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濁った瞳のリリアンヌ  作者: 天界
第一部 第6章 3年目 中編 2歳
104/250

91,プロローグ


 頭上を見上げれば文字。

 足元を見下ろせば床。



「あぁ……。なんか久しぶりじゃないかな……ここに来るのも」



 特に驚くこともなく周りを見渡せば懐かしいようなそうでないような、だが見知った空間が広がっている。

 見渡す限り床ばかりの空間。

 地平線すら見えないその空間には生前の母国語で書かれた文字が頭上に浮かんでいる。



「ここでならクティの動画が見れるから嬉しいっていえば嬉しいんだけど……」



 そこで思い出すのはやはり昏睡事件だ。

 あの時はここに長居しすぎて大騒ぎになった。今回は自重しなければいけない。

 でも確か最後の記憶が柔らかく美しい包み込まれるようなエナの子守唄だったから今は寝ているんだろう。



 時間がわからない以上はあまり長居もできないが少しくらいなら……。

 ……いやいやだめだろう。確定していない以上はいけない。もうあんなに取り乱したエナは見たくないしね。

 でもここでならサニー先生が使ってる魔術を何度も見返すことができるし、クティ謹製の隠蔽魔術以外を覚えることも……。



「……ん? へ……?」



 ここには誰もいないからつい思考の海に沈んでいたら、目の前にはウィンドウが開いていた。

 ある程度イメージを固めると記憶から動画として呼び出すことができるのを思い出して納得。



「あれ……。でもこれ動画じゃない?

 ていうかテキスト? ……違う。プログラムか?」



 ウィンドウにびっしりと書かれているのは何かの記述式。だが見覚えがある。ありすぎる。



「おいおいおい。まさかこれ隠蔽魔術? さっき思い浮かべたから……?」



 びっしりと書かれた記述式を読み進めていくとわかる。これは最近使いまくっている唯一使える魔術だ。

 だが基本的に解析できるといってもここまで具体的な文字化が出来るわけはなく、基本的にイメージだ。

 それが今文字となって目の前にある。



 これを驚くなと言われても……その……困る。



「へ~……。記述するとこうなるんだ。こっちの方が遥かにわかりやすいなぁ。

 やっぱりテキストとか必要じゃないのかなぁ……授業」



 記述を読み進めながら分割した思考に浮かぶのはサニー先生の難解な授業だ。

 すると右横にウィンドウが出現し、自分視点でのサニー先生の授業動画が流れ始める。



「はは、懐かしいなぁ。あ、そうか。このときの話ってそういう……」



 今更ながらその場で理解することが難しく棚上げしていた知識を完全に理解できるとはなんという僥倖か。



「そういえば棚上げしてる知識いっぱいあったなぁ……。ここなら動画が見れるから確認もしやすいなぁ。

 もうちょっといれないだろうか……。でもエナが心配するだろうしなぁ。

 あ-……時間がゆっくり流れればいいのにー」



 するとビープ音のような音と共に頭上に真っ赤に染まったウィンドウが出現し、中にはちょっと驚愕の情報が書かれていた。



「……は? 領域速度の設定……?」



 ウィンドウにはボタンがついていて数値を上げ下げできるようになっている。

 今現在は領域速度:0となっている。プラスとマイナスが書かれたボタンの横には丁寧に説明までついている。



「マイナス修正すると領域……つまりここの速度が現実より遅くなる……つまりゆっくりになるのか。

 プラスは0以上にならない代わりに0までなら戻せると……。

 これが本当ならかなり……。いや相当便利じゃないか?」



 目の前のウィンドウの非現実的な説明にかなりワクワクしながらも訝しむ。

 こんなにいきなり今問題視している滞在時間があっさりと解決するんだ、渡りに船という言葉もあるがその前に疑問に思うべきだろう。明らかに怪しすぎる。


 だがここは自分の意識の中だと仮定するとそんなところで誰が罠にかけるのか、とも思う。


 自身の記憶を細部まで動画再生できたことや、意識が戻ると現実に戻っていることから考えて夢の中……もしくは脳内空間というちょっと荒唐無稽ではあるが仮定できないこともない。


