147,魔術 of エリオット
「よくぞ参られた我が天使よ! まずはコレを……」
「ありあとぉ~」
恭しく跪いたエリオットから贈られた品は自分の両手を合わせたよりも大きい箱に飾られたネックレスだ。
ネックレスの装飾は緻密で美しく、中央にどこか可愛らしさを残しつつも荘厳な雰囲気を醸し出している狼が鎮座している。
ネックレスの入っている箱にも美しい装飾が施されており、こちらは狼ではなく数多くの動物達が彫られている。
「れきくんぅ~?」
「はい、我が天使が毎日のように可愛がっておられる彼のサルバルアを模したネックレスです。
気に入っていただけましたか?」
「あい!」
割と大き目のネックレスが入っている箱なのに自分でも軽々と持てるのは、見えていることからわかるようにこの箱自体が魔道具だからだ。
ネックレスも身につけていなくても見えることからこちらも同様だろう。
「我が天使、このネックレスには大地の癒しが封じられています。
万が一にもないことではありますが、お怪我をなされたときにご使用ください」
「あい」
「……え、エリオット殿……あとで話があります……」
「断る」
「あ、あなたはまた……!」
エナとエリオットがまた口論を始めている。
まぁ理由が理由なので仕方ないだろう。
エリオットからプレゼントされたこのネックレスには大地の癒しという魔術が封じられている。
エリオットの補足によりわかっているように大地の癒しとは第1級魔術の中でも高難易度中の高難易度魔術――回復魔術だからだ。
オーベントで第1級の回復魔術は希少中の希少なのはいうまでもないだろう。
なんせたった1人しか使えず、しかも高齢で今現在は日に1度使えればいい方だからだ。
エリオットは第1級魔術師としてオーベント王国でも正式に認められてはいるが、王宮との繋がりなど皆無に等しい。
そんな人脈のなさで希少な回復魔術を使える人間国宝とも言える人に会えるわけがない。
もし面会が叶ったとしても魔道具として回復魔術を封じてもらうには様々な手続きをして数ヶ月単位での体調調整をした上でなければならないためまず不可能だ。
そうなるとこのネックレスに封じられている大地の癒しは誰が封じた、という事になる。
クティやサニー先生が協力するわけがない。
もちろん自分もやるわけがない。今日工房に訪れて渡されて初めて知ったのだから。
今までのエリオットのことを考えれば自ずと答えは出てくる。
リズヴァルト大陸でも最も希少とされる魔術を習得したのだろう。おそらくこのネックレスを彼が言う所の我が天使へと贈るためだけに。
エリオットは他の第1級魔術習得も自分のためだけに行っている。
普通は1つでも習得できれば歴史に残る魔術師であるのに彼はまた1つ第1級魔術を習得したのだ。
エナが痛む頭を抑えて声を荒らげているのもわかるというものだ。
しかもそれなりにある第1級魔術の中でも需要がもっとも高い魔術なのだから余計に。
まぁネックレスをもらった本人としては封じられた魔術よりもこのレキ君を模した精緻な細工の方が興味深い。魔術は自分で使えるんだから別にどうでもいいのだ。
エリオットのチョイスはコスプレセットだったり、動物達のパレードだったり、レキ君のネックレスだったりまるで狙ったかのように自分のツボを的確に突いてくる。
「きれぇ~」
箱を傾ければ精緻に彫られ、組み合わされた美しくも荘厳なレキ君が様々な顔を見せてくれる。
これがただの動物だったらこんなに魅入られる事もなかったと思う。
やっぱり大事にしているレキ君だからだろう。
自然と笑みと一緒に零れる呟きに口論していたエナとエリオットが息を飲んでいるけれど今は構ってあげられない。
しばしの間溜め息のような吐息と共にレキ君ネックレスを眺め続けるのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ありあとねぇ~えりおっとぉ~」
「我が天使の頼みとあらばいくらでも用意いたしますとも!」
たっぷりとネックレスを眺めて本題である魔片入手をしようと思ったらうっとりとしたエナと滝のように涙を流して跪いているエリオットに気づいた時はちょっと引いた。
すぐに外で待機しているジェニーを呼んで2人をなんとか我に返らせてエリオットの主工房へとやってきた。
