123,幼女メイド再び
11の月1順目赤の日。
つまり11月2日。エナの誕生日の翌日だ。
昨日はテオ、エリー、自分とエナの4人で同じベッドで眠った。
終始デレデレの笑顔でいつもの凛々しくも優しいエナではまったくなく、あんなエナは始めてみたのは言うまでもない。
そこだけを考えてもこのサプライズプレゼントは大成功だったといえるだろう。
1日幼女メイドよりもこっちにしてよかった。
ベッドから起き上がると隣に寝ていたエリーも、エナの隣に寝ていたテオもすでに起きているようでもういなかった。
もちろんエナもベッドにはいないが首を回してみればすぐに見つかった。
いつものように掃除用の魔道具で部屋の掃除をしている。
今日の専属のニージャも一緒だ。
エナの後姿は、その魔力の流れを見る必要もなく上機嫌だと簡単にわかる。
それどころか魔力の流れは絶好調の身体状況を知らせている。
昨日のプレゼントが余程効果的だったと見える。きっとお肌も艶々なのだろう。
昨日のエナは本当に始めて見るほどデレデレでなんでも優しく肯定してくれるといういつもの障害のようなエナではなかった。
昨日なら庭を単独で探検すらさせてくれたのではないだろうか。単独は言いすぎか。
まぁエナの誕生日なので心配させるようなことをするのもどうかと思うし、それに正々堂々とエナを乗り越えたいので当然自重した。
ただあのエナは非常に使えると思う。
でもやはり検証は必要なのだ。なので透き通るように澄んだ声でハミングしながら掃除をしているエナにさっそく試してみる事にした。
「おかぁしゃまー」
自分の口から放たれた必殺の殺し文句に上機嫌に掃除をしていたエナが凄まじい速さで振り向くとまさに瞬間移動でもしたかのようにベッドの上の自分を掬い上げていた。
「リリーちゃん! あぁんもう! 可愛い! 可愛い! リリーちゃん可愛すぎるぅ!」
激しくも優しく潰さないように細心の注意を払っている抱擁にエナのデレデレの声が何度も何度も重なる。
これが昨日の状態のエナだ。びっくりだろう。
普段は自分にちゃん付けなんてしないし、当然テオやエリーにもちゃん付けはしない。
だが昨日はずっとちゃん付けだ。
しかも言葉遣いも壊れてしまっていて見ての通りである。
これには最初は3人共びっくりしてしまった。
でもエナはずっとそんな調子だったのでだんだんと慣れていって最後の方では、それがいつもの状態のようにまるで違和感なく完全に慣れてしまっていた。
「……お嬢様、ぱない」
「あぁん、やっぱりリリーちゃんは最高に可愛いわぁ! もう食べちゃいたいくらい! ちゅちゅっ!」
「あぅぁぅあー」
「リリーを食べるのは私だー! prprprprp!」
右頬を啄ばんでいるエナとは逆の左頬をなぜか張り合うように舐めているちっこいさまとのダブルコンボはしばらくの間続いた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「……ごほん。エリアーナさん、昨日が嬉しかったのはわかりますがあまり羽目を外しすぎていけませんよ。
見て御覧なさい、リリーちゃんが大変なことになってしまったでしょう?」
「す、すみませんでした……」
「ばーば、もぅだいじょぶだよぉ?」
「リリーちゃん、これはケジメというものですからちゃんとしないといけません」
「はぁ~い」
「昨日はエリアーナさんの誕生日でしたし、私も非常にうらやま……ゴホン。あのくらいならば問題はありませんでしたけれど、今日からはまたいつものエリアーナさんに戻っていただかないと困りますよ?」
「はぃ……すみませんでした……」
「まぁ……私も来年の誕生日は同じ事をしてもらうつもりですのであまり強くはいいませんけれど……とにかく、よろしくお願いしますね?」
「はい、申し訳ありませんでした、アンネーラ様」
「さてでは小言はこれくらいにしましょうか。ほら、リリーちゃんじっとしましょうねぇ」
「あい」
エナの啄ばみとちっこいさまのペロペロで色々とアレな状態になってしまったので朝風呂に軽く入ってきて濡れてしまった髪をお婆様に魔道具で丁寧に乾かしてもらっている。
そのついでにエナにお小言を言っていたのだが、お婆様も本気というわけではない。来年のプレゼントの話は本気くさいけど。
確かに昨日と先ほどのエナのデレデレっぷりは非常にアカン状態だったが、普段のエナはさっきのアレとは別人の如く凛々しく優しい堅物なのだ。
だから言わなくても分かっているとは思うが、そこは心を鬼にしてお婆様が憎まれ役をかってでてくれたのだ。
まぁお婆様なら心を本気で鬼にしたら、本物の鬼すら裸足で逃げ出すレベルになるだろうけど。
そんなこんなで検証は無事終了だ。
ちょっと無事じゃなかったけどまぁ大体無事だ。
検証結果としてはエナをお母様と呼ぶと壊れる。
壊れると何でも言う事を聞いてくれる。
ちょっと正々堂々とはいかないけれど、まぁ最終手段としては使えるかもしれない。
