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濁った瞳のリリアンヌ  作者: 天界
第一部 第8章 4年目 前編 3歳
155/250

136,魔術 of ニージャ



「右足~左足~はいまわって~」


「くぅるくるぅ~」


「もうリリーはとっても可愛いわぁ~はいもう一回まわって~」


「くるくぅる~」



 ふわふわのスカートがターンと共にふんわりと舞い、気の抜けるような自分の声がいつものレキ君ルームに静かに消える。


 誕生日以来エリーがダンスに目覚めてしまったようで何度となくお相手をしている。

 エリーが踊るステップは決まって騎士――男性のステップで、自分が踊るステップは姫――女性のステップだ。

 それも当然だ。なんせ騎士側は姫側をリードするステップが多い。

 時には体を支えたり、リフト――持ち上げたりすることもある。

 そうなると自分では騎士側は出来ない。


 とは言ってもまだ3歳で体の成長は普通の子より少し遅れ気味な自分だ。

 エリーのような美しく流麗なステップはとても踏めない。

 なのでそこは子供らしく出来る範囲でエリーにリードしてもらいながら自由に踊るのだ。


 ステップとも呼べない足運びで適当にとてとてくるくる踊っていると空中では同じようにちっこいさまがたくさんの動物と一緒にバレリーナも画くやといった美しいパ・ドゥ・シャを決めている。

 クティと同じことをしようとするととてもじゃないがジャンプ力が足りないので床に緊急着陸してしまう。

 なのでここはアティチュード――片足で立ち、もう一方の片足を膝のところで曲げたポーズ――で対抗しようとしたけれど、意外と柔らかいこの体で足は上がるのだがバランスを取るのがとても難しくエリーに支えてもらってやっとだった。



「リリー……スカートがめくれちゃう……。あぁでも可愛い……もう! 素敵よ、リリー!

 ……今日は狐さんなのね」



 支えてくれるのはいいんだが、お姉さま……。

 めくれるスカートを直す振りして中を覗かないでください。お願いします。



「リリーちゃんの可愛いダンスは見ているとあっという間に時間が過ぎ去ってしまうわねぇ~」


「えぇ……普段はとても賢いリリーですけど、やっぱりまだまだ子供なんですね……あんなに無邪気に……」


「ふふ……エリアーナさん。まだまだリリーちゃんは子供ですよ」


「はい……」



 大人組みの暖かい眼差しと微妙におかしいエナの声をBGMにエリーと自分とちっこいさまのダンスは続く。



 ちなみに対抗したつもりのアティチュードはちっこいさまが繰り出したコリバノフ――後ろとび2回ひねり後方屈身宙返りの10点満点演技により一瞬にして叩き潰されてしまった。


 ぐぬぬ。








◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆








「ふぉ」


「……お嬢様、危ない」



 レキ君のお腹の上で伸び伸びしながら背中を海老反りにしているとずるっと落ちて床に頭から落ちそうになり……いつの間にかニージャに助けられていた。



「ありがとぉ、ニーニャ」


「……ご褒美」


「ニーニャはこのあいだしたばっかりぃ~」


「……むぅ」



 専属の中でもご褒美を1番貰っているのがニージャ。

 事あるごとに他の面々を出し抜き、色々なところでポイントを荒稼ぎしている。

 自分としても頑張れば頑張るだけ、と臭わせたので頑張った結果はちゃんと区別してご褒美をあげている。

 今の所最下位はラクリアだ。

 どうにも真面目すぎる彼女の性格が災いしているのかニージャのように出し抜き工作がうまくできていない。


 とはいっても回数的にはニージャと3回差。ミラとジェニーとは1回差だ。

 まだ2の月にも入っていないのに結構な頻度でご褒美を貰っているニージャはかなり中毒になっているようだ。

 まぁ1回でもかなりの中毒性を見せているご褒美を頻繁に受けてしまってはもうだめだろう。

 事あるごとにニージャがご褒美ご褒美と瞳の魔力をキラキラさせながら見てくるのでちょっとやりすぎかなぁと反省することもある。



 飴ばかりでは躾にならないからね。

 そろそろちゃんと鞭も入れないとだめかもしれない。



 でも正直専属達の耳や尻尾は自分も中毒になっちゃってるから数日置きにでも触らないとなんだかぷるぷるしてきてしまう。

 こう……専属達を見ると……ぷるぷるしちゃうのだ。



 むらむらではないよ?

