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濁った瞳のリリアンヌ  作者: 天界
第一部 第8章 4年目 前編 3歳
153/250

134,魔術 of レキ君




 忘れがちだが、この世界――オーリオールの暦は月が13ある。

 とはいっても生前のように13の月が師走など、走っちゃうほど忙しいような月というわけではない。

 なぜならお正月とかクリスマスとかないからだ。

 1の月に入る前に暦に数えない1日があるだけで特に何かするわけでもない。







◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆







 さて、13の月もすでに終盤。

 第2級の魔術の習得が始まって早1ヵ月が経過しようとしている。

 リズヴァルト大陸にいる第2級魔術師の数は全体を見ればそれなりにいるが、第2級の魔術だけを見るとその数は多くない。

 習得する難易度が高いためだ。

 その為比較的習得しやすい魔術を習得して第2級魔術師になるものが多いが、我らがお母様であるクレアはこれには当てはまらない。

 クレアが使える第2級魔術は第2級魔術師の中では最多の4つだがその全てが高難易度の位置にある魔術だ。


 その高難易度のはずの魔術もクティやサニー先生にかかればなんてことはないレベルになってしまう。

 当然妖精ズ2人に英才教育を施されている自分も同様で、第2級魔術で習得していない魔術はもうかなり少なくなってしまっている。

 大昔の大戦で失われた魔術も含めて習得しているので、一般的に知られる第2級魔術の数を大きく逸脱して習得しているがこれも通過点に過ぎないのだ。



「さてもうすぐ2級魔術も全て習得ということになる。

 1級もさほど難易度は変わらないので、ほとんど変わらない速度で進むだろう」


「リリーにとっては散歩気分で通り過ぎるだけだからね!」


【そのお散歩もエナとお婆様に許可を貰わないと難しいけどねー】


「まだ外は寒いからレキルームで散歩しよう!」


【じゃあ今日もレキ君に乗ってゆっくり散歩しよっかー】


「まぁその前に残りを片付けていけ」


【はーい】


「了解! ちゃちゃっとおぼえちゃおー」



 第2級魔術完全習得という歴史的快挙に近い出来事が平然と行われているが、それを知るのは自分と妖精ズだけ。

 お散歩気分となんら変わらない程度のものなのだ。







◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆









【――というわけで2級魔術も習得し終わったので今日はレキ君に割り算を覚えてもらいます】


「わっりわりわりわりざんざーん!」


「わふぅー……」



 レキ君の鞍の上に腰掛けてとことこ、とレキ君ルームを散歩しながらも声高々ではないが、元気に魔力文字を大きく描き出す。

 クティの即興歌にレキ君はちょっと不満そうだ。

 レキ君はどうにも算数的なものが苦手だ。

 足し算引き算もまだちょっとおぼつかないところがあるけれどなんとか出来るようになった。

 掛け算は足し算の延長なのでなんとかなった。

 でも割り算はまだやっていない。なので今日は割り算の番だ。



【大丈夫だよ、レキ君。割り算は引き算の延長みたいなもんだよ!】


「レキー、56引く24はー?」


「……わ、わふ……わ……わひゅん」


【はい、正解。よく出来ましたー】


「むむぅ、やるようになったなぁ」



 ちょっと苦戦したけれどなんとか解けたレキ君。

 以前とは比べ物にならないくらい早く解けるようになったけど、まだまだ2桁でも時間がかかる。



【じゃあ簡単なところから始めようかー。割り算っていうのは――】



 とてとて、と散歩しながらレキ君に割り算の解説をして簡単な問題を出していく。

 問題の度にレキ君が止まってちょっと考えて答えて間違って蹲ってしまったりしながらも散歩は続いていく。







◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆







 サルバルアは本能で魔術を行使できる。

 できるはずなんだが、レキ君が使っているのは全て魔術ではなくサルバルアの特性を生かした魔力による身体強化とそれに付随する使用法だけだ。

 これらは術式で構築される魔術とは違い、才能というか身体機能というか、とにかくそういった要因を持つものでなければ扱えないものだ。

 お婆様の使っているものもコレで、詳しくはまだわかっていないが魔術ではないのは確かだ。

 かといって血縁者であるテオとエリーは使えそうなのに、自分は使えない。魔力を似たように変化させても同じ結果は決して得られない。


 レキ君がまだ魔術を使えないのは体の割には幼いからなのか、彼だからなのか。またはサルバルアの特性を魔術と勘違いしているのか。

 サルバルア自体が絶滅危惧種なのでよくわからないが、魔術を使う使わないにしても四則演算くらいは出来た方がいい。

 特にレキ君はペットでも意思疎通が可能なのだからいろいろ出来た方がいい。



 まるで潰しが利くように色々出来るように育てよう、というような感じだがまぁ間違っていない。

 レキ君はペットでもただのペットでは終わらないペットなのだ、たぶん。



「リリー……その辺にしておいてやれ……レキは体はでかいがまだ幼いんだ……」


【まだですよ! さぁレキ君顔をあげなさい! 9を3で割ったらいくつですか!?】



 レキ君が幼いのはわかっているけれど、レキ君はやれば出来る子なんです。

 きちんと教えたら出来る子なんです。

 だからしっかり教えてあげないといけないのですよ、サニー先生!



「わひゅ、わひゅんぅ……」


【違うでしょ!? 9から3を引いたら6になるでしょ!? これで1回!

 6から3を引いたら3になるでしょ!? これで2回!

 3から3を引いたら0でもう引けないでしょ!? これで3回!

 答えは!?】


「わひゅぅ……」


【そう! 3で正解です! やればできるじゃないですか】


「わ、わふぅ」



 ほらちゃんとできた。

 レキ君はやっぱりやればできる子なんです。



「り、リリーがスパルタママだよぅ」


「ほら、パパがんばれ」


「ががががが、がんば……れないよぉぉぅ!」



 クティパパはどうにもガクガク震えてサニー先生の後ろに隠れてしまっているのでまだまだ自分のレキ君教育は続く。



【はい、次いくよ、レキ君!】


「わひゃぁぁぁん」


「あ、逃げた」


「……だが速攻で捕まったな」


【逃がすわけないでしょう!】


「わふぃ……」



 目を逸らした一瞬の隙を突いて逃げ出したレキ君。

 過剰なくらいに強化されたレキ君の身体能力により発揮された爆発的な速度で一瞬で視界から消えうせるが関係ない。

 こうなることを予想してレキ君の背中に待機しておいた拘束系魔術が視界外で発動して対象を捕縛し終わっている。



「今までは逃げるだけでなんとか済んでいたのが、魔術の応用力が半端じゃないから最早どうしようもなくなったなぁ」


「が、がんばれぇ~レキ~……私には何もできないよぅ~」


【さぁレキ君!】


「わひゅぁぁぁん」



 その日、久々にレキ君ルームで頭から湯気が上がっているレキ君をベッドにして眠るクリストフ家次女であり、レキ君のスパルタママである自分の姿が見られたのだった。



あっという間でした。


レキ君は頑張れば出来る子です。

でもなかなか頑張ろうとしません。

まだまだお子様なのですが、どうにも体が大きいし、やれば本当に出来る子なのでリリーもスパルタになりがちです。


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