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濁った瞳のリリアンヌ  作者: 天界
第一部 第6章 3年目 中編 2歳
111/250

98,mission

 テオとエリーの期待溢れる輝く瞳の前に多少渋ったエナだったが、ついに陥落した。

 レキ君に跨り少し離れてそれを眺めていた自分としてはこうもあっさり事が運んだことに若干の訝しみはあったものの作戦が成功したのだからと喜んだ。



「やったね! じゃあ次のエリーとボクの休みが重なる日に見学だね!

 リリー、魔道具が出来るところが見れるよ!」


「え!? リリーはだめよ! テオとエリーだけだから許すのよ?」


「「えー!?」」



 やっぱり落とし穴はあったみたいだ。


 兄姉の2人がなんとか食い下がってみたがエナの首が縦に振られることはなかった。

 それでは意味がないと2人も見学をキャンセル。

 肩を落とししょんぼりして戻ってきた2人に謝られたが、たった1度失敗した程度でここまでしょげられると逆に燃えるというもの。


 当然次の作戦を実行に移すべく、謝り続ける兄と姉を抱きしめてから作戦会議を始める。

 最初のプラン同様に上目遣いで可愛い可愛い天使のお願い攻撃で2人を魅了し、作戦は進められていく。


 まずはトライアンドエラー。

 自分1人の時は同行者を大人数にすることにより成功率が飛躍的に高まった。

 だが今回はテオとエリーという自分のことをよく知っていて尊重しつつも大事にしてくれる2人がいる。

 この2人という手駒を有効活用することこそがエナ攻略の第1歩だ。


 だが2人をどう活用するか。ソレが問題だ。

 1度目の2人と一緒に見学するから作戦は失敗。

 だが兄と姉2人だけでなら見学は許されている。ネックはやはり自分なのだ。


 エナとお婆様、専属4人と騎士団を動員し安全を最大限に確保するために数日の猶予を作り、その上で先行してテオとエリーによる見学を行う。

 2人の見学を成功させ、テオとエリーが先行することにより彼らには先に知識を与えて自分に対して年長者として威厳みたいなものを見せることが出来るようにする。

 要するに少しだけ彼らに案内させることによりお兄様お姉様すごいです、という感じに褒めて挙げられるように仕向けるのだ。


 さりげなくお願いという名の作戦会議でこれに気づかせ、彼らの行動意欲を上方修正させることに成功している。


 そこからはテオとエリーの苛烈なエナ説得合戦が始まる。

 朝、夕、夜ととにかく時間がある時にエナを説得しようと纏わり付き、自分達がリリーをちゃんと見ているから、と子供らしい微笑ましい感じではあるが頑張っている。


 ここで理路整然と安全策を講じてその内容を言っても、逆効果でしかない。

 テオとエリーは確かに優秀な子達かもしれないけど、まだ10歳と8歳だ。理論的な説得の仕方は必要ないのだ。

 子供には子供の最強の武器があるのだから。


 普段あまりこんなに我が侭を言わない彼らが断られても何度も何度もちょっとずつやり方を変えて、それでも子供らしい説得の仕方で来るのだ。

 自分だけでなく、兄姉の2人も溺愛しているエナは段々絆されていくのも自然なことだろう。


 作戦はそろそろ第2段階に移行する段階だろう。

 第1段階ではとにかくテオとエリーによる毎日の説得。

 徐々にだが2人に押されていっているエナ。


 兄姉の2人がエナを押している間に自分もお婆様や専属達に魔道具に興味を持っているように仕向けている。

 というか実際に興味があるのは確かなので色々な安全な魔道具を強請ってみることから始め、実際にたくさんの魔道具を使ってみることが出来た。

 そしてどこで作っているのか、誰が作っているのか、魔道具毎に聞きまくる。

 子供の好奇心旺盛な無邪気な態度で自然体を崩さないようにするのに苦労したけど、いくつかクリストフ家で作られている魔道具があり、それらにすごく興味があるように演出し毎日それらを使ってお気に入りと見せかける。


