外伝21,専属メイド――ニージャの誓い
本編に出てこないような設定が一部出てきます。
そういうのが嫌な人はブラウザバック推奨です。
この誓いをリリアンヌが知る事はありません。
最近おかしな魔道具がやたら増えてきたクリストフ家次女――リリアンヌ・ラ・クリストフ専属メイドの1人――ニージャの部屋にはいつものように専属全員が集まっていた。
部屋の主でもあるニージャは普段の半眼無表情とは違い、半眼はそのままに口元はゆるゆるとしていて非常に不気味だ。
ついでに彼女の熊耳も心なしか誇り高く輝いている。
だが他の3人は彼女がなぜこんな不気味なほどにニヤニヤしてしまっているのかは大体ではあるが察しがついていた。
不気味でなるべくなら聞きたくないが、それでも聞かなければいけない。自分達もその恩恵にあずかれるのならばニージャの不気味さなど無視できるほど彼女達はその先にあるご褒美に目が眩んでいるのだ。
「ニージャ~、いい加減教えなさいよぉ~」
「そうだよーそうだよー。いったい何があったっていうのさー」
「大体察しはつきますけれど、でもその方法は是非とも知りたいですしきっちり全部吐いてくださいね!」
「……ミラも言うようになった」
緩い口元から発せられるゆるゆるとした言葉とは裏腹に声音は底冷えするほど冷たいが言われた本人であるミラはもう慣れたのか、それとも敬愛する主であるリリアンヌからのご褒美の為に勇気を振り絞っているのか、しっかりとニージャの目をみつめたままだ。
ただやはり背筋には冷たい汗が流れている事からどうやら後者であることは間違いないのだろう。
「そういうのはぁ~いいからぁ~」
「そうそう、ミラのお仕置きは後にして早く教えてよー」
ジェニーもラクリアも待ちきれないとばかりにニージャに詰め寄っているが、当のニージャは焦らせるだけ焦らすつもりなのか口元のニヤニヤが増している。
「……フフ。知りたい?」
「「「もちろん!」」」
3人の声がハモり、それに満足したのかニージャがゆるゆるの口を開く。
そしてそこから齎された事実は3人を落胆させるには十分な内容だった。
何せニージャがとった行動は主を欺くという決して褒められる内容ではなかったからだ。
だが3人は落胆と同時にさすがニージャ、とも思っていた。
ご褒美のためならそのご褒美を与えてくれる主すらあっさりと欺くという豪胆さ。
そして嘘泣きという簡単そうで割と難しい手段を魔道具を使ってあっさりと実行する手腕。
その魔道具も当然改造の得意な友人に頼んだ物だという。
普通に薄めた刺激物を使っては万が一にもリリアンヌに影響を与えてしまったら取り返しがつかないのでそんな危険は絶対に冒せない。
さすがのニージャでもソレをするのは不可能だった。
最悪首が胴体と離れる事になるし、軽くても専属は確実にクビになる。
だが魔道具ならばリリアンヌに決して影響を与える事はない。もちろん細心の注意を払って改造してもらうという前提はあるが。
「……フフ。……フフ。……フフフフフ」
「嘘泣きのぉ~練習しようかしらぁ~……」
「目潰しを軽くするとかどうかな?」
「加減が難しいですよぅ……」
4人も女性が集まっている小さな部屋ではとても姦しいとはいえない内容の会話が休憩が終わるまで繰り広げられたのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
翌日。
またもや魔道具の散乱するニージャの部屋にて4人は集まっていた。
だが昨日あれほどニヤニヤしていたニージャは今は部屋の隅っこで体育座りをしたまま凄まじいほどの陰を背負っている。
ラクリアはニージャのベッドに突っ伏して枕で頭を隠してさえいる。枕から飛び出ているウサギ耳もなんだか普段よりも力がない。
他の2人はといえば心此処にあらずといった表情でボーっと天井を見つめているかと思えば時折蕩けた表情をして体をくねらせている。
普段は意識的に動かさないようにしている耳や尻尾も今は完全に意識の外にあり、表情に合わせて狼耳が忙しなく動き、ミラの尻尾ははちきれんばかりに振られたかと思えば毛を逆立たせてピンと立ってはへにゃりと倒れたりしている。
ジェニーも同様に狐耳を頻繁にピクピク動かしては尻尾がわっさわっさと揺れまくっている。
普段の彼女達では絶対に見れない光景に、誰かが見れば混沌としたこの部屋はさぞかし困惑する不思議空間に映った事だろう。
「うぅ~……うぅ~……」
枕で頭を隠し、バタバタと足をばたつかせるラクリアはもし表情を確認することが出来ればその顔は羞恥心でいっぱいだろう。
なんともいつまでも治まらないこの羞恥地獄は彼女の鉄のような平常心を完全に打ち砕き続ける破壊力を今も尚、示し続けている。
だがそれでも毎日の日課であるこの報告会という名の女子会には参加してしまう。悲しい性だろうか。
惚けた表情で天井を見つめては体をくねらせている2人は理由はわからないが突然たっぷりと与えられたご褒美を今も尚反芻しては快感の余波を味わい続けている。
