92,home
マインドとタイムなルームに自由に出入りすることが出来るようになって更に2日。
あれから1度たりとてあの空間に行くことはなかったけれど、暇なのでそろそろ限界かもしれない。
クティ達が居た時はもうちょっと自制が効いていた様な気がするのだが、今は暇なのもありちょっと抑えが緩い気がする。
「むぅ~……。らめらめ! しっかい、わたし!」
「あらあら、何が駄目なの?」
「ゆうんだきもちをひきしえてましあ!」
「あらあら……そうなの?」
「あい!」
「リリーちゃんは偉いのねぇ~」
「にへへ」
「ふふ……。リリーちゃんの笑顔1人占め~」
「あふ」
お婆様の膝の上で気をしっかり引き締めようと頑張ったが、きゅーっと柔らかく抱きしめられてそんな引き締めもどこかに飛んでいってしまった。
「くぅ~ん」
「あらあら、レキ君も抱きしめてほしいのかしら?」
「りぇきくんもだきしえてほしー?」
「わぅんわぅん」
「そぅじゃなくてー」
「あらあら、そうなの?」
「あい」
左前足をぱしぱし、と前に出すレキ君は抱きしめてほしいんじゃなくてきっと遊んでほしいんだろう。尻尾がぱたぱた、言っている。
「ばーば。りぇきくんとあそぶ!」
「はいはい。ジェニー」
「はいぃ~、大奥様」
レキ君のリクエストに応えるためにジェニーがレキ君用の玩具箱を持ってきたのだろう。大きな箱状の物を持つジェニーの上半身がなくなってしまった。
当然玩具箱には魔力がないのでそれを持つと見えなくなってしまう。
玩具箱は服を着るようには見えてくれない。
結構中身が入っている玩具箱をすぐ近くに置いたジェニーは一礼して一定距離を保つように離れる。
最近は接近行動も取らないようになった。心境の変化でもあったのだろうか。
以前まであった探るような魔力の流れは見守るような畏れ多い様な……なんとも言えない流れになっている。
ミラの流れに似てきている。
ミラは謙虚でいて、自分に畏敬の念を持って接することが多い。
気絶するほど気持ちよくしちゃったのも原因だろうが、それだけじゃない気がする。詳しくはわからないけど。
「りぇきくん。きょおはどえであそびましゅか?」
「わふ」
隣に置かれた玩具箱をぽんぽん、と叩き小首を傾げて尋ねるとすぐに玩具箱に取り付いたレキ君がひっくり返して中身をばら撒く音が聞こえる。
その中から1つ取ってきて自分の手に渡してくれる。
感触からしてそこそこの柔らかさと強度を持った円状の平たい物体――フリスビーだ。
ゴムとは違うようで、材質は柔らかいしすごく軽く、投げても大丈夫なくらいの強度をもっている不思議な物体で出てきている。
「いくおー」
「わん」
「そえー」
大分慣れたとはいえ、恐らくへろへろといった感じで飛んでいっているだろうフリスビー。
レキ君も心得たものと最高高度に達するだろう位置に霞むほどの速度で移動し、待ち構えぱくり、と咥えて戻ってくる。
ジャンプする必要すらないのがちょっと悔しいけど今の自分じゃ仕方ない。
「あい、よくできまちたー」
「わふぅん」
うまく出来たら褒めてあげる。
レキ君の肌触り抜群の頭部をわしゃわしゃしてあげてまた投げる。
さすがに毎日訓練している兄姉ほどではないけれど、魔力を出力することで体力もつき一般的な幼児よりは疲れにくいと自負している。
30回くらい投げては頭を撫でてあげたり抱きついて堪能したりしていると、どこか遠くから聞きなれた声が聞こえてくるような気がする。
それもどんどん近づいてくるような……。
【レキ君。聞こえてます?】
「わふ」
右足が即座に前に出てくるあたりレキ君にもしっかり聞こえているようだ。
でもこの声は普通に大声をあげているのとは違うような気がする。
【なんだろう? 声自体を強化して振動を固定してる?】
「わふん?」
自分の魔力文字に小首を傾げる狼君がすこぶる可愛らしいけれど、聞こえてきた声には魔術の解析が可能な不思議な声だとすでに判明している。
そして解析結果から拡散し消滅するはずの音の振動を一定範囲で強化固定し、ある程度の距離を響かせ続けるという魔術だとわかった。遠方から徐々に見えてきたので変動もしていなかったのもあり発動していても解析が可能なタイプだったのだ。
これは既存の魔術にはないものだ。最低でも自分の知識にある既存の魔術では、だが。
つまり……。
【レキ君! ミッションC008!】
「わんッ!」
解析結果から即座にはじき出された結論の為にレキ君に予め教え込ませた作戦を実行させる。
魔力文字に敏感に反応したレキ君が伏せの体勢から霞むように鳴き声だけを残して移動を開始する。
その唐突な高速移動に何事かと視線を向けるお婆様とジェニー。
先ほどの魔術の解析結果から予測する到達時間はかなり少ない。
レキ君が所定の位置についた瞬間には目標がすでに視界に入っていた。
「りりいいいいいいいいいいいいいッッッッッッ!」
「わおおおおおおおおおおおおおおおおおんッ!」
大きくなる声とそれを掻き消すようなレキ君の渾身の遠吠え。
突然のレキ君の行動に完全に気を逸らされた面々。
その間隙を縫うように飛び込んでくる愛しきちっこいさまを抱きしめ出迎える。
「ただいまただいま! あぁあああん! リリーだよーリリーだよぉぉぅぅ」
「おあえり……くちぃ……。あいたかった」
未だ響き続けるレキ君の遠吠えをBGMに涙をぽろぽろ、と流しながら再開を喜び合った。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「それでねそれでね! ナターシャったらなんていったと思う!?
