外伝19,エクス
本編にまだ出てきていないような、世界設定が若干出てきます。
そういうのが嫌な人はブラウザバック推奨です。
驚愕の事実ですが、本編にはまったく影響がありません。
むしろほとんど出番ありません。
たくさんの書物が所狭しと本棚以外にも床にもうずたかく積まれたこの場所は私が小さな頃から育てている自慢の彼女の部屋だ。
彼女は私が物心ついたときに迷子になった先で見つけた浮浪児だった。
道を知っているというまだ舌足らずな彼女の言葉に心細かった私は素直に頷き、道案内を頼んだ。
彼女の言葉は真実で、あれだけ迷ったのにあっという間に家に帰る事が出来た。
そこで彼女は自分の役目は終わったとばかりに去ろうとしたけれど私はそれを許さなかった。
まだお礼も何もしていなかったし、あの時の彼女の言葉と行動はどれだけ私を救ってくれたかわからない。
帰る場所もなければその日の食事もままならない、という彼女の言葉に私は彼女を雇う事を決意した。
まずは薄汚れて汚い身形をなんとかするとその後に出てきたのは将来が楽しみな美人さんだった。
これならいけると思った私はさっそく私の小さな頃の服を彼女に着せて、メイドの1人を捕まえてお父様達に見つからないように色々と仕事を教えてもらった。
お父様達は普段あまり家には帰らないし、私の親友の家に遊びに行けばそのままお泊りコースなので事情を話して親友の家で少しの間基礎的な仕事を実践させて覚えてもらう事にした。
まだ幼い彼女だけど飲み込みが異常によく、あっという間に仕事を覚えていった。
その事が親友のお母様の耳に入り、彼女は正式にメイドを仕事にするために親友のお母様の作ったメイド学校に行く事になった。
3年後に無事学校を卒業した彼女は立派な……いや、正確には私の家のどのメイドよりも完璧なメイドになっていた。
幼い彼女は少女となり私だけのメイドとなった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「それでねそれでね。リリー達ったら私のことをお母様なんて呼んでくれたのよ!
もうこんなに嬉しかった事はないわ!」
「それはようございました、お嬢様」
「もう! スカーレット、私もいい年なんだしお嬢様はないわ!」
「私にとってエリアーナ様はいつまでもお嬢様です。例えおばあちゃんになってもお嬢様です。
しわしわのくちゃくちゃになってもお嬢様です。お嬢様」
「むぅ……。まぁいいわ。今はリリーとテオとエリーよ!
本当に可愛かったわぁ……。あぁ早く来年の誕生日にならないかしら……」
お嬢様――エリアーナ・ラ・クリストフ様は私のご主人様です。
最愛の人を亡くしたショックと子供を流産したショックで一時期は見ているのも辛いほどだったのですけれど、リリアンヌ様がお生まれになった時にまるで生まれ変わったかのように立ち直られました。
今ではリリアンヌ様の乳母として毎日元気に過しております。
……いえ、先日のお嬢様の誕生日で乳母として我が子のように育ててきた子供達に1日お母様をしてもらいちょっと壊れて毎日を過しております。
あんなお嬢様は……いえ、それなりに見ましたね、はい。
私は迷子のお嬢様の道案内をした日から、地獄……じゃなかったメイド学校を卒業し、その後ずっとお嬢様のお側にいますのでお嬢様の知らない顔はないと自負しております。
「もうあんな可愛いこと言われちゃったらどうしたらいいのかわからなくて抱きしめちゃうわよね!」
「私はそんなお嬢様を抱きしめたいです」
「テオのあんな甘えた笑顔は本当に久しぶりに見たわ! いつもはリリーにしか向けてない笑顔なのに、テオの小さい頃を思い出しちゃったわぁ」
「私は小さい頃のお嬢様のはにかむ笑顔を思い出しました」
「エリーの笑顔もいつも以上に華やかでとても可愛らしかったわぁ……やっぱり女の子はいいわねぇ~」
「私は女の子なお嬢様が華やかで可愛らしいです」
