105,atelier part,2
器となる魔片に様々な素材を組み合わせることによる違いはまさに千差万別の変化だったほどだ。
知識としては知っていたが実際に見てみるとなかなかに興味深いものだった。
例えばサファイアを粉になるまで砕いて混ぜるのと同量の重量で結晶の状態で混ぜるのでは効果が違ったりする。
その効果も封じる魔術により効果が変わる。
魔術の数だけ、素材の数だけ、混ぜる状態の数だけ違いがある。
もちろん大きな変化もあれば小さな変化もあり、中にはまったく変化がなかったり複数の素材を混ぜることにより変化を起こすものまであった。
魔道具職人はこの膨大な数の組み合わせから製作する魔道具のコンセプトにあった物をチョイスし、的確に使用しなければいけない。
ただでさえ魔術を扱うには膨大な知識が必要だ。
その上1流の魔道具職人になるにはさらに知識を獲得しなければいけないのだ。
「すごいなぁ……。ボクこんなに覚えられないよ」
「私だって無理よ……」
「ほんとね。さすがはクリストフ家に召し抱えられるような魔術師は違うわ」
「お褒めに預かり光栄にございます。ですがこれらは基礎知識に過ぎません。
素材との組み合わせはそれこそ無限の数と方法が存在しますので、さすがに覚えきれるものではありません。
あちらの部屋には私達が発見した組み合わせを記した物が保管してあります。その量はすでに部屋を埋め尽くそうとしているほどです」
魔道具製作と組み合わせの披露を無事やり遂げたアガットは清々しい笑顔の下、左手を水平にして指し示す。
指し示す手の先にはきっと資料庫があるのだろうが、如何せん見えない。だが部屋を埋め尽くすほどとなると相当な量だ。
私達が、といっていたので他の人が発見し、資料に纏めたものなどは違うところに置いてあるのだろう。
本当に凄まじい数の組み合わせがあるのだ。
魔道具製作とは本当に奥が深い。
「魔道具製作に関しては世界の隣の森に匹敵するほど発達しているからな。しかもここにはかなりの腕の職人が集まっているようだし、最高峰といっても差し支えあるまい」
「私は魔道具は専門外だし~」
サニー先生が首を縦に何度も振りながら目の前で誇らしげにしている職人達を眺めている。
しかしクティは魔道具に関してはあまり興味がないのか、空中を滑るようにツツー、とフィギュアスケートしている。
最後にやった氷の魔道具製作で作られた氷の板で思いついたに違いない。
エッジを切って空中に躍り出たと思った瞬間には高速回転が始まり、何回転ジャンプになるかまったくわからないほどの速さで回り続けている。
目が回らないのだろうか。さすがクティだ。
「それでは次は」
高速回転しているクティは自分以外の人には見えていないので、無視してアガットがさらに進行を進めようとしたときだった。
奥の扉が蹴破られるように開くと、そこから出てきたのは満面の笑みのエリオットとマスケリオルだった。
「見ろ! 暫定品だが完成だ!」
「拡張式容量突破型の構成膜の完成だ、諸君!」
完全にクリストフ家見学団のことは眼中にないのか、はたまた何かが完成した勢いで忘れているのか2人は興奮した様子で大声を張り上げていた。
「本当ですか!? あれほど行き詰っていたというのに、一体どうやったんですか!?」
「そうですよ! もう5月も停滞していた調整を一体どうやって!?」
「先生! マスケリオル殿! 教えてください!」
アガット以外の案内役の2名もこっちのことはすっかり頭の中から消えてしまったのか、乱入してきた2人に注意するどころか完全にそっち側にいってしまった。
そんな5人を唖然と見つめる自分達にはまったく気づかずエリオットがニヤリ、と笑うとこちらに指を突きつける。
「我が天使の色から発想を得た! あの包まれるような純白……。あぁ素晴らしい。これほど素晴らしい透明感溢れる色は見たことがない!」
突きつけられた指の先にいる自分とエナに全員の視線が突き刺さる。
指を突きつけた本人であるエリオットは恍惚とした表情で色について語り、そして先ほどの表情は幻かと思うほどの真剣な表情でなった。
「我が天使よ! 感謝する! あなたのおかげで我々の研究はまた1歩進むことができた!」
エリオットの言葉と共に5人の魔道具職人から拍手が巻き起こる。
だが完全においていかれている自分達はポカーン、と呆然とすることしかできなかった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「つまり屋敷を囲む結界の燃費軽減の為の技術の研究が前に進んだのですか」
