150,エピローグ
「あらよーっと」
クティが自ら新たに作った魔術の2度目の行使は1度目の行使に比べて凄まじい短縮速度になる。
自身が1から作ったとはいってもやはり1度目の行使というのはその魔術が世界で始めて実際に構築されるということもあり、慎重になるものだ。
特にクティの作る魔術というのは既存の魔術を遥かに上回るものばかりなので失敗すると大変なことになる。
とはいってもそこは世界の隣の森の最高の魔術師。
無意識領域での作成段階で何度も何度もシミュレートされたものであり、彼女の知識と経験は最早深淵の領域といっても過言ではないのだ。
新たに追加された術式は当然他者の精霊力を燃料にするという、次元間通信魔術の時に追加されたものと同じものなので素早く追加が完了されている。
1度目にかなりの時間をかけて行われた魔術の行使が物の数秒で終わってしまうのは、あの奇跡としかいえない世界の誕生のような術式の展開が短い間しか見れなくてちょっと寂しくもあった。
だが魔術は術式を構築展開し、完成してこそ魔術なのだから仕方ない。
圧縮された術式が球体を描いてクティの小さな手の平の上に漂っている。
普通はこの段階になると魔術はその効果を発揮している物なのだが今回はそういう魔術ではないのでまだ待機状態だ。
1度目の術式構築は圧倒されていたのもあって分析がほとんど出来なかった。
かろうじて前回と同じく魔力が足りていない事がわかっただけだ。
なのであの待機状態から次に何が起こるのかはまったくわからない。でも球体となった術式は中を見通すことが難しいほどに術式で埋め尽くされており、さらにはソレが完全な形で安定している。
次元間通信魔術の時に必要とした自分の精霊力のおよそ30倍の量を必要としたこの魔術だが一体どのような魔術なのだろうか。
【クティ】
「うん。レキ!」
「わふ?」
クティの手の平の上から移動した魔術がレキ君の頭の上にまで移動すると、レキ君が不思議そうにその魔術を見上げる。
この魔術はレキ君のために作られた魔術なので使用対象者は当然レキ君だ。
新しい魔術だし、すでに術式の構築が終わり発動している段階なので説明よりも実地で効果のほどを見せるつもりのようだ。
【レキ君、大丈夫だよ。クティがレキ君のために作った魔術なんだから心配しないで】
「わふッ」
【……そうだよね……レキ君の言う通りだ。
クティを信頼しているんだから怖くなんてないよね】
それでもやはり新しい魔術なので不安もあるだろうとレキ君に心配いらないと伝えようとしたらレキ君の返事はコレだ。
そうだよね。レキ君だってクティを信頼しているんだから。
「そいじゃいくよ~」
「わふん!」
いつでもこい、というレキ君の返事を合図に頭上で待機していた魔術がゆっくりとレキ君に降下し、彼の中に入っていった。
【れ、レキ君、苦しくない? 大丈夫?】
「大丈夫大丈夫。体の中に浸透するまではまったく物理的な作用はないから」
【そっか……】
「わふ~」
レキ君の魔力の流れは通常通りで深層も変化がない。
いや、変化がないわけではなかった。
クティの魔術がレキ君の心臓より少し下辺りに到達した時からゆっくりと分解されて消えていっている。
レキ君自身はまるでお風呂にでも入っているときのようなリラックスした声を発しているし、世界で初めて行使された魔術なのだからと心配してしまう自分がバカらしくなってくる。
そんなことを頭の片隅で思考しながらも分解されて魔術がなくなるまではあっという間だった。
「よし、きちんと浸透したみたいだね。でもこれからが本番だよ!」
【これで終わりじゃないの?】
「もちろんだよ!
