151,プロローグ
慣れ親しんだ言葉が聞こえたのも束の間、レキ君の頭の上――クティの目の前にウィンドウが出現していた。
クティが魔力で描いたものではない。
クティが発した言葉――ステータスオープンが想像通りのものであればそれはクティの魔術が作り出したウィンドウだろう。
「よしよし。ちゃんと出た」
【クティ、それは……】
「むふふ~。これはね~じゃーん!」
ウィンドウをガシっと掴むとこちらに向けて移動させるドヤ顔さま。
魔力は基本的に掴めない。だがクティは確かにそのウィンドウを掴んで移動させている。
驚愕に見開いた目にはウィンドウに書かれた文字がしっかりと見えた。
ウィンドウもウィンドウに書かれた文字も全て魔力で作られているのだろう。
何かしらの表示が欲しい魔術は基本的にイメージが実行者に伝えられるため目の前のウィンドウのように他者へも見えるようには作られていないのが普通だ。
【魔石生成地点作成? 魔石排出? 魔石蓄積状況?】
「イグザクトリー!」
くるっと背を向けて某なんとか川さんのイナバウアーも画くやというほどの反りを見せて反転したちっこいさまが両手の人差し指だけを伸ばしてビシッとポーズを決める。
ウィンドウに書かれていた3つの項目はどれも魔力溜まり関連のことだ。
予想していた通りにクティは魔力溜まりをコントロールする魔術を作ったのだろう。
とするとこの3つの項目はコントロールの対象を選択するためのものだろうか。
【選べばいいのかな?】
「さっすがリリーだよ! 何も言わなくてもわかってるね!
魔石生成地点作成はレキの体の中にできる魔石の位置を任意に選択できるよ!
魔石排出はそのまんまだね! 魔石生成地点作成で設定した場所から1番近い場所から魔石を排出するよ! もちろん体にダメージを与えるような排出の仕方はさせないから安心!
そして最後の魔石蓄積状況はこれまたそのまんま!
現在の蓄積している魔石の魔力量がわかるよ!」
クティの説明を聞き、魔石生成地点作成に恐る恐る指を伸ばして触ってみる。
妙に柔らかい感触がしてウィンドウが切り替わりレキ君が降伏のポーズをしている画像が映し出される。
しっかりと目を両手で隠して伏せているレキ君は妙に可愛い。
ウィンドウの真ん中にレキ君が映っていて、ウィンドウの端には小さなレキ君が様々なポーズを取っているボタンのようなものがある。
これらを順に押してみると真ん中のレキ君が次々にポーズを変えていく。
正直こんな魔術は見たこともない。
タッチパネルみたいなウィンドウもそうだが、そのウィンドウに映し出されている画面はかなりの精細を誇っており、まるでクティが描いているかのようだ。
だがクティは何もしておらずウィンドウの画面は魔術によって描かれているのがわかる。
ポーズ変化のほかにも縮小拡大も可能で魔石生成の場所はレキ君の体をタッチすると出来るようだ。
1度レキ君の額をタッチしたあと確認のウィンドウが小さく開き確定させる。
【クティ、すごいよ! すごすぎて言葉にならない!】
「にへへ~。でしょでしょ! でもまだまだこんなもんじゃないんだよ!
まだ魔石生成の場所を選んだだけだからね!
次は魔石を排出してみよう!」
【え……もう排出できるの? まだもふもふもしてないし】
「もーまんたい!
れっつはい☆しゅつ!」
またもやくるっと周って背を向けたちっこいさまが背を反らして先ほどと同じポーズを決める。
あれほど反ってしまうと呼吸も難しいものだがクティにとってはなんてことはないようだ。
【よ、よーし。ポチっとな!】
最初の画面に戻っているウィンドウの魔石排出をタッチするとレキ君が一瞬ぶるっと震えて設定した額と同じ位置からポロッと何かが落ちた。
「わふ?」
【おぉ……】
「ふふふーん!」
床に落ちて小さな音を立てた物体は小さな小さな魔片だった。
だが小さすぎて自分の小さな手の指の先ほどもないくらいだ。
念の為レキ君を観察してみると別段異常はなく、健康そのものだ。深層領域もじっくり観察したが異常はない。
「まぁ強制的に排出しただけだから魔力もほとんどない魔片としても使い物にならないものしかでなかったけどねー」
確かにクティの言う通り、レキ君の額から排出された魔石……魔片には魔力がほとんどないものだった。
最初にレキ君から取れた魔石のような周りの魔力を吸収するような素振りも無く今にもなくなってしまいそうだ。
【クティ、魔石に魔力を溜めるにはどうしたらいいの?】
「今まで通りレキをもふってやればいいんだよ!
