135,魔術 of 特級
1の月に入り、第1級魔術師になった。
知っているのは妖精ズとレキ君と自分だけだけど。
エリオットの時に国を挙げての盛大なお祝いが開かれたのを考えると非常に静かに淡々とした、ただの通過点という感じで1級魔術を習得した。
実際の所ただの通過点なのでその通りなのだから別段問題もない。
リズヴァルト大陸の希少な魔術師の中でも最高峰に希少価値のある第1級魔術師ではあるが、魔術とは知識の積み重ねによって習得する難易度が大きく変わるものだ。
それが如何に希少で価値がある1級の魔術であろうが、自分や妖精ズにとっては既存の魔術の域を出ない、所謂基礎でしかなかったりするのだ。
多少の応用も含まれるとはいえ、それはやはり所詮多少でしかない。
「この調子でいけば特級の魔術も問題はないだろう。そこまでいけば基礎は終わりだ。
だがそこからが本番だ。気を引き締めていくぞ、リリー」
【はい、サニー先生!】
「リリーなら大丈夫だよぉ~。なんてったって最年少1級魔術師だからね!
国が放っておかないよ! 間者が来たら即☆抹☆殺だけどね!」
【クティ、ほどほどにねー】
「お任せアーレ!」
実際にこの情報が漏れれば今まで以上に侵入と誘拐を試みる輩が急増するだろうことは想像に難くない。
でもまず情報が漏れる事はないし、たとえ漏れたとしてもクリストフ家に侵入して警備が特に厳重な自分を誘拐など出来るわけが無い。
何よりお婆様とクティを掻い潜ってこれるような者がいるのなら厳重な警備など意味はないしそんなものは夢物語だ。心配したところで無意味すぎる。
「では引き続き今日も1級魔術を習得してもらうとしよう。
まずは――」
自分がこれほどまでに1級の魔術を簡単に習得できるのにはいくつか理由がある。
1つは世界の隣の森の魔術研究所所長であり、4桁単位の年数を生きるサーニーンことサニー先生からの知識の伝授。
サニー先生の難解でも非常に有用な知識を吸収しやすくしてくれる最愛の人――クティの存在と世界の隣の森の最高の魔術師である彼女の魔術知識。
そして何より、自分が転生者であり生前の高度に発達した科学の世界での就学環境に身を置いていた事と、やはりこの魔眼のおかげだろう。
どれだけ知識を詰め込み理解力をあげても、術式を直接この目で見れるというのは他にない、限りなくチートに近いアドバンテージだ。
だが見ただけで使えるほど魔術は甘くなく、これら全てが噛み合って現在の自分が出来上がっているのだ。
どれが欠けても成立しない奇跡のような状況が今なのだ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
【ところで特級魔術師って今リズヴァルト大陸にいるんですか?】
いつものレキ君ルームでレキ君に乗って長閑に散歩しながらの雑談でふと気になったことを聞いてみた。
第1級魔術師はリズヴァルト大陸に少数だが存在している。ついこないだも1人増えたし。
だが第1級の上にある特級魔術師というのは聞いたことが無い。
既存の魔術は最上位を特級としてそこから1~10級までのランク付けがなされている。
当然上に行くに連れて難易度が高くなり、特に3級以上になると途端に難易度が跳ね上がる。
2級や1級は国が直接勧誘するレベルの希少さだ。
「特級はリズヴァルト大陸では過去に数人いた程度だな」
「確か最後に確認されたのは800年前だねー」
【800年……それって……】
「そう、4カ国戦争の引き金となった魔術師であり、君と同じ変異型2種だ」
4カ国戦争。
それは800年前に起こったリズヴァルト大陸全土を巻き込んだ戦争。
きちんとした記録の残る歴史の上での最大の戦争であり、最後の戦争でもある。
大昔の大戦などは伝えられているだけで詳細な記録は残っていないため含まれない。
この4カ国戦争はたった1人の魔術師を奪い合った為に起こった戦争だ。
その人はクティや自分と同じ変異型2種。
