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濁った瞳のリリアンヌ  作者: 天界
第一部 第6章 3年目 中編 2歳
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104,atelier part,1


 案内されて進む工房内は玄関に照明の魔道具以外は特に見えず、通路にも照明の魔道具しかない。

 ここはクリストフ家の魔道具工房の中でも上位の工房なので、恐らくエアコンのような魔道具があるのだろうが、如何せん今は春のぽかぽか陽気なので必要ないので稼動していないのだろう。

 窓も開け放たれていて気持ちのいい風が頬を撫でていく。


 エナに抱かれて通路をしばし進むと当初の案内役のマスケリオルの代わりに急遽案内役になってしまった不幸な男――アガットが両開きのドアを開ける。



「こ、ここが大掛かりな魔道具などを作る時などに用いる製作室です。きょ、今日はここで実際に魔道具の作成などをお見せする予定になっております」



 アガットは何度も何度も汗を拭く動作をしながら、なんとか部屋の説明を続けていく。

 だがそんな可哀想なアガットの話よりも部屋に入った瞬間から見えている各種様々な形をした魔道具達に自分の目は釘付けだ。


 魔片は特殊な加工法で様々な形にすることができる。

 それはつまり外見を整えることができるということである。

 魔力を持った物なら見える自分の魔眼でも、初めて見るというほどの多種多様な形の物があちこちに並べられている光景が見て取れる。

 今世でこれほどまでにたくさんの物を1度に視界に納めたことはない。

 単体で見ることが出来るものは魔力を持つ人や魔道具だけで、屋敷見学の時に見た騎士が扱う武器も一応見れたが日常生活では決して見ることはできないものだ。


 日常が魔力とそれ以外のものでしか見えない自分にとってこれほどまでにたくさんの物が見えるのは、興奮するなという方が無理なのだ。



「ふふ……。リリーちゃんがこんなに興奮しているなんて始めて見るわね」


「えぇ、リリーも楽しみにしていたものね」


「エナ、早くリリーに魔道具の作り方を見せてあげて!」


「エナ、早く!」


「はいはい、あなた達も我慢できないからってリリーを出汁にしないの」


「「そんなことないよ!」」


「あらあら、息ぴったりねぇ」



 お婆様の優しい笑顔に包み込まれながらもぴったりあった息のもとにエリーの肘がテオの脇腹を抉る。

 だが今日は他の人の目があるからか、テオを抉った肘は隠れるようにこっそりと放たれているためテオも悶絶することはなくやりすごせたようだ。

 エリーはやっぱり家族以外の前では猫を被っているようだ。

 でもこっそりと肘を入れていることから見つからなければ問題ないタイプのようだ。さすがすぎる。



「で、では坊ちゃまもお嬢様方もお待ちかねのようですのでさっそく魔道具作成をご覧にいれましょう!」



 自分の得意分野に入ったからか、はたまたやっと覚悟が決まったのかアガットの口調も自信に満ち溢れている。



「ですがその前に、魔道具を作る際にもっとも必要となる物はなんだかわかりますか、テオドール坊ちゃま」


「魔片……かな?」


「その通りにございます。ですが、それだけではございません。

 魔片は魔道具の器として必需品となります。器とするには他のどんな物質でも代わりとはなりません。

 ですが魔片を加工する際に組み込むことにより、封じる魔術の質や効果などを増強できるものがたくさんあります」


「アシラの木なんかだね」


「その通りにございます。坊ちゃまが育成していらっしゃるアシラの木はその最たる物になります。

 今回は魔道具製作の基礎を学んでいただくことも予定にございますので、簡単な加工手段を用いて加工した状態と未加工状態での違いを見ていただこうと思います」


「そんなに違いが出るの?」


「はい、それはもう別物といっていいほどの違いが出ます。

 では百聞は一見にしかず、といいますのでさっそく見ていただきましょう。まずは未加工の魔片に魔術を封じます。

 今回は1番簡単な明かりの魔道具を作成させていただきます」



 案内役から司会進行役にクラスチェンジしたアガットが説明を終え、さっそく机の上に用意してある材料を手に取る。



「こちらが魔片です。今回はこのような小さな魔片でも十分ですのでこれを使います」



 アガットが手に持っている魔片はテオがプレゼントしてくれた魔片と同じ位の大きさの物だ。

 最初は未加工品ということで魔片も別段何か特徴があったりはしない。



「そしてこちらがもう1つの魔術を封じる為に必要な物――封水晶です。

 魔道具職人ならば誰でも持っているものですが、今回使うのはクリストフ家で支給されている1級封水晶ではなく、通常の工房でも使っている4級封水晶を使います」


「1級を使わないのはなぜなの?」



 エリーが小首を傾げながら疑問に思ったことを聞く。

 級が付いているということは性能が違うのだろう。ならば見学とはいえクリストフ家が来ているのだから1級品を使ったほうがいいと思うのが普通だろう。



「1級封水晶を使用してしまいますと、魔術の質がよくなりすぎてしまうのです。このような小さな魔片では質がよくなりすぎてしまうので逆に失敗してしまうことがあるのです。

