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濁った瞳のリリアンヌ  作者: 天界
第一部 第8章 4年目 前編 3歳
156/250

137,魔術 of お仕置き



 その日、いつも以上に専属に優しいクリストフ家次女の姿が見られたことだろう。

 事実ニージャを泣かしてしまった後ろめたさで意識的にずいぶんと優しくしたと思う。

 自分の中にだけある採点表にもニージャのポイントがいつもより少し多めに加算されていたりしている。



 そんな日の終わり際、まさに寝る間際にちっこいさまがいつもの添い寝というか自分の平らな起伏の無い胸の上に寝そべって不思議そうに聞いてきた。



「ねぇ、リリー。どうして今日はニージャにあんなに優しかったの?」


【えっと……クティも見てたでしょ? ほら、ニージャを泣かしちゃったから……。そのちょっとだけ後ろめたくて】


「あーあの嘘泣き?」


【うん?】


「嘘泣きだよ、あれ」


【うん?】


「う・そ・な・き」



 ちっこいさまが小首を傾げて言うのですごく可愛らしいけれど、その言葉を聞いて自分は今目をパチクリさせているだろう。瞬きが止まらない。



 え、アレって嘘泣きなの?

 え、でも魔力を伴っていて自分にも見える涙だったし……。

 ……あ、でも魔力を伴っていて見える涙だったら本物というのは、ただの先入観だったのではないだろうか。

 いやむしろ化粧で泣いた痕跡を消したと思っていたのはあれは使っていた魔道具か魔術か何かの効果を消すため?

 綺麗さっぱり消えていたのも頷ける。術式が見えなかったのも以前にもあった自分の弱点である複数重なっている術式が見えなくなってしまう現象のせいではないだろうか。あの時もニージャが使っていた複数の魔道具と魔術のせいだったし。


