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濁った瞳のリリアンヌ  作者: 天界
第一部 第6章 3年目 中編 2歳
123/250

110,エピローグ



 優しく頬を撫でて行く春風が柔らかさと共に微かに甘い花の香りを運んでくる。

 レキ君に乗っている自分は主人を気遣う動きと装着している鞍のおかげでまったく揺れることはない。


 屋敷の中と比べればまだ見れるものが若干多い庭を兄姉、お婆様、エナ、専属4人、騎士達と連れ立ってゆっくりと散歩を楽しむ。

 もちろんクティもサニー先生もいる。

 クティは自分の帽子の上に陣取っていたのだが、いつの間にかレキ君の鞍に一緒に座っている。

 サニー先生もそこでのんびりとしているようだ。


 テオとエリーが絶え間なく話しかけ、いつの間にかテオの横に移動しているエリーがいつものようにテオに突っ込みという名の強烈な一撃を与えている。

 その光景は最早見慣れたものであり、お婆様もエナも微笑ましそうにしている。

 テオも本気で痛がっているわけではないし、エリーも本気で一撃を入れているわけではない……よね?


 日々の訓練でテオの動きもかなりよくなっていてダメージの軽減がかなりうまくなっている。でもエリーも訓練で動きに鋭さが出てきているのでかなり攻撃力は上がっているはずだ。

 つまり本気ではやっていないのだ。



 そうだよ杞憂だよ、杞憂。

 突っ込みを入れるときのエリーの腕の魔力が若干硬質化していたような気がするが気のせいだよ!







◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆







 散歩とは言ってもただ歩くだけではもったいないほどの陽気だ。

 なので地面にシートのようなものを敷いてそこでお茶をすることにした。というか専属達が何か色々持っているようだったのはそれの用意だったらしい。

 荷物が見えなくても何かを持っていれば動作だけでわかる。


 シートのような物はビニールとかそういうのではなく、絨毯のような柔らかい敷物だったけどどうやらこれも魔道具のようだ。

 絨毯の所々に魔力の流れが見える。



「ふふ……リリーちゃんはやっぱり魔道具に興味津々なのねぇ~。この絨毯も魔道具だってちゃんとわかってるみたいだし。

 この絨毯はクリストフ家で作られた魔道具なのよ」


「あ、お婆様! ボク知ってます!」


「あらあら、じゃあテオちゃん、リリーちゃんに説明してくれるかしら?」


「はい!」


「うー出遅れた……」


「エリーは違うのを教えてあげればいいんだよ。はい、これ」


「あ……うん! ありがとう、テオ」


「えへへ。それでね、リリー――」



 テオが絨毯の魔道具について笑顔で説明し、続いてエリーがテオから受け取ったポットタイプの魔道具の説明をする。

 2人共嬉しそうに楽しそうに教えてくれる。


 お婆様におねだりして手に入れたたくさんの魔道具などの使い方なんかも教えてくれる時のテオやエリーは常に楽しそうに教えてくれる。

 なので例え知っていても教えてくれたらちゃんとお礼を言って何度か目の前で使ってみせる。

 そうすると毎回リリーは天才だね! と抱きしめられる。

 最早定番なので家族からのハグは日常の一幕だ。


 兄姉とお婆様とエナはミラが淹れた紅茶のような香りのするお茶を飲み、自分はジェニーが用意してくれた果実水を飲む。

 今日はみかんジュースのようだ。もちろん果汁100%で、保温機能のついた魔道具に入れてきたので適度に冷たい。あまり冷たすぎるとお腹壊しちゃうからね。



「お嬢様、果物はいかがですか?」


「ちょうらーい」


「畏まりました。ラーシドの実が良い熟れ具合ですので少々お待ちくださいませ」



 ラクリアがたくさんの果物の甘い香りのするバスケットだろう物を持って聞いてくるので両手を出して子供らしく答えてみた。

 自分の子供らしい態度を見て一瞬だけ相好を崩しまくったラクリアだったが、リリアンヌ専属メイドである彼女はすぐにその表情を引き締めて下がり、バスケットから果物を取り出し皮を剥き始める。


