94,rewarding
さっそくサニー先生による授業が再会当日から開始されることになった。
ちなみにクティはすでに回復して背後に落書き板を設置完了済みである。相変わらずの癒し系ドヤ顔にほっこりする。
「さて、今回から君には魔術を教えていこうと思う」
「ついに私の出番だね! 出番だよ! DE・BA・N! ひゃっほーい!」
【わかりました。よろしくお願いします。クティもよろしくね】
「だが正直私はまだ早いと思っている。もっと知識を深めてからの方がいいと……」
「もーサニーはほんとかたいなー。私なんて勘と直感と第6の感覚で全部なんとかなってるじゃなーい」
「それは全部同じものだ! あ、最後は違うか?」
「ふふん。むしろ第7の感覚に目覚めつつあるよ!」
クティがどこぞのコメット系の打撃技のポーズで小宇宙を練り上げ始めたけど、いつものことなのでサニー先生はスルーだ。
「だが魔術を使うには当初予定していた隠蔽魔術が必要だ。そして魔術を隠せるほどの隠蔽魔術を使うにはこいつが作った魔術を使わなければいけない。
それには精霊力が必要となる」
講義を再開した背後では翼の生えた馬の星座が瞬き、何やら闘気のような物を揺らめかせるドヤ顔さま。
「だが心配はいらない。今回は必要な物を用意する時間がかなりあったからな。
その間に魔力を精霊力に変換できる魔道具を作成してきた」
揺らめく闘気を纏い、踊りのような腕の動きも完了し、小宇宙が爆発寸前のちっこい様が今まさにその分身する腕を放たんとする。
「ではこの魔道具の説明だが」
【先生。私もう魔力を精霊力に変換する技術は体得してます。はい、この通り】
魔力文字から少し遅らせて空中に精霊力を作成、維持する。
それを見た瞬間説明をしようとしていた先生の動きがビタっという擬音がぴったりなくらいに止まる。
背後のちっこい様も魔力で表現された分身した腕と某たくさん殴る技の姿勢のまま顔だけをこちらに向けて止まっている。
2人共に目をぱちくりさせているのが大変可愛らしい。
クティは拳を突き出したポーズでもやっぱりクティなのでその愛らしい顔とスタイルと雰囲気で何をやっても可愛らしい。実にほっこりする。
先生はポカーン、という表現がふさわしい顔になってしまっている。半眼だった目が通常の1.5倍は開かれている。普通にしてればこの人かなり美人なのにもったいない。
まぁ当人は研究馬鹿で講義馬鹿で魔術馬鹿なので外見なんかには力を入れる気もなさそうだけど。
「な、なぜ……出来ている? 報告に行く前にはできなかったじゃないか……」
搾り出すように掠れるぎりぎりの声でサニー先生が停止状態から復帰するように言ってくるが、まぁ彼女達が居ない間にできるようになったのだからその通りだ。しかもついこの間だし、できるようになったの。
【はい、ついこの間に出来るようになりました】
「いやいやいや。出来るようになりましたって! 私だって精霊力を魔力に変換する魔道具を作っておいたから2巡り程度で完成させることができたんだぞ!?
君にはそんな知識はなかったはずだ!」
「さすが、リリーだよ! サニーでも年単位かかったことを会えない間の苦しい時間でやっちゃうなんて! でももう会えない時間なんていやだよ! リリー!」
【クティ!】
自分の台詞で会えなかった時間の苦しさを思い出してしまったのか、瞳の魔力を潤ませてクティが飛び込んでくる。
背後の星座と分身の腕はすでに霧散している。
ひしと抱き合い再開を再度、いや何度でも祝い会おう。
今日はパーティだ! 無礼講だ! ひゃっほーい!
「ばかな……。これが候補者の実力だというのか……。
……くっくっく……いいだろう。だからこそやりがいというものがあるのだ……。くっくっく」
俯いて真っ黒い淀んだ何かを発露し始めた先生を横目にクティとくるくる回っていると、いつもは変動しない自分の表情筋も無意識に緩み自然と笑みの形を取ってしまう。
クティと全力で再開のダンスを踊っている裏でマルチタスク能力を十全に発揮して周りの観察もしている。
もはや癖として染み付いてしまったものはどうしようもない。
自分の周りにはお婆様、レキ君、専属、騎士がいるけれどその全員が突然笑顔でくるくる回りだした自分を暖かく見守ってくれていた。
むしろ数人は見惚れていた様に思えたけど。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「おほん、では再開しよう。
精霊力が使えるようになったのは大変喜ばしい。魔道具は無駄になってしまったが、段階をいくつか飛ばせるからな。
その分を魔術習得に充てよう」
【はい、先生!】
「なんだね?」
【その魔道具見てみたいです!】
「うむ、まぁその辺は魔道具に関する詳しい知識を得てからにするべきだ」
【わかりました】
「リリーなら魔道具なんてすぐに作れるよ! ぽぽいのぽいだよ!
