外伝12,右目の疼き
本編に出てこない設定や情報が多々出てきます。
そういうの嫌な人はブラウザバックです。
中二病はファンタジーの定番です。
右目が疼いたり包帯を巻いたり、クックックという笑い声に耐性がない方はちょっと昔に書いたノートを読んでくると平気になるかもしれません。
尚、その際に被る精神的被害については当方では一切賠償に応じかねます。あしからず。
アナトリー・アナセル・ハッセルフォッシュ。
子爵の4男として生まれた彼は当然継承権を持たない。
4男として古い貴族としての厳しい教育を受ける必要もなく、かなり自由に育った彼だが家を継げないという将来設計において不安があるということを早くに知っていた。
古い貴族にありがちな家の権力を自身の力だと勘違いすることもなく、彼は学園にて騎士科を優秀な成績で卒業する。
第2騎士団への入団テストを3等級で受かるという、世間一般的に見れば非常に優秀な成績でこなし無事騎士団へ入団。
第2騎士団は迷宮での討伐任務を主とするため入団には厳しいテストが課せられる。
それを1等級で突破した者は古い歴史でも少なく、その全てが例外なく英雄と呼ばれる人種であった。
2等級で突破する者は傑物と評され、これまた特に秀でた実力者ばかりだ。
3等級になると少し人数が増えるが非常に優秀な戦力となる者達が多い。
アナトリーは即戦力となる実力を持っていたが当然入団してすぐに討伐隊に参加できるわけではない。
討伐隊は第2騎士団でも花形であり、当然死亡者数もダントツである。
入団して間もない新人を例え実力があっても死地へ送り込むのは国の矜持にも反する。
何よりも彼らは騎士なのである。
己が認めた主に仕え、人々を、弱者を守るのが騎士であるが、入団間もない新人を死地へ送り込むほど鬼でもなければ無謀でもない。
英雄や傑物と評される者でも例外なくまずは訓練訓練、また訓練である。
そうして3年の訓練期間を経て騎士団内では中の上の成績を修めたアナトリーは討伐隊へと編成された。
結論から言えばアナトリーの所属した部隊は初陣で壊滅した。
迷宮の魔物は低層であれば弱く、下層に行くに連れ順に強くなっていく。
だが例外はある。
魔物はあふれ出てくるのだ。
下層から低層に強力な魔物が溢れてくることがたまにある。
そして運悪く下層でも特に強力とされる古代竜種にアナトリーを含む第2騎士団討伐隊は遭遇してしまった。
300人を超える大部隊だったのにも関わらず遭遇からの初撃で8割が消失。
古代竜種のブレスによる超高温は炭すら残さず、中層用に用意していた魔術防御壁すら一瞬で破壊して騎士団を飲み込んだ。
ふがいないと思われるだろうがソレは違う。
古代竜種とは通常リズヴァルト大陸4国を挙げて討伐するべき対象だ。
天災と呼ばれる種類の暴威を振るい、目に付く生物全てを焼き払う。
そこに知性などはなく、ただの殺戮マシーンとして全ての生物を殺しつくすことのみが本能となっている。
残った2割は恐慌状態に陥ったが残っていた上官の見事な指揮により血路を開くことができ、それでも生還できたのは1割以下の20名であった。
指揮をとった上官は生還者の中にはいなかったが、アナトリーはその中にいた。
生還した騎士達はすぐにこの歴史的な暴威となるだろう存在を王都に知らせるが、確認の為に派遣された偵察兵の持ち帰った事実により編成中であった討伐部隊は調査隊へと再編成された。
偵察兵が持ち帰ったのは古代竜種の核である。
古代竜種といえど魔物であり、魔物は全て核を有する。
そして核を外された魔物は例外なく全て死滅する。
これはつまり古代竜種は死んだということである。
だが誰がどうやって。
偵察兵がその場についたときにはすでに低層は地獄と化していたそうだ。
強力な攻撃魔術でも傷1つつかない迷宮の壁面が溶け、崩れ、破れ、迷路となっている低層フロアが一望できそうなほど壁がなくなっていた。
ところどころに巨大なクレーターが出来、激戦の様子がひと目でわかるほどだ。
迷宮というものは魔物であり、迷宮内は魔物の体内である。
壁も壊すことはできなくもないが、すぐに修復する上に驚異的なほどに頑丈だ。
その壁面がまったく修復されずそのままになっているなど偵察兵も初めて見る光景だった。
