152,智の灯火
【クティ、ステータスオープンってもしかして……】
「さすが、リリーだよ! お目目の付け所が違う! 可愛いぱっちりお目目もジト目も感情のない無表情お目目もリリーは可愛いよ!
あ、でも蔑みお目目はだめ! あぁ、何かに目覚めそう!?」
イナバウアースタイルから水面蹴りのように空中を開脚して滑るように回転すると元の体勢に戻り今度はポーズは決めずにくねくねし始める。
それぞれのお目目のセリフの時にしっかりとクティのお目目も変化しているのが芸が細かい。
感情のない無表情お目目はどうやらレイプ目のようだ。そんな目したことあったっけ……。
蔑みお目目はクティの何かを呼び起こしてしまいそうなのでこれ以上は危険だから封印しておこう。
まぁまずクティに使うことはないけれど。
一頻りくねくねし終わり、キリッと表情を引き締めたクティが続きを話してくれた。
「実はね! 世界のアーカイブの鍵部屋を1つ突破したみたいなんだ!」
【鍵部屋ってあの何かしらの条件を満たすとアクセスできるっていう場所の?】
「いえすまむ!
世界のアーカイブにアクセスするとそのままだとアクセスできない部屋が結構な数あるんだけど、部屋ごとに何かしらの条件が定めてあるらしくてそれを突破すればアクセスできるんだよね。
ほとんどの場合術式があるんだけど、既存の魔術とは一線を画すようなものだったり、そんな変わらないものだったり、術式単体だったり様々だよ!
でも術式ばっかりではないんだよね! なんか古めかしいサニーが喜ぶような情報だったりほんと様々な上にアクセスしてみないとまったくわからないという!
しかもアクセス条件も不明で昨日アクセスしても開いてなくても今日アクセスすれば開いてるとかあるからね! なんなんだろうね、あれ!」
【そっか~】
自分とクティには無意識領域で情報を操作できる自分単体用のアーカイブがあるが、この世界――オーリオール全体を単体としたアーカイブが存在している。
基本的には既存の魔術を使う時にこの世界のアーカイブにアクセスすることになる。
自分やクティやサニー先生のようにクティ製の無詠唱魔術を使う場合や一定以上に習熟した魔術などを扱う場合は世界のアーカイブにアクセスする必要は無い。
だがそれ以外の場合は必ず世界のアーカイブにアクセスすることになる。
このアクセスに必要なのが魔術を使う場合に絶対必要とされている発動具だ。
発動具を扱う才能が魔術師として才能であり、一定方向の知識量を得ていればこの才能を得られるため先天的才能と後天的才能と分けられていたりするがまぁ今はいいだろう。
発動具を介して既存の魔術を行使する場合に世界のアーカイブにアクセスされる内容は目的の既存の魔術に関することだけになるが、すでにクティ達は世界のアーカイブへのアクセス法を確立しており様々な方向から世界のアーカイブを調べている。
その過程で発見されたものが例の鍵部屋だ。
特定の条件を満たすことにより開くこの鍵部屋には結構重要な術式が保管されていることがある。
今回のステータスオープンの術式はこの鍵部屋で発見されたもの。
鍵部屋に術式を、いつ、誰が、何の目的で封印したのかは今もまったくわかっていない。
だが鍵部屋の条件を満たして中の情報を入手するのは魔術の発展にはかなり有効な道であることは疑いようが無い。
世界の隣の森の最高の魔術師であるクティですら目を見張るような術式がある場合があるのだ。
今回のステータスオープンもそう。
本来は様々な術式がくっついて出来上がっているものだったそうだが、それをクティが分解して必要な部分だけを使い、尚且つ徹底的にカスタマイズされているのが今回の魔術に使われた部分だ。
本来の機能は思っていた通りのゲームなどのステータス画面と同様に能力値を数値化したものが出てくるものらしい。
だがその数値も常に変動しており、魔力消費量も半端じゃないことから徹底的に省いたそうだ。
新たに見つけた術式を簡単にカスタマイズしてしまう辺りクティはさすがだ。
結果としてウィンドウの機能などを残して表示内容なんかも全部書き換えて完成したのが今回の魔術。
