外伝17,とある専属メイドの独白
本編にまだ出てきていないような、世界設定は……出てきません。
別視点での本編です。
裏側からみたらこんなにやばいんですね。
お嬢様はすごい人です。
私だけがそういうのではないのでまず間違いありません。
もし私だけがそう言ったのなら勘違いかもしれないと自分の胸のうちだけに留めていたでしょう。
ですが、私のほかにも3人いらっしゃる先輩方も口をそろえて仰るのです。
お嬢様はすごい。っぱないって。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
クリストフ家次女リリアンヌ・ラ・クリストフ。
私が仕えるお嬢様であり、すごい人です。
お嬢様はまだ2歳……もうすぐ3歳という幼さで専属4人全てに一目置かれる方です。
いえ、これは間違いですね。
専属4人だけではありません。大奥様のアンネーラ様を始めとしたクリストフ家の皆様方すべてに共通することなのです。
クリストフ家の皆様方は全員が全員ともお嬢様に一目置いています。
お嬢様は濁った瞳という病を患っておられます。
ですが濁った瞳と称されるこの病の特徴である白く濁ったようなあまり綺麗とは言い難い瞳が、お嬢様においてはまるで宝石のような輝きを放っているように感じられるのです。
クリストフ家に仕えるようになって初めて見る事が出来た人形のような美しくも儚い、でも決して作り物ではありえない神の造りたもうた造形美を体言しているようなお嬢様。
普段はあまりその表情に変化がないのですが、ふとしたときにお見せいただける表情は私の胸を鷲掴みにして離しません。
そして……もう1つ私を鷲掴みにして離さないことがあります。
とても恥ずかしいことなのですが……私はお嬢様に……その……気持ちよくされてしまうのです……。
お嬢様に私の尾や耳を撫でていただくとそれはもう……夢見心地といいますか、頭が真っ白になってしまうといいますか……。
とにかくすごいんです。
すごいなんて言葉では言い表せないほどのすごさなんです。
この気持ちよさは言葉にできません。
つい最近もですが、本当に久しぶりに気持ちよくしていただきました。
初めてお嬢様に気持ちよくしていただいた時はびっくりしすぎて泣いて逃げ出してしまいました。
ですが翌日びっくりするくらいお肌が綺麗になったのです。
体調も今までで1番かもしれないくらいによかったですし、お嬢様は本当にすごいです。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
お嬢様のお気に入りとして専属に選ばれたのは少し複雑でした。
でも選ばれたことには変わりはありません。
私もクリストフ家のメイドとしての誇りがあります。確かに実力では先輩方3人には遠く及びませんが、いつかはお嬢様の専属として立派なメイドになりたいと思っています。
お嬢様が専属である私達にご自分から触れることがあるのは、やはりお気に入りとして専属入りした私だけでした。
その頻度も本当に少なく、お嬢様の専属になってから1年経つまでにほんの数回、数えるほどでした。
気持ちよくしていただいた回数も……。
ですので私は本当にお気に入りとして専属入りしたのか疑問に思う事もありました。
なのでそう思う度にそれならば先輩方のように実力を見込まれたのでは、と思うようにすることにしました。
暗く後ろ向きな思考はよくありません。明るく前向きに、でも謙虚な心を忘れずに、です。
長い間お嬢様から気持ちよくしていただくこともなく、次第にもう気持ちよくしていただけないのではないかと思い始めた頃、それは起こりました。
普段通りにお嬢様のペットのサルバルアのレキの部屋で控えている時でした。
お嬢様が珍しく私をお呼びになられたのです。
私の胸はその時すごく高鳴り、鼓動がそれはもうすごい速さになったのを覚えています。
何か予感がしたのです。
もしかしたら今日……。
ですが予感は外れてしまいました。
お嬢様から突然抱きつかれたのはすごく嬉しかったです。
ですがそれだけでした。
ほんの少しだけ残念でした。ほんの少し……。
でもそんなことを先輩方に言ったら当分の間弄られる事になりますので決して言いません。
私がほんの少しだけ、ほんの少しだけですよ? 残念に思っていたのをお察しになられたのでしょうか、お嬢様がレキの毛を梳いた後に私を梳いてくれると仰ってくださったのです。
どどど、どうしましょう!
私の胸が、鼓動が、もうすごいことになってます!