偵察兵は当然1人ではなく、数十人の部隊で来ている。低層といえど迷路として有名な迷宮は広く、静まり返っている――戦闘が終了したと思われる空間の探索にはかなりの時間がかかった。
通常周りを十分に確認できる程度の光量があるはずの迷宮内がほとんど見えないほど暗くなっていたのもそれに拍車をかけた。
そして発見したのは一際頑強なはずの胸を無理やり引き裂かれ、こじ開けられたような格好で息絶えている古代竜種であった。
強靭な足は6本あるはずだったが4本しかなくその全てが完膚なきまでに砕かれ、一撃で強固な城壁すら打ち崩す長大な尾は根元から千切れてすでに原形はない。
8つあるはずの目は1つを残して全て抉り取られ、第2級クラスの風の魔術を打ち出すことができる6枚の羽はその全てを根元から切断され近くの床に1枚が突き刺さっていた。
天災とまで呼ばれる魔物をここまで完膚なきまでに破壊しつくした存在はすでに居らず、こじ開けられるようにして開いていた胸から核を時間をかけてなんとか削り出した偵察兵はコレを持ち帰った。
当初古代竜種を討伐した者はオーベント王国の英雄アンネーラ・ラ・クリストフと思われたが本人はこれを否定。
結局討伐者は発見できず、古代竜種が出現した迷宮も低層の修復ができないほどに疲弊したためか数日で消滅し調査のしようもなくなってしまった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
それから2年。
アナトリーは第2騎士団を辞め、紆余曲折を経て古代竜種を討伐可能な人物として生きる伝説とも言われるアンネーラに拾われ、クリストフ家専属使用人育成施設と並列して作られている戦闘部門の施設で己を鍛え上げていた。
古代竜種に襲われ、生還したほとんどの者がそのトラウマで再び剣を握ることが出来なくなったのに対してアナトリーは違った。
そこを見込まれた彼はその才能を開花させていった。
古代竜種と遭遇した当時とは比べ物にならないほどに強くなった彼だが、自分はまだまだだということをはっきりと自覚していた。
そして自身の限界もはっきりとわかっていた。
それでも拾ってくれた恩を返すべく彼はアンネーラの夫であるローランドの招集に応えた。
アナトリー・アナセル・ハッセルフォッシュは白結晶騎士団の副団長となった。
初顔合わせで見た彼の主であるリリアンヌ・ラ・クリストフは聞いていた通り幼く、まだ2歳にすらなっていなかった。
だがそんな子供が大勢の完全武装した騎士団を前に毅然とした態度で挨拶を行う。
子供の怖いもの知らずによるものとバカにするのは簡単だった。だが彼はリリアンヌにアンネーラを幻視した。
今でも鮮明に蘇る古代竜種の暴威。
施設での鍛錬中に1度だけアンネーラの戦闘というものを見ることが出来たアナトリーはその存在に恐怖した。
鍛錬に鍛錬を重ねた今のアナトリーだからこそその力のほどがよくわかる。
あの時に遭遇した古代竜種も恐怖の対象ではあったが、アンネーラはそれを遥かに超える化け物だった。
そんなアンネーラを幻視させる幼い主。
容姿が似ているとか声が似ているとかそういうことではなく、彼はリリアンヌの内にある何かにその心を鷲づかみにされたのだ。
彼は初めて仕えるべき相手という者を見つけることができた。
それは魂に刻まれた恐怖を払拭するかのような清々しいまでの清涼感と、その身の……心まで全てを捧げるべきという忠誠。
そして彼女を見てからずっと疼き続けている右目。
彼はまだ知らない。
幼き主の強大すぎる魔力により強制的に開眼した自身の魔眼のことを。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
白結晶騎士団で副団長として日々騎士達を監督する立場にあるため、主であるリリアンヌとは結成式以来ひと目見ることすら叶っていないアナトリーであった。
だがそんなある日、リリアンヌが屋敷の見学を行うという知らせがあり、すぐに巡回予定ルートの安全点検を行う班を編成したが、すぐに屋敷見学が訓練見学に変更となり今彼は幼き主の前に跪いていた。
彼が感じることができたのは結成式のときよりも遥かに強大となった主。
アンネーラを幻視したその姿は確かに成長していたがそれは普通の子供の成長具合といった程度でしかなかった。
だがそれ以外が圧倒的だったのだ。
