外伝20,第8章の幻のバッドエンド
本編第8章 4年目 前編 魔術 of サルバルア Part,4の次に挿入されるはずだった幻のバッドエンドです。
重いです。
重いのが苦手な人やバッドエンドが苦手な人はブラウザバックを推奨します。
【レキ君耐えて! 大丈夫だよ、レキ君なら……レキ君なら耐えられるよ!】
「ぐるるるる」
レキ君の異常に強化された四肢を完全に拘束する魔術が今にも引き千切られそうだ。
2級の拘束魔術を2桁展開しているというのにまたかけなおさないといけない。
【ごめんね……本当にごめんね……レキ君……ごめんッ!】
「ぐるがああぁッ!」
拘束魔術をさらに追加し無理やりにレキ君の四肢を縛り付ける。
こうしなければレキ君は力の限りを尽くして暴れてしまうだろう。
今のレキ君にかかればこの広いレキ君ルームでも一瞬でガレキの山になる。
周りを隠蔽空間と結界魔術で完全に隠してはいるけれど、拘束が解かれたレキ君なら一瞬で打ち破ってしまう。
今のレキ君は手加減など一切することができない状態だ。
例え主人である自分が相手でも躊躇することなく牙を剥くほどの酷い精神状態なのだ。
「ぐがあぎゃああああ」
レキ君の咆哮とも泣き声ともつかない叫びが隠蔽空間内を埋め尽くす。
この叫びにすら魔力が篭り障壁なしでは精神が異常をきたすほどの威力が込められている。
今のレキ君は行動すべてに破壊行為が付きまとっている最悪の状態なのだ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
事の発端はレキ君の魔力溜まりを除去し終わった所まで遡る。
「では私は一旦研究所に戻ってコレを調べてくる」
【お願いします、先生】
「あぁ任せろ。私が戻ってくるまでにクティは例の魔術を完成させておけ」
「任せてよ、すぐに作っちゃうんだから!」
【よろしくね、クティ】
「お任せアーレ!」
サニー先生が世界の隣の森の魔術研究所に戻ってまで調べる物とは当然レキ君から取れた魔石(仮)のことだ。
この魔石(仮)は迷宮で取れる通常の魔石とは違い、凄まじい量の自分の魔力で出来ている。
そして1番の問題は通常の魔石のように魔術を封じる性質が行き過ぎていて魔術自体を解体して魔力を吸収する性質があるということだ。
この性質により触れないように覆った断絶空間を吸収して破壊してしまったほどだ。
吸収して破壊するまでに時間がある程度かかることから防御結界の魔術を3桁単位でクティと一緒に展開してやっと持ち運びできるようになった。
4桁の年数を生きるサニー先生ですらこんな魔石は見たこともなく、現状では調べるにも限界があるために設備の整っている研究所で調べる事になったのだ。
当然ながら自分への授業はお休みだ。
その間にクティはサニー先生から頼まれた魔術を作成する。
作成する魔術は今回のような魔力溜まりを安全に除去するための専用魔術。
今回はクティが生命維持魔術を多用し、魔力の量を実際に見ることができる自分が魔力を吸収するという危険が伴う方法で行った。というかそれしか方法がなかった。
だがこの方法では魔力の吸収量を少し間違えただけで命の危険が伴う。
しかしクティならばもっと安全で効率の良い魔術を構築することができる。
すでに必要になる理論も構築法もクティの中では出来上がっているようであとは実際に作り上げるだけだ。
だがいくらクティでも短時間で魔術を構築することはできない。
クティには魔術構築に専念してもらい、その間にサニー先生は魔石(仮)の調査を行う。
自分はというと、レキ君へ毎日行っていたもふもふを中止し、それに伴う禁断症状のフォローを行う事にした。
レキ君には酷な事だと思うがクティの魔術が完成するにも時間がかかるし、何かのイレギュラーでまた魔力溜まりが出来てしまったら今度こそ命に関わる。
「では行ってくる」
【いってらっしゃい、先生。よろしくお願いします!】
「いってら~」
クティの次元間通信魔術ですでに連絡は取ってあるからいいが、普段はあちら側の判断でしか世界の隣の森への出入り口は作れない。
その出入り口も場所が限定されるので、この場でというわけにもいかない。
