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濁った瞳のリリアンヌ  作者: 天界
第一部 第7章 3年目 後編 2歳
129/250

113,待て


 体中に流れる魔力が事前に比べて遥かに活性化している。

 そのおかげなのか妙に肌艶が良くなり、事後のミラはいつもの3倍か4倍は輝いて見えるほどの元気さと美しさを誇っていた。



 もしかしてエステ効果でもあるのだろうか。

 そういえばレキ君が大きくなり始めたのも……。

 ……まぁ別に悪いことでもないので問題はないだろう。むしろ肌艶が良くなり魔力の流れも良くなっているのだから言いこと尽くめだ。

 自分も嬉しい。彼女も嬉しい。まさにwinwinの関係とはこのことだ。



 もふもふ中の記憶はかなり曖昧になっているようでもふもふ直後は少し惚けていたけれど、彼女的にはすでに3回目だ。

 結構手馴れたものなのだろう。

 その後の専属としての仕事をいつも以上にてきぱきとこなし、エナに不思議そうにされていた。



 別にミラが普段から出来が悪いわけではない。

 いつも以上に優秀だったというだけだ。だぶん。







◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆







 翌日は専属が切り替わり、ジェニーになった。

 ジェニーはキツネ族の獣人なので尻尾がミラ並に長い。

 ミラの尻尾と違ってふわふわではなく、さわさわといった感じの毛質だ。

 まだ触っていないので見た感じと魔力の流れによる推察だけど大体あっていると思う。



 そんな彼女は今日起きた時には傍にいた。

 普段自分が起きる時に傍に居るのはエナだけだ。でもなぜか今日は彼女も居た。

 しかも何か妙にそわそわして何かを待ち焦がれるようにしている。

 もちろん表面上は何もない。魔力の流れが雄弁にそう語っているだけだ。


 昨日はミラが外から見て分かるほどのもふもふ効果により、大変身とはいかないまでもかなり変身していた。

 4人の専属達の間ではすでにそのことは周知なのだろう。

 そしてミラが1番立場が弱い――後輩として――と思うので何があったのか根掘り葉掘り聞き出されたと思われる。



 まぁミラは3回目だから何があったかなんてすぐ分かったと思うけど。



 そんなわけでかなり高い確率でジェニーももふもふ待ちなのだろう。

 このそわそわは。


 だが彼女達はミラに比べて非常に隙がない。

 その結果としてミッションプランを練り直すこと数十回という悲惨な回数練り直して、結果として未だにプランは実行されていないのだ。

 そんな難攻不落の一角であるジェニーがもふもふ待ち。

 つい声に出してしまっても仕方ないんじゃないだろうか。



「キマシタワー……ッ!」



 起床から覚醒までで思考され、ジェニーの朝の挨拶とほぼ同時に呟かれた自分の呟きは幸いにも気づかれることはなかったようだ。







◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆







 いつも通りに起きたらまずトイレ。

 最早慣れたものでドアを開けてさえもらえれば自分ひとりだけで出来るのだ。


 いつの間にか設置された自分専用の踏み台を手探りで駆使し、便座までひとりで登れるし、着ぐるみ風パジャマはトイレの時は下半身部分を外せる優れもの。カボチャパンツ君は下ろすだけだ。

