125,被害の真相
クリストフ家次女、自分ことリリアンヌがメイド服にミニスカートとガーターベルトを着用し、ペットであるサルバルアのレキ君を神輿に屋敷を行脚したのはつい昨日のこと。
その日クリストフ家のたくさんの使用人が興奮して倒れる事態が起こった。
クリストフ家に仕える使用人達は並の使用人ではない。
もちろんそれなりに様々な耐性を有しているためちょっとやそっとのことでは冷静さを失う事はない。
しかし、事実としてその日は救護室が満杯になるほど倒れた人達で溢れかえる事態になった。
恐らくだが、ミニスカートやガーターベルトだけではそうはならなかったはずだ。
例え最近自分の容姿が非常に優れているということを自覚し始めたとは言っても、そこはせいぜい美幼女レベルくらいの話であろう。
鏡や光の反射を利用して自身の姿を確認できない自分には正確なことは言えないのだが、周りの反応というものは広がっていく自分の行動半径により徐々に明らかになっていくものだ。
つまりどういうことかというと……。
この事態を招いたもう1つの理由が存在するということだ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
レキ君に騎乗して屋敷を練り歩き、着いた先は大ホールだと思われる場所だ。
一段高いところに誘導されてそこで待っていたのはエリオット率いる魔道具工房チームだった。
「おぉ! 我が天使! 今日はセクシーアンドプリティーですな!」
エリオット以外のメンバーは自分達が入ってきた瞬間からポカーン、と口を大きく開けっぱなしだ。
まぁ幼女がミニスカメイド服でガーター装備なんだ、それが普通だ。
ちょい興奮気味の使用人達がおかしいのだ。
大興奮している専属達がおかしすぎるのだ。
エリーやお婆様やエナは身内贔屓の度が過ぎているのだから仕方ない。
クティはあれがデフォルトだ。問題ない。
「ばーば、ありがとぉ」
「いいえ、どう致しまして」
大興奮している専属を出し抜き、最近では専属の仕事となっていたレキ君の乗り降りの補助を手伝ってくれるお婆様。
1歩及ばなかったニージャが大興奮しながらも、いつもの無表情が張り付いていた顔に珍しく悔しそうな表情を浮かべている。
「このエリオット、我が天使がその麗しい姿を使用人達に振りまいていると聞き及び、駆けつけた次第にございます。
さっそくではありますが……まずはこれをどうぞ」
エリオットが自分の前にゆっくりと歩み寄り、傅くと何かを恭しく渡してきた。
「まどぉぐ?」
「はい、我が天使との約束の品を持参致しました」
彼が渡してきたのは魔力の流れが見える未活性状態――未起動状態――の魔道具だった。
だが形がおかしい。
なんだろう疲れているのだろうか。
「なぁにこれ?」
「これは我が天使から頂いた閃きにより可能になった魔道具。
名づけて――ウサミミオ7号にございます」
「うさみみ……お?」
確かにエリオットの言う通り、魔力の形ははっきりとウサギの耳を象っている。
ついでに尻尾の丸い形もある。
でもなんでそれを魔道具で再現する必要が?
しかも自分をみて閃いたのってコレを作るためのものだったの?
「はい、このウサミミオ7号は第1級魔術の精神感応波特定を使用した魔道具になっています」
「「「おおぉ」」」
エリオットの説明に周りの感嘆とも驚きともつかない、いや両方だろうどよめきの声があがる。
理由は簡単だ。
第1級魔術というのはその使用者が極端に少なく、魔道具にしようにも使い手が希少な上、魔力消費が激しすぎて携帯できるサイズではとてもではないが実現不可能といわれるほどのものなのだ。
第1級魔術であればどんな種類であってもそれは代わりなく、精神感応波特定という魔術は特に魔力の消費が激しいとされている魔術の1つだ。
つまり今手渡された自分に付けられるサイズのウサミミと尻尾程度の大きさに第1級魔術を封じるという事は不可能だったはずなのだ。
「我が天使により頂いた閃きにより……私は」
「ゴホン!」
「む……私達は魔力消費の革命的な削減に成功したのです!」
「「「おおおおぉぉぉ!」」」
エリオットが片膝を突いた姿勢から真摯な瞳でもってその言葉を、若干の訂正を要求されながらも放つと、大ホールに詰め掛けた使用人達から凄まじい歓声があがる。
クリストフ家の使用人ならば、魔術の知識に関してもそれなりの物を要求される。
例え使えなくても、知っているのと知らないのでは戦闘に際して大きく異なるからだ。
詠唱を個人で暗号化できるので詠唱からの魔術の判断は難しいとはいえ、それでも知識は有用なのだ。
そのため第1級魔術を封じた魔道具の小型化に成功したという話はまさしく革命というに相応しいことだと皆理解しているのだ。
「すでに数多くの検証からも実用性を確立しております。
そして今我が天使にお渡ししたモノこそ……我らの最高の逸品達の、我が天使にお渡しできる物の中でも最高品質の安全性の作品!