「でも2人には悪いけれどやっぱり1番はリリーよねぇ~。あの可愛らしい声でお母様なんて言われてしまったらもうだめだわ! もうだめだわー!」
「……リリアンヌ様は私は正直怖いです」
「……え?」
「なんでもありません」
髪を振り乱して暴れていたお嬢様が私の呟きに目ざとく反応しました。
でもちゃんとは聞こえていなかったようで、すまし顔で何事もなかったように言えばまた暴れ始めてしまいました。
あんまり暴れると本が散らばるのでやめてほしいです。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
私は生まれた時から1人でした。
さすがに生後すぐは1人ではどうしようもなかったので同じ浮浪児が育ててくれました。
4歳の時に生まれた所を出て王都であるオーベントにやってきました。
積荷に混じっての密航劇はなかなかスリリングでした。
オーベントは物で溢れた場所でしたが4歳児のしかも薄汚い存在にはなかなか仕事がありませんでした。
もういっそのこと生前の知識を使って革命でも起こしてやろうかと思ったりもしたのですが、如何せんチート能力がなかったのでどうしようもありませんでした。
4歳児が何かを喚いても聞き入れてもらえるわけがありません。
そんなある日にお嬢様に出会い、あれよあれよという間にあの使用人養成学校に入ることになりました。
3年間は本当に地獄でした。
当時の私の待遇はまだマシな方でした。命が保証されていましたし。
私以外のほとんどは命の保証すらなく、文字通りこの世界から消えていった人数も片手では足りません。
チート能力は貰えなくても身体能力は抜群だったので、地獄で私の才能は順調に開花していきました。
正直、刺突剣を使わせたらクリストフ家の誰にも負けない自信があります。
そんな私ですが、クリストフ家第3子、リリアンヌ・ラ・クリストフ様は正直恐ろしいです。
あの人はきっと私と同類です。
それもチート能力持ちで間違いありません。
何せ目がまったく見えないにも関わらず、類を見ない魔眼の所持者なのです。
類を見ないという時点でチート確定です。
きっと恐ろしいほどの性能を秘めているに違いありません。
しかも可愛いです。
それはそれは恐ろしいほどに可愛いのです。
いつもは無表情ですが、折に触れ繰り出される笑顔が最早殺人的に可愛らしいのです。やばいです。
あの方の専属の4人もかなりの実力者揃いですが、すでにあの方に心酔しています。やばいです。
あの魔眼は魅了の類なのでしょうか。
それならかなり納得が行きますが、違う気もします。
生前ならば子役オーディションなんかにでたら1発合格のあとにアイドルデビューでしょう。
そして巻き起こる空前の無表情っ娘ブーム。萌えますね。いえ、やばいです。
クリストフ家でもあの方の情報はかなり秘匿されています。
特に外部への流出に関してはかなり神経質になっています。
アンネーラ様方が邪魔になるであろう存在を速攻で消しに行ったほどです。
あの方は化け物ですね。あれこそ真のチート能力というヤツです。間違いありません。
地上最強の生物も裸足で逃げ出すのではないでしょうか。やばいです。
そんなクリストフ家での私の待遇はエリアーナお嬢様の専属で、クリストフ家としては客分。
普段は一般の使用人達に混じって活動していますが、執筆活動にも勤しんでいます。
私の書いた本は難解ですが、ハマると中毒性を持つようです。
これが私に与えられたチート能力でしょうか。疑問です。
でも割とすんなり色々書けてしまうのでそうかもしれません。
この世界で紙は非常に貴重です。
紙すきに挑戦してみようと思ったこともあったのですが、木からどうやって紙を作るのでしょうか。甚だ疑問です。
なので客分の特権を利用してお金持ちのクリストフ家を大いに活用しています。
クリストフ家は言うなればマイクロな柔らかさの人を100倍にしたような凶悪なお金持ちです。
なので手に入らないものはほとんどないといっていいでしょう。命すらです。
