140,魔術 of 子育て
レキ君のプライドをへし折りまくったのは自分です。
最初は鼻っ柱の高かったちょっと傲慢な犬っころを従順にしてやろうというか、自分の我慢の限界がきたというか、テオが悪いんです。
その時にちょっとやりすぎたのは正直反省しています。でも後悔はしてません。
それからお勉強もちょっと厳しくやりすぎたかもしれません。
でもレキ君も悪いんです。
ほんとは出来る癖に真面目にやろうとしないから……。
ちゃんと計算が出来れば使える魔術の幅も広がるって何度も何度も教えたのに……。
「ダメな子に自信をつけさせるにはとにかく褒めればいいらしいよ? ナターシャが言ってた」
「あぁ、昨日の音声のみに改良して魔力消費の削減に成功した次元間通信はそれを聞くためだったのか」
「まぁねー。ナターシャは基本的にダメダメだからね。レキの気持ちがわかるみたいだったよ」
【でも世界の隣の森の女王さまなんでしょ? ダメダメなの?】
クティの双子の妹であるナターシャは世界の隣の森で女王様をしている。
といってもやっていることは事務処理らしい。
クティの話では女王とは聞こえがいいが、基本的にはただの役職で別に偉いわけではないそうだ。
本来はクティが選ばれるはずだったのをナターシャに押し付けたという話だし。
「ダメダメだよ。私やリリーみたいに魔術もうまくないし。まぁでも事務仕事は天職だと思うよ。
だから女王やってられるんだし」
【へぇ~そうなんだぁ】
「補足すると女王にも適性が必要でな。その点でクティに適性があったのだが、双子の妹のナターシャにもあったのだ。
知っての通り事務仕事などコイツには合わないからな。なんで適性があったのかはわからん。
だが適性があるものは少ないのでほぼ強制的に選ばれた所をコイツが作った魔術で身代わりにナターシャを差し出したということだ。
100年くらい変装させてな」
【100年ですか……】
「えへへ~」
「ちなみに100年で実績をしっかり作ったので今は本人の実力でかなりの地位まで上り詰めている。それこそ本物の女王のような立場にな。
まぁ世界の隣の森のトップということだ」
100年も騙し続けられるなんて、さすがは最高峰の魔術師が作った変装魔術。
でもそんなに長い間身代わりをさせられて今も尚女王をしているということはナターシャは女王になりたかったのかな。
その上実力でトップになるとはすごすぎる。本当にダメダメなんだろうか。
「君の考えている通りだ。
ナターシャは女王に憧れのようなものがあってな。クティが選ばれた時には自分が身代わりになるとすぐに提案してきたほどだったのだよ」
【なるほど】
顎に人差し指を当てて小首を傾げていたらサニー先生が思っていたことを察したのか答えてくれた。
やっぱり女王に憧れがあったのか。
自身の適性とも合致するし、本当に天職なのだろう。
「ナターシャの話はいいよ~。今はレキでしょ~?」
「そうだったな」
クティが珍しく強引に話題を変えようとしている。
やっぱり自分の過去の話は恥ずかしいのだろうか。でもクティのことをいっぱい知るチャンスなので自分的にはもっと聞きたい。
【ねぇねぇクティ。もっとクティの昔の話聞きたいなー】
「えええぇぇえぇ、だ、だめ! だめだよ! 昔の話なんていいものじゃないよ!?」
「まぁ確かにめちゃくちゃやってたからぁおまえ」
【そんなにすごかったんですか?】
「あぁそれはもう……そうだな、あれは400年ほど前にぐあッ」
焦るクティを見て悪い顔になったサニー先生がニヤニヤしながら話し始めようとしたところでクティが空気砲の魔術をぶちかましてぶっ飛ばしてしまった。
放物線を描いて飛んでいく白衣の妖精先生。
とてもよく飛びますね……。ひらひらしている白衣がいい感じです。あ、今日はレースがふんだんに使われていますね。
「はぁはぁはぁ……。それ以上言ったら次は燃やすよ!?」
【あはは、クティ落ち着いて。私はどんなクティでも大好きだよ?】
「私もどんなリリーでも大好きだよ! 愛してるよ! 世界が滅んでも愛し続けるよ! むしろ世界を滅ぼすよ!」
レキ君の話はどこへやら、未だに放物線を描いて飛び続けている妖精先生を他所にあまあま空間がどこまでも広がり続けるのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