サニー先生を見送って、クティもしばらく会えなくなるのでたっぷりとスキンシップを取ってから魔術構築のために自らの無意識領域へと入る。
ベトベトになってしまった顔をハンカチを取り出して拭いた後不安そうにしているレキ君にこれからのことを説明する。
説明を聞いてもレキ君は禁断症状のきつさを理解できないようで首を傾げていた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
レキ君の脱もふもふ生活が始まった。
1日目。
レキ君は至って普段通りの精神状態、肉体状態のまま平穏無事に過ごす事ができた。
1日程度ではもふもふを求めるようなこともない。
勉強の時間も魔術の時間もなくなったのでたっぷりと遊んであげるだけでこの日は終わる事が出来た。
ちなみにレキ君へのお勉強も中止だ。
この日からレキ君ルームで寝泊りし、食事も一緒に取り、お風呂もトイレもずっと一緒にいることにした。
2日目。
お昼を過ぎた頃からレキ君の調子がおかしくなり始めた。
忙しくなく立ったり座ったり、歩き回ったりしてとにかく動き回るようになった。
話しかけてもイライラしているようですぐにそっぽを向いてしまう。
それでも遊び道具をちらつかせて運動してなんとか発散させてあげると落ち着くことができたのでなんとかなった。
3日目。
2日目と同じような状況だが運動してもあまり効果がなくなった。
食欲もなくなり、イライラが酷くなった。
だがまだ自らの意思で抑えられるレベルのようだ。
4日目。
イライラから遊び道具を全て破壊された。
魔力の流れも淀み出して健康とはとてもいえない状況になりつつある。
声をかけると唸ったり吠えたりはしないものの怒りの篭った瞳をぶつけてくる。
5日目。
床のあちこちに破壊箇所が出来た。
まだ修復可能な領域だったので破壊される度に魔術で直して事なきを得ている。
レキ君は見て分かるほどに酷い状況だ。
瞳には怒りしかなく、震えが止まらない。
見ているこちらも辛い。
6日目。
予め張っていた防御結界の1枚がレキ君に破壊された。
その時のレキ君はもうすでに自身を制御できなくなっていた。
泣きながらもレキ君を拘束するが、全力で抗うレキ君にあっさりと拘束魔術を破られる。
さらに防御結界を全て破壊されてレキ君の魔術で異常に強化された牙がクティが張ってくれているオート防御結界で止まると同時にレキ君は昏倒した。
何もできない自分に代わって魔術構築を一旦中止したクティが通常では考えられない威力でレキ君を攻撃した結果だった。
7日目。
内臓にまで届くほどのダメージを負ったレキ君だったが、すぐにクティが治したので命に別状はない。
ただその日からクティは一言も話すことはなく、魔術構築と同時進行でレキ君を監視し始めた。
自分を本気で殺そうとしたレキ君に対して何もできなかった自分には何もいえない。
8日目。
レキ君は敵意と殺意を撒き散らしながら周囲の全てを破壊せんと暴れた。
全力で動くレキ君は視認できるスピードではなかったが、クティの鎮圧速度はそれを遥かに上回り、被害はレキ君が動く度に粉砕された床だけだった。
すぐに床は修復されたが、レキ君が負った怪我は昨日の比ではなかった。
その怪我もクティが無言で治したがその後に使った魔術には目を疑った。
クティはレキ君を完全に凍結させようとした。
慌てて止めたが、止めなければクティは本気でレキ君を凍結させて仮死状態のまま封印するつもりだったようだ。
9日目。
覚悟を決めた。
レキ君を今自分が使える最大の拘束魔術で常時拘束する。
暴れ狂うレキ君に届かないとわかっていながらも励まし、怒りと敵意と殺意しかない瞳を正面から受け止める。
自然と涙が溢れて視界が悪いが拘束魔術は加減することなく何重にも展開されていく。
抗い続けるレキ君を無理やり押さえつけ、身動き1つ取れないように完全に拘束した上で更にその上から何重にも拘束魔術を展開させる。
今のレキ君はこうでもしなければ自らの体を損傷させても拘束を破ろうとする。
破って自分を殺そうとし、クティに殺される。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
