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濁った瞳のリリアンヌ  作者: 天界
第一部 第9章 4年目 中編 3歳
177/250

155,智の設定



 サニー先生も戻ってきていつもの日常に戻ったわけだが、ちょっとした変化もある。

 それは3人+1匹が持っているクティパッドであったり、そのクティパッドを使った筆談を行っている1匹だったり。


 そう、レキ君が筆談をしているのだ。

 今まではレキ君の本能の赴くままに語られるわふんわふん言ってるだけの鳴き声を彼の仕草や表情と纏う雰囲気などで解析していただけなのでどうしても正確性に欠けていた。

 しかし筆談に切り替わってからは完璧に――ただしレキ君の語彙に依存するものの――会話が可能となった。



 無駄に綺麗な字がちょっとむかつくけれど。



【――というわけで、レキ君用の中継出力用ウィンドウをクティが作ってくれたよ】


「わふわふ!」



 レキ君の頭の上に浮かぶウィンドウにレキ君がクティパッドに書いた文字が浮かんでいちいちクティパッドを覗かなくてもいいようになっている。

 ちなみに今ウィンドウに出ているのは『わふわふ』だ。



「なぜ鳴き声?」


【レキ君なりのジョークじゃないかな?】


「わふん(そのとおり)」


【でもこれでレキ君とのコミュニケーションが加速するね!】


「今までもかなりの高精度で会話が成立していたが、クティパッドを介しているから若干の遅延が生じるだろう。

 その辺を踏まえると加速はしないと思うぞ」



 サニー先生の言う通りではある。

 どうしても書くという動作が入る以上ワンテンポ遅くなってしまう。だがそれは物理的な速度の話だ。

 自分が言いたいのはもうちょっとこう会話の雰囲気的なアレだ。



【ま、まぁ何にせよ、よかったねレキ君!】


「わふん(うむ)」


「うわーこいつ偉そうだよ! 調子乗ってるよ!」


「わふふん(ボクは偉いんだよ!)」


「調子ぶっこいてんじゃねーおらー!」



 ニヤニヤ顔のいぬっころが突風に煽られて宙を舞っているが器用にも空中でクティパッドにかきかきしているレキ君。

 なんて書いているのかすごく気になったがすぐにウィンドウにも表示された。



「わふーん(ぬるいね!)」


【いつも以上に調子のりすぎてるよ、この子!】



 今のレキ君はエーテル結晶体を蓄積しているので以前同様にエーテル結晶体から魔力を引き出して身体能力を異常に強化できる。

 最近その事をやっと自覚したレキ君は今まで無意識にやっていたことをなんと任意にできるようにしてしまった。

 自身の魔力のようにエーテル結晶体に蓄積されている魔力を使いこなし始めたレキ君は最早レキ君ルームのかなり高い天井から落下しても傷1つ負わない。

 それどころかクティの高威力魔術が直撃しても頑張れば(・・・・)耐えられるくらいにまで瞬間的な防御力をあげられるほどになってしまった。

 いくら調子にのっているいぬっころとはいえ、さすがに本気は出せないクティは舐められまくりの状態となってしまったのだ。



 空中で突風をうけまくって翻弄されているように見せて実は楽しんでいるレキ君にクティの怒りのボルテージがどんどんあがっていく。

 このままではつい殺ってしまうのではないだろうかとハラハラしてしまう。



「よし、そこまでだ。

 リリーが心配しているだろう、クティ。レキもいい加減にしないとリリーに飛ばされるぞ……色々と」


「むぅ……」


「わ、わふぅ……(ごめんなさい許してくださいなんでもします)」



 サニー先生の声に2人が動きをピタっと止める。

 突風の魔術を止めたため自由落下したレキ君は空中で書き込みながら見事な着地をしていたがすぐに目を隠して降参のポーズだ。



「ごめんね、リリー。大丈夫だよ! レキはこれくらいじゃなんともないよ!」


「わふわふ!(なんともないよ!)」


【でもあんまり度が過ぎるのはだめだからね? わかった? 2人とも】


「はぁ~い」


「わふ~(いえすまむ)」



 クティとレキ君のちょっと激しいハラハラする戯れも終わり、今日の更新部分から改善点などを書き出したサニー先生の授業が始まった。







◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆








 クティパッドに最近追加された待望の新機能。

 それは所謂名前をつけて保存機能だ。

 今まで丸ごと保存していたクティパッドのデータを個別に外部記憶領域に保存できるようになった。


 サニー先生が持ち帰った外部記憶領域はぱっと見はただの魔道具だ。

 だがこれにはクティ製の魔術が封じられていて、情報を保存できるようになっている。

 アーカイブの劣化版ではあるがアーカイブでは出来ない細かい保存方式が可能となっているため、これを流用してクティパッドのデータを保存できるようにクティが改良を施した。


