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濁った瞳のリリアンヌ  作者: 天界
第一部 第9章 4年目 中編 3歳
176/250

154,智の結晶



 ここ最近レキ君ルームについてまずやることはレキ君にダイブアタックをしてから幻術系を中心とした魔術空間を展開することだ。

 この幻術系魔術は当然ながら内部で行われている事とは違うことを映し出すことを目的としている。

 複数使っているのは当然ながら単一の魔術では既存の魔術である以上、クリストフ家にいるような超人めいた人達には効果が薄いというのが主な理由だ。

 短時間なら欺くのも可能だろう。だが当然ながら短時間では終わらないので複数、それも桁が3つになるくらいの量を展開してこの空間を作り上げている。



「今日の細かいところは更新履歴に明記しておいたから見てね!

 大きなところではレキに埋め込んだ魔石制御魔術の魔石蓄積状況をモニター出来るようにしたよ」


【お~ついに出来たんだね! クティパッドもどんどん便利になっていくねぇ~】


「これもリリーの鋭い意見があってこそだよ! もう鋭すぎて刺さりまくりで全身意見だらけだよ!」



 クティの体中から生え出した魔力で描かれた針の1本1本には意見という言葉が書かれていたり、陳情書と書かれていたり、物申すと書かれていたり、果ては果たし状なんてのもあったりしたけど突っ込んだら負けだ。ラブレターがなかったのがちょっと残念。







◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆







 3人分のクティパッドをいつも通りに1時間(ハルス)分で行使してレキ君とクティに渡すと、レキ君はさっそくクティパッドの上部にくっついている専用ペンを器用につかみとってレキ君用の情報をロードさせ、多目的ノート機能で文字の練習を始めている。

 算数の勉強をするときと違って文字の練習は言わなくてもやり始めるあたりかなりはまっているようだ。

 それもこれもぶっちぎりの綺麗さで勝利しているからだろう。誰に勝っているかは黙秘する。


 悔しいので自分用の情報をロードさせ、レキ君の画面状況を右上に小さく表示させながら練習に入る。

 アーカイブには名前をつけて保存は出来ないがレキ君用にはレキ君用に、自分用には自分用に保存が出来る。

 レキ君の情報が自分の情報と混線したり、上書きされたりしない理由は不明だが分けて保存されているのだから問題ないだろう。

 だがやはりレキ君用ならレキ君用で1つだけしか保存できず、自分のも同様だ。

 複数の情報を細かく名前をつけて保存する方法はサニー先生が戻ってきてからになりそうなので今はこれで我慢するしかない。


 ニギニギすると芯が1本あって若干の抵抗感があるものの非常に柔らかい専用ペンを握りなおして文字を書くが右上に見える画面と比べると雲泥の差だ。

 比べるのも悲しいくらいの差に凹みながらも、肉体を使った技術は魔術などの頭脳を使った技術に比べてとにかく上達の程が見えない。だがそれでもとにかく練習しなければうまくならないので気合を入れなおして集中し始めた。







◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆







「ふむ。レキはずいぶん綺麗な文字を書くものだな」


「わふ」


「うむ、ただいま」


「あ、おかえり、サニー」



 聞きなれた声が聞こえると思い顔を上げるといつもの白衣っぽい服をきたミニスカートの半眼先生がいた。



【おかえりなさい、サニー先生】


「うむ、ただいま2人共。

 さっそくだが私にもソレを出してくれないか?」



 サニー先生がソレと指差すのは当然クティパッドだ。

 一応毎日のように次元間通信魔術で連絡を取っていたのでクティパッドのことは先生も知っている。

 でも当然ながら膨大な魔力を消費するこの魔術は自分以外には行使不可能で彼女は使うことができていなかった。

 通信の声を聞いていても弄り倒したいという気持ちが伝わってきていたので、帰って来たら開口一番こうなるだろうとは思っていた。まぁ予想通りだったわけだけど。



「あいよ~ん」


【はい、わかりました~】



 日々更新され、術式構成がどんどん進化していってるため最早作成しているクティ本人にしか行使できなくなった魔術だが、展開するだけなら一瞬で完了してしまうほどの早さで行使される。

 あとはそこに自分の精霊力を入れるだけ。

 4個目のクティパッドがサニー先生にも使いやすいだろうサイズで出現し、さっそく弄り始める。



「ふむ……ほぅ……なるほど……こうか……ふむ」


【く、クティ……先生ってクティパッドを使うのは初めてだよね?

 なんであんなに使いこなしてるの? まったく淀みや迷いのないペン捌きだよ!?】


「チッチッチ。甘いよ、リリー。甘すぎだよ、リリー。

 ……prprしていい?」


【後でね? それで?】


「よっし、後でね!