 事後の処理は難しいけれど、魔道具の力でお茶の子さいさいだ。2歳児でも十分ひとりで可能なのだ。


 クティは最近トイレを覗こうとする。

 ひとりでできるもん、が完成された日から遠慮してくれていたのだが、何かが彼女を後押ししてしまったようでこんな状況だ。

 だがその度にドアの向こうでサニー先生が何かのコンボを決めている。最早朝の日常風景のひとつだ。

 ちなみに何が後押ししたのかは知らない。知りたくない。知ってしまってはいけない。



 朝食まではエナ達が動き回っているのをボーっと眺める。と見せかけてサニー先生の授業だ。

 毎回大きなバッテンマークを頭につけているクティが今日もわかりやすい解説を魔力で描いてくれる。

 サニー先生の難解な授業についていけるのもクティあってのことだ。

 非常にありがたいけれど、トイレを覗くのはやめてほしい。

 トイレの個室とは1人だけの神聖な空間であるべきなのだ。

 決して例の性癖にクティが目覚めないようにしているわけではない。もう遅いかもしれないけど。



 着替えて、朝食を食堂で摂った後エナに歯を磨いてもらってお部屋で少しのんびり……と見せかけて授業を受け、いつも通りに兄姉の訓練見学に行く。

 最近はテオの中等部も忙しくなってきたようで時間が合う時以外は訓練を見れない。


 でもエリーの訓練は毎日見学している。彼女の動きは日を追うごとに良くなっていっている。

 やはりお婆様の血の影響なのか、弓よりも格闘術の方が圧倒的に才能があるようだ。

 あの鋭い踏み込みから繰り出されるストレートの如きジャブからの割とコンパクトなロングフック。

 沈み込むように懐にもぐりこんでのショートアッパーをボディへ。

 体がくの字に曲がり落ちてくる顎に向かってバック転気味の爪先蹴りを素早く決め、勢いを殺さず水面蹴り。

 腕を支点に腹部に直線軌道の高速ジャックナイフを決めながらその足を支点に顎を掠めるように残った足を振るう。

 膝を屈伸させ短い時間で溜めた力で蹴り飛ばし間合いを取って再度構える。


 数ヶ月前までこんな連携はとてもじゃないが出来なかったはずだ。

 それが今では本職の格闘家を凌駕する華麗なアクロバティックな連携を決めている。

 流れるようなその動きはこの短期間で明らかに洗練され始めていて、才能の片鱗というものを垣間見せている。

 まだ型稽古のような決まった動きであり、相手をしている教官役の騎士に大したダメージを与えることも出来ていないけれど、それは相手が悪いし本格的な装備を纏えばまた違ってくるだろう。装備はエリー用に誂えられた超軽量打撃力貫通力強化の魔道具を仕込んだ物を使えば威力は倍増どころではない。

 教官の騎士に関しては格闘術においてはクリストフ家使用人を凌駕する人物だ。仕方ない。

 そんな騎士も訓練用の保護防具をつけていなければ型稽古でも危険な技だ。

 この連携はどちらかというとダメージよりも脳を揺すったりバランスを崩させる方に特化しているのだ。


 体力もかなりついてきたようで、あれだけの激しい動きを行っても息を乱すこともなく再度同じ型を行う。

 激しい訓練をそれなりの時間行っても疲労困憊になることもなくなってきた。



「エリーはまだ8歳なのにあんなサニーのようになっちゃって……ホロリ」


「私から言わせればまだまだ甘いがな。やはり手から闘気のような何かを出せるようになってからが本番だ」


【出るんですか……?】


「たまにな」


「たまにねー」


【……出るんだ……】



 エリーの成長をのほほんと眺めつつ、授業中の息抜き的な雑談でなんとも恐ろしい事実を知ってしまった。


 エリーはそのうちかめではめな何かを打ち出すようになってしまうのだろうか。

 むしろお婆様はそういう系統が使えるのだろうか。実に見てみたい。今度強請ってみよう。


 訓練見学後はレキ君ルームでレキ君タイムだ。

 レキ君は本当に大きくなった。

 ちょっと自分が寝ている間に大きくなってしまう。彼は一体どこまで行ってしまうんだろうか。楽しみな反面、ちょっと心配だ。


 あんなに大きくなったら遊ぶのも一苦労になる。

 今でも結構大変なのに。



【――違いますよ。赤い実を2個食べたら残っているのは3個です。でもクティが1個隠し持っているので実は4個なのですよ?