きっとお嬢様のあのブラシに尾を梳かれてしまったら……きっと私は……私は……。
ハッ。だ、だめよ、ミラ! あなたはお嬢様のメイド。メイドが主人に尾を梳いてもらうなんてそんな……あぁ……でもッ。
私が葛藤し、混乱しているとお嬢様から神掛かったその美しくも儚いお顔同様に、麗しいお声で催促されてしまいました。
こうなっては私はもうお嬢様の意志に従わねばなりません。
そうです。これはお嬢様が望まれていること。私はお嬢様の専属としてお嬢様の望みを果たさねばならないのです。
あぁ、でもやっぱり……だめよ、ミラ。お嬢様の望まれている事なのよ。あぁでもやっぱり……。
最終的にはお嬢様に尾を差し出した私ですが、その後の事は筆舌に尽くしがたいものがありました。
今まで気持ちよくしていただいたアレはただの準備運動にすらならないものだったようです。
お嬢様はやっぱりすごいです。
すごすぎて……もう……お嬢様なしでは生きていけません。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
やっぱりばれました。
先輩方といつもの深夜のお喋り会でニージャ先輩に開口一番言い当てられてしまいました。
その時の状況まで詳しく喋らされると、先輩方3人は何やら考え込んでしまいました。
どうしたのでしょうか。
前回は鬱憤を晴らすかのように弄り回して酷い目にあったので、今回も覚悟していたのですが様子がおかしいです。
しばらくの沈黙の後ジェニー先輩が1つの仮説を述べられました。
私が今回気持ちよくしていただいた状況は専属全員にチャンスがあるのではないか。
確かに言われてみればそうかもしれません。
お気に入りで専属入りした私だったからその事には気づけなかったのです。
実力でうんぬんとは言っていてもやはりお嬢様のお気に入りで専属入りしたことは事実ですのでどうしてもそれが先に立ってしまっていたようです。
今回私はレキのついでのように尾を梳かれました。
お嬢様が私を最後に気持ちよくしてから時間もかなり経っています。
その事からお気に入りであっても気持ちよくしていただけるとは限らず、レキの毛を梳くという最近のお嬢様の日課がたまたま目に付いた私の尾でもやってみようとなったのかもしれません。
これはつまり、他の誰にでもチャンスがあると言うことです。
尾を梳くという前提条件が必要ですが、ジェニー先輩ならまず問題ありませんし。
ジェニー先輩の瞳に燃えるような何かが宿ったのは言うまでもありませんでした。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
翌日の深夜のお喋り会には艶々のお肌の気を抜くとすぐにうっとりとして意識がどこかにいってしまうジェニー先輩がいました。
私が初めて気持ちよくしていただいた時より酷いです。
まぁでもわからないでもないです。むしろよくわかります。
あの頃とつい先日のとではレベルが違いすぎますから。
ジェニー先輩から語られた話をラクリア先輩もニージャ先輩も固唾を飲んで聞いていました。
一通り話し終わったジェニー先輩はまた心此処にあらずといった感じで意識がどこかに飛んでいってしまいました。
きっと思い出しているのでしょう。すごくよくわかります。
その後、ラクリア先輩とニージャ先輩が2人で真剣にあーでもないこーでもないと作戦を練っていましたが、弄られなくて済んだ私は安堵でいっぱいだったので詳しくは覚えていません。
それについ先日のアレを思い出してしまったので……少し……その……い、言えません!
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
翌日、ラクリア先輩が倒れてしまいました。
交代した私は先輩の惨状を見て理解しました。
あぁ……さすがです。お嬢様……。
ラクリア先輩には悪いですが、もしかしたら今日も気持ちよくしていただけるかもしれないという思いでいっぱいでした。
結局その日私は気持ちよくしていただけませんでした。ぐすん。
深夜のお喋り会ではラクリア先輩は一言も喋りませんでした。
昨日のジェニー先輩以上に意識が飛んでしまっていて戻ってきませんでした。
そんな姿を見てニージャ先輩が決意を固めていたのを知っています。
魔道具の改造が趣味のお友達の人に何かを頼んでいたので、きっとそれらを使うつもりなのでしょう。
いい加減にしないと大奥様にばれますよ?
でもそれらを使ってでもお嬢様に気持ちよくしていただきたいのはよくわかります。
私ももし手に入るのなら躊躇することなく使ってしまうでしょうから。
今日のお喋り会はほとんどお喋りすることもなく終わりました。
ジェニー先輩のお肌はまだ艶々で違いがはっきりとわかるほどの効果を示しています。
意識が飛んでいるラクリア先輩のお肌も同様です。
まだ私のお肌も同じくらいの艶を維持していますし、本当にお嬢様はすごいです。
ニージャ先輩は決意の炎で燃えていましたし、恐らく明日にはラクリア先輩がもう1人出来上がると思います。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
翌日……フラフラのニージャ先輩なんて始めてみました……。
いつも無表情で飄々としてるのに……こんな先輩……初めてです……。
私の部屋に集まってからずっと私のベッドに倒れこんでいたと思ったら、錆付いた音が出そうなくらいの速度で首を動かして一言だけ言い残しました。
……お嬢様、っぱない。
その一言が全てを物語っていました。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
翌日に専属4人全員が集められてお嬢様から齎されたお言葉は私達全員にとって衝撃的な言葉でした。
それは……私達のやる気次第でまた気持ちよくしてくれるというものだったのです。
私はもちろんのこと、お嬢様のすごさを身をもって体験した先輩方もそれはそれはもうものすごい張り切り様でした。
その張り切り様はエリアーナ様や大奥様がしていたお嬢様のお世話をなんかとかして奪おうとするほどでした。
私達はお嬢様の専属とはいえ、メイドです。
エリアーナ様やましてや大奥様が嬉々として行っているお嬢様のお世話を奪うというのは物理的に首が飛ぶ話に直結しかねません。
ですがそれでも私達はお嬢様のお言葉を実現する為に決意を固めていました。
しかし、それを見透かしていたかのようにお嬢様は自ら率先して私達に仕事を振ってくださいました。
エリアーナ様や大奥様は少し……いえ、だいぶ不服そうでした。
それはそうです。
今まで嬉々としてお嬢様のお世話をなさっていたのですから。
ですが、お嬢様が自ら行動してくださらなかったら私達の誰かは、もしくは全員がお嬢様の専属という大任を、人生を終わらせていたかもしれません。
やはりお嬢様はすごいです。
私は思います。
まだたった2歳、もうすぐ3歳にしかならないお嬢様。
ですがあっという間にその命さえ自ら差し出すように専属を意のままに掌握してしまったお嬢様。
お嬢様はきっとこれからもっとすごい方になるでしょう。
私はそんなお嬢様の専属として末永くお仕えしたいと思っています。
そしてまた……気持ちよくして欲しい……です。
ミラの心のうちでした。
お嬢様、っぱない。
気に入っていただけたら評価をして頂けると嬉しいです。
ご意見ご感想お待ちしております。