まぁ、あの方の目の治療法だけは無理なようですが。
なので紙は問題なく手に入り、しかも生前では叶わなかった書籍化まで可能となってしまったのはちょっと呆れました。
これは自費出版なのでしょうか。
まぁ出版社自体がほとんどないので世に出ている本のほとんどは自費出版ですが。
私の書いた本も例外ではありません。
原本から手動で写本され、数千冊単位で売れているようです。活版印刷などありません。
手書きで数千冊ですから相当な労力です。いくら客分といえどこれはちょっと呆れます。
しかもそんな労力がかかる物で、しかも紙は貴重品。値段もバカになりません。実際バカですか、と思える値段です。
でも売れてます。ちょっと才能が怖いです。チート怖い。
印税という概念がないのですが、クリストフ家はやり手なので売り上げは原価と労働費など諸々を差っぴいて私のところに転がり込んできます。
実はもうすでに下手な下級貴族なんか目じゃないほどの財産を手に入れています。
その日の食事にも事欠くほどだったあの薄汚れた浮浪児だった私が今では金貨のお風呂で豪遊できます。痛いのでやりませんが。
それにしてもお嬢様がこれほどメロメロになってしまうとは、やはり子供達の力というものは恐ろしいものです。
私は生前も子供を持ったことはないし、恋人も数えるほどしかいなかったし、愛などというものは終ぞ理解できませんでした。
だから不思議です。
そんな愛を理解できない私が愛を語る物語を紡ぐというのもおかしな話ではありますが、書けてしまうので仕方ない。しかも売れてます。人気作家です。
エリスティーナ様なんて私の新作を心待ちにしておられます。
作者がこんな身近にいるということは知らないようですが。
私の作品を私が書いているということを知っている人間は実は多くありません。
クリストフ家現当主様方と前当主様方とお嬢様くらいなものです。
なんでも知られると狙われるそうです。
あれほどバカ売れしていればそれも当然だと思います。私じゃなくても誘拐しますね。
でもここに居れば安全です。
このクリストフ家は国ですら手出しできないほどの大貴族。
そんなクリストフ家の子供達の乳母をし、その子供達にお母様と呼ばれたことに身悶えているのが私のご主人様です。本が崩れます、あ、崩れた。
「まったく何をしているんですか、お嬢様」
「ご、ごめんなさい……つい嬉しすぎて……」
「まぁあれだけ可愛い子達ですから仕方ないですが、暴れるなら他所でやってください」
「ごめんなさい……」
「はぁ……まったくお嬢様は私の前だけは小さなお嬢様のままですね」
「だってあなたは私の姉妹みたいなものだもの」
お嬢様にとってクリストフ家の子供達が自分の子供のように可愛いのと同じように、私にとってお嬢様は生前の家族以上に大切な人です。百合ではありません。
私はリリアンヌ様が恐ろしい。
でもお嬢様の為ならばその恐ろしさを我慢し、外に出す事は一切ない。
リリアンヌ様に何かあればお嬢様が悲しむ。だから私はリリアンヌ様に這い寄る害悪を全て打ち払うことも吝かじゃない。
まぁ私の出番はあんまりないけれど。
「さぁ、お嬢様。そろそろ戻らないといけない時間ですよ」
「もうそんな時間? リリーが心配しちゃうわね! じゃあスカーレットもあんまり根詰めちゃだめよ?」
「承知しております」
「それじゃまたあとでね」
「はい、お嬢様」
本当に幸せそうなお嬢様の顔を見れば私の顔にも自然と笑みが浮かぶ。
お嬢様の笑顔があれば私は書き続けられる。超☆執筆です。
さぁ、今日も2本足で立ち上がろう。
エクス。
エリアーナ。
クリストフ。
スカーレット。
の略です。
実は身近にいました転生者。
でもまったく本編に影響ありません。
彼女の文才はチートではありません。本物の才能です。
身体能力についてもチートではありません。
ちょっと達人級にすごいだけです。
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