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濁った瞳のリリアンヌ  作者: 天界
第一部 第6章 3年目 中編 2歳
120/250

107,plan

 魔道具工房を見学してから早1月そろそろ5の月も終盤になろうという頃合。

 魔片や各種素材、封水晶の確保の手段が一向に整わないので実践がまったく出来ていないもののサニー先生から授かる魔道具製作の知識はすでに膨大な量になったと言わざるを得ない。


 魔術とその他の知識の習得にも多大な時間を割いているにも関わらず、魔道具製作の授業はありえないほどのスピードで進んでいる。

 基本的に魔片と素材がなければ新しいことは出来ないので、今までの先人の知識を理解するくらいしかやることがないのだ。

 といってもやはりそこは魔道具製作の知識の中でも膨大な量を誇る器である魔片への合成知識。

 グラム単位で十以上にも上る素材を合成するのだ。その量はすでに殺人的なものになりつつある。



「でもリリーには私とお揃いのアーカイブがあるもんね~」


「大半は記憶しているとはいえ、アーカイブは反則的な力だな」


【便利ですよね~。でもちゃんと基礎部分はアーカイブを頼らず覚えてますよ~】


「リリーの頭ってすごいよねぇ~。私もうこっち方面は全然だよ~。アーカイブなしでは無理だよ~」


「まぁ普通はそうだろう。私は問題ないがな」


【先生って……あれだけの知識があるのに、合成レシピの記憶量も凄まじいですよね……。まさにアーカイブいらず。いや……すでにサニー先生がアーカイブ?】


「このアーカイブ!」


「それは罵倒なのか……?」



 サニー先生はその膨大な知識をアーカイブを使わずに全て自前の頭脳に記憶しているのだ。

 大半を自分も記憶しているけど、まだまだ先生の知識量とその全てを理解している理解力には追いつかない。

 年季が違うといわれればそこまでだが、いつかは先生の全ての知識に追いつきたい。



 増えていく知識だがやはり魔道具製作は実践してこそというのが大きい。

 特に素材を魔片に組み合わせて合成するという技術はグラム単位でその効果が変化してしまうことがあるくらい繊細だ。

 そういう細々とした研究が結構嫌いではない自分としては自分の思い描く器を作り上げて魔術を封じたい。


 特に今自分が所有しているたった1つの魔片であるテオから貰ったプレゼントには厳選した最高の状態で魔道具としたいのだ。







◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆







 自分の周りに転がっているお気に入りの魔道具達はさすがはクリストフ家製作の魔道具と言うべき技術の結晶だ。

 ただの明かりの魔道具が光量調整から角度、範囲、形に至るまで操作が出来るというカスタムっぷりだ。


 魔片への合成する素材は量を調節して魔片自体にあわせるように合成するものと、魔片の外側を覆うように形状を作って合成するものがある。

 後者は装飾にも使われるタイプであり、この場合求められる性質は魔力を通しやすくする性質であり、アシラの木などが代表格だ。


 お気に入りの魔道具達の装飾は華美なものから質素なものまで数多くあるが、その全てが美しい。

 魔力を通す性質を持つ外殻用素材は魔力を持っているためその姿を見ることができる。


 いくらするかもわからない木製の精緻な細工の施された玩具達はまったく見えないので、自分にとっては魔道具の方がよっぽど玩具代わりになってくれる。

 といっても魔道具の勉強をしている自分にとってそれは玩具ではなく教材だ。



 玩具で遊ぶような年でもないしね。

 体は2歳だけど。



 教材となる魔道具にも術式は見える。

 解析は授業のない休憩中でもクティ達と戯れない時にやっている。

 合成レシピを把握していくにつれて順調に魔道具の解析は進んでいっている。

 ただやはり問題となるのが発動具の部分であり、この解析が遅々として……いや一向に進んでいない。

 この辺は魔道具の根幹部分なので素材の合成レシピをいくら学んでも参考にすらならないようだ。


 だがまだまだ膨大な量がある合成レシピの授業は続くので、根幹部分の知識はいつ得られるのかわからない。


 まぁ基本的にすでに発動具の魔術は得ているので、必要に迫られているわけではない。単純な好奇心なのだ。

 だがその好奇心こそが原動力であり、やる気でもあるのだ。


 魔道具と魔術は密接に関係している。

