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濁った瞳のリリアンヌ  作者: 天界
第一部 第7章 3年目 後編 2歳
144/250

128,椅子


 自分の説得により、その日すぐにエリオットは王宮にあがった。

 本当にすぐだったらしい。

 着替えもそこそこに打てば響くのクリストフ家使用人の用意した馬車に飛び乗ったエリオットが王宮に向かって帰ってきたのはたった3ハルス(時間)後であった。


 王宮から帰って来たエリオットから今後のパレードの日程などを今度は一緒に帰って来たクレアも含めてお婆様とエナから報告を受けた。

 パレードはオーベントの街が広いので複数回に分けて行われるようだ。

 最初のパレードの前に王宮でのお披露目や式典なども行われるらしいが、パレード中も王宮では祝賀会などたくさんの催しが開かれるらしい。

 その全てに対して主賓としてエリオットは出なければいけないらしいが、自分から受けた願いのために彼は完璧を期待して欲しい、とまで言っていた。



 そこまで言った覚えはないんだけどなぁ、と半ば呆れながらも適当にがんばてねぇ~、と言っておいた。

 何せ自分はパレードはおろか王宮へも行けないのだから他人事すぎる。


 自分の適当な激励にエリオットは感激して涙まで流していたが、一先ずはクレアからの依頼もこれで完了だろう。

 ちなみに涙は反射で出た涙のようなもの以外なら魔力が篭っているので見える。不思議な事に痛みなどの反射で出てくるような涙は見えない。まだまだ魔力は不思議でいっぱいだ。



 オーベント王国に第1級魔術師が1人増えるという珍事? にこれから少しの間祭りの如く盛り上がるのだろうが正直自分にはあまり関係がないのでどうでもよかった。







◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆







 エリオットが王宮とクリストフ家の行き来で忙しくしている頃、自分はというと久しぶりにランドルフのご老人と対面している。


 ランドルフのご老人は元自分の主治医でクリストフ家にも長年仕えてくれていた人だ。

 だが彼の部下の1人の女性から自分の情報がいくつか漏れたことが原因でちょっとした事件が起こってしまったのを理由に主治医を引退。

 今はこれまでの功績を買われてクリストフ家で濁った瞳に関する研究を行っている。

 ちなみに部下の女性も家族を人質にとられての已むに已まれぬ結果であったが、自分はその後の顛末を知らない。



「――の排尿時などに痛みなどはないのじゃな?」



 そう言ってランドルフのご老人が右手に持った魔道具を近くに待機している部下の人? に投げ渡す。

 話を聞かれているのはランドルフのご老人の代わりにクリストフ家の主治医になったレイホーク・ランバラストだ。

 結構な頻度で自分を診てくれている人だけど、若くて物静か。聡明な女医さんって感じの人だ。



「はい、排尿時にも痛みを感じるといったことはないようです」


「ふむ。では――」



 久しぶりに会ったランドルフのご老人はちょっとおかしい。

 レイホークに自分の状況を聞いているのに、手元に置いている魔道具とか何かしらの道具を部下の人に投げている。

 魔道具以外は見えないのでよくわからないが、魔道具は起動状態のものから待機状態のものまで数種類用意されている。

 投げる頻度から見ても他の物もそれなりの種類用意されているようだ。

 そしてそのご老人の奇行を誰も咎めない。

 一体どうしたのだろうか。



「えぇ、今の所は特に問題もありません。

 『■▲■■▲■ ●■▲▼ ひとさしの水』」



 はい?