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所変わっていつものレキ君ルーム。
今自分の目の前には小さなドレスを着た木の人形がある。3体ばかし。
木の人形。
ただ単に人形と差す場合は大人の嗜好品の凄まじい値段の人形を差すが、木のという形容詞が付くと途端に価値が下がる。
これは一般的なお子様用の玩具である。
この木の人形。
基本的には人型をしている。
関節部が稼動できるようだが、簡単に木を刳り貫いて紐を通しただけのものなので球体関節とかそういうんじゃない。
もちろん体勢を保持できたりもしない。
とても簡単な作りだ。
手にとってみるとだらんと死体のように手足をぶらぶらさせているのが手に取るようにわかる。
まぁ一般的な玩具なので仕方ないといえば仕方ない。
でも今回の目的には十分なのだ。
ちなみに今自分はメイド服を着ている。
幼女メイド再びだ。
ではなぜ誰の誕生日でもないのにメイド服を着ているか。
別にメイドさんに目覚めたわけでもない。
それは今朝、ダブルコンボからのお風呂ダイブを経て部屋に戻ってきた時に見た、Lv3の極限流奥義で一足飛びに距離を詰めたちっこいさまがダイヤボーされているところを見学していたときだった。
「ハッ! トゥイーズィー!」
【どこぞのハワードさんですかー】
某読みならぬ某書きで魔力文字を形成すると、ハワードさん化したサニー先生の足元でピクピクしていた肩を引き千切った空手着を着たちっこいさまが今際の際に言い残したのだ。
「よ、幼女メイドに傅かれたい……がくッ」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
以上回想終わり。
そんなわけでクティの1日メイドを了承したのはいいのだが、まず問題がいろいろある。
それはクティは自分以外には見えないという点。
クティのメイドをするのは自分的には問題ない。むしろクティのメイドさんしたい。
だが体面的に見るとどうだろうか。
何もいない、見えない所へ向かって甲斐甲斐しく世話を焼く幼女メイド。
見えない所にあーんしたり、誰もいないところにニコニコしながらお喋りしたり。
うん、幼女ならありだな。
……じゃなくて、1人遊びなんてほとんどしない自分がいきなりそんなことを始めたらさすがにお婆様もエナも心配してしまうかもしれない。
なのでカモフラージュとして人形遊びをしようと思ったのだ。
ぶっちゃけると、自分が遊ぶ時に使用するものといえばレキ君と魔道具。
この1匹と複数の玩具とはいえない道具なのだ。
もう少し小さい頃にはテオとエリーが必死にガラガラなどのアイテムで気を引こうとしてたけど、基本的にそれらはスルーするか彼らの顔を立てて使用するかのどっちかだったわけだ。
そんな自分がこの手の玩具を強請った事は1度としてないわけだが、来月には3歳になる。
3歳くらいなら木の人形の1つや2つは持っていてもおかしくない。女の子なのだから。
それでおままごとやお人形さん遊びをするのは必然といえるだろう。女の子なのだから。
つまるところこのカモフラージュは完璧といえるのではないだろうか。女の子なのだから。
ちなみにお人形さんを強請ったら最初はあの大人の嗜好品の方の馬鹿高いヤツが出てきた。
しかも8体ほど。
名前付きだった。
お婆様のコレクションらしい。
さすがにこれはちょっと汚したりしたら気まずいどころの話じゃなかったので、どうしようかと思っていたらサニー先生が一般的には木の人形で遊ぶ事を教えてくれたのだ。
いやぁ本当に助かった。
ハワードさんさすがやでぇ。
そして1ハルスもしないで最初の5体が到着した。
そう……最初のなのだ。
最終的に大家族になったのは言うまでもないけれど、自分には木の人形は見えないのでクティのデフォルメされた人形軍団で大体の事は理解した。
あれはちょっと怖いわぁ。
ずらっと並ぶカクカクした木の人形達。
風が吹けばカラカラと揺れ、ぶつかり合い乾いた音を立てる。
それを面白く思ったレキ君が軽く小突いて遊ぶものだから連鎖して大合唱になり、ますます喜ぶレキ君。
最終的には軽くの小突きが猫パンチになり大家族の人形達は文字通りの木っ端微塵になってしまったようだ。
残ったのは手元にあった3体だけ。
まったく何をやっているのかね、レキ君は。
両前足で目を覆うように隠したってダメですよ。
ちょっと可愛くてチラッと足に隙間を作ってこちらを覗くのがますます可愛いじゃないですか! まったくもう!
ちょっとレキ君に軽くお説教をしてる間にニージャが木っ端微塵に砕け散った人形達を集めて供養してくれたので、ピクピク痙攣しているレキ君のお腹を舞台に木の人形遊びならぬ、クティ専属幼女メイドの1日が始まった。
レキ君のネコパンチは㌧を越える破壊力を生み出します。
キケンデスネ!
さぁ、幼女メイド再びです!




