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濁った瞳のリリアンヌ  作者: 天界
第一部 第7章 3年目 後編 2歳
137/250

121,天高く



 目の前で高速で回転しつつ展開していく術式がゆっくりと蓄積され、切り離された自分の精霊力を糧として起動し始める。

 その光景は今まで見た事のあるどんな魔術よりも綺麗で、荘厳で……そして儚い。


 術式を解析して得られた構成とクティのイメージ詠唱による設定が全てかみ合うと彼女の目の前の空間がぐにゃりと歪んだ。



「おぉ~」


 自然と漏れてしまう声は小さく、レキ君のお腹に半分くらい顔を埋めていたので周りに聞かれる事もなかったようだ。


 歪んだ空間が安定するとその向こう側には相手側の映像が映っているはずだ。

 この魔術は通信魔術であるが、映像も当然送れる。しかもタイムラグがまったくないという奇跡のようなものだ。

 なんせ通信相手は別の空間にある世界なのだから。



「あーあー聞こえるー?」


「はい、クレスティルト様。聞こえます」


「映像も問題ない?」


「はい、問題ありません」


「おっけー。じゃあ、ナターシャに伝えておいてねー」


「畏まりました」



 クティと通信相手の人が少し会話をして通信は終わった。

 今回はテストも兼ねていたので定期報告は次に妖精女王ナターシャに直接するようだ。



「とりあえず問題なさそうだな」


「もっちろんだよ。リリーが手伝ってくれたんだから問題なくて当然!」



 安定のドヤ顔さまの表情に、これで離れなくていいとホッと一息吐くことが出来た。


 ちなみに映像に関しては銀の眼同様に見る事ができなかった。

 見えたのは細かい術式が高速で展開されていただけだ。内容的には細かい情報だろうか。

 細かすぎる上に高速で展開されているためにちょっと解析が追いつかなかった。


 まぁ確かに生前のテレビなんかも様々な光を高速で変動させて映像を作っているのだから似たようなものなのだろう。

 つまり高速で展開される術式群を解析して映像として視覚化させられれば見れるという事でもあるのだが……ちょっと今現在では難しい。

 ソレ専用に魔術でも構築しないと人間の限界を突破しないといけない気がする。

 例えるなら手動でライトの切り替えでテレビの映像を作り出せといわれているようなものだからだ。超絶な匠の技術でもなければ無理だろう。







◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆







 翌日に再度通信が行われ、通信相手はクティの妹で世界の隣の森の女王であるナターシャが出た。

 クティと似たような声に少し驚いたけど、話し方なんかは全然違っていてすごく真面目そうで、でもクティがわざわざ空間を越える通信魔術を作ってまで直接報告しに来るのを嫌がったことにご立腹のご様子だった。

 というか、クティに会えなくて寂しいのを誤魔化すように怒っているようにも感じられた。


 最初はその辺のお説教から始まり、次第にクティの近況報告をさせたりナターシャ自身の近況だったりとても仕事の報告とは思えないような和やかな家族の交流のような感じだった。

 あまりにもほんわかする家族の会話すぎたのか、ナターシャ側で誰か――恐らく宰相とかそういう側近の人だろう――に何度も咳払いされてやっと本当の定期報告が始まったようだ。


 途中でサニー先生も報告に参加して何やら聞きなれない単語がたくさん出る小難しい報告が一通りされている。

 自分のことに関する事もあったようだが、まだ習っていないのか専門的過ぎる事なのか、興味があまり惹かれなかったのでレキ君のお腹の上に寝転んだままいつの間にかに寝てしまっていた。


 起きた時にはレキ君ルームではなく、どうやら自分の部屋のベッドに移動させられたようだ。もちろん頬にクティが張り付いていた。



「ふああぁぁ」


「ふふ……よく眠れたかしら、リリーちゃん?」


「……うみゅ……あい、ぐっすりれす……ふあぁぁ」



 まだ半分以上脳みそが起動していない状態だったけど、優しくかけられたお婆様の声に首をこてん、と傾けて答えてもう1度欠伸をする。



「まだ寝ていてもいいのよ? リリーちゃんはあんまりお昼寝しないから少し心配だもの」


「だいじょぶぅ~」


「そう? でも無理しちゃだめですからね?」


「あい」



 むにゃむにゃもうリリーは食べられない、と頬で寝言を言ってるちっこいさまを貼り付けたままお婆様に抱き上げられるとそのままお婆様の膝の上で朗読タイムとなった。


 ほぼ毎日欠かすことのない朗読タイムのおかげか我が家の蔵書量は日々増加の一途を辿っているそうだ。

 この間も書庫を増やしたとお婆様が言っていた。



 まぁ書庫の前に自分専用の衣裳部屋がまた1つ増えたとも言ってたけど。

 成長中なのでそんなに衣装を作らなくてもいいと思うけど、お婆様とエナとエリーが嬉々として毎日違う服を着せるので同じ服を着たことがあまりなかったりする。

 似ているようで細部が違ったり、色合いや組み合わせなども違ったりとかなりの種類がある。

 色合いはわからないし、組み合わせは女性陣が彼女達の好みに合わせて変化させるのでまったく自分の介入する余地がない。

 まぁまだ2歳……もうすぐ3歳という幼女なのだから仕方ないとは思うけど。


 今もレキ君ルームに行った時に着ていたふわふわもこもこタイプのチュチュとこちらもレースがふんだんに使われたふわふわのシフォンブラウスから、狸の着ぐるみパジャマになっている。

