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濁った瞳のリリアンヌ  作者: 天界
第一部 第6章 3年目 中編 2歳
106/250

93,runaway



 サニー先生が何かを言っているような気がするけど、とりあえず無視の方向で。

 だって今この場にはクティがいて自分がいてクティがいてクティがクティがいるんだから。


「あはわははわはははあ~」


「にゃははははああははにゃは~」


「わおおおぉぉぉぉぉぉっぅぅぅ」



 レキ君のふかふかのお腹の上をクティと一緒にごろごろしているせいだろうか、レキ君から漏れる声が転げまわる振動で揺れる揺れる。

 だが小さな最愛の人と再会できたことが理性というリミッターを簡単に破壊してしまったようで転げまわるのをやめられない。


 サニー先生の呆れ声と溜め息が何度聞こえただろうか。

 全部部屋の隅のほうに押しやっていたのもそろそろ限界か。



【ふぅ……。クティを堪能しました】


「……やっと戻ってきてくれたか……」


「やぁー! まだー! もっとー! リリー成分が枯渇ちゅー! ちゅーッ!」


【わー、もうクティってばー】


「リリーよ、もういいか?」


【出来ればあと2,3日放って置いて欲しいです】


「そ、それはどうなんだ……?」


【だって1月も会えなかったんですよ?】


「いや、そうだ……が……」


【仕方ありません。先生を困らせたいわけじゃありませんし。クティ、ちょっと先生のお話を聞こう?】


「いやーッ! まだーまだ足りないーッ! リリーのリリーによるリリーのリリーがリリーでリリーッ!」


「……いいか?」


【仕方ありません、お願いします】



 がっくりと項垂れて埃が積もったようにかびているサニー先生がちょっと哀れだったからかもしれない。

 暴走して乙女がしていい表情ではない顔をしたちっこい様がくんかくんかしているので許可を発行することにした。


 発行された許可により項垂れていたサニー先生の目が光る。

 魔力の操作が出来ないサニー先生でもたまにこういう現象が起こる。感情の発露による魔力の無意識放出と似たようなものなのだろう。


 そして始まったのはボクシングのオードソックスな構えを少し下げた感じから右膝を上げ突き出すように90度の角度で止まる、何かを極めたオーラが立ち上るあの人の最強技の始まりの動作。

 すすー、と滑るように急速接近したサニー先生がガッ、という擬音が聞こえてきそうなほどの勢いでくんかくんか様を掴むと一瞬の閃光。


 無意識の魔力の発露なのになんでこんなに芸が細かいんだろう、と思った次の瞬間にはバーンッ、という擬音が聞こえそうな背景と背を向けたサニー先生とその足元に転がるボロ雑巾さま。