 魔片の魔力を情報に書き換えて保存するため魔片の魔力が多ければ多いほど記憶できる容量が増える。

 つまりはエーテル結晶体との相性がすこぶるいいのだ。

 エーテル結晶体の魔力蓄積量は貰ってきた魔片などとは比べ物にならないレベルのものになっているので軽く溜めて4つ外部保存領域用に取り出してある。

 サニー先生が1日に使用する保存領域は結構な量ではあるが、エーテル結晶体に変更してからは10年くらいなら余裕で保存できるようになった。

 自分やレキ君が使う分はその100分の1にも満たないのでもっと余裕だ。



「このように範囲を大規模に広げると燃焼密度に斑が生じやすい。

 ではリリー、対処法は?」


【燃焼範囲の詳細な設定か、燃焼密度自体をあげてしまうのはどうでしょうか】


「うむ。悪くは無い。他には?」


【風を操って斑になりやすいところをカバーしてみるのはどうでしょう。このように】



 クティパッドを操作して準備していた術式を追加実行する。

 共有領域内に出力された魔術シミュレート結果には斑になっていた燃焼範囲をある程度均等にすることに成功した映像が映し出されている。



「うむ。なかなかいい手だ。

 こちらの方が魔力効率もいいし、その他の環境要因も考慮しやすいだろう」



 サニー先生の改善案を受けてクティが改良に改良を重ねた――今尚改良は続いているが――魔術シミュレート機能で屋敷内では行えない範囲が大規模になる魔術の結果を色々と検証できるようになった。

 今までは範囲を徹底的に狭めてやっていたので実際の運用とは雲泥の差が出るほどの結果しか得られていなかった。

 それでも習得するだけなら問題はあまりなかったので済んでいたが、やはりなんとももやもやするものだった。


 それがシミュレート上ではあるが結果を確認できるようになったのは大きい。

 クティの作った魔術シミュレート機能は今までもかなり複雑に環境設定できていたが改良が進み、更に複雑に設定できるようになったので実際に魔術を行使したのとほぼ同じ結果が得られるだろうとサニー先生にも太鼓判をもらっているほどにまで成長している。



 1級や特級の既存の魔術で、攻撃系に属する魔術も進化発展版が多いため規模がどうしても大きくなりがちだ。

 数多くある大規模魔術の効果をシミュレート上とはいえ見れるのは貴重であり、今までのもやもやが解消され痞えていた何かが取れたように気分がいい。


 シミュレート結果や複雑に作られた環境設定も外部記憶領域のおかげで個別に保存する事ができるようになり、授業も捗っている。

 クティパッドの有用性は多岐に渉り、今尚も増大中だ。







◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆







 魔術シミュレート機能の環境設定を使えばもしかしたら屋敷内の状況をリアルタイムで再現できるのではないだろうかと思ったのだが、大規模魔術シミュレート用の凄まじく複雑な環境設定を作った大先生曰く。



「リアルタイムは無理」



 という事だった。

 ではリアルタイムではないにしてもある程度固定された環境ならどうだろうか。

 未だ屋敷の中がどうなっているのかまったくわからない自分としては非常に興味がある。



【どうでしょうか……】


「ふむ。出来なくはないがこの屋敷は広いからな……」


「いいじゃん、作ってあげようよ! リリーのお願いだよ!? 土下座してでもお願いされるべきだよ!?」


「わふ(ボクも見たい)」


【そういえばレキ君もあんまり屋敷内は見たこと無いですもんね】



 自分とレキ君の上目遣いのお願い攻撃にサニー先生もだんだんと絆されていくのが分かる。

 そして止めはやっぱりクティが差してくれた。



「やってくれないなら……アレばらすよ?」


「喜んで作ろうじゃないか!」



 アレって一体なんだろう……。



どんどん進化していくクティパッド。

そしてサニー先生による屋敷の環境設定が作られるようです。



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