ちなみに鍵部屋は個人単位で条件を解かないといけないが術式は教えてもらえばいいので必ずしも条件を満たす必要はない。
とはいっても自分のように魔力を直接見ることが出来るような力を持たないと術式単体を知覚するのは難しいと思う。
いずれ作るであろう自分の魔術のためにもこのウィンドウの機能は有用だ。
何より魔力を直接触れるという革命的な術式が素晴らしい。
解析してどうなっているのか調べつくしてやろう。
ちなみに今現在で自分は世界のアーカイブへのアクセスは発動具の代わりに使っているクティ製の無詠唱魔術を介してしかできない。
アクセスするにはまた別のクティ製の魔術を使うのだが世界のアーカイブについての授業を受けたのが大分前の話だし、すっかり忘れていた。
しかしこんな素晴らしい術式を見せられてしまっては是非ともアクセスしてみたくなってしまう。
まだまだ鍵部屋はたくさんあるし、それぞれの部屋の条件というのはまったくわからないため何をどうしたらいいのか不明すぎるがそこはアクセスすれば何かわかるかもしれない。
【というわけで……クティ教えて! いえ、クティ先生、教えてください!】
「せ、先生……。なんて甘美な響き!
教え子との愛の授業……。エロイムエッサイム!」
三角形をひっくり返したザマス系のメガネにスーツを着用して出席簿と指し棒をもった女教師クティが恍惚とした表情のあとに両手両足を広げて何やら決めセリフ的に叫んでいる。
そんなに足開いちゃうとタイトなスカートの中身が見えちゃうよ。
ちなみに胸元は大きく開いているけれど薄いので……なんというかほらあれだ。
「さぁでは愛の授業を始めようではないか! ないか!」
ザマス系メガネをクイッとさせてサニー先生の口調を真似ているけど鼻息が荒くて実にクティらしい。
【よろしくお願いします、先生!】
いつもは解説に回っているクティの授業が始まった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ところでサニー先生の授業は基本的に口頭授業だ。
魔術などは実演も多少あるが基本的には喋って教える。
クティの図解があるので理解はしやすいが、ノートに書いたり本を読んだりといった授業ではない。
自分には専用のアーカイブと無意識領域での映像再生があるので復習するのは結構簡単だ。
まぁ大抵は1度聞けば理解してしまうので必要ないけれど。
それでもやはりノートなどの筆記用具というのは有用だ。
学術都市と呼ばれるオーベントでも紙は割かし貴重品だし、鉛筆などといった生前の世界のような洗練された道具はない。
あっても黒炭のようなものだったり、チョークのようなものだったりで専用の板に書いては消して書いては消して、といった感じに使う。
羊皮紙やパピルスもあるにはあるがやはり比較的高価なようで普及してはいない。
そこでステータスオープンの術式の一部分であるウィンドウ機能を使ってクティがある魔術を作った。
ウィンドウにはタッチ機能がある。
画面も超高精細な映像を作り出せるほど解像度が高い。しかもウィンドウは掴めるし、感触もある。
というわけでクティは魔術でノートを作ってしまった。
専用のペンでそのノートに何か書くとしっかり書けるし、保存すると自分のアーカイブに直接保存できてしまうという超高性能っぷり。
その上付属で作った魔術を使うとクティの図解した内容がノートに表示される。もちろんクティ印の可愛いデフォルメでてへぺろしているクティの顔のマークが入っている。
あの奇跡のような魔石制御魔術を作っていたと思っていたらこのノートも作っていたという。
まったくクティには驚かされるばかりだ。
「ノートの使い心地はどうかな! どうかな!」
【うん、ばっちりだよ。やっぱり感触があるっていうのはすごくいいね。
アーカイブに直接保存できるっていうのも素晴らしいし……ノートってこんなに便利だったんだなぁ】
「うんうん! リリーには今までサニーが喋って授業してたからねぇ~。まぁ私のリリーにかかれば楽勝ではあったけどね!