つまり魔術を創造できる存在であったため、様々な思惑で狙われ、結果として人族の国 「オーベント王国」、獣族の国 「ラインベルト王国」、魔人の国 「フォル・ラッツ王国」、エルフやドワーフ、小人族の共和国 「サウドヘイト共和国」、リズヴァルト大陸にある4カ国全てによる戦争にまで発展した。
実は本格的な戦争が始まる前に奪い合うはずだった本人は死んでいたりする。
暗殺とも病死とも魔術の失敗で死んだとも言われているが詳しくは記録には残っていない。
「サニーが珍しく自分で色々調べまわってたやつだねー」
「他の特級と違って変異型2種は彼だけだったからな。当時おまえは自由奔放すぎて捕まらなかったしな」
【特級って全員が変異型2種というわけではないんですね】
「うむ。既存の魔術で特級が使えれば特級魔術師だからな。変異型2種である必要性はない」
魔術が創造できる変異型2種だからといって、必ずしも魔術の扱いに優れるわけではない。
逆に魔術の扱いに優れているからといって変異型2種というわけでもない。
変異型2種とはその呼び名通りに突然変異なのだ。
だが変異型2種であっても簡単に魔術が創造できるわけではなく、魔術をそれこそ既存の魔術の特級クラスまで扱えなければ創造することなど出来はしない。
故にたった1人のために戦争が起こってしまったのだろう。
【それにしても800年前のことを普通に見てきた事実として語れるってすごいですねー】
「まぁ寿命が違いすぎるからな」
妖精種と人種の寿命は文字通り桁が違う。
リズヴァルト大陸の人種の平均寿命は60歳前後だ。
生前よりも圧倒的に医療レベルが未熟なために寿命が短い。回復系の魔術は既存の魔術でも存在するが、その全ては2級以上の魔術であり軽い病気や怪我は治っても、症状が重かったり深手を負ったりすれば治癒できない。
以前自分が熱を出した時に用意しようとした癒しの青光は回復魔術を魔道具化したもので、管理もかなり厳しく厳重に行われている。
なぜならば、なんと現在オーベントで回復系魔術が使えるのはたった1人しかおらず、その人も高齢でそう易々と魔術を行使するわけにはいかないからだ。
高齢で弱った体で無理に魔術を使うと魔力の他にも体力が一気に奪われることがある。
それが元で衰弱死することもあるのだ。
【私とクティの寿命は全然違うから……私が死んでもクティはずっと生き続けるんだね……】
「リリーが死ぬなんて耐えられないよ!?」
【私も耐えられないよ!】
クティと同じ刻を生きても同じように死んでいけるわけではない。
同じ墓に入るという生前の母国の老後の楽しみみたいなことは思っていないが、それでもやはり色々と考えてしまう。
「何十年後の未来より今だよ。今を生きる私達の物語だよ! リリー!」
【今を……そうだよね。そうだよ、クティ!】
「でもおばあちゃんになったリリーも見てみたい気がするよ!」
【クティはこのまま変わらなさそうだよね】
「妖精族に老化はないからね! いつまでもぴちぴちお肌だよ!」
【羨ましいね!】
「大丈夫! リリーのお肌はぴちぴちお肌でぷるんぷるんだよ!」
ちっこいさまの突撃に頬がふにょん、と揺れるけれど伝わる感触はそれ以上に優しく暖かい。
遠い未来のことを考えても仕方ない。
クティの言う通り、今の自分達を考えよう。
【クティ……ずっと一緒だよ】
「大丈夫だよ、リリー! 私達のラブラブライフはまだ始まったばかりさ!
これからもずっとずぅぅうっとラブラブで一緒だよ!」
【クティ!】
「リリー!」
「ほどほどになー」
とてとて、とゆっくり散歩するレキ君の上でお互いをヒシ、と抱きしめあう幼女と妖精の姿が……周りには見えなかったが確かに存在していた。
はい、1級魔術師になりました。
でもリリーたちにとってただの通過点でしかありません。
4カ国戦争はかなり酷い戦争でした。
大陸全土を巻き込んだ戦争なので仕方ないことでしたが、かなり酷いものでした。
気に入っていただけたら評価をして頂けると嬉しいです。
ご意見ご感想お待ちしております。




