119,種蒔き
翌日、目覚めるとベッドの横で待機しているミラと目が合った。
普段壁際で待機していて起きて、十分に目が覚めてから近寄ってくるミラだが今日は起きる前からいたようだ。
なんてことはない。流れる魔力がわくわくしすぎている。
気を抜いたらきっと尻尾がはちきれんばかりに振られることだろう。
どうやら専属全員を仕留めたことで今日もまたやってもらえると思っているのだろう。
だが甘い。甘すぎるのだよミラ君。
「おはよぉ~みらぁ~ふぁあぁぁ~」
「おはようございます、お嬢様。今日は清々しい良いお天気ですよ」
欠伸混じりに挨拶をすると元気な声で若干尻尾が振られて返事が返ってくる。
お天気が良いそうです。今日の兄姉の訓練は外かな? いやでもまだ日差しが強いから室内だろう。
そういえば今日はテオが学園で朝から授業だったか。なのでエリーだけだろうから、彼女は見に来てとは言わないから勝手に行っちゃう事にしよう。
頬に張り付いてむにゃむにゃしているちっこい様を起こすと着替えて日課をこなす。
クティは大抵頬に張り付いて寝ているのだが、サニー先生はどこで寝ているのかいまいちわからない。
自分が寝るまでは寝ないし、起きれば起きている。一体いつ寝ているんだろうと思うほどだ。
今も自分にも見える特殊な本を空中に浮かんで読んでいる。
視線を向けているとすぐに気づいて朝の挨拶をしてくれ、食事前の授業の開始だ。
今日もいつものようにいつもの日々が始まる。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
エリーの訓練を見学し終わると、彼女はすぐに学園だ。
夏休みも少し前に終わっている。
夏休み中でも中等部に通っているテオは結構な頻度で学園に行かなければいけなかったので、今までみたいに2人が毎日1日中くっついているという感覚がなく、夏休みという感じがしなかった。
どうやらテオは中等部1年生にして早くも即戦力として考えられているらしい。
生前の世界で言うところの生徒会のようなものに所属しているらしく、日々忙しそうにしている。
でも彼に言わせれば自分との憩いの時間が減って悲しい、だそうだ。
そんなわけで今日もレキ君ルームには自分とクティとサニー先生とお婆様とエナとミラと騎士団から2人だけだ。
人は少ないわけではないが、如何せんこのレキ君ルームが広いのだから仕方ない。
大きくなりすぎたレキ君が走り回っても問題ないくらいの広さなので数百人単位で人がこなければ問題ないほどだ。
地味に拡張工事が行われ、当初より広くなっていたりするのがレキ君の成長具合を物語っている。
ところで今日の専属のミラはやっぱりわくわくしっぱなしで、普段よりもずっと近い位置に待機し続けている。
自分的にもそろそろ頃合だと思うのでプランを実行に移すことにする。
「みらぁ~ばーばよんでぇ~」
「はい、お嬢様」
このプランにはお婆様の協力が必要だ。
通常、専属は1日1人。屋敷探検などの特殊状況下でもなければ人数が増えることはない。
なのでお婆様の協力を得る必要があるのだ。
「はいはい、なんですかリリーちゃん」
「ばーば、せんじょくのみんにゃをよんでぇ~」
「あらあら、何かあるのかしら?」
「ぅん」
「わかったわ。ミラ、全員を呼んでくれるかしら」
「は、はい、大奥様」
すぐに来てくれたお婆様の腕に抱かれながら、上目遣いでおねだりすればプランの第1段階は終了だ。
ミラが持っている通信魔道具ですぐに専属全員が招集され、自分の前に4人全員が整列する。
「さぁ、リリーちゃん。全員集まりましたよ」
「ばーば、ありがとぉ~」
「どういたしまして。ばーばも聞いていてもいいかしら?」
「んぅ~……」
「あらあら、内緒かしら?」
「ん。ないしょぉ~」
「内緒じゃしょうがないわねぇ~。じゃあばーばはあっちにいってるから何かあったら呼んでね?」
「はぁ~い。ありがとぉ~ばーば」
「ふふ……」
お婆様にキュッと抱きついてお礼を言うと穏やかな笑顔が更に深まって、荘厳なる美しさを醸し出す。
最後に頭をサラリとひと撫でしてからお婆様は離れていく。
十分に距離を取り、お婆様とエナ用に置かれているテーブルと思しき物に座るといつもののほほんとした笑みで楽しそうにこちらをエナと一緒に見始める。
位置的に声が聞こえそうだけど、まぁ離れてくれただけでも十分だ。
さて、目の前に並ぶは我が専属の4人。
この4日間で全員を順番に抗い難き快感でもって撃破したばかりだ。
数日経過したミラですらまだ肌艶は輝かんばかりの魔力の流れを有している。
