161,智の発展
いつものことながらクティパッドに追加された機能群はどんどん進化する。
自分が洗い出した改善点だったり、サニー先生が山のように出してくる改善点だったり、レキ君からのお願いだったり。
『魔術補助機能完全再現版』も当然ながら進化し、10級の一部だけしか使えなかった魔術も5級まで可能となった。
これは大きな進歩だ。まさに進化といって差し支えないほどに。
何せ10級と5級の設定数は最低で10倍くらい違う。
10級の魔術師でもリズヴァルト大陸ではそれなりに希少だが、5級にもなると更に少なくなる。
そんな魔術を、才能の有無を必要とせず誰にでも――クティパッドを扱えるという条件は残るが――行使できるのだからまさに奇跡のような機能だ。
しかも設定数がどんなに多くてもそれを苦にしない方法をクティは考案してしまったのだ。
というか当然の帰結ともいえるけど。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「わふーん!(月下の城壁!)」
レキ君の絶妙な力加減でぶっ叩かれたクティパッドから幾重にも蔦のような物が生え上がり壁を築いていく。
あっという間に形成された植物の壁は月夜に照らされたように影を纏い、一部は照らされた月の光を反射して輝く。
この月下の城壁は2重構造の防御壁だ。
ただ防御魔術としての分類ではなく、一種の足止め用魔術としての側面が強い。
影を纏っている部分は強固な防壁として機能するが輝いている部分は近づくものを取り込み拘束するために柔軟性が高くなっている。
相手を拘束すると影を纏い硬質化して拘束を持続するために防壁よりは足止めの魔術なのだ。
もちろん影により硬質化した部分は盾として機能させるに十分な強度をもってはいるが。
さてこの月下の城壁は5級魔術の中でも設定数が多く、2つの意味で壁として立ちはだかる魔術だ。
当然ながら設定数が多くなればなるほど魔術は難しくなる。
消費される魔力も勿論のこと、設定が1つ増えるだけで普通は四苦八苦して、そのまま挫折する人が出るくらいといえばどれだけ難易度が高いものなのか分かってもらえるだろうか。
魔術の才能というものは一般的に発動具を扱えるかということを指し、魔術自体――この場合は設定や消費する魔力量など――のことではない。
設定を埋めるには知識が重要であり、魔術の才能とソレは別問題なのだ。
自分が魔術を圧倒的なスピードで習得してしまっているのも知識の量と、そして質が関係しているからだ。
発動具の方はクティの魔術でどうとでもなってしまうので大した意味はない。
【設定を予め想定される文言で埋められるのは便利だよね。
組み合わせるだけで済むわけだし。これって便利どころか反則じゃない?】
「自由度を減らして汎用性を上げた結果だからねぇ~。
私達みたいに自由自在に扱えなくなる代わりに簡単になってるんだからレキ向けとしては十分だよ!」
【まぁ積み重なればレキ君はクティパッドなしでも使えるようになるはずだし……いいんだけど……】
「まぁ言いたいことはわかるよー。
レキ、何の苦労もしてないしね。もっと苦労して身につけないと上手に扱えなくなるかもしれないからねー。
その辺は要練習?」
【かなぁ……】
「わっふーんふーんふん!(月下の城壁月下の城壁月下の城壁ー!)」
設定を埋め、行使可能状態で保存することによりすぐさま魔術を行使可能な状態で呼び出すことが出来るのが『魔術補助機能完全再現版』に新たに追加され、革新的とまで思っている機能の1つだ。
これにより、レキ君がさっきからやっているように魔術を連打できるのだ。
5級とはいえ、これだけ高速で魔術を連打できる者はそうそういないだろう。
自分やクティにはさすがに及ばないとしても魔術がほとんど使えないレキ君でこれである。
まぁクティパッドを使えば誰でも同じようなことが出来てしまうのだけれど。
【レキ君も飽きないねぇ~】
「わっふふーん!(だって魔術面白いもん!)」
「まぁ使えば使うだけレキに蓄積されるんだし、いいことじゃない?
飽きっぽいレキにはいいことだよ」
「わっふー(ボクは飽きっぽくないよ!)」
【じゃあ算数の勉強も頑張って飽きずにやりましょうね】
「わひゅぅ~(やぁ~)」
両目を前足で隠して速攻で降参のポーズをするレキ君に苦笑が漏れてしまう。
可愛いんだけどちゃんとクティパッドに文字を書いてからポーズを取っているだけにどうしても……ねぇ?