材料ならこの屋敷から少し離れたところにいっぱいあるから大丈夫だよ!」
【え、そうなの?】
「そうだよ! 多分敷地内かな? 私はこの家の敷地がどこまであるのかよくわからないからなんともいえないんだけどねー。
今度調べてみる~?」
【あ、その時は一緒に行こう! クティが居れば見えなくても大丈夫だもんね!】
「ひゃっほーい、リリーと一緒に探検だー! 今すぐ行こう! さぁ行こう! 冒険! 冒険! ぼうけーん!」
一瞬で探検ルックに身を包んだクティが短剣を掲げて舞い踊る。
探検と短剣をかけているんだね、とは口が裂けても言わないけれど、その愛らしい姿にはついついほっこりしてしまう。
クティは本当に見ていて飽きない。食べちゃいたいくらい可愛い。
でも探検に行くには難敵をなんとかしないといけない。まだまだ遠そうだ。
【クティ、ごめんね。多分まだ無理だと思うんだ。エナの説得が全然出来てないの。
クティ達が居ない間に屋敷の探検を少ししたんだけど、その時でもエナが反対するくらいだったから屋敷の外となると敷地内でもすごく難しいの……】
「がーん! そんなぁ……。で、でもリリーなら! リリーならやってくれる! 私は信じてるよ! 疑う気持ちなんてこれっぽちもないよ!」
クティの無条件の信頼がちょっと胸に痛い。
こればかりはかなり難易度が高い気がする。だが直接交渉だけじゃなく絡め手も使って今まで以上にエナを篭絡にかかることを心に決めた。
クティと一緒に冒険するためならエナを陥れることも厭わないさ!
さぁいざゆかん、まだ見ぬ大地へ! そしてクティと一緒に楽園へ!
「ごほん、あー。もういいか?」
【ハッ。すみません、先生。続けてください】
「うむ。君もほどほどにな」
【はい、すみませんでした】
授業中だというのも忘れてクティと盛り上がってしまった。
ちょっと反省しつつ今は授業、と気持ちを切り替える。
「魔道具に関しては後にするとして、一先ず精霊力を使って隠蔽魔術を使えるようにしよう」
【あ、はい! 出来ます!】
「は?」
【これですよね! クティちょっとごめんねー、隠蔽魔術起動!】
何もない空間に隠蔽魔術を使っても恐らくサニー先生には見えないだろうから、周りの人達が見えなくなっても問題ないクティに対して使ってみる。
基本的に対象の周りに張られるだけの魔術なので安全は自分で試して確認済みである。もっとも解析している段階で安全なのはわかっていたけど。
「な……ッ!? クティが消えた……」
【どうでしょうか?】
クティが居た場所に先生が手で触れようとすると隠蔽魔術がクティごとその手を避けるように移動する。
これは魔術に組み込まれた自動回避機能によるものだ。
この機能は根幹として組み込まれていて変動も解除もできなかった。なので触ろうとしたり何かに接触させようとしても自動で避けてしまう。
「クティ、移動するな」
【あー先生。それには自動回避機能がついているので触ろうとすると勝手に避けちゃうんです。だからクティが移動しているわけではないです。えっと、今ここにいます】
先生には見えていないので魔力を出力してマーカー代わりにしてみる。触ると避けられるので少し距離をあけて矢印を6方向から囲むように展開させる。
「ふむ……。回避機能か……。隠蔽魔術に仕込むということは中に何か仕込んで待機させるためか」
【はい、クティが私の背後に設置してくれていたもので、中にはオート発動の防御魔術が入っているようです】
「なるほど……。クティに教わったのか」
【いいえ。自分で解析しました】
「……ん? 今解析したと見えたのだが」
目を白衣のような先生の衣装の裾でごしごしこすってから再度魔力文字を確認する。
信じられないものを見ているかのように何度かその動作を繰り返してから先生は再度口を開いた。
「解析?」
【はい、解析です】
隠蔽魔術にかけていた展開制限時間が過ぎると中から大量の魔力と一緒にクティがあふれ出してくる。
「ひどいよー、リリー! この中だと音も魔力も何も外に伝わらないんだよー!」
【あ、あれ……。そうだったの? ごめんね……クティ。私は中からも外からも見えたからてっきり……】
「うぅ……。さすが私のリリーだよ……。でもね普通の人には見えないんだよー」
【ごめんね、クティ】
「ううん、許してあげる……。むちゅーん」
【あはは、くすぐったいよぉ】
溢れ出してすぐに飛びついてきたクティに頬にすりすりされて一際柔らかい感触が頬に感じられる。
そんなピンク色な光景を他所に1人ぽかーん、というクティ製の魔力文字を背後に背負った先生がいつ解けるのか分からない停止状態に陥っていた。
ついに報告の時間です。
精霊力を作り出せることについてはまだ大丈夫でした。
なんとか意識を留めることに成功したサニーですが……。
クティ謹製の初めて見た隠蔽魔術を教わったのではなく、解析して使えるようにしたことに最早完全に停止してしまいました。
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