162,智の工作
「燃えろ大宇宙! 吹き上がれ熱波!
はぁああああああ! 3でてくださああああいッ!」
クティパッドを全力で空中に放り投げたクティはくるくる回転して落ちてくる目標物体の画面に表示されている『サイコロを振る』ボタンを的確に突く。
まるでロザンを昇竜してしまうかのような一撃により画面上では6面体が転がる簡易的なグラフィックが流れる。
止まった6面体――6面サイコロの出目は4。
惜しくも目標とは違って出た出目に膝から崩れ落ちるクティだが画面上では無慈悲にクティの駒が4つ進んでレキ君と書かれたマスに止まった。
【レキ君のマスだね。クティ、早く捲って】
「うぅぅぅ……。あと1つ少なければ……! あと1つ……」
「わふわふ(クティ、早く~)」
「くっそー! おりゃー!」
崩れ落ちてブツブツ呟いていたクティだったが、自分とレキ君に促されて漸く動きを見せる。
のろのろとした動きでマス目をタッチするとそのマスは拡大表示されて内容が表示される。
【『ライトニングボール3発』?
レキ君これはどういうのなの?】
「わふうわふん!(リリーが打ち出すボールを3回キャッチだよ!)」
「まさか2級の雷の魔術――剛体雷神で纏われたボールを3回?」
「わふん!(そうだよ!)」
項垂れていたクティが顔をガバッとあげて引きつった顔でそう問うてもレキ君は当然とばかりに返答している。
剛体雷神は対象に雷を纏わせる補助魔術だ。
2級の中でもすでに失われた魔術だが、この剛体雷神を纏った物体は速度が異常に早くなる。
普段のとってこーいでは満足できなくなったレキ君に遊びで威力を極端に落とした剛体雷神を試した所何の問題もなくキャッチしてしまったのが事の始まり。
自分の3歳児の平均以下の腕力ではへろへろどころかほとんど飛ばないボールとは違って剛体雷神により加速されたボールでのとってこーいはレキ君が白熱するほどの熱中度を見せたのだ。
もちろんエーテル結晶体で通常では考えられない強度の肉体を得ているからこそ出来ることであって、普通は威力を落とした剛体雷神を纏ったボールを直接咥えるなんてことしたら一瞬で体が麻痺する。
威力を落とさなければそのまま内蔵を焼いて即死するし、威力を設定できる最大値にすれば消し炭だって簡単に作れてしまう。
そんな剛体雷神を纏ったボールによるとってこーいを3回である。
クティの顔が引きつってしまうのも仕方ないことだろう。
クティは世界最高峰の魔術師ではあってもレキ君のような異常といって差し支えない強度の肉体など持っていないのだから。
まぁ魔術を多少展開すれば特に問題ないだろうけれど。
「わふ(できないの?)」
「このいぬっころがー! やったろーじゃないかー!」
レキ君が小首を傾げてウィンドウに文字を出力して煽れば、クティの背後で火山が爆発した。
その火山の爆発によって新たな島が誕生して見る見るうちに巨大化していく。
最後にはジャングルの如く緑に溢れる島が誕生していたが、隆起した島の真ん中の山の頂上にはクティの銅像が輝きを放ちながら聳え立っているのが1番印象に残る事だろう。
【じゃあいくよ~?】
「リリー、念のため威力は最低値でな?」
【もちろんです】
「わふ(そんな威力で大丈夫か?)」
「1番いいやつを頼む」
【だそうですけど……】
「はぁ……。どうなっても知らんぞ?」
レキ君の再度の挑発に応じたクティから最大威力を求められたが、クティなら問題にもならないだろう。
でも一応サニー先生に許可を取るのも忘れない。
万が一ということもあるので即座に発動できるように特級の防御魔術をいくつも用意しておくのも忘れない。
【じゃあいきまーす】
「ばっちこーい!」
「わふわふ!(へいへいばったーびびってるー!)」
最近のレキ君の語彙がどうにもクティに大きく影響を受けていてなかなかに面白い。
そんなレキ君のウィンドウに苦笑しつつも、剛体雷神をボールに最大威力で纏わせる。
バチバチ、と激しく放電しているボールはすでに触る事も難しいものになっているためそのまま風の魔術を使ってクティに打ち出してあげる。いつもレキ君とやっているとってこーいと同じだ。
風の魔術に関しては軽い4級程度の魔術でしかない。
だが剛体雷神により強化された速度はまさに神速。雷のような先行放電を発し、瞬きの間にクティへと直撃する。