 尻尾がもこもこで肌触りがとてもいい。


 昨日は羊のもこもこ着ぐるみパジャマだったし、部屋着になっている着ぐるみパジャマも毎日着替える度に違うものになっている。

 こちらも同じものは1つとしてないのだ。


 成長が遅いとはいえ、それでも少しずつ大きくなっているのですぐに着れなくなってしまうのだがそんなことは関係ないとばかりに毎日毎日服が増えていく。

 きっと今頃衣装部屋にはもうすでに小さくなって着れなくなってしまった子供服が大量に保管されている事だろう。

 まだ着れる物でもたぶん二度と日の目を見る事はないんじゃないだろうか。

 勿体無いとは思うが、女性陣は楽しそうにしているので野暮な事は言わない。……言えない。


 お婆様の優しい声音で紡がれる物語に耳を傾けながらも、狸の尻尾をむにむにしつつ頬に張り付いたまま魔力で図解するクティのサポートを受けながら今日もサニー先生の授業を受けるのだった。







◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆







 オーベントの短い夏はすっかり鳴りを潜め、それなりに長めの期間続く秋がやってくる。

 残暑というものはほとんどなく、風も涼しく過しやすい。

 こっちの世界に天高く馬肥ゆる秋という諺はないけれど、収穫時期はやはり変わらないのか秋は食欲の秋でもあるらしい。

 とはいってもクリストフ家の食事はあまり変化がなかった。


 もう、大人とほとんど変わらない食事を摂っている自分なのだがやっぱりどうにも薄い。

 最近になって知ったのだが、オーベントで高級料理というと食材のうまみを自然のままに引き出した健康に良い料理が主流らしい。

 香辛料や調味料がないわけではないらしく、ごってごての脂ぎった料理ではなく薄味の薬膳料理のような物になってしまうのだ。

 生前にもっと味の濃い料理ばかり食べていたのが懐かしいくらいに薄いものばかりなので、たまには化学調味料ばりばりのジャンクフードが食べたくなる。


 でも2歳児の体ではエナやお婆様の監視を掻い潜って厨房に忍び込むのは難しい。

 例え魔術を駆使しても、幻影系の魔術は術者が一定距離離れれば効果を失ってしまうので難しい。

 まぁそれ以前に食材は魔力がないので見えないので論外ではあるのだが。


 そんなわけで食事での楽しみは専ら果物だ。

 果物は生前と同じようにソレ単体で満足できる味の物が多い。特に味覚が子供になっているので甘い物がとてもおいしいのだ。

 バランスを考えて作られているであろう食事なので、果物ばかりというわけにもいかないので量はそれほどでもないのが少し残念だ。



 まぁ言えば多少はお代わり可ではあるのだが……。







◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆







 それなりに長いオーベントの秋もゆっくりとゆっくりと少しずつ過ぎていく。

 毎日の大半は授業を受けて知識をより深めることに使われているが、もちろん魔術も習得している。

 すでに4級までの魔術の大半を習得している。

 サニー先生の授業の賜物か、はたまたこの規格外の魔眼のおかげか、もしくはその両方か。難易度が高いと思われる魔術もほとんど失敗なく習得できてしまっている。

 躓く前にその要因を完全に排除して一直線に邁進している。

 叩き込まれた膨大な知識により、難解な魔術であっても術式単位での意味から構成してからの流れや効果、その他諸々の全てを完全に理解できるのだ。


 だが攻撃魔術に分類されるものは一切教わっていない。

 応用すれば攻撃魔術以上の効果を示す事ができるものはいくつかあるけれど、明確に攻撃魔術として分類されている魔術がこの対象だ。


 自分が悪戯や悪意を持って攻撃魔術を使うという事はないというのは2人もわかっている。

 だがソレはそれなのだ。

 世界の隣の森の最高の魔術師であるクティだからこそ、魔術の恐ろしさを誰よりも理解しているのだ。

 だがそれ以上に素晴らしいものであるということも理解している。

 だからこそ魔術を教えるということを拒否しないし、むしろ積極的に教えてくれる。


 彼女の譲れない線引きが攻撃魔術として分類される魔術を今はまだ(・・・・)教えないということなのだ。

 こちらとしても異存はない。

 クティがそういうのであればそうなのだ。

 それに攻撃魔術が必要な状況なんてクリストフ家ではまずありえない。

 そんな状況になるなら自分の命なんてとっくになくなっているだろうからだ。



 少しずつ規模が大きくなっていく既存の魔術を習得しながら、まだまだ涼しいで済んでいる秋の風に長くなった髪が玩ばれる。

 オーベントの秋はまだまだ始まったばかりだ。



天高く、妖精が頬に張り付く秋。


ついに完成した異空間通信魔術は実はテレビ電話でした。

しかもタイムラグなしという驚異的な性能を誇ります。


ナターシャはクティの双子の妹なので実はそっくりさんです。

声もそっくりですが、性格は全然違います。

クティが奔放。

ナターシャは真面目さんです。


さぁ、オーベントの秋はまだまだ始まったばかり。

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