もっと早く戻ってきて! だって! ばっかだよねー!」
「いやいや馬鹿じゃないだろ。正論だろ」
「リリーと離れるなんて意味わかんないのに、早く来いなんてもっと意味不明じゃん!」
「おまえが意味不明だよ。仕事しろよ」
「リリーの側でリリーと幸せになるのが私の仕事でっす!」
「おまえ……。はぁ……」
にっこにこの大興奮のドヤ顔様に心底呆れてしまっているサニー先生。
ほんの1月程度の別れだったけどやはりクティ達がいるのといないのとでは大きく違う。
その愛しさ300%増し増しのドヤ顔様を見ているだけで頬が緩んでしまう。
" レキ君の渾身の遠吠えでみんなの気を逸らしている間にこっそりと感動の再会作戦 " は見事にはまり、誰も自分とクティの再会のシーンを目撃することはなかったようだ。
まぁサニー先生があとから来て呆れていたけど。
それからもうずっと頬は緩みっぱなしだ。
普段無表情の自分の頬が緩んでいることにお婆様やジェニーや遠くにいる騎士の人達まで、何やらレキ君ルームを埋め尽くす勢いの魔力の発露が見える。
当然柔らかく優しい魔力だ。
自分の魔力も発露してしまっているようで、それと混ざってレキ君ルームはすごいことになっている。
ちなみに大部分は自分の魔力のようだ。サニー先生がクティのこととは別としてと前置きして、心底呆れたように教えてくれた。
「それでねそれでね!」
「クティ、とりあえず落ち着け。リリーは逃げはせん。まずは仕事の話をさせろ」
「えーやだーやだよー。リリーは私のなんだからまずは私の話を聞いてもらうんだよー。
会えなかった分を取り戻さないと前には進めないんだよ!
私の道はリリーと共に! リリーが隣で私が隣! 2人は仲良しなんだよ!
愛だよ! 愛!」
「はいはい、わかったわかった。ほらあっちでレキと遊んでまちょうねぇ~」
「ぬああああ。ずるいぞー! 強制力場なんて使うなー! 卑怯者ーッ!
あと似合ってないぞその赤ちゃん言葉ー! きもいー!」
「ふぅ……。これでやっと落ち着いてはな……。なんで君までそっちへいく!?」
クティがサニー先生の魔術で強制的にレキ君の方に移動してしまったのでそれを追いかけてとてとて、歩いていく。
サニー先生には悪いけど自分もクティとお話したいし、クティの傍を離れたくない。
「まてまてまて! まずは私の話を聞け!」
【先生……。後でじゃだめですか?】
「そ、そんな嫌な顔するな……。すぐに済むから!」
【むぅ……。じゃぁ手短にお願いします。クティの傍で】
「はぁ……。わかったわかった。ほれ戻ってこい、この駄妖精」
「ひゃっふー。……寂しかったかい、リリー」
【うん……。クティは?】
「もちろんだよー! あぁぁん! リリー!」
【クティ!】
レキ君も一緒に戻ってきて彼のお腹に隠れるようにクティに抱きつく。
魔力の発露全開だが、これはレキ君に快感を与えることはない。むしろほっこりほわほわの優しい気持ちになれているらしく、レキ君も目を細めて幸せそうにしている。
「はぁ……。まったくこのバカップルは……」
天を仰ぐサニー先生の声は小さく完全に呆れてしまっていたけど、そんなことは些細なことだ。
しばらくの間クティと頬と頬をすり合わせレキ君のお腹をごろごろ転げまわった。
やっと帰ってきました、妖精ズ。
前回は朝の早い時間だったので誰にも気づかれませんでしたが、今回はどの時間帯でも感動の再開を出来るようにレキ君に色々仕込んでおいたリリーです。
C008ということは7以下もあるのですが、今回は1番発動の早い作戦を使用しました。
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