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濁った瞳のリリアンヌ  作者: 天界
第一部 第9章 4年目 中編 3歳
180/250

158,智の疑惑



 白結晶騎士団員達の壮行会的なものが終わっていつも通りにレキ君ルームに帰ろうかと思ったが今着ているのは壮行会用のおめかし衣装だ。

 そうなると当然そのままではレキ君ルームにはいけない。

 いや別に絶対行けないわけではないけれど、レキ君と遊ぶならおめかし衣装では動きづらい。

 すでに兄姉の訓練見学は済ませているので着替え用の服は壮行会をしたホールのすぐ近くの部屋に用意されていたようだ。

 いつものようにエナと専属――ジェニーによるお着替えタイムを迎えているとノックの音がしてお婆様が何やら呼ばれたようだ。

 当然自分が着替えているので中に入ってくることはなく、ドア越しでの話だったのでよく聞こえなかった。

 お婆様が呼ばれたのだってお婆様自身がそう言って退出していったからだ。


 エナとジェニーに着替えさせられながらも手を軽く振ってお婆様を送り出して着替えも完了。

 控えめなドレスから動きやすい服装にチェンジすれば、重さを魔道具でコントロールしているため重量を感じないドレスよりもこちらの方が遥かに動きやすい。

 いくらクリストフ家が大貴族だからといっても3歳児の自分はそんなにドレスを着ることはない。


 せいぜいがこういった何かしらのイベントがあるときくらいなものだろう。

 あとはたまにエナが着せ替え気味に着せたり、エリーが持ってきたのを着たり、クレアが何着も持ってきて着せたり、お婆様が部屋いっぱいに用意したり……めちゃくちゃ着てた。



 お着替え用の部屋から出るとお婆様とお爺様が何やら真剣な表情で話し合っている。

 邪魔しては悪いのでレキ君ルームに向かおうと思ったら2人に呼び止められてしまった。



「リリアンヌよ、少しいいか?」


「リリーちゃん、ちょっとだけいいかしら?」


「あい~」



 ちょっと表情の堅いお爺様といつもと変わらないお婆様。

 でも魔力の流れはちょっとだけ堅くなっているのは見逃していない。一体何があったのだろうか。



「なに~?」


「う、む……」


「ここではなんですから、あちらへ行きましょうか。ジェニー、お茶の用意を」


「畏まりました、大奥様」



 歯切れの悪いお爺様をフォローしてお婆様が立ち話もなんだからと近くの部屋を使うことを提案する。

 どうやら手短に済まされる話ではないようだ。


 ちなみにクリストフ家の屋敷には大量の部屋があるけれど大体どこの位置にもこういった話が出来る談話室のような応接室のような何かそういったタイプの部屋がある。

 もちろんいつでも使える様に毎日清掃が行き届いている。


 談話室に入り自分はお婆様の膝の上という定位置で、向かい合うようにお爺様。エナはもちろんお婆様の隣、というか自分の隣だ。

 席に座ると同時にジェニーがお茶をそれぞれの前に置いていく。

 一切の音をさせないその流れるような動作は流石の一言だ。

 ちなみに自分にも見える魔力のカップを使っているし、自分用には果実水――今日は桃の香りがする果物の果汁を薄めたもの――が用意されている。


 桃水はひんやりとしているけれど冷たすぎず、かといってぬるくはない自分にちょうどいい温度に保たれている。

 このカップは魔道具で保温機能を有しているので結構な長い時間放置しても温度が変化することはない。



 お茶を軽く飲み、落ち着いた頃お爺様が口を開いた。

 それまではお婆様が自分()遊んでいたので別に重苦しい雰囲気があっていたわけではない。



「率直に聞こう。リリアンヌよ、騎士団の者に何をしたのだ?」


「はえ?」


「あなた」


「うっ……。す、すまん、リリアンヌ。違うのだ。別に責めているわけではないのだ! 本当だぞ!?

 ただ、先ほど激励の言葉を授けた全員の魔眼が急激に成長したのだ……。それもおまえの言葉を聞いた直後に、な」



 やばい。またやってしまった。

 確かに魔眼の余白を消して最適化させたがこんなに早く効果を実感できるとは思わなかった。

 実感するのはもう少し後でその頃には自分が何かしたとは思えないような時間が経っているはずだったのに。



 そういえば最適化させたときにすごい緊張してたっけ……。

 単純に予定にないことを自分がしたから緊張していたのかと思っていたのだけど、もしかして魔眼の変化をあの時にすでに感じていたのだろうか。

 そうするとやりすぎてしまっていたということだ。

 サニー先生もクティも特に何も言わなかったし、大丈夫だと思っていたのだが結果は予想以上だったということか。


 だがここで自分が何かしたことを認めるのはよくない。

 3歳児らしく可愛くとぼけて見せようじゃないか。



「んぅ~?」



 小首を傾げて自分何もわかりません。それよりこの果実水美味しいですよ、という感じに返答を返してみる。


 その様子をみてお爺様の魔力の流れが更に緊張したけれど、すぐに元通りになってくれた。

 やはり孫の可愛い仕草には勝てないご様子。

 すでに顔がデレデレだ。



「そうかそうか。知らないんじゃ仕方ないよなぁ~」


「リリーちゃん。じーじも言ったように怒ってるわけじゃないんですよ?