 ちなみにラーシドの実とは生前の世界でいうところの梨のようなものだ。

 でも完全な梨ではなく、ちょっと違うもので似ている物だと梨が1番しっくりくる。


 さっぱりとした甘い果実が爽やかでしゃりしゃりとした食感。

 色は見えないのでわからないが味と食感からして梨としか思えないが、種が非常に大きいのだそうだ。

 柿の種くらいの大きさでかなり大きい。

 生前の世界で梨の種というともっと小さいものしか知らないので、もしかしたらそういう品種の梨なのかもしれないがよくわからない。


 ちなみにラクリアは片手で軽々とひょいひょい持っているが、前に触らせてもらった時にはかなり大きかった。

 自分の頭と同じくらいの大きさだったのではないだろうか。ものすごく大きくなる梨は知っているがこれはそれ以上だ。


 そんな大きさのラーシドの実を一口サイズにして食べやすく切り分ける手際は淀みなくするすると動いていく。

 ニージャには及ばないとしてもさすがはクリストフ家のメイドで自分の専属なだけある。


 食べさせてくれるのはもちろん我らがお婆様だ。

 一口サイズに小さくなったラーシドの実は予想通りにしゃりしゃり、といい音を立てて甘く、それでいてさっぱりとした果汁をたっぷりと口の中に弾けさせる。



「おいひ~」


「ふふ……よかったわねぇ~リリーちゃん」


「ばーばもたべてぇ~」


「あらあら、ばーばにも食べさせてくれるの? あーん」



 お返しにお婆様にもラーシドの実を食べさせてあげようとラクリアに持たせてもらうと、髪を押さえて上品に口を開けたお婆様がぱくりと指と一緒に口に入れてしまう。

 柔らかいお婆様の唇にチュッチュ、と艶かしい音を立てられて指についた果汁を舐め取られてからやっと解放してもらえた。



「ふふ……美味しかったわぁ~」


「お婆様……ずるい」


「……ずるい……ぼくも……」


「テオはだめー!」


「えー!? おっと!」


「む! まてこのー!」



 呆気に取られたように目を見開いてその光景を見ていた兄姉がチュポン、と音を立てて解放された瞬間に本音が零れてしまったようだ。

 だが、すぐさまエリーがテオの零した本音を遮るように痛烈な一撃を見舞おうとし、珍しくかわしたテオとの追いかけっこが始まってしまった。


 そんな2人の光景を微笑ましく眺めながらも、お婆様とエナに時折ラーシドの実以外にも剥いてもらった果物を食べさせてもらう。


 暖かい日差しの中で必死に逃げるテオと徐々に追い詰めつつあるエリーの的確なフェイントと逃げ道を誘導するような動作を織り交ぜた楽しそうな追いかけっこはそろそろ勝敗が決しそうだ。







◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆







 テオの悲鳴とエリーの楽しそうな声が花の香りに乗って流れていく中に、新たに聞いたことのある声が混じる。



「おぉ、我が純白の天使。あなただけの為の魔道具は今順調に製作しているところです。

 今は魔片の加工による定着時間があるため作業が出来ないのがもどかしい位です」


「エリオット殿……。相変わらずですね、あなたは……」


「あらあら、リリーちゃんへの魔道具楽しみねぇ」



 いきなり現れた神経質そうな耳の長い男――エリオットはお婆様やエナには目もくれず一直線に自分のところに来たと思ったら跪いて、小さな手を取りもう片方の手は胸にあて真摯な瞳をぶつけてくる。


 そんなエリオットにエナは呆れ、お婆様は何を作ってくれるのか楽しそうにしている。

 お婆様なら多少の無礼は意に返さないので問題ではないけど、一応エリオットはクリストフ家に雇われているのだから、最低でもお婆様に一言挨拶をしてから自分に話しかけなければいけない。

 でもエナが言うようにエリオットはそういう人らしいのでまったく聞く耳も持たないようだ。



「天使がくれた閃きにより実用性の目処が立った新技術を駆使した素晴らしい逸品を使い、唯一のあなただけの魔道具を作っています。必ずや気に入っていただけると確信しております」


「あらあら、よかったわねぇ~リリーちゃん」



 まるでプロボーズでもしているかのような真剣な表情と真摯な魔力の流れ。

 職人として非常にマイペースな人ではあるが、魔道具製作においては右に出るものがいないほど有能な人物であるのは知っている。

 そんな人が作り出した新技術とやらを駆使した逸品をくれるというなら貰わないわけにはいかない。



「たにょしみにしてるぅ~」


「お任せを、我が天使!」



 まだ一部分が若干微妙な滑舌だが、マイペースなエリオットは特に気にすることもなく手に取っている自分の小さな手に気障ったらしく軽く口付けをしてから去っていった。




 ……が、途中で地面が抜けたかのように足を取られ派手に転んでいたが、それは自分の手を消毒中のメーターが振り切れたちっこいさまのせいとは言わないでおこう。



ちょっと地面に穴をあけただけです。何も問題ありません。


これで第6章は終わりです。

次回はいつものように外伝です。


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