 級を下げた封水晶を使うことにより、質をコントロールし魔片に合わせた魔道具を作ることができるのです」


「なるほど、わかりました」



 魔道具を作るのには魔術を魔片に封じなければいけない。

 魔術を封じるには封水晶という道具を使わなければならず、その封水晶にもランクが存在する。

 いいものを使うと魔術の質があがり、例えば少量の水を出す魔術だったら1級封水晶で封じ込めると透き通った綺麗な水を出すことが出来る。

 逆に最低の10級封水晶を使うと不純物の入った水になったりする。

 だが質を上げるとどうしても魔片に封じる際に大きさや魔片自体の質を求められてしまう為、必要に応じて封水晶を使い分けるのが魔道具職人なのである。

 時と場合によっては1級封水晶より、10級封水晶が有益な場合もあるというわけだ。



「では始めます」



 アガットが開始の宣言をし、封水晶を起動する為の詠唱を行う。

 封水晶は魔道具ではなく、特殊な加工と材料で作られた物で魔術同様に詠唱で様々な設定を追加させることができる。


 次に明かりの魔術の詠唱を行う。

 詠唱は魔術の設定だ。その設定は他人に読まれないように暗号化できる。

 だが今回は特に聞かれても困らないので暗号化は行われておらず、極々簡単な詠唱だった。


 封水晶に向かって使用された魔術は、術式が数個だけの非常に簡単な物だ。

 術式の流れ込んだ封水晶は中で術式を固定し、4級封水晶の設定された効果で術式に施された設定の一部を追加し、発動するはずだったタイミングを凍結させる。


 これが封じる前の状態だ。

 この状態で魔片に移すことによりその状態を維持し続けることができ、任意のタイミングで発動できる。


 封水晶に魔片を接触させ、今度は違う詠唱を行うことにより魔片に術式が移っていく。

 それはほんの一瞬の出来事で、極少数の術式だったとはいえ本当に一瞬だった。



「これで完成です」



 あっという間に明かりの魔道具が完成した。

 本当にあっという間の時間で完成したそれは確かに術式を移す前の魔片とは異なる物となっている。



「では次に魔片を加工してから同様の魔術を封じます」



 そういって取り出した魔片は先ほどの魔片と同じサイズだ。

 一緒に取り出したのは魔力を持たないのか見えない。



「こちらはトパーズの破片となります。魔片に組み込む物は様々な物がありますが、宝石などは特にその質を安定的に増加させる傾向にあります。

 この小さなトパーズの破片ですら、組み込めば十分に効果を発揮してくれるのです」



 アガットの説明にテオとエリーの2人は興味津々といった具合ですでに引き込まれている。

 自分はというとすでにサニー先生に習っている分野で、しかもそのずっと先のことまで知っている段階なので説明自体には興味はあまり惹かれない。


 アガットが見えない機材の上に魔片とトパーズの破片だろう物を入れ、何かを持つ仕草をしそれをかける。

 魔片加工に使う一般的な溶解液だろう。魔片に接触するとその溶解液は一部を溶かすことができる。

 その中に物質を入れることにより魔片は自然とその物質を取り込む。


 魔片全体を溶かして型にはめたりすればそれだけで成形できる。

 今回はトパーズの破片を混ぜるだけなので形はあまり気にしないようだ。

 溶解液で解けた部分は熱を持つので素手では触らず、また見えない器具を使って簡単に成形している。

 冷やすと簡単に固まるのでジュッという音がして魔片にトパーズの破片を組み込む加工作業は終わったようだ。


 魔片の中に流れる魔力に何か異物のような物が薄く広がっているのが見える。

 あれが組み込まれたトパーズの破片だろう。



 普通の目で見たらどんな光景になっているのだろうか。

 残念だけど自分はそれを見ることはできないが、知ることはできる。



「綺麗……」


「うん、魔片の中に細かな輝きが舞い散ってるよ……。綺麗だ」



 テオとエリーの呟きにその光景を想像すると、クティが単結晶の中に星空のように輝く様を描いてくれる。



 さすがクティだ。自分が何を思っているのか何も言わずとも理解し応えてくれる。



【ありがとう、クティ。とっても綺麗だね】


「リリーの方が可愛いけどね!」



 優しいドヤ顔が満面の笑みと重なり、さらに美しさを増していく。

 そんなドヤ顔様に見とれていたら、加工した魔片の魔道具化は終わっていた。



 いつの間に……。

 仕事が速いってレベルじゃないんじゃないかな!?



「ではこの2つには同じ魔術が封じてあります。違いは加工したか否かです。

 さっそく見ていただきましょう」



 そういって2つの明かりの魔道具を持ち、同時に起動させる。

 活性化した魔力が術式を発動させ、魔術が効果を表すが自分にはその違いがよくわからない。



「すごい! こんなに明るくなるんだ!」


「あらあら、たったあれだけでこんなに違いが出るのねぇ」


「じゃあもっと混ぜたらもっと明るくなるのかしら?」


「エリスティーナお嬢様、多く混ぜればいいというものではないのです。

 魔片との配合する比率により、その効果も千差万別となるのです」


「そうなんだ」



 光量が大幅に増加したようだが、如何せん自分には見えないのでなんともいえなかったが皆の感想を聞けばその様子も想像が付く。


 まぁクティが魔道具が発動した瞬間にはその様子をコミカルに描いてくれたので問題なかったりするのだけど。


 その後にもいくつかの魔道具を製作し、組み合わせる素材を変えたりして様々な変化を見せる魔道具を前に魔道具工房見学は順調に進んでいった。



実際の魔道具製作風景です。

簡単な物だと短時間で製作可能なのです。


封水晶に魔術をいくつも留めたり、魔片に各種素材を取り込ませ加工したり、様々な工程が追加されるとどんどん製作時間が長引きます。

加工法も多種あり、溶解液で溶かして混ぜるだけが加工法ではありません。

アシラの木なんかは主に魔片と接触するようにして取り付ける感じで加工したりします。

ブーケのようにですね。


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