「っしゃいえー!」
「わむぅぅぅ(やるなぁー)」
通常なら剛体雷神の最大威力などというものは触れたものを悉く消し炭にするほどの威力を出してしまうのだが、クティが展開した防御壁により完全に威力を殺されてまったく無傷のボールだけがクティの両手によって抱えられていた。
ちなみにボールはいたって普通の素材――それでもクリストフ家で使われる玩具のため最高品質の素材ではあるが――で作られた物のため何の工夫もなく剛体雷神など纏わせたら即時消滅する程度のものだ。
もちろんとってこーいの度に消滅しては遊びにならないのでしっかりとボールには隔離結界の魔術を施している。
しかしクティは剛体雷神と隔離結界のどちらも無理やり打ち破ってボールをキャッチしている。さすがクティだ。
隔離結界の魔術は特級で、空間と時間を遮断する結界を張れるのだがそれを打ち破るのは容易ではない。
それを遊びでやってしまうクティは紛れもなく最高の魔術師だろう。
アレが自分の目指す存在であることに頂の遠さを実感しながらも2発目、3発目を発射しその全てに対してクティは何の問題もなくキャッチしてみせた。
レキ君の悔しそうな顔がちょっと面白かった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「さて次は私だな。
……出目は3か。リリーのマスだな」
【そうですね。えっと何書いたっけな】
もうお分かりだろうが、このスゴロクはティト言語で作ったゲームだ。
それぞれのマス目に参加者が書いた内容をランダムで貼り付ける形式の自作スゴロクである。
参加者の性格が如実に現れる――1歩間違えれば大変なことになってしまうゲーム――ではあるが普通のスゴロクよりも緊張感があり、楽しめる内容となっているのは言うまでもないだろう。
レキ君の書いた内容はちょっと危険だったけど。
「ふむ? 『クティぷるぷる』?
リリー、コレは一体……」
【あぁ、それはクティをぷるぷるするんです】
「いや……ぷるぷるというのは……?」
【ぷるぷるはぷるぷるですよ。ね、クティ】
「ぷるぷるぷるぷるぷるぷるrrrrr」
自分の文字を確認する前からすでに突撃を開始していたクティが先ほどの剛体雷神を纏ったボールよりも神速で張り付き頬と頬をすりすりし始める。
もちろんその神速の動きで自分に怪我を負わせないように接触の前に完全に衝撃を消し去るという離れ業を忘れないのもクティのすごいところだろう。
自分とクティの瑞々しい肌と肌が擦り合わされてぷるぷると震える様はまさにぷるぷる。それ以外の何者でもないぷるぷるだ。
「こ、これを私にやれ……だと……ば、ばかな……」
「わふ(サニー、ルールだよ)」
「わ、わかっている……わかっているが……し、しかしだな……」
「ぷるぷるぷるるっるる」
「わふ(サニー)」
「ぷるぷるぷるるっるる」
「うぅぅう……」
「わふ(諦めて)」
レキ君の遠くを見るような優しい目と絶妙な力加減でサニー先生の肩に置かれた手を見て、がっくりと項垂れた彼女は諦めたようだ。
「あんねー、私だってリリー以外とぷるぷるするのはぶっちゃけ嫌なんですけどー?」
【ごめんね、クティ。でもルールだから……】
「ううん、リリーのせいじゃないよ! 悪いのはあのマス目に止まったサニーだよ!
謝れ、サニー!」
「すまん?」
「うむ! では! ぷるぷるぷるううううう」
「うぎゃあああああああ」
クティのいつもの暴君っぷりに素直に謝るサニー先生がちょっと可愛いと思ってしまったがその後の光景はちょっとどころではなく引いた。
いつも自分とクティが行っている事だが端から見ると思うところが大分ある行動だったようだ。
今後は2人きりの時にしよう……。
そう、心に誓ったのだった。
ちなみにスゴロクの結果だが、サニー先生の授業を受けるというマス目に止まったレキ君が逃亡を図ろうとしてすぐに捕まり、そのままなし崩し的にいつもの授業となりうやむやのうちに終了の運びとなった。
クティのぷるぷるを受けたサニー先生によるこれ以上の被害を出さない為の工作だったのはいうまでもない。
よくある自作スゴロクです。
でもマス目を作る人達の性格が如実に現れてしまう大変危険な代物です。
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