 もちろんその背中には天の文字が幻視したような気がする。



 懐かしい……。







  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆







「――というわけだ」



 レキ君のお腹に背を預けゴウk……げふんげふん。サニー先生の報告というか通告というか、とにかくお話が終わった。



【先生、質問です】


「うむ、なんだね」


【要するにその特級魔力保持者というのは結局のところ何なんでしょう?】


「ふむ、ずば抜けた理解力を持つ君にしては少々飲み込みが悪いような気がするが、まぁいいだろう」


【すみません】


「いや、あれだけ激しく転げまわっていたからな。このボロ雑巾に色々吸い取られたんだろう。仕方ない」



 先生に片手でひょい、と持ち上げられたボロボロのちっこい様だが当然ボロボロなのは彼女が魔力で描いた魔力の絵に過ぎない。

 本当にボロボロだったら今頃こんなに冷静ではいられないだろう。



【でもさすがクティですよね。気を失っているのに魔力操作を完璧に維持しています】


「あぁ……。なんでこんなあほみたいなことに命かけてるんだろうなこいつは……」


【先生、それは違います。クティにとってこういうことはあほみたいなことではないのです】


「でも君もあほみたいなことだとは思っているわけだ」


【まぁあほの子ほど可愛いっていうじゃないですか】


「盲目にもほどがある……」


【何重の意味があるんでしょうねー】


「君は本当に強いな……」



 サニー先生の呆れたような優しい視線に表情の変化はつけずに優しく視線で返す。

 たまにこういう試すようなことをいうけれど、クティが側にいるので冷静に返せる。

 やはり心の底から信頼できる人が側にいるというのは大きな勇気と余裕をくれるものだ。



【それで、先生】


「あぁ、すまない。特級魔力保持者だったな」


【はい、私がその特級魔力保持者の " 候補 " になったという話ですので、それが何なのかもっと詳しく知っておきたいんです】


「ふむ……。以前話したような気がするが……。あれは違うやつだったか……?」


【その部分に関してはかなりぼかして仰っていましたよ?】


「あぁ、そうだった! やはり君は大したものだな。

 理解力というものは物事を噛み砕き吸収することだ。その前提となるものが何かわかるかね?」


【……知識、でしょうか】


「正解だ。知識がなくては例え記憶していようと真理や根源にはたどり着けない。

 体が覚えてしまうことがあるがそれは理解しているのではない。ただの反射だ。

 理解するにはどうしたって前提となる知識が必要不可欠なのだよ。

 まぁ異論は多々あるだろう。だが今回の私の(・・)いう理解力とはそういったものだ」


【はぁ、なんとなくわかってきました。私には理解力の元となる知識がありすぎる?】


「うむ。さすが我が弟子だ」



 いつから弟子になったのかちょっとわからないけど、自分は先生の生徒だからあまり変わらないか。


 要するに生前の知識分もあるため理解力が高い自分は特級魔力保持者候補になる資格があるらしい。いや、すでに候補者になっている。



「特級魔力保持者というのは魔力が特別なわけではない。常人が持ち得ない知識による理解力を持って真髄、または真理ともいえるものに到達する可能性があるものを指すのだ。まぁ選定要因は他にもたくさんあるが大きな要因はそれだ。

 その定義でいえば十分君は候補者というわけだ。

 そして今回 " 私が " 報告したことにより君は正式な候補者になった」


【クティの報告ではそうはならなかった、と?】


「はっきりいってしまえばそうだな。むしろアイツは隠そうとした」


【……何か危険なことがあるのでしょうか……?】


「いや、どちらかというとこれ以上君の下に誰かを送られるのを嫌がった為だろうな」


【あぁ、それは嫌です。クティとの蜜月の時間を邪魔されたくありません】


「……はっきりいうな」


【もちろんです。自己主張は大切だと言ったのは先生ですよ?】


「そ、そうだな……。まぁそれは置いといて。

 とにかく君はこの4000年ほどで4人しか発見されていない特級魔力保持者の候補者となった。

 とはいっても今までと何が変わるというわけではない。今までどおり私の授業を受けるだけだ。

 君の膨大な知識を更に増やす。今までは私の趣味で行っていたが、今回からは任務になるというわけだ。

 まぁ変わらんがな」


【そうですか、これからもご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いします】



 ふかふかのお腹から背を離して姿勢を正して頭を下げる。

 今まではサニー先生の趣味で自分に色々と教えていたことは知っている。でもこれからは任務になる。

 つまりは彼女には成果をあげる義務が発生したということなのだろう。


 自分はそれに応えなくてはいけない。

 

 自信はあまりないけど先生は優秀を通り越しているほどすごい人だし、何よりクティがいる。

 怖いものなんてまったくないというと嘘だけど、大抵のことでは動じない自信はある。

 それだけこのボロ雑巾さまはすごい子なのだ。



【というか、いつまでクティはボロ雑巾に擬態したままなのでしょうか?】


「あー……。すこし強めにやったからな、もう少しかかるんじゃないか?」


【先生……】


「いやその……。すまん」



 ジト目で先生に視線を送ったらすかさず視線を逸らして頭をポリポリしながらすまなさそうにしているので仕方ないかと諦めた。

 1月ぶりだったので自分もちょっとはしゃぎすぎていたような気がするし。


 先生も任務になってしまったのなら仕方ないだろう。

 ずっとこっちにいるけど一応サニー先生は研究所の局長という偉い立場の人なんだし、千年単位でしか発見できてないような希少な存在の候補が見つかったんだから最優先されるのもわかる。


 クティの打たれ強さは某驚異的な回復力で死ぬに死ねない人以上だし大丈夫。



「あー……ゴホン。まぁそういうわけでこれからもばしばしやっていくから頼むぞ」


【はい、よろしくお願いします】



 咳払いして威厳を出そうと頑張った先生だけど、あんまりそういうのは似合わない。

 でも突っ込むのも野暮なので大人のスルー能力で触れないであげておいた。



お忘れでしょうが、クティは特級魔力保持者を探す任務で世界の隣の森を出ています。

まぁほとんど建前みたいなものですが。



そんなわけで本当に特級魔力保持者の候補を見つけてくるとは思っていなかったわけですが見つけちゃったわけです。

大体わかってしまっているとは思いますが、特級魔力保持者とはアレなわけです。


まぁ他にも色々な要因によりそれだけではないのですけどね。



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