さぁ我が天使よ、是非この場で!」
エリオットの期待に満ちた目と会場中からの同様の視線が一遍に突き刺さる。
普通の幼児だったら絶対泣いてるレベルだろう。
だが残念なことに自分は普通の幼児ではない。ちょっとビクッとしてしまった程度で済んでいる。
そしてこんな大量の期待の眼差しに見守られた状態で断るのも憚られる。
ちょっと恥ずかしいだけだし、すでにミニスカガーターで羞恥なんてあってないようなものだったのも手伝って、とりあえず付けてみた。
ウサミミはヘアバンドタイプで被るだけ。
尻尾はスカートにペタンとつけただけで張り付き落ちることはないようだ。これも複合魔道具の機能の1つだろう。
「「「「おおおおおおぉぉぉぉぉ」」」」
大ホールに先ほどよりも遥かに大きな歓声が響き渡る。
まさに地鳴りのような声の津波にまたビクッとしてしまうと、それに合わせて黄色い歓声が更に大きくなった。
「よし!」
黄色い歓声の中に混じる何かの成功を確信した声。
その声の持ち主達は小さく拳を握っている。もちろんエリオット達だ。
なんだかよくわからないが、彼らは何かをやり遂げたような顔をしている。
ウサミミをつけた自分が大歓声を受けるという演出が成功して……だとは思えない。
彼らは演出家ではない。魔道具職人なのだから。
「リリーすごいわ! すごく可愛い! そのピクピク動いてる耳がリリーの可愛らしさを強調していてとてもいいわ!」
「えぇ、とっても可愛らしいですわ、リリーちゃん」
「やべーまじやべーリリーのウサミミがピクピクぴこーん!」
エリーとお婆様とクティの発言により状況をやっと理解する事が出来た。
そういえばこの魔道具に封じられていたのは第1級魔術の精神感応波特定。
その名の通り、精神感応波を特定する魔術でコレ単体では大したことはできないが、この感応波を処理する魔術が第4級にあるのでそれを使うと大きく変わる。
この魔術のセットを使用された者はその心の動向を――比較的浅い層までが限界ではあるが――心を読まれてしまう。
そしてどうやらこのウサミミオ7号はその魔術のセットの他に、特定部位を動かす為の魔術も組み込まれているらしい。
つまりコレだけで第1級を含むいくつかの魔術を総合的に組み合わせた複合型の魔道具なのだ。
つまりどういうことか。
納得して理解が及んだ瞬間にまたあがる黄色い嵐。
理解して納得した安堵感を汲み取ってウサミミが両方ともへにゃっとしたのだろう。
黄色い嵐を受けてまたちょっとビクッとしてしまい、ウサミミの両方がピーンと跳ね上がる。
鼻血を爆発させる寸前のクティの描く魔力がまさにその様を再現している。
自分の感情の動きに合わせて可動するウサミミ。
たったこれだけのために第1級魔術まで使用し、その上革命的とまで賞賛される魔片補助技術を駆使し、複合型の魔道具に仕上げたのだ。
なんというか本当に愛すべきオバカドモである。
だがそんなオバカはこれだけではなかったのだ。
「あ、エリオット殿残量切れです」
「よし……我が天使よ! 次はこちらを!」
そう言って次に差し出されるは猫耳と尻尾。
ていうか残量切れ?
