129,秋の終わり
翌日から自分にも見える家具がどんどん増えていった。
まずは自分が主に使う物から始まり、部屋でお婆様やエナと共用している物など作成された段階で入れ替えが進んでいく。
自分のみが使う家具に対しては徹底した魔道具化が施されているのだが、共用だったり、自分が使わないタイプの家具――タンスや大きな机――などは見えるだけで魔道具ではなかったりする。
部屋に備え付けてあるタイプの家具は当然すぐには難しいのでそのまま別の部屋に引っ越してしまうか、部屋を空けている時間も多いのでその間に交換してしまうかでお婆様達が話し合いをしている。
自分的には元々見えなかったので部屋が変わってもあんまり気にならない。
せいぜい違う部屋の匂いに慣れるまでちょっとかかるだけ程度の違いでしかない。
それに今はもうほとんどの時間をレキ君ルームで過ごしているので、むしろレキ君ルームに置いてある自分用の家具の交換の方が頻繁に行われているくらいだ。
ちなみにレキ君の餌を入れる巨大な餌入れはすでに交換されている。
たまに自分が餌をあげるからだろう。ちなみに魔道具ではなかった。ついでにレキ君の餌は美味しくなかった。ちゃんと火を通さないと自分は食べられない感じだな。
そんな感じに順調に自分の視界に物が増えていく。
今までそこにあるとわかっていても視界に存在せず苦労していたのが、色は見えなくともしっかりと把握できる。これはやはり大きく違う。
1番顕著なものだと、やはり食事だろうか。
パレードや式典の打ち合わせで大忙しのエリオットが時間を作って屋敷に帰ってくる度に自分のための家具に魔道具化を施していく。
その最たる物がこの食器。
料理に合わせて様々な食器が使用されるクリストフ家では、その数は膨大だ。
大人の食事とほぼ変わらないものを食べている今の状態だと、1食に使用する食器の数もかなりの数になる。
食膳料理のような料理の数々だが、フルコースのような盛り付けで運ばれてくる場合が多いのだ。
なので一皿にほんの少しなんていうのは結構な頻度である。
目の見えない自分には最初はそうではなかったが、エナが介添えをして時間こそかかるが意外とうまく食べるのでお婆様が判断を下した。
なので今ではエナの誘導の下、皆と同じ料理を同じように食べている。
ただやはり時間は皆の倍くらいかかる。なので当然冷めてしまう。
一皿に対して少量なのだが、それでも冷めてしまうくらい食べる速度が遅い。
食が細いというのもあるが、見えないのでやはり時間がかかってしまうのだ。どんな工程にも必ず、エナによる誘導と1言2言の説明。これが付きまとうのでその分ロスし、当然1口2口で終わるわけがないのでさらに時間がかかる。
同じ皿の説明を繰り返さない程度には短縮は行われているが、結局その程度しか短縮する場所がなかったりする。
家族と和やかにお喋りしながら食事なんていうのはまだまだ難しい。
しかし、エリオットが作ってくれた食器魔道具がこれをかなり改善することになる。
エリオットが作ったのは食器でありながら保温機能を搭載した食器だ。
しかも食器の大きさや重さをほとんど変えることなく、クリストフ家で使う高級食器としての体裁を十分に保った見事なものだ。
色はわからないが、ひと目見たときに高級レストランにおいてありそうな、うわぁ高そう、という感想からもわかってもらえるだろう。
前述したように自分の食事には時間がかかる。
料理が冷めるなんていうのはほぼ当たり前。
冷たい物を冷たいままなんていうのもほぼ不可能。
それでも食器ではない保温魔道具でなんとか直前までは熱々、冷え冷えの状態を保ってから出されてはいるのだが……まぁあまり意味はない。
だがこのエリオット製食器が登場してからは劇的に変わった。
それまで他と同じようにして行われていた食事がこの食器用に切り替わり、1皿に対して少量が複数分けてそれなりの種類を少量ずつに変わった。
食器にはお子様プレートのように区分けがしてあり、それぞれのスペースで保温パターンを変更できるようになっている。
熱々の隣に冷え冷えなんていうのもお手の物だし、スペース分けしてあるので料理がそのスペースに確実にあるとわかるのでエナの誘導も少ない労力で済んでいる。
あとはせいぜいフォークとスプーンの感触でなんとかするだけだ。
しかもこのフォークとスプーンまでエリオットが魔道具化している。
当然見えるだけでなく、機能としては吸着と囲み込みだ。
吸着することにより取りこぼしを防ぎ、囲み込むことでスープなどのこぼれやすいものを包み込む。
最初はオンオフの切り替えに少し手間取ったけど、数回使えばコツなんてあっという間だ。
慣れればこれほど心強い味方もいないだろう。
こうしてエリオットが作ってくれた食器魔道具達の手伝いもあり、視覚的にも把握しやすくなった自分の食事は飛躍的にその速度を増した。
今まで人の倍以上かかっていた食事時間が1.5倍程度の時間まで短縮したのだ。これは非常に大きい。
基本的にクリストフ家のような大きな貴族の家では食事を摂る時間というのはそれなりに長い。
なのでその長い時間のさらに倍かかっている自分は相当な時間を食事に取られているということになる。
苦痛というほどではないが、ついついサニー先生に授業をお願いしてしまう事もあるくらいの長さなのは言うまでもない。
今は忙しく、なかなか会えないエリオットだが今度会ったらお礼の1つでも言ってあげないといけないだろう。
今も尚、日々交換の進む家具達。