 3歳児なのでまだ自分はむらむらはしないのだ。ぷるぷるなのだ。



「ニーニャ。ニーニャはごほぉびめあてなのぅ?」


「ッ!? ち、違う! おじょ、お嬢様のおじょ……ぁ、あぅぅ……」


「に、ニーニャ……泣かないで……」



 ちょっと鞭をあげようと思ったら思った以上に効いてしまった様で普段無表情で飄々としている、涙なんて1度も見せたことが無いニージャが泣き出してしまった。

 これにはまいった。

 泣かせるつもりなんて毛頭なかったのに、しかもあのニージャが、だ。


 目をグシグシこすってなんとか泣き止もうとするニージャだがどうにもその瞳から流れる涙は止まらない。

 レキ君の影になっているのでお婆様達からは見えないのが救いといえば救いだが、逆に頼れないので微妙といえば微妙だ。



「ニーニャぁ……」



 ぽろぽろ、と大粒の涙が落ちていく。

 もし嘘泣きならば魔力の伴わない涙のはずなので見えない。ニージャは本当に泣いているのだ。

 自分のたった一言でこんなことになるとは狼狽するなというのが無理だ。


 オロオロと気が動転してクティ達に助けを求めようとしたところでニージャがなんとか持ち直したようだ。



「ごめ、ごめんなさい……でもお嬢様……私はお嬢様の専属。

 専属はお嬢様に仕えるのが喜び。

 だから……ご褒美目当てじゃなぃ」



 なんとか涙の止まったニージャが目に魔力のわずかな乱れを残しながら最後の方はちょっと消え入りそうな感じで言ってくる。

 突然泣き出してしまったニージャだが専属としてご褒美がないときだって真面目に精一杯やってきたのだ。


 彼女にも誇りというものがある。

 その誇りを図らずも傷つけてしまったのだ。

 これは知らなかったとはいえ完全に自分が悪い。だから主人とメイドの立場関係であっても謝らなければいけない。



「んぅん……ごめんなさいはこっちなのぉ……ニーニャはいいこ。これからもがんばってなの」


「……お嬢様、っぱない」



 ちょっとだけ乱れた魔力の目でいつもと変わらない無表情で返してくれるニージャ。

 自分の失言を深く反省しつつも、鞭をどうしようかと思い悩むのだった。







◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆








 乱れた魔力の目――恐らく赤い目のままではお婆様達に不審がられるのでニージャはポケットから何かを出すと、パパっと目とその周辺に何かを行う。

 その動作は凄まじいほどの速さで一体何をやっているのかまったくわからなかった。

 だが次の瞬間にはニージャの目から乱れた魔力が取り除かれていた。



「ニーニャ、しゅごぉぃ」


「……ぶい」



 いつもの無表情でも魔力の流れはまるでちっこいさまのドヤ顔を彷彿とさせる堂々としたものだ。

 ニージャが取り出したのは恐らくコンパクト的な何か。

 そして施されたのは化粧の類だろう。それが魔力にまで効果を及ぼしているのはきっと含有されている何かが影響しているのだろう。


 背も低く見た目的にも大人とはとてもいえないニージャだが、やっぱり化粧くらいはするのだろう。彼女も乙女なのだ。

 腕前はまるで魔術を使ったかのようなすごいものだったけど。


 得意げにしているニージャはついさっきまで泣いていたとは思えないほど晴れ晴れとしていてこちらの気持ちも明るくなるほどだった。


エリーはさり気無く覗きます。

えぇとてもさり気無く。


ニージャを泣かせてしまったリリーです。

……泣かせてしまった事がインパクトが強すぎて色々とアレなことに気づいていないリリー。

さて……。



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