まさかと思うが……。
「そちらは残念ながら魔力切れでもう使用できません。ですがお任せください。
まだまだありますので!」
まさかのまさか。
革命的技術で大幅に魔力消費量を削減でき、第1級魔術を封じた魔道具を小型化まで成功させたとはいえ、それでも複合魔道具となったこの魔道具を動かし続けるには魔力が足りなかったようだ。
そして使用済みの魔道具は最早ゴミである。
せいぜいが分解して魔片補助に使用されるくらいしかない。
つまりはこの短い可動時間のためだけに第1級魔術を封じてあるといえる。
第1級魔術は使用者も極々限られている。
何せ第3級以上の魔術は1つか2つ使えるだけでその級を名乗れるほどに高難易度なのだ。
事実第2級魔術師であるクレアも第2級魔術を4つしか使えない。
4つでもかなり多い方なのだ。
第2級魔術を4つも使えるクレアですら、第1級魔術は1つも使えないほどその難易度は度を越して高い。
だが、魔道具には1つにつき最低1回は魔術を使用しなければいけない。
これは使用した魔術を発現前に封じるという物が魔道具であるからだ。
つまり、第1級魔術――精神感応波特定を最低でも先ほどのウサミミオ7号とこの猫耳と尻尾に使わなければいけない。
だがエリオットは確かに言った。
まだまだあると。
第1級魔術師は確かオーベントには片手で数えられるほどしかいなかったはずだ……。
第1級魔術師といえば宮廷魔術師であるのはほぼ確定だ。
そんな人に何度も魔術を使ってもらうのはかなり難しい。しかも魔力の消費がとんでもない第1級魔術だ。
一体どうやって……。
まさか……。
「エリオット殿……あなた第1級魔術師になられたの……?」
自分の疑問をエナが若干震える声で代弁してくれた。
それまで大ホールを埋め尽くすほどの大歓声があがっていたのが嘘のように静まり返り、辺りは痛いほどの静寂に包まれている。
「えぇ、誰も捕まらなかったので。そんなことより我が天使よ、さぁ!」
事も無げに言い放ったエリオットにエナの顔が思いっきり引きつっていたが、そんなことはお構いなしとエリオットが催促してくる。
第1級魔術師。
それはオーベント王国で片手で数えられるほどしかいない最高の魔術師の称号の1つ。
普通は第1級魔術師となった場合、国を挙げてお祝いされるほどの大イベントになる。
だが目の前のこの魔道具馬鹿にはそんなものはまったく関係がないようだ。
今も爛々と魔力漲る瞳をこちらに向けて催促している。
顔が引きつって戻ってこないエナにご愁傷様と思いながら、催促されるがままに猫耳をつける。
尻尾はウサギの尻尾同様にスカートにペタンとつければ自動で吸着し続けてくれる。
装着が完成し、猫耳がウサミミ同様にピクピクと動き、尻尾はふにゃふにゃと動いてくれる。
ウサミミの時には感じなかった何か操作性のような物が感じられる。
これは改良型なのだろうか。
そういえば最初のウサミミオは安全性重視のようなことを言っていた。
天使と呼ぶくらいなのだからまず最初に安全性を重視した物使って念には念を入れたのだろう。
そしてやはりの大歓声。
最早黄色い嵐は名づけられたトルネードクラスの猛威を奮ってビリビリと大ホールを揺らしまくっている。
その声に尻尾がピーンと立ち、猫耳も音を遮るようにペタンと倒れるのがわかる。
やはり改良型なのだろう。その挙動がいちいち手に取るように分かる。
「いかがでしょう。こちらのネコミミオ3世はウサミミオ7号の発展進化型にございます。
天使に挙動を教えることが可能になっています」
「んぅ。すごい~」
大歓声に一部掻き消されそうになりながらも間近で交わされる会話はなんとか成立している。
「では次はこちらです!」
やはりまだまだあるという言葉に偽りなく、次から次へと出される複合魔道具達。
ウサミミオ7号から始まり、キツネミミオ8世、ヒツジツノ2種型、クマミミオ3号、ニワトリハネ5類etcetc。
号とか世とか種型とかどういう法則でつけられているのかはまったくの不明だったが、ハネ系は特にすごかった。
付けるまではそこそこの重量を感じさせ、専属達に手伝ってもらう必要があったが付ければ重量は消失し、ハネの動きを任意に制御できるので本当に飛べそうな気がするほどだった。
だが挙動が複雑化しているのが災いしているのか、ハネの大きさに合わせて魔力保持量も大きな魔片を使っているのだろうが、それでも消費量が半端ではないようで10回程羽ばたかせただけで魔力切れになってしまったほどだった。
これにはちょっと残念だったが、まだまだ出てくるコスプレ装備にすぐに関心は移ってしまう。
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気づけば大ホールの中を埋め尽くされんばかりに居たはずの使用人は大分人数を減らしていた。
なぜだろうとコスプレ装備を装着しながら見ていると何かを撒き散らしながら崩れ落ちる人が数名確認できた。
そしてすぐに運び出される崩れ落ちた人。
あぁ……そういう……。
大ホールの使用人が途切れないのはクリストフ家の使用人の数が膨大な数いるだけではなく、どうやらすぐに復帰して舞い戻ってくる人がいるためのようだ。
その度に何かを撒き散らして運ばれていくけれど。
これが、1日ミニスカメイドの神輿行脚によって引き起こされた事件の全貌だ。
エリオットからのプレゼントの破壊力はまさに戦術クラスといっても過言ではない威力を持って、クリストフ家の凶悪な使用人達を次々とノックアウトしていったのだった。
事件の真相です。
ミニスカガーターで卒倒者続出と納得したあなた……甘いッ!
これがクリストフ家の使用人達を壊滅に追い込んだ真相なのでした。
実に、愛すべきバカドモですね。
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