そこで魔片が欲しいと言ってみたらすぐさまエリオットが大量の魔片を用意してくれたわけだ。
エナが邪魔をするかと思ったが、魔片自体は魔術が使えなければただの原石に他ならない。
魔道具を玩具代わりにしている自分にとっては今更ということらしい。
それでも角が尖っていたり、形の悪い魔片は全て取り除き、比較的安全で丸みを帯びている物だけが残されている。
この辺はエリオットの配慮で、エナも満足しているようだ。
予想外に簡単に魔片が手に入ってしまったので、魔片に組み込む素材も手に入らないかと思ったのだが、さすがにこの辺はまずいかもしれない。
魔片への素材の組み込みに関しては兄姉と一緒に見学しているから興味があっても不思議ではないが、多少の危険が伴う。
幼児が遊びで行うにはちょっと敷居が高いのは言うまでもない。
なので魔片だけならともかく、素材までとなるとさすがにエナが難色を示すだろう。
というか絶対無理だと思う。
だが自分が素材の組み込みをしてはいけないのならエリオットにやってもらえばいいだけの話なのだ。
エリオットなら喜んでやってくれるだろうし、以前も見学しているのだからエナもダメとは言わないだろう。
「えりおっとぉ~」
「我が天使……」
呼んだだけなのだが何を勘違いしたのかエリオットが瞳をキラキラさせて見つめ返してくる。
「せぇい!」
「む……」
「お~」
「リリー、あんまりエリオットに近づいちゃだめよ」
一瞬だが見詰め合ってしまったのをエナが体を割り込ませるようにして立ちはだかり阻止する。
なかなかの反応のよさだ。
エリオットの不満げな声と自分のぱちぱちと小さな拍手と驚きの声に挟まれているエナは何かの使命感に満ちている。まるで自分を前にした白結晶騎士団の人達みたいな感じだ。
まぁそんなことはいいとして。
「えりおっとぉ~、まへんにそざいまぜてぇ~」
「どの素材がお好みですかな、我が天使」
エナの横からチョコン、と顔を出してエリオットに注文を出すとエナは完全にいないものとしているエリオットが素早く表情を引き締めて、両手の全ての指の間に何やら挟みこんで腕をクロスさせてこちらに見せてくる。
素材は魔力がないものばかりのようで見えないがエリオットの指の間に挟まっているのは8つより絶対多いだろうことはわかる。たぶん全部違う素材なのだろう。
魔片は大量にあるので色々組み合わせてもらうことにしよう。
「いっぱぁ~いおねがぁ~ぃ」
「あいわかった、このエリオット。我が天使のために最高の魔片を作り上げて見せよう!」
「がんばってぇ~」
「……もぅ、リリー……はぁ」
やる気満々で闘志を燃やしているエリオットとは裏腹に疲れたように溜め息を吐いているエナがものすごく対照的だった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
集結したエリオットの部下の魔道具職人達がエリオットの指揮の下、素材を様々な形に加工していく。
自分には見えないがエリオットが指揮している内容からどんな形状に加工しているのかが大体わかる。
加工された素材は部下の人達にはやらせず、エリオット本人が魔片に組み込んでいる。
この役目は誰にも渡す気はないようだ。
エナの膝の上に移動した自分はそれを眺めながら完成を待っている。
指揮している時もそうだが、魔片に素材を組み込んでいるエリオットも職人の顔となっていて結構格好いい。
見惚れるほどではないが、もうちょっとぼさぼさの髪と服に気を使えば誕生日の時のような美青年になるので惜しい気もする。
まぁ自分には関係ないけど。
「我が天使! これは如何かな!」
「ありあとぉ~」
「おぉぉ~……光栄の至り! では次はこれだ!」
1つ出来るごとに職人の顔から褒めて欲しいレキ君のようなわくわく顔に変わって魔片を持ってくるエリオットにお礼をいい受け取る。
お礼を言われたエリオットは感激で打ち震えてから、次の魔片へと取り掛かる。
何度もこのやり取りを繰り返し、魔片がなくなるまでエリオットは飽きずに感激に打ち震えていたのだった。
リリーから見てエリオットにはレキ君に通ずるところがあります。
愛すべき馬鹿は基本的に純真ですからね。
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