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濁った瞳のリリアンヌ  作者: 天界
第一部 第8章 4年目 前編 3歳
150/250

131,プロローグ


 一直線に割れた人垣の間をゆっくりと歩いてくるのは飾り気の無いシンプルな礼服を纏った鋭い目をした美青年だ。

 普通こういったパーティなどに着てくる礼服というのは軍服のように飾緒や肩章やサッシュなどをつけた儀礼的な服装が多い。だが彼が着ている礼服はシンプルという言葉がぴったりなほど飾り気がなかった。

 だがその飾り気の無さが逆に青年の鋭い瞳と整った顔を際立たせている。


 服装や整えられた髪や整ったイケメン顔などの外見的な部分では一体誰だかまったくわからなかったが、自分は人の魔力を見ることができる。

 どうやらこの美青年はエリオットのようだ。普段見るまったく外見に気を使っていない彼とは雲泥の差だ。


 彼は割れた人の間を悠然と歩いてくると、自分の前で恭しく跪きまるで王への謁見も画やと言う様相だ。

 普段とは一線を画すほどの外見と醸し出される雰囲気からまるで1枚の絵画のような雰囲気を見せている。



「我が天使、リリアンヌ・ラ・クリストフ様、この度はお誕生日おめでとうございます。

 末永き健康と幸福を魔術の英知を以って齎さん事を」


「あい。ありがとぉ」



 末永き健康と――というのは魔道具職人の定型句みたいなものだ。

 公式の場なんかで使う場合のヤツで一応このパーティは身内のパーティだけど、自分は貴族なのでエリオットのやり方が正しかったりする。



「え、エリオット、舞踏会がまだ残っていたはずなのですが……」


「我が天使の誕生日パーティが終わってしまうからな。代役を立てて抜けてきた」


「しゅ、主役が抜けてどうするんですか!」


「私特製の魔道具を使っているからどうにかなるだろう。それにアレは私を祝すというよりはただのガス抜きだ。

 何も問題ない。本物の私が必要な場面はすでに終わっているしな」


「うぐ……」



 エリオットの言う通りで、第1級魔術師のお披露目なんてのは基本祭りであり、その後に行われる貴族や王族などのパーティは主役であるエリオットがいてもいなくても、特に今回は問題なかったりする。

 影武者でもエリオットの魔道具を使って代役をしているのならばれることもないだろう。


 通常なら第1級魔術師となれば繋がりをもつために挨拶地獄になるものだが、事エリオットに関しては全てをクリストフ家が握っている為無駄なのだ。

 それを知らないものはこのパーティには出席すらできない。

 出し抜こうとする者もいないわけではないが、その後の顛末はお察しだ。



「我が天使、今宵はあなたの為だけのプレゼントを用意してきた。

 是非とも受け取って欲しい」


「あい、ありがとぉ」



 エリオットが現れてから同じ言葉しか言ってないがまぁ問題はない。

 少し距離を取り、ホールの中央まで下がったエリオットは暗号化された詠唱を長々と始める。

 以前クティが使用した次元間通信魔術に匹敵するほどの長さの詠唱を終えて最後のキーワードをエリオットが唱えると一瞬にして視界が埋め尽くされた。


 ホールの天井から使用人達の頭上スレスレまでを埋め尽くすほどの様々な形の魔力が詠唱中に蓄積した術式通りに展開している。

 まるで夜空に瞬く星々が形を持ったように、美しくも優しい星座のパレードが始まっていた。



「……これは」


「虚飾……流星……」


「これならリリーちゃんにも見えるわね。綺麗ねぇ~リリーちゃん」


「あい、きれぇ~」


「お、お母様……これは第1級魔術です……エリオットはまた1つ第1級魔術を……」


「確かオーベントの他の第1級魔術師は1つずつしか使えないのでしたね」



 そう、オーベントにいる第1級魔術師は1つずつしか第1級の魔術を使えない。

 だがエリオットは今まさにもう1つ第1級魔術を使って見せた。しかもほぼ完璧といっていい術式構築で、だ。

 この虚飾流星は第4級の魔術にある虚飾花火の進化発展型。

 虚飾花火は指定した空間に1,2個の知覚できる魔力の花火を作り出す事ができる魔術だ。

 虚飾花火ではある程度形や大きさが決まっているが虚飾流星ならばこの制限が大きく外れる。

 だがその分形や大きさと、虚飾花火では指定できない動作を決めなければならない。


 虚飾流星は虚飾花火と違って詠唱で指定する設定箇所が1つ1つの形で増える上に、同時に全ての設定を終えなくてはならない。

 その同時に行う設定というのが問題で、全て同じにすると失敗するという特性がある上に似たような物でも同様に失敗する。

 この虚飾流星が第1級魔術であるのは全て違う設定を行わなければいけないのと、虚飾花火数百発分の魔力が必要な為だ。

 設定の膨大さも然ることながら、この消費魔力が厄介で設定を変える毎に消費魔力が変わりよほど精密な設定を組まないとあっという間に魔力切れで失敗か、成功しても気絶する。