 今度はレイホークが唐突に魔術を使った。

 詠唱は無意識で暗号化しているのだろう。まったくその言葉から内容は聞き取れなかったが発動の鍵となる魔術名からして10級の生活魔術だ。

 コップ一杯分の水を生み出す魔術で、極々簡単なものだ。


 レイホークが生み出した水は予め用意してあったであろうコップに注ぎ込まれて消えている。

 いや正確には生み出した瞬間は魔力が水を虚空から引き出す為その存在を視認できるがその後はただの水な為、魔力がなくなり見えなくなったのだ。


 その後も会話の端々になぜか生活魔術が使われる。

 でも交わされる会話は自分の健康状態に関する事ばかりで唐突に使用される魔術に関しては一切誰も何も言わない。

 同席しているエナやお婆様もだ。

 まったく何が何やらよくわからないうちにランドルフのご老人とレイホークの話は終わってレイホークが退出していく。



「では結果から申し上げましょう」



 レイホークが退出して、背後に隠蔽魔術で隠れていた部下の人から何か受け取ったランドルフのご老人が居住まいを正す。

 隠蔽魔術で隠れていた部下の人は一旦移動してレイホークと共に外へ出た後にまたすぐにノックをして入ってきていた。

 意味あったのだろうか。いや、隠れていたのだからあるのだろう。なんで隠れていたのかはわからないけど。

 それにあの程度ならお婆様が気づいていたはずだし、それを見過ごしていたということは先ほどから繰り返されている奇行の一部なのだろう。

 なので気にしたら負けだ。



「お嬢様の瞳はやはり魔眼ですな」


「……やはりですか」



 久しぶりに自分のポーカーフェイスが崩れる所だった。

 ずっと無表情だけではなくなったとはいえ、不意打ちされてポーカーフェイスを崩すなんていうのはあまりないだけにちょっとびっくりした。



 あの奇行は魔眼を調べていたのか。

 そういわれればなんとなく納得いくものがあった。

 極普通の会話をしながらも何かを投げ渡したり、魔術を使ったりして、それらを意識させる。

 そして投げたり魔術を動かしたりしてもいたので自分は恐らくそれらを目で追っていただろう。

 見えないのは追えないが見えるのはついつい追ってしまう。


 特に魔眼がばれても問題ないし、むしろ今まで濁った瞳なのに魔力のあるものは見えていたのでそれなりの行動を取っていたのだ。むしろきちんとばれてくれたほうがいい。

 もちろん術式が見えるなどという規格外すぎることはばれなくてもいいけど。



「どうやら確認されている魔眼とは少し違うもののようですな。

 お嬢様が反応なさるのは魔道具、起動、待機、魔力切れ。全ての状態じゃし。

 逆に大きさを問わず普通の素材ではまったく反応していない。

 魔術に関しても反応しておるようじゃ。じゃが魔術による結果には無反応。

 これはつまり、現在確認されている魔眼の種類にあてはまる魔眼ではない新種の魔眼の可能性を示唆している」


「では、リリーちゃんの魔眼は何が見えているのですか?」


「恐らくは魔力。人や魔道具はほぼ完璧に認識している所を見ると間違いないでしょうな」


「まぁ……」



 さすがはランドルフのご老人。

 ずばり正解だ。

 きっとさっきの奇行は最終的なテストだったのだろう。あれだけで判別できるものではない。

 今までの状況やデータなんかをこれまで確認されている魔眼や症状なんかと照らし合わせて導き出した答えなのだろう。



「で、では、リリーは濁った瞳では」


「いや……残念ながらお嬢様は魔眼の所持者ではあるが、濁った瞳に罹っているのは変わらない。

 むしろ不幸中の幸いともいえる。

 濁った瞳は全盲となってしまうが、お嬢様は魔眼の力で魔力だけとはいえ見ることが適っているのじゃ」



 エナの搾り出すような声を遮るようにランドルフのご老人が事実をはっきりと告げる。

 だがそれは暗いものばかりではなく、若干の明るさも伴っている。

 自分の瞳には暗闇だけではないということをエナに伝えているのだから。



「ということは、魔力のあるもの……魔道具で家具などを作ったりすればよろしいのですね?」


「確かにそれならば見ることが出来るじゃろうが……」


「お金や労力の問題ではありません。リリーちゃんが快適に過ごせるかどうかが問題なのです」