全員が全員集められたことにそわそわわくわくしている。
そんなに期待されちゃうとこの先に言うべき言葉がちょっと出づらい。
でもこれから先彼女達を違和感なくもふるためには必須なことだ。心を鬼にしなければいけない時なのだ。
「みんにゃ~よくあつまってくれました~」
「「はい、お嬢様」」
自分の一声に全員綺麗にはもって見事に優雅なカーテシーをして返礼する。
いつも1拍置くニージャもこの時ばかりは周りにあわせている。
「みんにゃきもちよかったぁ~?」
「「はい! お嬢様!」」
またもやはもり、先ほどの言葉よりもさらに強く返事が返ってくる。
まぁ専属達の魔力の流れからその答えはわかっていたことではあるけれど。
「みんにゃがんばってくれてるから、ごほうびにゃの~」
「……ご褒美?」
ご褒美という言葉に意味がわからず、目を白黒させている4人だったが代表するかのようにニージャが聞き返してくる。
専属という仕事自体、主人から褒美がもらえるような仕事ではない。
クリストフ家では専属になること自体が名誉なことであるからだ。使用人の中でも一際優秀でなければなれない。
ミラは特別枠としても優秀であることには代わりない。
なので、ご褒美が貰えるとは思っていなかった4人なのだ。
「そうにゃの~。これからもがんばってくれたら、ごほうびあげるの~」
自分のその一言により事態を悟った4人がハッと息を飲むのがわかる。
この4日間で一気に専属全員が気持ちよくされてしまったのはあるが、それまでのおよそ1年間は何もなかったに等しい。ミラ以外。
そして知ってしまったこの快感は次が欲しくなってしまうのだ。現に呼び出された全員が期待に満ち溢れていた。
だが、自分の言葉の裏に隠された真実に気づかないほどこの専属達は無能ではないのだ。
頑張ってくれればご褒美として気持ちよくしてあげる。
裏を返せば頑張らなければもうしてあげない、ということでもある。
あの意識が飛んでしまうほどの快感をもう得られない。それは麻薬の禁断症状にも似た抗い難き苦痛だろう。
現にいつでも冷静に仕事をこなしてきた4人全員の魔力が動揺で震えている。
「いままでど~りに、がんばってねぇ~」
当然、鞭ばかりでもない。今までのように優秀な仕事をし続けるのなら問題はないのだ。
そのことを伝えることで飴とすると変化は劇的だった。
動揺で震えていた魔力が一気に希望を見出したかのように晴れ渡っていく。
彼女達は非常に優秀だ。
今まで通りに仕事をこなすことなど造作もない。
その上でさらに自分に気に入られるように頑張ればさらに飴へと近づけることにも気づくのも容易い。
そう、このプランは専属全員のやる気を煽り、更に自分の裁定で好きにもふれるようにするという一石二鳥のプランなのだ。
そう、実は好きに裁定するつもりだ。
ちょっとしたことで軽くもふってあげたり、もちろん頑張ったら盛大にもふってあげる。
彼女達ならマイナス方向へはまずいかないだろうから、専属間のバランスを考慮すればいいだけだ。
もしマイナス方向に行ってしまうようなら少しプランを調整する必要があるが、それはその時でいい。
今はこのプランでどこまで彼女達が結果を示してくれるか、だ。
当然ながら、この結果の中にはその他プランの最大障害となるべき相手への対策も含まれている。
相手は当然、エナだ。
自分やテオやエリーやお婆様からだけの切り口ではなく、専属も利用し攻略にかかるのだ。
これは一種の種蒔きだ。
これから実るであろう物を収穫する為の第1歩。
まずは前提となる土壌の開拓として専属全員にご褒美の凄さをわかってもらった。
次は水と肥料。
育つまでの時間がこれからであり、その間にも水と肥料は必須だ。
水と肥料が当然ながら飴である、ご褒美だ。
この中毒性抜群のご褒美を前にしてしまえば最早頑張る以外の選択肢はないように思えるが、それでも彼女達の自由は奪いたくない。
まぁ半ば奪っているような状態なのは仕方ない。それでも逃げ道は残してあげるべきだ。
だから強制はしない。
でも――
「きたいしてるの~」
「「はい! リリアンヌお嬢様!」」
極上スマイルでもって発せられた自分の言葉に一際大きくはもった声が響き渡る。
大いなる実りを期待しつつ、第2第3のプランも開花させるべく心の中の笑みは一際あくどく花咲くのだった。
ついに専属にも種が蒔かれました。
芽吹いて花咲くのはきっとすぐでしょう。
なんせ彼女達はすでに虜なのですから。
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