14日目。
クティの魔術が完成した。
その魔術は当初の予定の魔術とはまったく違ったものとなっていた。
対象の魔力を設定し、その魔力を完全に安全に除去するという最初の構成とは違い、対象の魔力とその魔力がほんの少しでも残る部分を全て除去するという、とても安全とはいえないものになっていた。
完成した魔術の違いはクティが何も言わずに行使し始めた事により、その解析結果から得られたものだ。
【クティ……どうして……】
「もうレキはだめだよ。このままじゃリリーにいつか被害が及ぶ。
これでだめなら殺すよ」
【クティ……お願い……やめて!】
「この魔術がうまくいけばレキも元に戻るよ」
確かにこの魔術がうまく機能してくれればレキ君は元に戻るだろう。
自分のもふもふ――魔力の影響で禁断症状が出ているんだから、その原因が取り除かれれば禁断症状は起こらない。
だがこの魔術は魔力がほんの少しでも残る部分も全て除去するようになっている。
それは魔力だけに留まらず肉体にも及ぶ。
レキ君の体ですでに自分の魔力の影響を受けていない所はほとんどない。
つまりはレキ君は元に戻っても結局死ぬ事になる。
クティはここ数日一切口も聞かず、魔術構築とレキ君の監視と鎮圧以外をしていない。
クティは本気で自分以外には一切躊躇することなく、その命ですら奪う事ができる。
例えそれがレキ君でも自分に牙を向けた時点ですでにクティの中では線引きがなされたのだ。
どうすればいいのか。
どうしたらいいのか。
もうすぐクティの魔術が完成する。
刹那の間に満たない時間で自分に出来ることは何なのか、絶望に止まりかけた思考が動き出す。
切り替わった視界。
そこは頭上に術式が漂う、床ばかりの空間。
頭上に漂う術式を掴むように捉えると、目の前にウィンドウが出現しその術式が刻まれる。
何度ソレを繰り返したか、もう覚えていない。
だがクティの魔術が完成する一瞬前にソレは完成した。
視界が切り替わり、最後の術式が構築される前に発動したソレは美しくも大胆で荘厳な術式を瞬時に塗り替えて、魔術を発動させた。
驚きに見開かれるクティの大きな瞳。
レキ君に向かって行使された魔術は対象となる魔力とその魔力がほんの少しでも残る場所の完全な除去。
だが自分の作り上げた初めての新たな魔術がその効果を変えた。
レキ君の体の全てに行き渡った術式がレキ君を構築する全ての魔力に浸透し……全ての魔力を消し去った。
この世界――オーリオールで魔力を持たない生命体は存在しない。
逆説的に魔力を持たない生物は生きることができないことを証明している。
生前の世界と今世の世界は違うのだ。
全ての魔力を消失したレキ君は当然死ぬ。
だが書き換えられたこの魔術はコレで終わりではない。
消失した魔力の代わりにレキ君の肉体情報を元にした魔力が生成される。
魔力は世界に溢れている。
自分の魔力を見ることが出来る濁った瞳にも映ることがないほどの細かい粒子となって溢れている。
溢れているけれどそれを活用するにはいくつもの工程を踏む必要がある。
今はそんな工程を踏んでいられるほどの時間はなかった。
だから簡単に使える自分の魔力を使う必要があった。
だが自身の魔力を用いて、他者の魔力を生成するという行為は他者に魔力を分け与える行為とはまったく違う。
魔力を分け与えては今までと同じだ。
だからこの手は使えない。
だから魔力を新規に生成することにした。
例え最低限必要な魔力の生成に対して自分の魔力を根こそぎ全て使う必要があったとしても。
視界が暗転すると同時に確信する。
レキ君はコレで助かる。
クティの声が遠くに聞こえた気がした。
本編では決してありえない展開です。
ですがレキ君の自身の攻撃力は本来このくらいはあります。
クティの決断は苦渋の決断ではありますが、どちらを取るかといわれればリリーを取るのには躊躇がありません。
まぁ幻の話ですので本編とは一切関係ありません。あしからず。
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