【よく出来ました。さすがですね、レキ君。とてもすごいですよ】
「わふん!」
「すごいよ、レキ! もうサルバルアの中でも1番賢いんじゃないの!? びっくりだよ!」
「わふふん!」
「大したものだ。ここまで出来るサルバルアは見たことが無い。さすがだな、レキ。
おまえこそサルバルアの中のサルバルアだ」
「わふふふふん!」
鼻高々のレキ君が誇らしげに鼻頭を天井に向けて鼻息荒く息巻いている。
とりあえずナターシャの意見を採用して褒めてあげることにしてみた。
結果としてレキ君のやる気は急上昇。
何この子ちょろすぎじゃない? ってくらいに本当にレキ君のお勉強効率が上昇した。
褒めれば褒めただけミスも減り、集中力もあがり、問題を解く時間も短くなり、尚且つ正解率も上がっている。
この子はどうやら褒めれば褒めるだけ伸びる子のようだ。
今までの厳しく叱り付ける育て方はちょっと間違っていたのかもしれない。子育てって難しい。
【じゃあレキ君次はこれを】
「わふん!」
【え?】
絶好調のレキ君に次の問題を解かせようとしたところでレキ君がそっぽを向いてしまった。
まだ始めてから1ハルス《時間》も経っていないし、お勉強終了には早い。
「レキ、まだ授業は終わっていないぞ?」
「わふん!」
「なになに? そんな簡単なのもうできるから遊ぶ?」
【レキ君……。繰り返してやらないと身に付かないんですよ?】
「わふふん!」
「なになに? もう出来るからやらない?」
【レキ君……】
やっぱりこうなったか。
わかってた。実はわかってた。
レキ君は優しく褒めてあげるとすぐに付け上がるのではないかと。
この子はどうもその傾向が強い。
そのくせしてすぐに心が折れるというものすごい繊細な子なのだ。ほんとめんどくさい子なのだ。
「レキ~リリーの言う通りこういうのは繰り返しやらないと身に付かないんだよ?」
「わふふふふふん」
「なになに? 僕は君たちと違うから大丈夫だって?
……コイツ……」
レキ君の言葉にクティの額に大きな怒髪天マークがくっついた。
次の瞬間にはそっぽをむいて調子にのっていたレキ君の四肢は完全に拘束され強制的に伏せ状態にさせられていた。
「わぎゅううぅぅ」
「あははー犬っころのくせに生意気だぞー?」
クティの可愛らしい鈴を転がしたような声音と対称的に血の気が引いていく魔力の流れとレキ君の声。
有頂天の天狗様から一転、地を這う虫けら以下となったレキ君は己の未来を幻視したようにガタガタと震えて気絶してしまった。
いつもあっさりと気絶させているから気絶癖もついちゃったのかなぁ。
これも改善しないとなぁ……。
未だ怒りの治まらないクティが気絶したレキ君を強制的に叩き起こしては、覚醒した瞬間怒髪天のクティを見て気絶するというエンドレスな光景を展開させている。
「レキ~二度とそんな生意気な口を聞けないようにしてやるからなー!」
「わぎゃんわぎゃあぁぁあぁ」
体毛に影響が無い程度に内臓だけを痺れさせる電撃がレキ君を襲っている。
気絶してもすぐに覚醒する程度の痛みに制御している辺りがクティの優しさだろうか。本気でやったら一瞬で消し炭だろうし。
さすがに家族同然のレキ君相手にそこまでするほどクティも怒ってはいないのでやらないだろうけど。
「わぎゅぎゅぅぅぅ……」
「自分の立場がわかったかー!?」
「わひゅぅぅぅ……」
すっかり折れてしまったレキ君が力なく声を上げるとクティも満足したのかすぐに治癒魔術をかけてあげている。
でもあの程度だとレキ君的にはダメージにもならないはずだ。目的は反省させることだからダメージは少しでいいんだけどね。
【褒めてあげるとレキ君は調子に乗ってしまうし、厳しくすると心が折れる。
どうしたらいいんでしょうね?】
「匙加減次第だな……。とりあえずどのくらいで調整したらいいかは追々といった所だろうな」
【ちょっとずつ見極めていきますかぁ~】
「うむ」
レキ君の今後の子育てプランもちょっとだけだけど固まったところで、反省して小さくなっているレキ君を撫で撫でしてあげるのだった。
レキ君の我が侭な性格がお勉強以外での甘やかしだとまったく気づいていないリリーです。
まぁレキ君がいい性格しているというのも多々ありますが。
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