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
レキ君の額には今現在エーテル結晶体の蓄積ポイントを設定していない。
それをしてしまうとレキ君の計算能力がエーテル結晶体により補助されてしまうからだ。
エーテル結晶体の補助機能はかなりのもので、相当なレベルの計算能力をレキ君に与えてしまう。
魔術には計算能力が必須だし、いいことではあるのだがそれではレキ君自身のレベルアップには繋がらない。
エーテル結晶体はすでにレキ君の特性となっているけれど、それとこれとは別問題だ。
魔術に関してとても興味があるレキ君ではあるが、やっぱり算数は苦手でどうしても続かない。
その上今現在は『魔術補助機能完全再現版』で魔術を行使する場合、設定を埋めるだけで済んでしまうため計算能力があまり必要ではないのも問題だ。
だが『魔術補助機能完全再現版』を使わず蓄積された魔術知識で魔術を行使する場合はそうもいかない。
だからなのかレキ君は『魔術補助機能完全再現版』を使って以外は魔術を使いたがらない。
消費される魔力に関してはエーテル結晶体から流用しているので問題にもならないし、エーテル結晶体を使って作られたレキ君専用のクティ製発動具の魔術を使って魔術を行使するので魔術の才能の有無も関係ない。
他の魔術師達と比べれば、それこそありえないほどに整えられた環境での魔術行使ではあるのだが、やはりレキ君は『魔術補助機能完全再現版』の便利さが忘れられない様だ。
【便利すぎるのも考え物かなぁ……】
「使うヤツの考え方次第だよ、こういうのは。
どんなに便利な道具でも扱い1つでどうとでもなっちゃうのさ」
【そう、だけど……。はいはい、レキ君! そこまで!】
「わ、わふ?(なんでー?)」
【月下の城壁出しすぎ! 1度消す!】
「わふ(ほーい)」
楽しい玩具を与えられて興奮して加減の効かない子供のようになっているレキ君を諌める。
魔術で幻術空間を形成しているレキ君ルームの一部はすでに蔦だらけでなんか変なジャングルになりつつあった。
さすがにこれはやりすぎだ。
でもこういった実体を持った魔術もクティが開発した機能により、一瞬で消すことが可能となっている。
通常は維持するための魔力が尽きるまでは消えないのだが、さすがはクティ。
クティパッドを操作して消去用魔術を起動させたレキ君の周りからゆっくりと月下の城壁が消えていく。
魔術を打ち消す魔術というものは既存の魔術には当然存在しない。
対魔術として絶大な効力を誇るこの魔術には当然ながら制限がかなり存在する。
クティパッドを介して行使された魔術であること。
レキ君ルーム内に張られた魔術空間内であること。
この2つが前提であり、条件を満たしていれば例えクティの魔術であっても打ち消してしまう。
まぁまず『魔術補助機能完全再現版』でクティの魔術が扱えないのでそこまですごいものでもないけれど。
クティも5級以上の魔術は攻撃魔術も出てくるのでこれ以上の魔術の追加はしないつもりのようだ。
日々進化している『魔術補助機能完全再現版』ではあるが、レキ君が扱える部分に関してはちゃんと自重している。
自分やクティやサニー先生が使うところには自重という言葉は存在しないが、レキ君はまだまだおこちゃまだ。
正直目を離したら何をするのかわからない。
今さっきだって蔦地獄を作り出していたし。
レキ君を全面的に信用していないわけではないが、どうにもこの子はクティの悪戯っ子な部分に多大な影響を受けている。
仲がいいのは喜ばしいことではあるが何でもかんでも自由にさせると際限なくどこまでも突き進んでしまうのが玉に瑕だろう。
まだまだレキ君は子供なのだ。
自分達が導いてやらねばならない。
【さぁ、レキ君! お勉強の時間ですよ!】
「わ、わふ……(も、もうちょっと……)」
【だめです。はい、終わり!】
レキ君のクティパッドを強制的にリモート操作して『魔術補助機能完全再現版』を終了させるとレキ君用算数問題を汎用ノートに呼び出して最前列表示させる。
レキ君の嫌そうな顔が非常にわかりやすい。
【そんな顔してもだめです。
ちゃんと全部終わるまで今日は遊ばせませんよ!】
「わひゅぅぅ~(鬼~悪魔~リリー)」
なぜその並びで自分の名前を言うのかちょっと理解に苦しむが問題を1.5倍に増やしてあげればレキ君からの苦情もなくなった。
かわりにレキ君に非常に大きな陰がかかったがいつものことなので問題ない。
「さて、それではこちらはこちらで続きと行こうか」
【はい、先生!】
「レキも余計なこと言わなきゃいいのに……」
「わひゅぅぅぅん(うぅぅぅううぅー)」
レキ君の力ない叫び声が木霊するレキ君ルームでは今日も楽しいお勉強タイムが静かに過ぎていくのだった。
便利な道具も使う人次第です。
レキ君はまだまだ子供なので仕方ないですけどね。
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