 ばーばはどんなことがあってもリリーちゃんの味方ですからいつでもお話してくれていいんですからね?」



 膝の上の自分の向きを変えてのほほん笑顔のお婆様がそんなことを言ってくれる。

 でもここでも返答は同じだ。

 お婆様は信頼しているけれど、ソレとコレとは別問題。


 また小首を傾げて自分何も知りません。それよりレキ君の尻尾を梳きに行きたいのですよ、と返すと察してくれたお婆様が話を切り上げてくれた。

 お爺様はもうちょっと聞きたそうにしていたけれどすでに顔はデレデレなのでもう無理だろう。



 自分としてもしらばっくれることに決めているので最早何も情報は引き出せない。

 可愛い仕草で切り返し追求を全てかわしてみせる!


 とはまぁ思ったが追求はそれ以上こなかったので祖父母的にもそこまで確信があったわけではないのだろう。

 魔眼の成長は法則性があるわけではないので、今回たまたま4人が全員成長したのと自分の激励の言葉が重なったので念の為聞いてみただけなのかもしれない。



 そう、魔眼の成長には法則性がない。

 魔眼自体が貴重な能力なためサンプルが少なすぎるというのも法則解明を遅らせている原因だろう。

 魔眼は先天的なものでも後天的なものでも肉体に定着し、その力を十全に発揮できるようになるまで時間がかかる。

 だが十全に発揮できるようになったからといって魔眼が成長したわけではない。

 それは単に慣れただけでしかないからだ。


 魔眼の成長とは今回のように負担が大幅に軽減されたり、新たな派生能力を得たりする場合の事を指す。

 もちろん派生能力は慣れるまでに時間がかかるだろう。

 だが基本的には魔眼が定着するよりは時間がかからない。

 負担の大幅軽減に関してもすぐに実感できるものではないらしいのだが彼らはすぐに気づいてしまった。



 少しの変化なら気づかなかったかもしれないが、彼らにも十分気づけるほどの改良を施してしまったのだろう。

 興味本位でやるべきことではなかったのかもしれない。

 まぁ危険はないとわかっていたのでやったのだが、どうにも最近順調だったから気が緩んでいたのかもしれない。次からは気をつけなければ。



【クティ、今回みたいに周りにばれそうになることしでかそうとしたら教えてくれると嬉しいなぁ~】


「あ~うん……。いやぁ~てっきりこれくらいならリリーの完璧な計画の下に進行している何か的なものなのかなぁ~と」


「やはり違ったのか。まぁそうではないかとうすうす思っていたがな。

 というか魔眼に何かをしていたのはわかったが成長させていたというのは、私でも聞いた事がないぞ。

 一体どうやったのだ?」


【えっと~】



 先生は気づいていたみたいだけど何をしているかまではわからなかったのか。

 クティは信頼しすぎていたのが逆に仇になった形というわけだ。なかなかに難しい物がある。


 レキ君ルームに戻る前に途中でお爺様は執務室に行く為に別れ、お婆様に抱かれながらサニー先生に魔眼の改良についてを詳しく説明する。


 だがやはりサニー先生の深淵の如き知識にも今回のようなことはなかったようだ。

 だが推測は立っている。

 自分の術式を直接見れる魔眼と変異型2種という特殊な性質と現在までの魔術知識により可能になったことではないだろうか、と。


 確かに必要な要因としてはこれらは必須条件といえる。



 だがサニー先生の推測はコレでは終わらない。

 可能性はないわけではないが非常に低い確率で自分の魔眼が魔眼を操作できる魔眼である可能性が提示された。


 ただやはりサンプルが少なすぎるためにこれは検証も難しい。

 自分の魔眼に対してはできないのはもうわかっている。

 そんな事出来るなら魔力ではなく、物理的に視覚を確保できるように操作したい。



 サンプルとしては白結晶騎士団員達しかいない。

 いや魔眼所持者自体が希少なのにまだまだ手近なところにいるというのは幸運だろうか。


 危険なことがないことはわかっているので近い内にサニー先生と実験内容を詰めて彼らに会いに行こう。



 サニー先生と同じマッドな笑顔を自分も心の中で浮かべ、レキ君ルームへと近づいていくのだった。





またまたやりすぎてしまったリリーでした。

かなり順調に過していたので気が緩んでいたみたいです。


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