普段よりもたっぷりと与えられたご褒美は彼女達の思考を完全に打ち砕き、ついでに腰も砕いてしまっていて今日はまったく仕事にならなかった。
例えそれがニージャのお仕置きのために与えられたモノだとしてもご褒美はご褒美。
彼女達にとって至福であることには変わらない。
それに昨日ニージャがやったことはお仕置きで済んだのが奇跡なくらいの事でもあったため、自業自得という思いもあったのでニージャに対する同情は一切なかった。
いや普段のご褒美なら多少は同情するだけの余力が残っただろう。
今回のご褒美がたっぷりすぎたので何も考えられないくらいに余力が残らなかったのだ。
「はふぅ~……。あふぅ~……」
くねらせる体と漏れる吐息が艶かしいを通り越して、すでによくわからないものになってしまっているが彼女達の表情は至福そのものなので問題はないだろう……たぶん。
羞恥に悶える1人と幸せそうな2人とは最早比較にならないほど沈んでいるのは自分の部屋だというのに隅っこで灰になっているニージャだ。
彼女は逃げる事も許されずに数年間休むことなくひたすらに自我を崩壊させられるような拷問を受けたような有様で凄まじい陰を背負ってしまっている。
特に意識してもほとんど動かないニージャの熊耳もはっきりとわかるほどに萎れている。
昨日はそれはもう自分が貰えるご褒美が誰よりも近づいた事に悦に入っていたというのに今日起こった出来事は完全にニージャにとって青天の霹靂であっただろう。
バレるはずがないという確信があったにも関わらず、実際に昨日はそれはもうニージャの計画通りに事が運んで大成功を確信することができたのだ。
だが一夜あけてリリアンヌから齎された言葉と行動は完全に彼女の心を折った。
自身の完璧ともいえる計画と行動に伸びに伸びていた鼻は根元からばっきりと圧し折れ、齎された絶望は今まで味わった地獄など生ぬるいと確信させるには十分なほどだった。
完全に拘束された状態で自分に与えられるはずだったご褒美をただひたすらに見せ付けられるだけという。
ご褒美のためならどんな手段でも取るだろう、いや実際に主を欺くという専属メイドとしては明らかにご法度な自身の命すら危うくする行動すら躊躇なく取ってしまうほどのニージャにとって、それは最早言葉に表すことが出来ないほどのものだった。
結果として、普段の4倍から6倍ものご褒美を視線を外すことすら許されず、ただただ見せ付けられるだけという生殺しを味わわされ、彼女は灰になった。
ベッドでは未だ羞恥に悶え続けるラクリア。
腰が砕けて動けず床でご褒美の余韻を味わい続けているジェニーとミラ。
部屋の隅では巨大な陰を背負って完全に心が折れてしまったニージャ。
本日はすでに仕事にならない各人には休息が言いつけられている。
それぞれが力尽きて眠ってしまうまで混沌とした空間は存在し続けた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
さらに翌日。
なんとか持ち直したラクリア、ジェニー、ミラの3人だったがニージャは無理だった。
それを予想していた主であるリリアンヌが直接休むように言いつけておいたため、ニージャは数日間休む事になった。
その後、なんとか復帰したニージャはリリアンヌに対して絶対の忠誠を誓うことになる。
ニージャが立てた忠誠の誓いは以下の通りだ。
リリアンヌを怒らせてはいけない。
リリアンヌに対して不義理を働いてはいけない。
リリアンヌに嘘をついてはいけない。
リリアンヌ本人ですらあずかり知らぬ誓いではあったが、ニージャにとって決して破ってはいけない、自身の命よりも優先される誓いとなった。
忠誠を誓ったニージャではあったが心の奥底にはしっかりと刻まれたお仕置きが鎮座していた。
数日はリリアンヌを見ただけで震えが止まらないような後遺症が残ってしまったが、クリストフ家の専属メイドに実力で選ばれるだけの事はあるニージャだ。なんとか後遺症を克服し、見た目の上では以前と変わらなく平然としていられるようにはなった。
ただやはり、心の奥底ではリリアンヌへの恐怖は残ってしまっている。
今後この恐怖は形を変え、ニージャの中に残り続けるだろう。
彼女が誓った忠誠と共に。
彼女が何度も言っていた『……お嬢様、ぱない』は今と昔ではまったく意味が違うソレになっている事を知っている者は数少ない。
今日もニージャはリリアンヌの専属メイドとして傍にいる。
ニージャが勝手に誓った誓いなのでリリーは知りません。
これからも知る事はありません。
メイド達は意識的に尻尾や耳を動かさないようにしています。
陰に徹する使用人達がぴくぴくわっさわささせていたらあかんということです。
ほんとはぴくぴくわっさわささせたいんですけどね!
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