 次第に増えていくクリストフ家製作のリリアンヌお気に入り魔道具達。


 お気に入りがクリストフ家製作の物だけにならないように自然と別で製作された物も混ぜているが8割方はクリストフ家の物だ。

 自分の家で作られた物を気に入るというのは好印象だろう。


 成果は着実に増えていく遊び道具と化した魔道具達として現れている。

 最初こそ危ないからと渋っていたお婆様だが、今では割と簡単な魔道具からそこそこの物まで与えてくれるようになった。

 これだけでも収穫としては上々であるが、あくまでも目標は魔道具工房見学である。


 最近は魔道具でばかり遊んでいるので魔道具に興味津々の自分をエナもわかっていて、兄姉による連日の説得も効果を示し始めている。


 さぁ第2段階へ突入だ。



「えにゃー」


「なぁに、リリー?」



 ずいぶん大きくなった自分ではあるが、それでもまだまだエナに抱っこされるくらいの大きさでしかない。



「まどおぐってどーやってつくるのぉ?」


「魔道具は魔術師が作るのよ」


「おうちでもつくってるんだおね?」


「えぇ、リリーお気に入りの魔道具のほとんどはクリストフ家で作ってるのよ」


「しゅごおい!」


「ほんとねぇ~」



 かなりマシになった滑舌でもまだ若干怪しいところはあるものの、以前とは比べ物にならないくらいにスムーズな会話が成立している。

 クティ達と話す時のような喋り方ではなく、年相応の子供らしい喋り方を意識しつつ話していく。

 そしてこれからが本題だ。



「まどおぐつくってるところ、みたいのぉ」


「……だめよ、リリー。危ないもの」



 この返答は予想通り。

 だからこそあの2人を先行させているのだよ、エナ。



「にーにとねーねはみたっていってたのお」


「2人はリリーと違って大きいでしょ? だから特別に許したのよ?」


「おーきいといいの?」


「そうよ」



 やはりその理由で駄目だしをしてきた。

 だがそれは反論材料としてはすでに封じる手段をいくつも出しているものだ。

 まぁその辺の材料しか出ないように工作したのも事実だけど。

 さぁ落としにかかろうか。



「おーきいとどうしていいのお」


「大きいと危ないところにはいかないでしょ?」


「あぶにゃいところ、いかないよ?」


「リリーは危ないところがどこかわからないでしょ?」


「ばーばはわかるよお」


「そ、それはそうだけど……」


「ばーば、いっしょいってくれるう?」


「えぇ、リリーちゃんのお願いですもの」


「ばーば、いっしょしてくれるってえ」


「で、でもだめよ……」


「にーにゃもいっしょしてくれるう?」


「……はい、お嬢様」


「きしのみんないっしょしてくれるう?」


「「はい、リリアンヌ様!」」


「ボクも一緒に行くよ、リリー!」


「私ももちろん一緒に行くわ! リリーに危ないところには絶対行かせないから安心して!」


「……あ、あなた達……」


「えにゃー、いっしょするう?」


「う……。ず、ずるいわ……、リリー」



 毎日少しずつ3巡り(週間)近くかけて根回しした甲斐もあり、テオもエリーもお婆様も専属も警備の騎士に至るまで全員がこちら側だ。

 これだけ時間をかけてゆっくりと着実に作戦を遂行したので、さすがのエナも完全に外堀が埋まっていてこのままでは自分を置いても見学が実行されてしまうと焦り、折れるほかなかったようだ。







◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆







「いや、大した物だよ。魔道具への興味からクリストフ家製の物をお気に入りとし、さらにそれを周りの者達にもたっぷりと見せつける。

 魔道具という生活に密着した物に対する興味を高めていき、次第に製作側への興味にシフトさせていく。

 その裏で兄姉達によるエナの説得も進行させ、外堀も完全に埋め、内も大分崩したところに完全武装で乗り込むのだからな。

 いやはや本当に君は策士だな」


「2巡り(週間)ちょっとかな? 大体3巡り(週間)か、それだけかけて入念に下準備したんだもの落ちないわけがないよねー。さっすが、リリーだよ!」


【頑張りました。これで次からの行動がしやすくなるというものですよ!

 魔道具工房見学は布石にしか過ぎませんからね!】


「大冒険の第1歩だね!」


「君を取り巻く環境は厳しい物だが、君にかかればそれらですら大した物に見えないのが面白いな」


【じっくり根回しするのは得意ですからね】



 5日後に決まった魔道具工房見学に胸を躍らせつつも、この見学は屋敷外での活動の最初の1歩であるということを念頭に置くのも忘れない。

 しっかりと成功させて次へ繋げる。


 エナという最大の障壁に次の活動に拒否反応を出させない為にも頑張らなければならないのだ。




エナついに陥落です。


用意周到に挑んだリリーの前にさすがのエナも膝を突くしかありませんでした。

じっくり時間をかけて外堀も内掘りも少しずつ埋めていくという戦略をたかだか2歳の幼女が実行するなんて誰も思いませんしね!



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