私の魔術でレキに与えられる魔力で余剰分は全て蓄積設定された場所以外にはたまらないようになってるし、レキに悪影響を与える要素は全て排除したからね!」
やはりクティはすごい。
魔石を取り出せるようにしているし、その際にレキ君へ悪影響を与える要素も全て排除に成功しているというのだ。
レキ君から取れた魔石は実の所通常の魔片よりも遥かに魔力の蓄積量が多いので魔道具として利用するのにすごく有用だ。
でもそんなことのためにレキ君に命を賭けさせるような真似は絶対にさせたくない。
でもこれなら魔石の量産だって出来るかもしれない。
「最後の魔石蓄積状況はこんな感じ。
やっぱりさっき排出したからまだ0%だねぇ~」
ウィンドウを操作して魔石の蓄積状況を表示させたクティがウィンドウをぺしぺし叩きながらが言っている。
そういえばこの触れるウィンドウというのもすごい魔術だ。
ウィンドウに画面を映し出しているのも魔力を微細に操作して行っているのだろうし、是非とも解析しなければ。
応用すれば様々なことが出来るだろう。広がりまくる構想が際限なく大きくなっていく。
「――リー、リリー!」
「ふあ……にゃ、にゃに?」
「や~……。目がキラキラしちゃっててすごく何か色々考えてるのはわかったんだけどね。
とりあえず実験だけ先にさせてくれないかなぁ~と」
【う、うん、ごめんね? クティの魔術に使われている技術がすごすぎて応用したら出来そうなことが次々浮かんじゃって……えへへ】
「うぉぉぉぉ……超可愛い! 何この可愛い生物!
リリーかわうぃー!」
【それでどんな実験?】
「よっしゃー今から説明するよー!」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
クティに付き合ってレキ君を主にもふりまくって実験をしつつ、魔石の蓄積状況や場所によるレキ君への影響の差などを色々と調べまくってみた。
その全てでクティが言い切ったように悪影響が出ることはなく、逆に頭部、特に額の近くで蓄積させるとレキ君の計算能力が向上しているのがわかった。
蓄積させる量を増やせば増やすほどレキ君の計算能力が加速度的に伸びていくのがすごい。
でも基本的にもふっているのでレキ君は気持ちよくなってしまって計算させるのが難しくなっていく。
最後の方ではぐったりと伸びてしまって今日はもうこれ以上は無理だということで終了と相成った。
「いやぁ~有意義な実験だったね!」
【レキ君の計算能力が5桁同士の掛け算を一瞬で解けるレベルになったのは驚愕だったけどねぇ~……】
「でも計算能力だけっていうのがものすごい限定的すぎて……ねぇ~」
【そうだねぇ……他には体の各所に複数の蓄積場所を設定させると分散しちゃって蓄積させるのがゆっくりになったりするのを任意に処理できたりしたらいいかも~】
「ほほぅ。確かにそうだねぇ~」
改善点の洗い出しなどをしながらぐったりしているレキ君のお腹をなでなでしてあげる。
もちろん止めを刺すわけではないので魔力を纏わず手櫛で優しく、だ。
ただやはり問題もないわけではなかった。
もちろんレキ君の体への悪影響は皆無だったが、そこそこの量を蓄積させた魔石を排出させたところその魔石が最初の魔石同様周囲の魔力を吸引する因子をもった魔石になってしまっていたのだ。
とりあえず厳重に封印しておいたが、サニー先生に連絡を取って対処法が見つかったかどうか早急に聞かなければいけないだろう。
そしてすっかり忘れていたが『ステータスオープン』という言葉を確かにクティは生前の言葉で言っていた。
魔力の時と同様に生前の言葉で、だ。
【ねぇ、クティ】
「うん? なんだいマイハニー! チュッチュしてほしいのかい!」
【それは後でね?
今は聞きたいことがあるんだ】
「なんだい! なんでも聞いてくれちゃっていいんだよ!
スリーサイズから足の指の長さまで全部答えられるよ! もちろんリリーのスリーサイズだってばっちりさ!
足の指はねっぷり舐めちゃうよ!」
無い胸をドヤァっと張ったちっこいさまに差す後光がなんとも頼もしい。
きっとクティならば自分の疑問に応えてくれる。
自然と綻ぶ口元と共に魔力文字を書き出した。
レキ君で作れる魔石が操作できるようになりました。
さすがはクティです。
でもまだまだこれだけではなかったのです。
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