された映像には特に変わったところはない。
突然だが、幻影を映し出す魔術には映し出す幻影のためのスクリーンのようなものが必要となる。
もちろん直接対象に指定して幻影を見せる場合はスクリーンはいらないがそうなると複数対象への影響は一定範囲内限定となったり、対象の抵抗力により簡単にレジストされたりする。
この幻影のスクリーンというものは何も幻影だけを映し出せるわけではない。
そもそも幻影というものは様々な、それこそ術者のイメージのままに映し出すことが可能だ。
ここで問題となるのは既存の魔術にはスクリーン単体での魔術が存在しないことだ。
だがスクリーン自体は作れない物ではない。
遠方の動画を映す事ができる " 銀の眼 " のスクリーンは魔片を使って作られていたりする。
当然ながら様々な希少な素材を用いているため、自分達では物理的には再現できない。
なので特注しちゃいました。
まぁクティにとってこの程度の魔術を作成することは造作もないことだったので何の問題もないのだけれど。
「では始める」
「わふッ!」
【おぉ~】
「ほえー」
クティパッドへの書き込みも忘れて感嘆の声をあげるレキ君。
それもそのはずスクリーンに映し出されたものはただの映像ではなかったからだ。
極小の点――ドット――で描かれた立体映像は遠目に見えるものは若干荒いが、近くの映像は細部まで細かく映し出している。
残念ながら色は白と黒しかないが濃淡で様々な部分を表現されており、モノクロの映画を見ているような鮮明さを持っているほどだ。
しかもこの映像は魔術シミュレート機能を拡張して作られた動作再現機能を有しており、スクリーンには今も尚たくさんの使用人達が仕事に励んでいるのが見ることができる。
「では行こうか」
サニー先生の声と同時に映像が動き出す。
それは使用人達の腰よりも下から見た映像で、そのままゆっくりと進んでいく。
【先生、もしかして私の目線の高さですか?】
「その通りだ。もちろん高さの変更は可能だぞ。ほれ」
【おぉ~】
「わふッ(すごい!)」
使用人達の腰より下の目線だった映像はぐんぐん高くなりレキ君が4本足で立った時くらいの高さになると停止し、そのまま進んでいく。
スクリーンには上に2つと下に1つの3分割で映像が映されていて、左上に屋敷の全体映像を3D立体フレームで構成された画像に簡易的な人の形をしたアイコンのようなものが点滅していて少しずつ進んでいる。
右上の画面にはシミュレートしている映像のデータがどんどん流れている。
下の画像が目線が動いた主映像だ。
使用人に近づくとその使用人はこちらを振り返り部屋の端から一礼する。
作りこまれている映像は使用人の動作1つとってもまるで本物のようだ。もちろん使用人の細部に至るまで細かく鮮明に映像が作り出されている。
【すごい……。ここまで細かく作るなんて……。てっきり簡単なフレームだけの環境設定かと思ってたのに】
「作っているうちにだんだん凝りだしてしまってな。気づいたらこうなっていた」
【き、気づいたらって……。
でもすごくいいですよ! まるで本当に屋敷を散策しているような気分です!】
「わふわふ!(サニーすごいすごい!)」
「そう言ってもらえると嬉しいな。作った甲斐がある。
さぁまだまだあるぞ!」
ゆっくりと屋敷を進んで行き、今まで見ることが出来なかった廊下の様子や部屋の調度品まで細部までじっくり観察することができた。
中でもすごかったのは以前ラクリアに案内されて説明された美術品が保管されている部屋だ。
そこには様々な宝石に彩られた美しい品が大量に展示されていた。
たくさんの美しい品の中央に鎮座しているのはぬいぐるみ。
宝石で飾られているわけでもないのにそのぬいぐるみの毛並みは尋常ではなく美しい。
まるでレキ君の毛並みを彷彿とさせるような美しさと荘厳さを兼ね備えているのだ。
【すごいですね、コレ。
他の装飾品達がかすんで見えちゃうくらいですよ】
「あぁ、それはどこかの迷宮の深部で発見されたものらしいぞ」
【迷宮……ですか? ぬいぐるみが?】
「ぬいぐるみではあるが、これは魔道人形と呼ばれるタイプだ。