「そういうことだ。だがこれは他の魔道具の回数制限の緩和にも使える技術だろう。まぁコストを考えなければだが」
「具体的にはどのくらいの軽減になるのかしら?」
「そうですな……。現在の消費を4分の1から6分の1程度まで抑えられるはずです、アンネーラ様」
「それはすごく革新的な技術なのねぇ」
「はい、ですが我が天使が舞い降りられる前までは先の見えない暗闇の中を迷走しているような状況でした。改めて感謝します、我が天使よ!」
拳を握って熱弁を振るっていたと思ったら今度はまたキリッ、という擬音がぴったりの表情の変化をしたエリオットがこちらを見ていう。
そしてやっぱり天使というのはエナではなく、自分のことのようだ。
テオに続いて天使と呼んでくる人がもう1人増えてしまった。まったく勘弁してほしい。
魔力の色が見える魔眼を持っている彼には自分の魔力が純白に見えるらしいが量の多寡はわからないようだ。
そっちのほうまで見えていたら大変なことになっていたかもしれない。
魔眼持ち自体が非常に数が少なく、魔力の量までわかる魔眼は本当に一握り……いやいないかもしれないレベルの少なさだ。
だが、かもしれないという仮定の話であり、いると想定して対策していた方がいいかもしれない。
「おぉ、そうだ! 我が天使に出会うことができた奇跡と授けてくれた素晴らしき天啓の如き閃きに感謝を称して、私の最高の技術を用いて魔道具を作らせていただきたい!」
「それは素晴らしい! エリアーナ様、エリオット殿がこれほど誰かの為にやる気を見せたことは今までありません! 是非とも許可を!」
「「「お願いします!」」」
興奮するエリオットと残りの職人が一斉にエナに頭を下げる。
神経質でプライドの高そうなエリオットですら、あっさりと頭を下げているのがとても印象的だ。見た目と違ってそういうのは気にしない人なのだろうか。
「えぇと……」
「いいんじゃないかしら、エリアーナさん。エリオットは最高の魔道具職人なのでしょう? そんな人に作ってもらえる魔道具ならきっと素晴らしい物になるわ」
「アンネーラ様がそう仰るのなら……。
ではよろしくお願いします。ただしリリーに渡す物ですので当然危険な物は禁止とします」
「おぉ……。感謝するぞ、エリアーナ殿! ではさっそく私は我が天使の為だけの最高の魔道具を作る!
我が天使よ、次会う時にはあなたの微笑を向けて頂けるような素晴らしい魔道具を持参致します。それでは!」
自分に対しては壊れ物を扱うかのような恭しい態度で丁寧に接してくるエリオットに最初の印象がどんどん塗り代わっていくのを感じる。
だがやはり魔道具馬鹿だというのは変わらない。
嬉しそうな顔で蹴破ってきた扉の奥の部屋に向かった彼からは魔力の発露がはっきりと見ることができていた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「すごかったわねぇ」
「えぇ……。エリオット殿にはまったくびっくりさせられました……」
「すっかり、リリーのことを気に入っちゃってたよね! さすがリリーだわ! あんな偏屈そうな男も虜にしちゃうんだもの」
「確かにリリーは天使だけど……。なんだかなぁ……」
「あらあら、テオちゃん嫉妬かしら? ふふふ……」
「テオも負けないように訓練頑張らないとね」
「うん、魔道具は作れないからボクはボクのやり方でリリーに認めてもらえるように頑張るよ!」
「その意気ですよ、テオちゃん。あなたならきっとリリーちゃんの素晴らしい騎士になれます。この私が保証してあげますわ」
「うむ。テオドールならば俺のように立派な騎士になれるだろう」
「あら……。ローのようになってしまったら打たれ強さだけが異常になってしまいますわ」
「打たれ強いのはいいことじゃないか! アンの一撃でさえ耐える俺の鋼の体は騎士達の羨望の的なのだぞ!?」
「あらあら……私ローの体は嫌いじゃありませんけど、あまり筋肉には興味はありませんわぁ」
「ま、まて! 俺は筋肉だけじゃないぞ! ほ、ほらあれだ! 書類仕事だって騎士からの羨望の的だ!」
「お爺様……。書類仕事は羨望の的ではないと思います」
「え、エリスティーナの突込みが痛い! 俺はどうしたらいいんだー!」
頭を抱えて蹲るお爺様を置き去りに、ぞろぞろとクリストフ家魔道具工房見学団は屋敷へゆっくりと春の麗らかな日差しの中を歩むのだった。
また1人リリーの虜が出来上がりました。
今度は魔道具職人の中でも最高峰の腕を持つ人です。
一体何を作ってくれるのでしょうか。
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