138,魔術 of いつもの日々
燃え尽きて真っ白になっていると思われるへんてこな魔力の流れとなってしまったニージャを適度に揉み解していつもの状態まで整えた後、証拠を隠滅する。
トイレに入ってからそこそこの時間が経過し、残りの専属2人も入れるという今までにないことをしているのでお婆様達の反応がちょっと心配だ。
「にーにゃ、つぎぃはないからねぇ~」
「は、はいッ! お嬢様!」
よほどお仕置きが効いたのか、いつもは間を置くニージャの喋りが完全に崩れている。
直立不動でぶるぶる震えているし、燃え尽きた時の魔力の流れよりはずっとマシだがまだ血の気の引いたときの流れは確認できる。
魔道具を使っている様子はないし、これは偽装ではないだろう。
「リリーちゃん、ずいぶん時間がかかっていたようだけど平気?」
「リリー、お野菜をいっぱい食べるといいらしいわ! よくあることよ! ファイトよ!」
震えるニージャが開いてくれたトイレのドアから出るとドアの前で待っていたお婆様とエナがよくわからないことを言ってくる。
でも何も怪しんでいるわけでもないようなのでよしとしよう。
専属4人のうち3人がふらふらで夢心地の中、1人がガクガクと震えているという異常事態だったが予め施しておいた偽装魔術でお婆様達には普通に見えているはずだ。
「あい、おやさいたべるぅ~」
「ふふ、いい子ね、リリーちゃん」
「アンネーラ様、リリーはいつもいい子ですよ」
「そうねぇ~リリーちゃんはいつもいい子だものねぇ~」
「あい!」
よくわからなかったがお婆様達の言うことなのでちゃんと聞かなければいけない。
なので元気よく返事を返し、お婆様に抱え上げられるとレキ君のところへと戻った。
後ろに偽装されて普通に見える足元のおぼつかない3人と小刻みに震える小動物のような専属を付き従えながら。
その日から野菜の量が少し増えた。主に食物繊維的なものが。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
すでに2の月に入っているのだが、1の月にはお爺様の誕生日があるはずだった。
だがお爺様の領地であるランドリッシュ領で急を要する案件が発生したらしく、お爺様は結局自分の誕生日に間に合わなかった。
領での案件は無事解決したそうだが帰って来たお爺様の落胆振りはちょっと引くくらい酷かった。
オーベントでは誕生日を遅らせて祝うということをしない。
なのでその日に間に合わなければまた来年ということになるのだ。
別に遅らせて祝ってもいいと思うが、長く続く伝統みたいなものだそうだ。
特にコレといった謂われはないらしいが長く続く伝統なんてそんなものだろう。
でも落ち込んでいるお爺様を元気付けてあげようと思うのは誕生日とは関係が無いので問題ない。
というわけでやってきました、お爺様の執務室。実は初めて入りました。
「じーじ!」
「リリアンヌぅぅぅぅううう……ガッ」
「リリーちゃんが潰れちゃうでしょう?」
執務室に入るや否や凹んで体育座りをしていたお爺様が見る間に復活して突進してきたので、いつものようにお婆様が一撃で叩き潰してくれた。
だがいつものことなのでお爺様もすぐさま復活して今度は普通にお婆様から自分を受け取る。
「おおぉぅおおおぅ、こんなじーじを慰めにきてくれたのかい、リリアンヌよ……」
「じーじ、げんきでたねぇ~」
「もちろんだ! じーじはリリアンヌが慰めてくれればいつでも元気になるぞ!」
「よかたねぇ~」
「うむ!」
ちょっと引くくらい凹んでいたのが本当にあっという間に元に戻り、デレデレの好々爺に戻ったお爺様にエクス先生の新作の第2弾を朗読してもらう。
例の魔剣と魔眼の女の子の話は1巻で完結してしまったが、今度のは続き物のようだ。
お昼のお弁当に入っていた大きなちくわを食べようとした男の子が、なぜか2本足が生えて立ち上がったちくわと学園で巻き起こる密室殺人事件を解決するという内容だ。