 魔術を封じた物が魔道具なのだから当然だ。


 魔術という生前には存在しなかった不思議技術に興味津々の自分が魔道具にも興味を持つのは当然の帰結なのだ。





【――というわけで魔片と素材をゲットする為のミッションプラン第48回目会議を開きます】


「ぱふぱふどんどんぴゅー!」


「……実行したのは8回だったか……その全てが失敗に終わっているのがなんともいえないなぁ……」


【エナは本当に強敵です……】


「ちょっと過保護すぎだよね~」


「まぁ自分の子供同然……いやそれ以上に可愛がっているリリーに魔片や素材なんていう危険な物を与えるというのがまず無理だからな」


「魔片はともかく、素材はもうちょっとなんとかならないのかなー」


「危険がないところで宝石から始めてみたが、まさか口に入れるかもしれないという反対意見が出るとは思いもよらなかったな」


【まぁ見た目は2歳児ですからねぇ~。しかもちょっと成長的には遅いみたいですし~】


「お喋りは上手になってきたのにねぇ~」


【滑舌は大分よくなってきたと思うよ!】


「うんうん! さすがリリーだよ! もう早口言葉も楽勝だよね!」


「にゃみゃみゅぎにゃみゃごみぇにゃにゃにゃにゃー!」



 両手で万歳しつつ早口言葉を言ってみるが、お察しの結果になりそのままレキ君のお腹へごろん。

 鼻から何かを噴出させつつ、それが尾を引きながら飛び込んでくるちっこいさまがべちゃりと頬に当たってすりすりが始まるけれど、素早く隠蔽魔術を展開し、ハンカチでねっちょり具合を回収。

 恐らく真っ赤になってしまったハンカチを隠蔽魔術内で圧縮強化洗浄魔術で一瞬にして綺麗にしたあと、温風で一気に乾燥させる。



「よし、問題なさそうだ」


【はい、確認ありがとうございます、先生】


「うほほほ~リリーの頬が頬が~」



 およそ5秒ほどでハンカチの洗浄乾燥を完了させ、サニー先生に色具合を確認してもらう。

 ハンカチについた鼻血のような物はハンカチに染み込んだ時点で見えなくなってしまったのでサニー先生が確認してくれたのだ。


 ちなみにあのまま放置というのは難しい。

 クティの使う隠蔽魔術の守備範囲はかなりの広さを誇っているけど、長時間持続させ続けるのは少し難しい。

 少しなので出来ないことはないけど、触ってしまうとわかってしまう。

 なので気づいたらその場で処理してしまった方がいいのだ。


 使えるようになった魔術の中でも使用頻度が1番高いのが洗浄と乾燥だったりするのがちょっとアレだけど、便利なのでしょうがない。



「しかし、最近おまえの自重のなさはちょっと問題じゃないか?」


「うほほ~にゅほへはー」


「……話を聞かんか!」


「ぎゃぶ! い、痛いじゃないのー!」


「まったく……。おまえの尻拭いをリリーがしているんだぞ。なんとも思わんのか」


「……私のお尻を拭いちゃうなんて……ポッ」



 腰に手を当てて厳しい目つきでお説教を開始したサニー先生だったが、当のクティはもじもじと小さな体をくねくねし始めたかと思うと背景に花が咲き乱れる。

 瞳は潤み、恋する乙女と多感な少女のような複雑な表情でなんとも色っぽい。


 そんなクティに見蕩れていると仁王様のこめかみに筋がどんどん増えていく。

 レキ君のお腹の近くにいるもじもじくねくねさんから少し離れて、レキ君尻尾に隠れるように移動すると仁王様が顔の前で両腕を交差させ、ゆっくりと離し脇を引き締めるように下ろす。



 あぁ……あの構えは某限りなく極めた空手の奥義の構え……。



 空中を滑るように1歩を踏み出したサニー先生の残した軌跡は残像を伴い……。

 ラストに拳を振り上げる動作で伸び上がるように2連続で放たれたそれはLv3だった。


 クティのお父さんごめーん、という叫びと共に魔力で作られた服が破けて先生の背後にKとOの文字が浮かび上がる。



 相変わらず芸が細かくて素晴らしい。

 レキ君の尻尾に顔の下半分くらいを埋めてもふもふを楽しみながら、魔片と素材をゲットする為のミッションプランを立てながらいつもの風景に心が和むのだった。




サニー先生の記憶力と理解力は頭が成層圏をつき抜けてしまうくらいの突き抜けっぷりです。


リリーの魔術の腕も大分上がって今では完璧に使いこなしています。

普通にハンカチを洗浄乾燥させたらもっと時間がかかります。

でもリリーなので超短縮できます。

末恐ろしい限りです。


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