自分の視界に物がどんどん溢れていく。
まるで色こそないものの、生前の世界を取り戻していっているようなそんな錯覚さえ覚えるほどだ。
内容物は全然こっちの方が高級なのだけどね。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
少しずつ過ぎていく日々は変わらず、だが確実に着実な進みで毎日が変化していく。
エリオットの王宮での式典が昨日行われた。
クリストフ家では両親、祖父母、それから長男で次期当主のテオが出席した。
エリーと自分はお留守番だ。
エリオットは自分に出て欲しいと言わなかったのかと思ったのだが、どうやらエリオットはその辺も考慮できる人物らしい。
例え平和なオーベントの王宮といえど、権謀術数の類は当然存在するのでオーベントの英雄である祖父母に特に目をかけられている自分という存在は非常に注目度が高い。
なのでやはりというかなんというか、王様から両親やエリオットに自分も出席させて欲しいと打診があったそうだ。
当然断ったそうだが。
王様から出席の打診が出されるくらいには自分の情報は外部に出ている。
もうすぐ3歳になるし、オーベントでも有名な祖父母が年単位で自分の領地に帰らずオーベントに滞在していて噂にならないわけがない。
3年も貴族の家で生きていれば情報というものはどうしてもある程度は外部に出す必要がある。
クリストフ家の使用人は口が堅い。それこそ拷問されても喋らず命の方が早く尽きるくらいには口が堅い。
まぁまず拉致するのにも並大抵ではない苦労が必要ではあるが。
使用人の安全を守るというのも大事なことだ。
なのである程度差しさわりのない程度の情報ならば公開した方がいい。木を隠すなら森の中。藁山の中から針を探すのは難しいように、問題ない情報を流し、隠しておきたい情報は真実と虚実入り乱れた情報で巧妙に隠している。
それでもクリストフ家を探る者は後を絶たない。
普通とはとてもいえないクリストフ家を相手にそうそう情報を取得できるものではない。そんな強固な守備を誇っても毎日のように間者の類が侵入を試み、失敗し捕まっているそうだ。
直接的な行動に出なくても間接的な経路から幾重にも侵入しようとする場合も先んじて潰されている。
この辺はお爺様の十八番らしく、たまに自慢される。
今日はどこそこの何々を吊り上げたぞ、これでまた1つ貸しが増える、と。
もうすぐ3歳になる幼女に自慢するようなことでは決してないが、適当に調子を合わせてあげるのもおじいちゃん孝行というものだろう。普段領地の仕事に追われて、やつれ具合――主に側近から逃げ出してすぐに捕縛される心労?――が急速に増しているのを見ると気持ちも大らかになろうものだ。
むしろ側近の人達を労ってあげたい。今度例の魔道具でもつけてお茶でも淹れてあげようかな。
閑話休題。
王宮にも出回っている自分の情報は優秀な孫に特に目をかけている祖父母というのがメインで、優秀という情報を隠れ蓑にして魔眼やら何やらの情報を隠蔽している。
まぁその優秀というのも幼女にしては、という注釈が付き、更に将来有望ですな、ははは、という程度のものだ。
だがそこにオーベントの英雄が目をかけているという情報が付くとちょっと違ってくるのが頂けない。
だから王様から打診があったりするのだろう。
有名人というものは意外と面倒なのだ。
そして恐らく今回のエリオットの第1級魔術師昇格の件でも自分のことが出るだろう。
いやもうすでに出ている。
エリオットはあぁいう性格なので今回のような王宮にあがることすら滅多になく、それなりにすんなりとことが運んでいる事に王宮側もいぶかしんでいたりするのだろう。
そして一応配慮しているとはいえ、エリオットに自分の話を振ってしまうともうアウトらしい。
始まるのは両親や祖父母以上の自分自慢なのだ。
これにはクレアが頭を抱えたほどだった。
案の定婚約者説が現在の王宮では本命馬。次点でエリオットのペド野郎。その次でエリオットの魔眼による閃きを何度も与える奇跡の人。
最初以外大体合ってるのが面白い。
ちなみに噂の火消しは難しいとのことで、自然消滅するまで適当に放置が1番らしい。
王様の打診はこれに乗っかっての事なので断っても問題なかったというわけだ。
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なんだかんだありながらも、自分に直接の被害は一切なく、平穏無事な日々が過ぎていく。
一言程度とはいえ、自分が頼んだことなのでエリオットのパレードや式典については多少気にしてはいたが結局自分にできる事は何もなかった。
せいぜいがエリオット制作の家具を存分に使い倒すくらいだ。
12の月も3順目に入ろうとしている。
もうすぐ自分も3歳だ。
今年は自分にも見える家具のおかげで誕生日がちょっと楽しみでもある。
胸の鼓動がわずかながらも早まっているのを自覚しながら、オーベントの長い秋がゆっくりと終わりを告げようとしているのを確かに感じていた。
見えない家具と見える家具ではやはり大きく違うものです。
食事をするときに目を瞑って食べてみればわかります。
酷いことになりますよ?
次で7章終わりです。
外伝をいくつか挟んで8章です。
もうすぐ終わりが見えてきました。
といっても第1部の、ですが。
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