ちくわの名推理を男の子が代弁し事件を解決へと導いていくわけだが、手にもつちくわに誰も突っ込まないところがなかなかシュールだ。
ちくわが2本足で立ち上がる意味がまったくなかったが、それはソレ。
エクス先生の本でそこを突っ込むのは初期作だけにしたほうがいいだろう。
終わり際に次の事件への布石があったことから続き物だとわかったわけだが、ちくわが腐ったりしないのだろうか。いやこれも突っ込んじゃいけない。
お爺様の仕事に差し支えるくらい戯れたのでお暇となったのだが、離れる時に盛大にお爺様が泣いて縋っていたけれどそれもいつものことだ。
頑張ってね、お爺様の部下の人達。
あ、また1人跳ね飛ばされた。
全力で押さえつけて逃がさないように頑張っている部下の人達に手を振って執務室を後にすると悲哀に満ちた絶叫が盛大に尾を引いたがこれもいつも通りだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ところでリリー」
【81を9で割ったら8じゃないでしょう!? あ、はい。なんでしょう、サニー先生】
「まぁなんだ……レキも頑張っているんだし、もう少しこう……優しくしてやってはどうだ?」
「わふぅん……」
【えー優しくしてますよ? いつもレキ君が満足するまで遊んであげていますし】
「いや……そうじゃなくてだな……」
「わひゅぅぅん……」
【あ、こら! まだ終わってないよ! 足で目を隠してもだめ!】
割り算がとにかく苦手なレキ君がいつものように両前足で目を隠してもう無理のポーズを取ってしまっている。
でもそのポーズを取ったら終わりだと思ったら大間違いだ。
「……? ぎゃわんッ」
「い、いや、リリー……。そこまでしなくても……」
【だめです! レキ君はやればできる子です! 甘やかしてはいけません!】
圧縮空気をレキ君の顎の下で爆発させてひっくり返してやれば、あのポーズももう取れない。
この程度ではレキ君に大したダメージも入らないことは熟知している。
怪我をさせることはまずないので問題ないのだ。
もし怪我をしても1級の失われた治癒魔術があるので骨が折れても一瞬で治せる。
【さぁレキ君!】
「わ、わぅぅ」
【そうです。やれば出来るじゃないですか。
まったくどうして最初から頑張らないんですか?】
「わふぅぅぅんぅ……」
【まったく……学習能力があるのかないのかどっちなんですか……】
教育ママみたいになっているがレキ君はやれば本当に出来る子なのだ。
なのに強制的にやらされるまで本気を出そうとしない。まったく困った子だ。
どうしたら最初からやる気をだしてくれるのだろうか。
【先生、クティ。どうしたらレキ君は最初からやる気を出してくれるでしょうか?】
「そうだなぁ……最初から痛い目に会わせるとか!」
「それはだめだろう……。そのうちトラウマになるぞ……」
「じゃあ、最初にご褒美をあげる?」
【ご褒美かぁ……。でも最初に遊んであげると限界までやってあげないと止まらないし……】
「うーん……」
ちっこいさまが腕を組んであぐらをかいて空中でくるくる回りながら考え始める。
サニー先生も何か案が浮かばないか瞑想モードだ。
やる気のあまりない子をやる気にさせるいい方法は何かないものだろうか。
うんうん、悩んでいるとレキ君は関係ないとばかりに大あくびをして丸まってしまった。
【こ、この子はほんとにもぅ……】
「まぁレキだしねぇ……」
「レキだしなぁ」
「ふわぁあぁふぅ……わふ」
1人――1匹暢気な犬っころに溜め息を吐きながら、考えるのが馬鹿らしくなってきたのでふかふかのお腹にダイブしたのだった。
食物繊維はとても大事です。
久々のじーじです。
いつも通りすぎていつも通りなじーじなのでした。
やる気のない子をやる気にさせるにはやはりやる気スイッチを押すしかないですね。
レキ君のやる気スイッチはどこにあるんでしょう?
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