 妖精や魔術なんていうファンタジーが存在する世界に生きてるんだ。これくらいはありだろう。

 むしろどこまでありでどこまでがなしなのかすでに曖昧なくらいだ。クティの魔術はどこまでも幅広く……そして深いのだ。



「よし、最大設定の-100で決定!」



 警戒していてもとにかくやってみないことにはわからないので女は度胸、と心で叫んで実行してみた。

 最近都合がいいときだけ自分の性別を利用するようになってきているような気がする。

 普段は自分が女だというのを忘れているくせにちょっとずるいかなぁとも思うがそれはソレ。



「……で、実行したけど特に何も変化ないなぁ。

 せめて外が見れるか実際に出入りして確かめられたらいいの……に……」



 言葉が最後まで終わらないうちにまたウィンドウが出現し、真っ暗な自分の部屋が映った。



「は……? まじで?」



 そこに映っているのは確かに新しい部屋。真っ暗なのはいつものこと。ちょっとだけ見えるお婆様の布団に隠れた顔があどけない。

 就寝中なので寝返りでも打たない限り動きが見れないと気づいた時にはお婆様の可愛らしい寝顔をかなり堪能した後だった。



「いかんいかん。お婆様があんまりにも可愛いからつい夢中に……」



 頭を振ってウィンドウを見返した時にお婆様に動きがあった。

 だがその動きはものすごくスローだ。

 寝返りを打っているのだろうけど、その動作は普段のお婆様の俊敏な動きとは比べ物にならない遅さ。具体的には100倍くらい遅い。



 100倍設定だから100倍と思っただけだけど。



「この動画が本当なら部屋の速度がマイナス100倍の超スローってことだな」



 嬉しい事実ではあるが、これで確定事項ということはない。

 だが検証する方法もないのが困り物だ。

 やはり自由に出入りできなければ調べるのも大変だ。


 と思った瞬間にはウィンドウが開いていた。

 なんというかだんだんこの空間の扱い方がわかってきたぞ。



「へー。ヘルプみたいなもんかなこれは」



 ウィンドウにはQ&A形式でこの空間 " 無意識領域 " に出入りする方法が書かれていた。


 しかもソレは解析して得られるような実際に使うまでに使用錯誤が必要な物ではなく、自分がすぐにでも使えそうな " 魔術 " の形式だ。



「つまりここは魔術で出入りする空間……。じゃあ今まではどうやって入ってたんだろう?」



 色々と疑問に思うことはあるがとりあえず出入りしてみることにした。

 書かれていた魔術を展開。

 隠蔽魔術に比べれば赤子の手を捻るようなレベルのソレを一瞬で展開すると……意識は真っ暗な部屋に戻っていた。



 ちゃんと戻れた……。というかあの戻る魔術……ちゃんと使えたな……。

 使える魔術が隠蔽魔術だけだったからちょっと不安だったけど、他の魔術もいけるのか……。

 よし! よし! よーし!



 静かにガッツポーズを何度か取った後周りを見渡す。

 すぐ横のお婆様は寝ているみたいだし、ウィンドウに映っていた状態のままだ。寝返りも終わっている。

 さてどうやって時間の検証をするかだが、簡単だ。

 自分は今お婆様と一緒にこの無駄に広いベッドに寝ている。

 お婆様と一緒とはいえかけている布団は別々だ。

 羽毛か何か入っているのかふかふかで毎日お日様の匂いとお婆様が好んでつけている香水のいい香りがする。

 混合した匂いは相乗効果でさらに気持ちがいいくらいに素晴らしい香りになるんだけど今はちょっとそれはおいておこう。


 布団を手探りで探し、持ち上げて落とす。

 見えないけれど自分の上に落ちた布団は感じられる。

 物理法則は生前の世界とほとんど変わらない。

 布団を離した瞬間に無意識領域に入れば時間の測定ができるだろう。もちろん設定しておいた時間設定がデフォルトに戻っていなければ、だが。


 とにかくやってみればわかるので実行する。



 布団を出来る限り持ち上げて魔術を展開。

 発動する一瞬前に布団を離すと瞬きする間もなく目の前は白い空間だった。



「ちゃんと入れた。よし……。えっとさっきのウィンドウは……」



 領域速度操作ウィンドウを思い浮かべるとすぐに出現し、設定がそのまま生きていることがわかった。

 次は外、と思うとウィンドウが出現し、布団が見え……るわけがない。

 今現在もゆっくりゆっくりと下降しているだろう、布団。だが魔力がないのだから当然見えるわけがない。



「もう少しこっちにいて適当なタイミングで戻ればいいか」



 真っ黒な映像を何とはなしに眺めながら時間を潰して適当なタイミングで戻ると、布団が落ちてくる柔らかい感触があった。

 普通の時間だったら完全に落ちきっている時間、無意識領域に居たにも関わらず戻ってきた瞬間に落ちた感触がしている。

 つまり成功ということだ。


 これは非常に便利なものを手に入れてしまった。

 時間にして100倍の世界だ。

 あっちに1ハルス(時間)いてもこっちでは36ゴウ()しか経っていないのだから。

 実に素晴らしい。でもこんなすごいメリットだとデメリットがものすごく気になる。


 定番としてはやはりあちらで過ごした分こちらでも年を取る、だろうか。

 でも無意識領域って名前なくらいなんだからそれはないっぽいような気がする。


 あまり多用しないでクティ達が帰ってきたら聞いてみるのがベストだろう。

 メリットがものすごいけれどデメリットを気にして使えない自分のチキンっぷりにちょっと辟易しながらも眠りについた。



 もうすぐ帰ってくるだろう2人を、主に最愛のドヤ顔さまのドヤ顔を思い浮かべながら……。





あの空間再び、そして6章スタートです。


色々と成長したからか、無意識領域の扱い方もわかってきました。

そして発覚する100倍速度。


でもデメリットを気にして使えないのがリリーらしさ。

保身能力は健在ですよ!


気に入っていただけたら評価をして頂けると嬉しいです。

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