「……そうですな。魔道具ならば魔力切れ状態でも関係なく見えていたようですし、おそらく魔力切れになった微量な魔片でも問題ないのでしょう。

 そうなるとお嬢様の魔眼は相当な強さの魔眼ということになりますな……ふむ」



 お婆様から齎された言葉。

 それは魔道具で家具を作ってしまうということ。

 これは非常に盲点だったといわざるを得ない。

 魔力で色々描いてきたというのに日用品を魔力のある物で作ろうと思った事はなかった。



 魔片は補助技術でその形状や硬度を自由自在に操れる。

 これはつまり、非常に柔らかい魔片も堅い魔片も思いのままということだ。

 もしかしたらベッドすら作成可能かもしれないし、大変だろうけど魔片で文字を書き、本を複写することもできるかもしれない。

 自分が成長して学園に行く年になっても勉強が難しいのでないだろうか、とお婆様達は懸念していただろうがかなり道が開けたのではないだろうか。



 まぁ学園で学ぶような知識はすでに納め終わって専門的な分野にまで深く足を突っ込んでいる状態なので何を今更という感も否めないが、それは自分と妖精ズしか知らないことだ。



「ではさっそく私は引き続き調査と研究を続行致します」


「えぇ、よろしくお願いするわ」


「よろしくお願いします、ランドルフ様」


「じーじ、がんばてねぇ~」


「ほっほ、お嬢様にそう言われてはこの老体、まだまだやれそうですな。ほっほっほ」



 頭を下げる2人に合わせて満面の笑みでランドルフのご老人にエールを贈ると、好々爺然とした目じりの極端に下がった優しいおじいちゃんが現れて嬉しそうに去っていった。







◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆







 部下の人を引き連れて去っていったランドルフのご老人から齎された結論から、さっそくクリストフ家ではエリオットが不在の工房の面子を中心として家具製作関連の職人が自分用の魔力を持った家具の製作を開始した。


 その日のうちには第1号がさっそく完成し、自分の下へとやってきた。



「どうかしら、リリーちゃん?」


「どう、リリー? ちゃんと見える?」


「あい!」



 目の前には自分用の小さな椅子。

 足が4脚あり、背もたれには魔片を変形して設けられた背もたれがある。同じく各所に変形させた魔片がふんだんに使われている。

 しかもやはり魔道具化されているようで、座ると起動し変形させてある魔片を軟化させて低反発クッションのような感じに少し硬度を柔らかくするように出来ている。

 背を沈めると適度に反発して形状が保たれ、柔らかすぎず、堅すぎず、実にちょうどいい。


 これで1つ枕を作って欲しいくらいだ。


 でもこれ……魔道具ってことは魔力切れを起こしたら取り替えないといけない。

 エリオットの新技術のおかげで魔力の持ちは従来の5倍以上よくなっているがそれでも使っていたらすぐに切れてしまうだろう。


 でも魔片を軟化させすぎると形状の記憶に問題があるようで、普通は何かしらで包んでしまうみたいだがそうすると見えなくなってしまう。

 結果として背もたれなどに使われた魔片を座った時に軟化させ、通常は硬化させることで形状を保っている。

 魔片を薄く膜の様に使えれば問題は解決されるのだが、今の所そういった補助技術は発見されていない。

 なので自分に見えるようにし、柔らかさを出すにはこういったやり方を取ったようだ。だがこれでは消耗品となってしまう。


 財力に底がないクリストフ家では問題にもならないことだろうけど、自分としてはちょっとなぁ、と言うのが否めない。

 まぁすぐに気にしなくなるのかもしれないが。人間は慣れる生き物だからね。



 それでもクリストフ家の抱える魔道具職人や家具職人は優秀だから、きっと解決してくれるだろう。

 楽観的にそんな風に思いながら、今世で生まれて初めて見る椅子にその日はずっとニコニコしながら座っていたのだった。



遂にリリーにも見える家具登場です。

長かった。非常に長かった……。


リリー自身の魔眼の話に必要な話数と、魔道具の話とそれに付随するエリオットの話。

そこまでいってやっと出てくる魔眼の周囲の認知と家具。


長すぎじゃないですかね。



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