 ほら、サニーには概要は話したじゃない。サニーならそれだけあればこのくらいは出来るよ。

 そうじゃなきゃ局長なんて務まらないからねぇ」


【そ、そうなんだ……。やっぱりすごいなぁ、先生……】



 サニー先生用のクティパッドはまだ初期設定のままなのでセキュリティがレキ君と同じなのでリモートコントロール機能で画面を覗ける。

 その中ではかなりの数に増えた機能達がかなりの速度でどんどん展開され、何が出来て何ができないのかを洗い出されていた。

 最前面表示設定で展開されている多目的ノート型機能には次々に改善案が書き込まれまくっている。


 自分も結構な改善案や新規機能案を出しているけれど、あっという間にソレを上回るほどの量が書き込まれている。



「ていうかさぁ~魔石はどうなったのー?」


「あぁ、アレな。

 アインツのヤツが古文書のようなものを持っていてな。かなり詳しい所までわかった。

 ほれ、吸収因子を停止させ魔片として扱えるようにしておいたぞ」


「ほほぅ……アインツがそんな古文書もってたのかー」



 クティパッドから顔を上げずに答えるサニー先生だが、ヒョイッと例のレキ君の額から取れた魔石をクティに渡しながら言って来た。



 一体今どこから出したんだろうか……。

 前にも自分にも見える本をどこからともなく出していたけど、あの白衣が怪しいと思うんだけどなかなか確かめる事ができない。



【クティ、アインツって?】


「世界の隣の森の魔片研究所の所長をしているヤツでね。

 なんかすごく古めかしい服装が好きなやつでね、変わったヤツだよ~」


【魔片研究所なんてあるんだ】


「世界の隣の森でも魔道具は日用品だしね。むしろこっちよりあっちの方が使ってると思うよ?」



 確かにリズヴァルト大陸でも魔道具は日用品としてどんなに貧しい家庭でも使われている。

 世界の隣の森には妖精族が住んでいるとはいっても全員がクティのような魔術師というわけではないし、クティだって魔道具を使った方が便利なときは多い。


 クリストフ家の屋敷にはどこにでもあるエアコンのような魔道具なんかが特にわかりやすい。

 あの魔道具はたくさんの魔道具を組み合わせて作ってあり、これを魔術で再現すると結構大変だ。

 それを毎回やるのは非常に面倒くさい。

 優れた魔術師であろうとなかろうと魔道具は有用なのは変わらないので使わないなんて選択肢は存在しないのだ。


 特に世界の隣の森はリズヴァルト大陸よりも圧倒的に魔術が進んでいる。

 クティという最高峰の存在がいるので当然だが、既存の魔術にしても特級や1級を使える存在が結構いる。

 サニー先生も特級まで全て修めているし、クティ製の魔術もいくつか扱える。

 1級が1つや2つ使えるだけで大騒ぎしているリズヴァルト大陸とでは最早桁が違うといっても過言ではないくらいだ。



「アインツの持っていた古文書によると、どうやらこの魔石の正式名称は " エーテル結晶体 " というらしい」



 解説を始めた今でもペンを動かしてクティパッドを操作している先生。

 だがその正式名称の前半部分はまたもや非常に聞き覚えのある名称だ。もしかすると古くからあるものには生前の世界とのつながりがあるモノが多いのだろうか。

 そんな推測がほんの少し出てくるがまだまだ検証数が足りないのでなんともいえないところだろう。まだ偶然の域を出ないような気もするし。



「エーテル結晶体は一定以上の魔力、または精霊力を蓄積した魔片が到達する上位の個体というべきものだ。

 エーテル結晶体となった魔片は更に力を蓄積するために周りから魔力、または精霊力を吸収するための特別な構造を有するようになり、それも一定以上の蓄積量に達すると消滅する」


 サニー先生の解説に聞き入りつつも、チラっと自分のクティパッドの先生の画面状況を見ると改善案がさっき見たときよりも遥かに増えている。どこまで改造する気なんだろうか。



「吸収構造がなくなったエーテル結晶体は魔片の上位個体ではあるが、基本的には扱いは魔片と変わらないものとなるようだ。

 つまり通常の魔片同様に素材を使って様々な状態に変化させることが出来る。

 最大の違いは蓄積された魔力が桁違いに多いということだな。

 一定面積に蓄積される量の限界を遥かに超える量を蓄積可能であるために魔道具とするならば最上のモノというわけだな」


【なるほど……。じゃあ最初に仮定したものすごい量の魔力を蓄積した魔片と思っていいというわけですね】


「そういうことだな」


「どうやって出来るかとか、そういうのはわからなかったの?」


「古文書には名前と特徴しか書かれていなかった。

 まぁ恐らくは特殊な迷宮で長い年月をかけて蓄積したものなのだろうな。

 それをレキという迷宮化した存在とリリーという空前絶後の魔力を持った存在により人為的に作成可能となったのだから面白い」



 たまに見せるマッドサイエンティスト然としたニヒルな笑みでサニー先生が締めくくる。

 その笑みは恐ろしいような頼もしいような、自分にとってはちょっと微妙な感じだ。

 長いような短いような、それでも濃密な時間を共にしているから信頼してはいるが、研究者の顔となったサニー先生はやっぱりちょっと怖い。



「私の魔術も必要だよーだ!」


「ふ……。そうだったな」



 ニヒルな笑みから一転して優しい微笑みに変わった先生にホッと小さく息を吐くと、先生の動きっぱなしだったペンも止まったようだ。



「ほれ、とりあえず今の所こんなものだ」


「うわぁ……よくもまぁこんなに出るなぁ……」


「嬉しいだろう?」


「やりがいはある……かな?」


【ほんと……すごい量……】


「私が本気を出したらまだまだこんなものではないぞ?

 もっと私が研究しやすいように改造してやるから楽しみにしていろ」



 背筋に冷たいものが流れるほどのサニー先生の笑みに圧倒されながらも、やっぱり先生はこうでなくては、と思うのだった。




正式名称を感想から頂きました。

いい名前ですよね。エーテル結晶体。


濁ったでは設定がかなり細かくされているので今回のような採用はあまりありません。

なので今後感想で同じように使ってくれ! 的なものがあっても微妙です。ご了承ください。


気に入っていただけたら評価をして頂けると嬉しいです。

ご意見ご感想お待ちしております。

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