 そしてなにより確信を持てるのは、クティが嘘を吐くわけが無いからだ。



「にゃあああああああああ!」


「あらあら、どうしたの、リリーちゃん?」


「……むぅぅぅ、にゃんでもにゃぃ」


「そうなの? じゃあもうおねむの時間ですから寝ましょうねぇ」


「あぃ」



 ニージャの嘘泣きにあっさりと騙されてしまった自分に腹が立つ。

 ニージャの嘘泣き自体にはあまり腹が立たなかったのは彼女は今まで色々とお婆様やエナを出し抜いてきたからだ。

 その出し抜き工作が遂には自分にまで及んだというだけの話なのだ。

 出し抜く理由も決して悪い方向ではなかったし、害もなかったので放置していた。

 今回も決して悪い方向ではない。おそらくご褒美のためのポイント稼ぎを有利に進めるためだろう。

 きっと前々から計画していたことに違いない。


 結果としてクティがいなければ彼女の計画は完璧だった。

 嘘泣きを嘘泣きとまったく気づかせることもなかったし、ポイントもゲットしていた。

 恐るべし、ニージャ。



 でも……知ってしまったからにはダメだ。

 今日の加算分のポイントは白紙だ。

 ご主人様を騙そうなんて悪い子にはちょっとお仕置きをしよう。


 明日が楽しみだよ、ニージャ。



「ぐふふ……」


「あらあら、リリーちゃんは一体どんな夢を見ているのかしら?」







◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆








「らうりあ~にーにゃよんでぇ~」


「はい、お嬢様」



 翌日の専属はラクリア。

 いつもの日課も終えて、レキ君ルームでレキ君のお勉強もひと段落して両前足で目を隠してへばっている犬っころをソファー代わりに今日の計画を始動する。


 ラクリアが少し離れて通信魔道具で通信を終えるとすぐにニージャがやってきた。



「……お嬢様、御用?」


「ぅん。おといれしたいの」


「ッ!」


「お、お嬢様!? きょ、今日の専属は私です!」


「らうりあもいっしょに~」


「「えっ」」



 他人に痴態を見られたくないからこそ、トイレという密室で行為に及んでいるのに今日は2人一緒にといえばそりゃぁこんな反応にもなる。

 目をパチクリする2人がお互いに顔を見合わせて、顔の魔力の流れが赤くなっていることを示す。

 逡巡したのはほんの少しの時間だけで、2人は意を決しお互いに頷き合い――。



「「はいッ!」」



 と、元気よく返事を返した。







◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆







 いつものようにレキ君ルームに隣接する自分専用トイレでご褒美をあげる。

 トイレの中はすでに展開完了している魔術で埋め尽くされているので、中での出来事は一切外に漏れることは無い。


 すでに声にもならない声で嬌声をあげているラクリアはニージャに見られていることもあってか今日はいつも以上に気持ちよくなってしまっているようだ。

 典型的な真面目さんなラクリアはやっぱりこういう状況に弱いようだ。

 ちょっと違う扉を開いちゃったようで後が怖いが仕方ない。


 顔を両手で隠しているけれど、しっかりと指の隙間から行為を凝視しているニージャの魔力の流れは興奮しまくっていることを如実に表している。

 そりゃそうだろう。次は自分の番だと思っているのだから。

 だが甘い。

 甘すぎるのだよ、ニージャ。



「おわりぃ~」


「……はふぅん」



 トイレとは思えないほど広く、自分に見えるように魔道具製の家具まで置かれているその場所で甘く艶のある吐息を漏らすラクリア。

 気持ちよくなりすぎて床が彼女から滴ったもので濡れているだろうがいつものことなので問題ない。



「にーにゃ」


「はい!」


「じぇに~よんでぇ~」


「……へ?」


「じぇに~」


「お、お嬢様……私の番じゃ……」


「はやくぅ~」


「は、はい……」



 興奮と期待から一転して困惑に叩き込まれたニージャだったが、自分の命令を早く遂行してご褒美を貰おうと素早く通信魔道具を取り出してジェニーを呼ぶ。



「お嬢様ぁ~御用で……ふわあぁぁんッ」


「ご褒美あげるぅ~」


「ぁ……ゃ……ぁぁああぁ……」



 入ってきたジェニーをそのまま素早く捕まえて一気にギアを上げて昇天させる。

 素早く閉められたドアに縋るように爪を立てるジェニーだが、その手はすぐに力なく落ちて……心も落ちた。


 その光景をずっと見つめていたニージャはすでに直立不動ではなく腰が引けてもじもじしている。


 ジェニーも念入りに仕留め終わり、2人目の甘く艶のありすぎる吐息と荒い息をする物体を作り上げてニージャに顔を向ける。



「ッ!」



 顔を向けた瞬間すでに禁断症状気味に興奮しているニージャが一気に緊張したのがわかる。

 だがそこで取り出したのはジェニーのポケットに入っていた通信魔道具。

 ジェニーを気持ちよくしているときに抜き取っておいたのだ。



「……お、おじょう……さま……?」


「みらぁ~れきくんのおへやのおといれにきてぇ~」


『は、はい! 今すぐに!』


「ど、どういう……おじょ……ッ!?」



 困惑の極みに達しているニージャにさらに取り出した魔道具を掲げて起動させる。

 その瞬間にはニージャは完全に拘束され身動き1つ取れなくなっていた。



「……お嬢様……? なん……で……?」



 取り出した魔道具はただのダミーだが、魔術は2級の拘束魔術だ。

 いくらニージャがクリストフ家のメイドの中でもトップクラスといえどこれを突破するのは難しい。

 しかも3重に展開しているのでお婆様でも本気を出さないと無理だろう。

 他にもいくつか魔術を展開しているが、混乱しているニージャにはわからないだろう。当然隠蔽しているので混乱していなくてもわからないだろうが。



「うそなきはだめなのぉ~」


「ッ!?」



 ミラが来る前に今回の本当の目的を告げる。

 短い言葉だったが、それでも当人にはどういう意味かよくわかったようだ。

 一瞬にして魔力の流れが困惑から血の気が引いた時の流れに変わり、四肢から力が抜けてへたり込んでしまった。


 その瞳からは魔力を伴った今度こそ本物の涙が一筋流れたが、もう遅い。



「失礼します」



 ノックの後に素早く中に入って扉を閉めたミラが拘束されたニージャとピンク色の屍となった2人に困惑したが、それ以上考える前に素早く尻尾を確保して3人目の屍と化した。


 へたり込みながらも完全に拘束されているために、顔を背けることも目を閉じて見ないようにしようとしても強制的に瞼を開かされる。無論、目が乾燥して痛まないように適度に瞬きはさせている。

 目の前で繰り広げられる自分がもらえるはずだったご褒美をただただ眺めているしかなかったニージャは最後には大粒の涙を流しながら何度も何度も謝り、懇願してきたがこれはお仕置きなので全て無視した。

 ピンク色の屍3体も滴る何かが涸れ果てるかの勢いで何巡かし、涙も涸れ果てたニージャが燃え尽きてへんてこな魔力の流れになるまでそのお仕置きは続いた。


はい、嘘泣きでしたー。


ニージャにとってはものすごいきついお仕置きでした。

他の3人にとっては天国以上の天国すぎるものでしたが。


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