 ということはこの空間にある赤い実はいくつですか?】


「……わふん」


「理不尽なわけではないぞ。ちゃんと、ほらここに書いてあるだろう? ドヤ顔が1個隠し持って行ったと」


「……わふっ」


【え? 隠し持っているなら数に入らない? そんなことは気にしないでください。

 ほらじゃあ合計はいくつですか?】


「……わ……わふぅ」


【はい、よく出来ました。じゃあ次の問題は――】



 レキ君は頭がいい。狼にしては、だけど。

 こちらの言葉はしっかりと理解し、意思疎通も問題なく出来るほどの知能を持っている。

 でも簡単な足し算引き算などになると途端にその知能が退化する。きっと苦手なのだろう。

 でも苦手だからといってやらないというのは違う。

 レキ君は狼――サルバルア種であっても、自分のペットであっても、意思疎通が可能な子なのだ。

 魔術を使うには計算が出来ないと幅が非常に狭くなる。

 本来は本能だけで魔術を行使できるサルバルアでも、計算が出来ればより効率的に魔術を使えるようになるはずだ。

 レキ君はサルバルアとして、自分のペットとして、英才教育を施すと決めているのだ。

 なのでやってもらう。



 ――ほら、14から9を引いたら8じゃないでしょう!

 ――クティが棒を5本背中に隠し持っているんだから違うでしょ!

 ――サニー先生が叩き折った椅子が4つあるんだから数が合わないでしょ!



「わふん……」



 レキ君はちょっと心が折れるのが早い。

 叩き折って粉々にした自分がいうのもどうかと思うけど、負け癖みたいなものがついている気がする。

 そんな彼には自信をつけさせるのが1番なのだろう。


 床に寝そべり両前足で顔を隠して拗ねてしまったレキ君の鼻先に彼の玩具を転がしてやるだけで目が爛々と輝き、魔力の流れが一気に加速する。

 レキ君の得意なことは彼の玩具で遊んであげることだ。

 その巨体に似合わない凄まじいスピードでとってこーいのボールを空中軌道上で確保して戻ってくる。

 まさに神速。神をも討っちゃう一撃だ。


 すっかり機嫌を直したレキ君に付き合って色々な玩具で遊んであげる。

 基本的にはとってこーい系だが、2歳児の体力を遥かに凌駕している自分でもずっとやっていると疲れる。

 そうなったらライドオンしてランニングタイムだ。


 レキ君に乗る時にまだそわそわしているジェニーがなんともいえない感じだったけど、今はジェニーよりもレキ君なのでそのまま我慢していてもらおう。



 空腹は最高のスパイスというからね。

 我慢すればするほど気持ちいいんだよ。我慢しすぎはだめだけど。

 なのでまだまだ待て、です。



 一頻りレキ君が満足するまでアクロバティックに走らせる。

 クリストフ家の職人達が日々改良を加えている彼専用の鞍は今では激しい空中軌道を描くレキ君の動きにすら完全対応するほどになっている。


 具体的には空中で自分を乗せたまま1回転するレキ君。

 そんな三半規管が色々なアレしちゃう状況でもいくつかの魔道具により空間制御が為され、幼女が乗っても大丈夫、という標語がぴったり合うほどだ。


 当然ながら一般的な騎乗者はこのような物は使わない……使えない。

 そもそも騎獣が人を乗せたまま空中で1回転とか正気じゃない。

 それを可能にするためだけに作られたのがこの魔道具であり、鞍なのだ。

 製作にかかった費用はお婆様がにっこり笑っておられたので聞いちゃいけない。

 魔道具に関してはエリオット達が嬉々として一晩で作り上げたそうだ。さすがすぎる。



 レキ君も満足し、日課のブラッシングをしてあげる。

 ブラッシングの段階になり、ジェニーのそわそわ具合はついに頂点を振り切っているのではないかと思われるほどになってしまった。

 今まで必死に表面には出さないようにしていたのに、今では目が完全に釘付けだし手をもじもじさせている。

 やはりミラから昨日の出来事を根掘り葉掘りしていたのだろう。


 そろそろジェニー攻略にかかることにしよう。

 事前準備はかなり万全といえるものになったと自負できる。

 ミッションプランはすでに書き換え完了済みだ。



 今日この日、この時。

 我が最強の専属のうちの一角がついに崩れるのだ。

 さぁ色々と解放し、放出し、腰砕けになるがいい、ジェニー!



レキ君はリリーによる英才教育ですくすくと成長しています。

えぇそれはもうすくすくと。


ちなみにミラはすでに最強の一角とは見られていません。

ちょっと不憫なミラなのです。


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