 今目の前で展開している星座のパレードはエリオットの持つ常人よりも遥かに多い魔力でもぎりぎりの量を使っている。

 ぎりぎりのところで気絶しない絶妙な量で設定を構築して見事成功させているのだ。

 これには感心するしかない。

 設定次第で様々な変化を起こす魔術ではあるが、そのほとんどは魔力をぎりぎりまで使用するタイプではない。

 むしろ魔術師は魔力を半分近くは残して不慮の事態に備えているのが基本だ。

 だがエリオットは魔道具職人。

 魔術師でも魔道具職人は基本的に安全圏での仕事だから魔力をぎりぎりまで酷使することを平然とやってしまう。魔力切れで気絶したりも日常茶飯事だ。

 それでもここまで緻密な設定とギリギリの魔力使用はなかなかできる物ではない。



「エリオットは……リリーちゃんのこと、本気なのでしょうか……?」


「リリーちゃんのためだけに虚飾流星を習得したみたいねぇ~。

 でもリリーちゃんが欲しかったらまずわたくしを倒さないとダメですわね」


「り、リリーはお嫁になんてやりません!」


「エナ……」


「エリアーナさん……」


「きれぇ~」



 お母様とお婆様の呆れた声に真っ赤になっているであろうエナが小さくなっているのを感じる。

 だがそんなことよりも頭上に輝く星々の美しくも楽しい荘厳なパレードに魅入っていた。






◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆








「わわわわわ、どうしよう、どうしよう。

 リリーが、私のリリーがあんな男に取られちゃうぅぅ!?」


「落ち着け、おまえならこれ以上のことを簡単にやれるだろう」


「ハッ! そうだった!

 私ならアイツなんかに負けないすごい魔術でリリーを取り戻せる!

 やるよー! 私はやるよー!」


「ほどほどにしておけよ」


「やったるでー!」



 ちっこいさまのやる気漲る声でハッとして我に返ると頭上に輝くパレードももうすぐ終焉だ。

 だがこれから始まるであろうものはそれを遥かに超えるものであることは予想しなくてもわかる。




【く、クティ! だめだよ! 今はみんないるんだから!

 クティが張り切ったらカバーできないよ!?】


「任せて、マイハニー! 私の力を信じるがよい!

 そおおおおりゃああああぁぁぁあぁッ!」


「ほどほどになー」



 クティのドヤ顔ウィンクからの気合の一閃により、頭上を埋め尽くしていた星々のパレードが一瞬で消滅し、次の瞬間には様々な動物達が阿波踊りを始めていた。



「こ、これは!?」


「エリオット殿がまた!?」


「エリオット殿なら、あそこで気絶しているわよ」


「まさか、最後の力を振り絞って……?」


「リリーちゃんのためにそこまで……」


「あらあらまぁまぁ、でもわたくしを倒さないとダメですよ~」



 ご都合主義というかなんというか、いい具合に勘違いしてくれたお母様ズは放置して頭上で展開されている阿波踊りを呆然とみつめる。



 なんでクティは阿波踊りを知っているのだろうか。この世界にも阿波踊りがあるのだろうか。

 いやそこは考えちゃいけない。

 これがクティクオリティなんだから仕方ないのだ。

 でもなんで阿波踊り……。



「ど、どうかな……?」



 もじもじとして乙女モードなクティが上目遣いで聞いてくれば最早破壊力はメガトン級を軽く超える。



【最高だよ、クティ! さすがクティだよ! もう可愛すぎて死んじゃう!】


「死んじゃだめだよ、リリー! でもリリーも最高だよ! もう可愛すぎて死んじゃう!」


【クティ!】


「リリー!」


「ほどほどになー」



 サニー先生のさり気無い偽装工作により気絶したエリオットは使用人数人掛かりで救護室に運ばれ、頭上の阿波踊り部隊は星々のパレードよりもずっと長い時間その無駄にキビキビした踊りを披露し続けたのだった。



はい、登場したのはエリオットでしたー。


新キャラだと思ってた人達はごめんなさい。

お父様はすでに合流済みです。セリフも出番もありませんが。


さりげなくエリオットを気絶させて偽装工作するサニー先生はやはり最高ですね!


気に入っていただけたら評価をして頂けると嬉しいです。

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