様々な魔道具が内部に仕込んであってな。自立戦闘も可能なほどに高性能なものだ」
【すごい……】
生前でも二足歩行やダンスをするロボットは存在していたが、自立戦闘が可能なものは数が少なかったはずだ。
しかもこれほど小型なものとなると記憶にない。
だが様々な魔道具が仕込んであるとはいっても魔片の大きさ――魔力容量――などの関係でそれほど長くは稼動できないだろう。
しかしそれを置いておいてもすごい。
例え魔片の魔力が尽きてもぬいぐるみとしても1級品だ。ちょっと欲しい。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
左上の全体映像には通ってきたルートに線が引かれており、進行予定ルートには点線が引いてある。
環境設定を利用しているのでルートは一応決まっているみたいだ。
使用人の動きなども全て予定調和なのだろう。
それでも見ていて飽きないほどにその動きは自然で見ごたえがある。
現在のルートはゆっくりと大きなホールのようなところに向かって進んでいるところだ。
そこまでの間にもたくさんの部屋があり、全部とはいかないが結構寄り道をしている。
その寄り道の1つが先ほどのぬいぐるみのあった部屋だったり、応接室だったり。
【ふわぁ~……。すごいなぁ……。クリストフ家はお金持ちだとは思ってましたけど、調度品1つとってもすごい高そう……。
でもそれでいて品を感じさせる配置……。周りとの調和が取れているのがすごい】
「うんうん。ここ以外の貴族っぽいヤツラの屋敷はもっとごてごてしてるよ!
なんかこう……あざとい?」
【あざといんだ……】
自分の屋敷の中ですらこうやって環境設定してもらわなければ見れないのに、他人の屋敷を見る機会は恐らくないだろう。
ちょっとそのあざといという屋敷を見てみたかったりしたが仕方ない。
映像はゆっくりと進み、目的地の大きなホールに到達する。
ホールはものすごく広く、天井もかなりの高さがある。
そして中央付近には丸テーブルと椅子が置いてあり、そこではお婆様とエナがお茶を飲んでいる。
その自然な動作は先ほどの使用人達よりもずっと人間味が溢れているように思える。
お婆様とエナの視線の先には大きな狼と小さな子供。空中に浮かんでいるのは妖精が2人だ。
そう、このホールはレキ君ルームなのだ。
レキ君ルームをぐるっと見て回る。
内装はレキ君というペットのための部屋なので非常にシンプルだ。
だが灯りのための魔道具などはやはりクリストフ家。精緻な装飾を施された美しい物が壁に埋め込まれている。
天井はステンドグラスなのか狼と子供が無邪気に遊んでいる物が嵌め込まれている。
【レキ君ルームはこんな風になっているんですねぇ……】
「ここはシンプルではあるがいつも居る場所だからな。じっくり見れるように作ってある」
サニー先生の言葉どおりにレキ君ルームの映像は他の部屋の移動に比べてゆっくりだし、様々な角度、目線で見れるようになっている。
特に天井から俯瞰できる映像は見ごたえばっちりだった。
映像の中ではレキ君が動き回り、自分がボールを投げてとってこーいをしている。
3歳児らしい未熟な動きがなんとも恥ずかしい。
ボールを投げるフォームも全然なっていないし、1回1回ボールを投げるたびにバランスを崩しているのだ。
そんな羞恥映像をクティは蕩けそうな笑顔で見ているし、サニー先生は環境設定に満足げだし、レキ君はすっかり夢中だ。
うぅ……なぜこんな恥ずかしい気分になるのやら……。
ただボールを投げている映像なだけなのに……。
レキ君ルームでの羞恥映像はしばらく続き、やっと解放されたときにはぐったりと疲れてしまい、その続きの映像はまた後日という事に相成った。
サニー先生、監修脚本のお屋敷環境設定が遂に完成です。
リリーが思っていた以上に凄まじいクオリティでお送りしております。
そして自分の恥ずかしい映像は憤死ものだったらしく大ダメージでした。
気に入っていただけたら評価をして頂けると嬉しいです。
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