結成式から少しずつ自覚していった自身の魔眼には見えずとも感知できるようになったナニカが、あの古代竜種を上回る圧倒的な存在として今目の前にいるのだ。
だがアナトリーが感じているのは恐怖ではなかった。
その感情は自身が仕えるべき相手が間違っていなかったという確かな確信と歓喜。最大の自制でもって押さえ込んだにも関わらず打ち震えてしまうほどのものだ。
始まった模擬戦では日々鍛え、連携を高めた自慢の部下達が見事な戦いを見せていた。
幾度か行われた模擬戦のあと、専属メイドの1人であるニージャが相手を務めてくれることとなった。
アナトリーは当然この専属メイドが只者ではないことを知っている。
アナトリー自身は副団長としてこの訓練見学の監督者であるため参加できないことを悔しく思ったが、クリストフ家でもトップクラスの戦闘力を誇る存在の動きを見れることは喜ばしくも思っていた。
始まった戦闘は時間にして極々短いものだった。
ニージャの動きは日々鍛錬を重ねている白結晶騎士団員でもほとんど目が追いつかないほどだった。
目が追いつかないのだ。当然体が追いつくわけがなく、結果は惨敗だった。
だが1人だけ――アナトリーだけはニージャの動きを追うことができた。
それだけではない。アナトリーの魔眼はその動きをスローモーションで捉えることすら可能としていた。
アナトリーに開眼した魔眼は動体視力の大幅向上の効果を持つ魔眼である。
後天性の魔眼は特徴として瞳の色が変化しない。
先天性の魔眼に比べても遥かに弱い効果しか発揮しないはずだったが、アナトリーの魔眼は知りえる限り調べた結果としてかなり強い部類に入る魔眼であることがわかっている。
だがこのことを知っているのは彼だけである。
基本的に強い魔眼という物は上級魔術に匹敵するほどの脅威と判断される。
上級魔術を扱える者が宮廷魔術師であることを考えればその注目度がわかるだろう。
故に後天的に開眼した魔眼の特徴を活かし、アナトリーはこれを自身の切り札とするために秘匿することにした。
例え仕えるべき主を持ったとしても自身の切り札となる物まで全てを明かすのは情報漏えいの観点からしてあり得ない。
切り札としたのは驚異的なその効果と、日常的に使用するには負担がきつすぎるからだ。
強い魔眼はその対価として魔力を大量に消費する。アナトリーの魔力量は人並みであるため慣れた今でも連続使用は20リンが限度である。
ニージャの動きは最短にして最速。
無駄な動作が一切なく、それでいて流麗な舞いのように美しい。
最短で動く足運びは間合いを毛ほどの距離で見切っているのが分かる。手刀は的確な角度と強さでもって一撃で意識を刈り取り、次への動作と一体となっているため攻撃と攻撃との間のロスがまったくない。
たとえロスがあったとしても対応できないほどの速さではあったが。
魔眼でその動きを全て把握できていたアナトリーではあったがその動きについていけるのか、と問われれば答えは否でしかなかった。
今のアナトリーにとって魔眼の力は絶大ではあったが無敵には程遠いものであった。
だが結成式から数ヶ月で大分魔眼にも慣れ、その効果に肉体が適応し始めていたため当時と比べてもアナトリーの実力は相当上がっている。
当時足元にも及ばない――先ほどの部下達よりは多少ましな程度の実力だったのが今ではニージャ以外の専属メイドならば3人を同時に相手取れるほどのものになっている。
アナトリーの部下相手ならば10人同時に相手にしても問題ないレベルだ。
そして今現在もその実力は伸びている。
伸びしろが尽きたと思われていたアナトリーは魔眼の強制開眼というあり得ないほどの幸運により、新たな力を手にすることに成功したのだ。
彼は知っている。
この魔眼は主であるリリアンヌにより開かれた力であることを。
彼はまだ知らない。
魔眼の開眼者が彼1人ではないことを。
そのことを彼が知るのはまだまだ先のことである。
包帯もクックックも出てきませんが、まぁ問題ありません。
副団長の名前が出てきました。
ローランドも自分の仕事があるためあまり長い時間騎士団で拘束できないため、基本的にアナトリーが全ての指揮をとっています。
古代竜種を倒したのは誰なのかは秘密です。
魔眼の開眼者が誰なのかはいつかわかるかもしれません。
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