それでもやっぱりこんな感じの小道具はあった方がいいしね!」
【うん、クティありがとう! 大事に使うね!】
「にへへへ~」
自分の小さな手の平の上でドヤ顔していたちっこいさまに、チュッと頬にキスしてあげると相好を一気に崩したクティがデレデレになった。
「わふー」
【そういえばレキ君にはアーカイブはあるのかな?】
「にへ……。あーどうだろう? あっても使えないんじゃないかな? 試してみよう、ほいレキ。ここをポチっとしてポチッと」
「わふ?」
レキ君サイズに大きくしたノートの魔術を彼の前に広げてあげて適当にレキ君のデフォルメされた顔を一筆書きしたクティが保存ボタンを指差してあげる。
ちなみにクティがさらさらっと描いたデフォルメレキ君は非常に可愛らしい。
ささっと描いた割にはクオリティもすこぶる高く、自分の心をガシッと掴んで離さないこのデフォルメレキ君は本当に素晴らしい。
【レキ君ちょっとごめんね~。ここをこうしてこう】
「わぅー? わふッ」
ノートの魔術の機能の1つにクティの描き出した画像をコピーするのがあるので他のノートの魔術に描かれた画像も出来るのではないかと試してみた所普通にできた。これは便利だ。
「お~こんな使い方があるとは……。さすが、リリーだよ!」
【なんとなく出来るかなぁと思ってやってみたんだけど出来たね! ということはこんなことも!】
自分のノートに計算問題を書いてレキ君の方に送ってあげる。
「わふぅ……」
【はい、解いてね~】
簡単な問題でも今はお勉強の時間ではないから彼のノートに出現した問題に不満そうな声をあげるレキ君。
「わふん」
【はい、正解でーす。花丸をプレゼント~】
「わふ! わふわふ! わおぉぉん!」
花丸を描いてレキ君のノートに送ってあげるとレキ君は大喜びだ。
ちなみにレキ君は大きな前足で器用にペンを握って問題を解いていた。
レキ君の力加減のうまさはこういった指先までの器用な制御にも活きているようだ。というかもう狼って感じがまったくしない。
本当に漫画のような状況だ。
「そんじゃレキ。保存して保存」
「わふ!」
花丸に大興奮のレキ君もこの花丸を残しておきたいようで勢い勇んで保存ボタンをぶっ叩いている。
ノートの魔術は感触があっても物理的な衝撃で壊れることはないのでレキ君がいくら強く叩こうとも問題ない。
まぁその下の床は無事ではないけれど。
「どう? アーカイブに保存された?」
「わう~?」
【やっぱりわからないですか。まぁそうですよね。
私達も無意識領域に入らないとアーカイブ使えないし】
「それもそうだよね~」
【でもこのノートはレキ君にかなり使えるね。もちろん私も使わせてもらうけど!】
「そう言ってくれると、頑張って作った甲斐があるってもんだよ!
これからも色々作ってみようかなー……イシシ」
クティが拳を軽く握って口の前に持っていき何やら怪しいどこかで見たことのある笑いをしているがどんな魔術を作ってくれるのか非常に楽しみだ。
今現在のノートの魔術は魔力で構成されているので魔力を見れない人にはまったく見えないのが難点だけど、きっとそのうちクティなら誰にでも見れるようにしてしまうだろう。
そうなればいずれ時期を見てテオやエリーの勉強にも利用できるのではないだろうか。
まだまだ先の話のことではあるが少しだけそんなことも思ったりしたのだった。
世界のアーカイブには既存の魔術の全てが納められています。
その他にも色々あるみたいですがまだリリーにはわかりません。
そしてついにノートが登場です。
でも当然ただのノートではないのです。
クティもやる気になっているのでこれからどんどん進化していくことでしょう。
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