142,魔術 of サルバルア Part,2
レキ君の額には両端の尖った六角柱――六方晶系を縦に半分に切ったような物がくっついていた。
今さっきまで確かにレキ君の額にはこんなものは存在していなかった。
確かになかったのに今ははっきりと自分にも妖精ズにも見えるものが存在している。
そう……自分にも見えるのだ。
つまりこれは魔力を持っている。
しかも六方晶系と表現したように形が均一でまるで人工物のようにかなり滑らかに整っている。
レキ君の額に生えるようにして存在しているこのナニカはまるで人の手により研磨された宝石のような印象を受けるのだ。
だが今はそんなことを気にしている場合ではない。
生物であるレキ君にこんな物が突然何の前触れもなく出現したのだ。これは明らかな異常事態。
だがこれがもし何者かの手によるものならばクティが気づかないわけがない。
そのクティは目を見開いて驚いている。
彼女が嘘のリアクションを取る必要性が思いつかない。何かのサプライズならともかく別にこれといった思い当たる節も無い。
サニー先生も驚きと共に興味深そうにこのナニカを見つめている。
2人の行動からして彼女達のサプライズではないことは確かだ。
では一体何なのか。まっさきに思い浮かんだものは病気。
次の瞬間には自分の意識は無意識領域――基部領域にいた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
頭上には夥しい量になった術式群。
テニスコートくらいの大きさの床が無数に点在するこの空間には実は何度と無く訪れている。
「レキ君の健康データを!」
基部領域のアーカイブからレキ君の毎日を記録してある情報から魔力の流れ別にフォルダ分けしてあるデータを一気に引き出す。
次の瞬間には広い空間を埋め尽くすようにウィンドウが出現し、レキ君と初めてあったときからのデータが全て表示された。
1番近くに外の映像が見れるウィンドウを配置して、次は今のレキ君の魔力の流れと似たような流れの情報を検索し数を減らす。
かなり膨大な量ではあるが、保存してある情報自体がすでにかなり分けられているし、比較検索しやすいように情報を細かく整理してあるためそこそこの時間で終わらせられるだろう。
だが基部領域の時間の流れは最初から最大速度に設定されているので時間をかけても問題ないが出来るだけ早く終わらせるために最高速で思考を加速させる。
現在のレキ君の魔力の流れは額に出来たナニカ以外は別段普通に見える。
病気や怪我など何か異なる状態になると魔力の流れは通常とは違った流れや形状になる。
その流れや形状をデータとして保存し、様々な状況やその他の情報などと比較して魔力の流れや形状がどういった状況を示すものなのかを統計学的、あるいは心理学、生理学的に突き詰めている。
突き詰めてはいるが、魔力の流れは人によって違うので全てを完璧に把握できるわけではない。
現に今のレキ君の魔力の流れは正常といえるものだが、明らかに異常事態なのだ。
「くっ! データ上ではレキ君は健康……どういうことなの!? レキ君は大丈夫なの!?」
いつの頃からか基部領域でも生前の姿になることはなくなった。
今の姿が精神的にも馴染んだからなのか、3歳児より少し成長の遅い幼女の姿のままこの領域に立っている。
外の世界ではまだほんの少しの時間しか経っていないだろうが、こちらではその100倍の時間が経過している。
その時間を有効に使い、並列に数多くの情報を比較検索し、レキ君に何が起こっているのか過去のデータから見極めようとした試みは失敗に終わった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「……ふむ。突然出現したというよりはレキの額の奥に埋まっていたのが何かの拍子に出てきたというところか」
基部領域から戻り、入ってきた声はサニー先生の分析の結果だった。
この短時間で先生はどうやらこのナニカの分析に成功しているようだ。どの程度の分析率なのかはわからないが、サニー先生ならきっとなんとかしてくれるだろう。
【先生、レキ君は大丈夫なのでしょうか?】
「君の眼から見てどうかね? 私から見ても異常があるのはこの額の物体のみだ。サルバルアにこのような物体が生えるなど聞いた事も無いからな」
【はい、基部領域で今までのレキ君の健康状態を全て比較してきましたが、魔力の流れや形状からすこぶる健康という判断が下せるかと思います】
「つまりこの物体はレキに害悪を与えるものではない、ということか」
【レキ君の安らかな寝顔を見ても何か悪影響があるようには見えません……。
でも魔力の流れや外見上で影響がないからって安全というわけではありません】
「そうだな……」
魔力はかなり万能に他者の情報を自分に教えてくれる。
だがそれが全てではない事を自分は知っている。
今現在わかっている魔力の流れ、形状の意味は情報を集めた結果だ。
だが自分がいる世界はまだまだ狭い世界でしかない。そんな狭い世界で集めた情報ではどうしても偏りが出る。完璧とは程遠いのだ。
それでも今まで集めに集めたデータからかなりの精度で情報を引き出すことには成功している。
「君の魔力の分析はかなり信頼性が高いとは思うが、他ならぬ君が言うのだからな。安心するにはまだ早いな」
【はい。まずは今分かることを考えましょう】
「そうだな……。レキは今の所この額の物体以外は特に問題がないようには、外見上は見える。
では今ではなく前ならばどうだ?」
【前……ですか。
突然眠ってしまったのは明らかに異常ですよね。それ以前となると……】
突然眠ってしまったのは恐らくこの物体が額に出現したことと関係があるのだろう。
物体の出現に体力を根こそぎ持っていかれたのなら理解しやすい。だがそれはレキ君の異常な体力を強制的に睡眠状態にしてしまうほど奪われた事を意味する。
非常に危険なことであることには代わらない。
「レキの異常か……。特に思い当たる部分といえば……」
「レキの異常といえばアレだよね」
考え込む自分にクティがレキ君の額に生えたナニカをコンコン、と叩きながら言ってくる。
まだどんなものかわからないんだから叩くのは危険だと思うが、クティがやっているんだから大丈夫だろう。
【異常……?】
「うん。だってほらコレが出てくる前のレキってなんか頭良かったじゃん?」
【あ……】
「うむ」
確かにそうだ。
ただちょっと絶好調なだけなのかと思っていたが考えてみればあのレキ君はちょっとおかしい。
今までの勉強の成果が出てきたのか、と異常とは思いたくなかったからか、希望的観測気味にうっかり除外していた。
【つまりこの物体の影響でレキ君の頭がよくなった……?】
「そうだな。レキの処理能力の補助をしたという可能性はあるな」
「まぁだからなんだって話だけど……あ」
「「あ」」
クティがまたコンコン、とレキ君の額の物体を軽く叩くとポロっと取れてしまった。
カン、と少し高い響きで床に落下したその物体に全員の注目が集まる。
「ととととととっととれちゃったー!?」
「どどどどどしゅるのぅ!?」
「……取れたな」
大慌てのクティがムンクの叫びも画くやというほどの絶叫顔になり、驚きのあまり魔力文字を使うのも忘れて声をあげて、しかも噛んでしまった自分。
それとは対照的なほどに至極冷静な先生の声がレキ君ルームに静かに消えるのだった。
無意識領域にはリリーが集めた情報がものすごい量保存されています。
魔術についてもそうですが、家族や専属などの魔力の流れのデータやその時の感情、行動、その他諸々を詳細にわけて保存してあります。
これらに基づき魔力の流れや形状がどういった意味を表しているのかを研究しているのです。
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