次はレキを思いっきり可愛がってあげて! 圧縮率は出来るだけあげていいよ!」
【う、うん。わかった】
「わ、わふぅ?」
よく考えなくてもクティの作った魔術が魔力溜まり対策であるのだからこれでおわるわけがない。
しっかりと実験して効果を確かめなければいけないのだ。
自分の手に圧縮された魔力が纏われるとレキ君が一瞬嬉しそうな、でもすぐに緊張したように固まりか細い声で疑問を呈してくる。
今じゃなきゃだめ? という彼の声に首を振って拒否は不可能と伝えてあげると観念したようにお腹を見せて降伏のポーズを取った。
クティは魔力の圧縮率を出来るだけあげていいとはいったが、自分はびびりなのでそこまであげて試せない。
クティを信頼していないわけではなく、アクシデントやイレギュラーというものはどこででも着いて回るからだ。
もし何かしらの不具合でレキ君に何かあったらそれこそ悲しみに暮れる事になる。クティを信頼しているがレキ君も大事な家族なのだ。
【いくよ~】
「わ、わふふひぅ!」
纏った圧縮魔力をそこそこの圧縮率でもふもふを開始する。
いつでもレキ君の毛質は最高だ。
魔力溜まりとかそんなのを気にしないでもふれるのならずっともふっていたくなるほどの極上の心地だが、今はそういうわけにはいかない。
もふった箇所から浸透していく魔力だが、いつもの浸透の仕方と比べてもかなりおかしい。
まるで導かれるように一箇所に集まっていっている。
今までは1番近い魔力の流れに吸い取られるようにされて一体化していたのに、新たに作られた流れに乗ってどこかに集まろうとしている。
もちろん全てというわけではない。一部は今までどおりにレキ君の通常の魔力の流れに吸収されている。
だがレキ君の反応はいつも通り。
そこそこの圧縮率でもふったときのように一瞬でレキ君の許容値を振り切ってしまった感じだ。
対象への快楽をそのままに自分の魔力での変質を抑えるために魔力を誘導しているのだろうか。
でもこれでは魔力溜まりをわざと作ろうとしているとしか思えない。
圧縮魔力が誘導されていっている場所はレキ君の額。
あの位置は魔石が排出された場所だ。
【く、クティ……まさか】
「むふふふふふ。うまくいってるみたいだね!
そのまさかなのだよ! さぁもっともっとレキを可愛がってあげなさい、リリー!」
クティの意図――魔術の効果が大体分かってきた。
圧縮率を少しずつあげていき、レキ君への害がなさそうなのをしっかりと確認しつつどんどんもふっていく。
ただ残念なことに魔術の効果テストという現状では夢中になって貪ることはできない。
レキ君が何度もビクンビクンしているがこれも実験のためだ、仕方ない。
ゆっくりとゆっくりと圧縮率をあげていく。
レキ君はもうずっと快楽の渦の中で茹蛸のように茹で上がってしまっている。
額に集まっている魔力がかなりの量になった段階でクティから終了の声がかかった。
どうやら一定量を溜めるだけでいいようだ。
てっきりそのまま自動で何かが起こるのかと思っていたが違うようだ。
「うんうん、十分溜まってるようだね。
さっすがリリー。この量をこんな短時間で溜められるなんてさすが私のパートナーだよ!」
【ありがとう。でもこれからどうするの?
安全なようだけど、これって魔力溜まりだよね?】
「そのとぉ~り! 人為的に作り出した魔力溜まりだよ!
でも大丈夫。この魔力溜まりには体内に影響を与えるようなことはできないようになっているのさ!
そのための術式の構築にものすっごい時間かかったからね!」
クティの作り出した新しい魔術は、やはり魔力溜まり関連ではあったがまさかの人為的な魔力溜まり作成だった。
当然ながらレキ君を瀕死に追いやった体内への影響は全て取り除かれてはいるようだけど一体どうやっているのかはまるで検討もつかない。
時間があるときに術式の解析をしてみようとは思うが、さすがはクティだ。
恐らく理論的なものはサニー先生が組み上げたのだろう。あの人ならやりかねない。
だがそんな理論を聞いただけで魔術にしてしまうクティは間違いなく最高の魔術師だろう。
「さぁ、まだまだコイツの真価はこれからだよ!
『ステータスオープン!』」
「へ?」
改めてクティのすごさを実感していたら、なにやらとても聞き覚えのある言葉が聞こえた気がした。
ついにクティの魔術が発動です。
レキ君の額から取れた魔石ほどの量ではないですが、そこそこの量の魔力溜まりが出来ています。
これで第8章は終わりです。
次回からはいつも通りに外伝を投稿していきます。
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